第85話 安心して産める環境
さて、この街で1つやっておく事がある。
それは、この街の商業ギルドでこの国の地図と、海岸沿いの街の情報を仕入れる事である。
屋台のお兄さんに、買い物ついでに商業ギルドの場所を聞いて、無事に到着した。
早速受付カウンターのお姉さんに、商業ギルドカードを見せつつ、地図と情報をお願いしたのだった。
「そうですねぇ。本当に新鮮な魚を食べたいのなら、それこそ漁港へ行くべきですね。
ある程度栄えた街というのであれば、都市マーラックがお薦めです。
漁港なら、ここにある、ランドフィッシュ村が良いんじゃないですかね。
絶品と噂の海鮮丼やお寿司屋さんもありますし。」
と地図を広げながら、色々と教えてくれた。
俺は、地図の代金と、受付嬢のお姉さんに情報料として、銀貨2枚を渡してお礼を言ったのだった。
「あら、ありがとうございます。他に何か聞きたい事とか、スリーサイズとか質問受け付けますよ?」
と笑っていた。 うん、冗談だよね?
「あ、そうだ! 質問と言えば、もしですが、この街に拠点というか家を持ちたいと思った場合、こちらで斡旋とか仲介とかってして貰えるんでしょうか?」
と聞いてみた。
「ええ、それは可能ですが、どれ位の家をお探しですか?」
「えーっと、まあ上物はこちらで立て替えてる予定なので、要は土地が目当てですね。
そうですねぇ。出来れば25m×25m以上の纏まった面積があると良いんですが。」
というと、場所に拘らなければ結構選択肢は多いとの事だった。
価格は様々だけど、最安で小金貨5枚~金貨8枚の間で、当然だが場所や条件によっても価格は変わるらしい。
なるほどね。買えない金額じゃないので、一安心。
そして、お礼を言って、ギルドを後にしたのだった。
さて、何故土地の話を聞いたかというと、理由は簡単で、ショーキチさん御一家の住み処の為である。
何で馬車に乗せた程度でそこまでやるのかと考えるかも知れないが、これは俺に取っても十分なメリットがある話である。
俺はこの国に別荘を持つ事で、いつでもイメルダの食材や料理を入手する事が出来るわけである。
ね? 十分なメリットでしょ。
そして、ショーキチさん御一家も安定した衣食住を確保出来るし、安心して子育ても出来るという、正にWinWinの関係。
ただ、一番の問題を挙げるとすると、この街が海辺の街では無い事である。
これは非常に痛い。
しかし、臨月の妊婦を揺れないとは言え、馬車に乗せ、ただでさえ初産で心細いだろうに、夫さえも知らない余所の街に連行するのは、流石に鬼畜過ぎるだろうと思うのだよ。
そう言う訳で、一応相場なりを聞いて見たわけだ。
出来るだけ早急に腰を落ち着ける場所を作ってやらないとなぁ。
まあ、そこら辺は帰ってから、ショーキチさん達と打ち合わせだな。
午後3時過ぎぐらいに宿に戻るとショーキチさん達も部屋に居たので、話をする事にした。
「まず、これから事の相談なんだけど、奥さんももうすぐ出産でしょ? まずは何処かこの街に拠点を設けるべきだと思ってね。
一応、商業ギルドにも当たって来たら、結構沢山あるって事だったので、1箇所買おうかと思っているんだ。
で、ショーキチさんにお願いしたいのは、その拠点の管理と俺が連絡するから、その品物の手配というか、購入とかだね。
多分、そんなに難しい事でも無いし、品物と言っても、お米とか味噌とか醤油とか、そう言うこの国ならではの食材だから。
買った物を倉庫に入れてくれるだけ。あとはそうだね、屋敷の手入れぐらいかな。
まあ、手に余る様なら、その分人を増やしても良いし、条件としては悪くは無いよ。
これから生まれる子供と奥さんに囲まれて、ノンビリと子供が大きく成っていく様子を見守れるしね。」
と俺がザックリとした説明をしたら、
「えっと、俺達はその拠点の傍に住んで居れば良いんでしょうか?」
と聞いて来たので、
「あ、いやその拠点に住んで貰う感じだね。
多分遠いから頻繁に来たくても、今はまだ来れないだろうし。
ただ、俺には、人に言えない秘密があるので、それは前に言った様に命とかの危険が無い限りは出来る限り内緒にして欲しいんだよね。
これは、俺に取っても、美味しいイメルダ料理が食べられるという、最大のメリットがある話なので、恐縮とかは不要だから。」
というと、
「え? 本当にイメルダ料理の為だけなのですか?」
と驚いていた。
「いやいや、君らは何時でも食べられるから、そう思うかも知れないけど、例えば、鰹節とか醤油とかみりんとか、海苔もだな、そう言うこの国の特産品って、クーデリア王国には無いからね。
何年もこれらの食材から離れてみれば判るけど、気が狂いそうになるよ?
それに、一番重要なのは、奥さんが安心して出産出来る場所を急いで作らないとね。」
と俺が真顔で言うと、納得してくれたのだった。
という事で、明日はショーキチさんと一緒に拠点の場所選びをする事に決定した。
さて、その夜の夕食であるが、夏なのに、鶏鍋で攻める事にしたらしい。
これまた絶品で、汗を掻きながらバクバクと食べた。
そして、今夜は何故か俺が言う前に、お姉さんも自然と一緒に食べていた。
どうやら、このお姉さん、かなりの食いしん坊らしい。
本人、「私は食べるのが一番の癒やしなんですよぉー!」と言っていたから間違いないだろう。
夕食後に、明日の夜もここに1泊するので、延長をお願いしたら、凄く喜んでいた。
◇◇◇◇
翌朝、朝食が済むと、ショーキチさんと商業ギルドにお出かけである。
さあ、静かで治安が良くて、便利の良い所はあるだろうか?
他と同じサイズの屋敷(中)をチョイスするとなると、25m四方では入りきれない。
出来れば屋敷(中)で統一したいのだが、そうなると、横幅45m、奥行きは最低でも27mは欲しいところである。
果たしてこの街にそんな我が儘サイズが残っているだろうか?
昨日の受付嬢のお姉さんに挨拶し、ショーキチさんを紹介しつつ、物件の紹介をお願いすると、早速こちらの言う条件に合いそうな所を5カ所ピックアップしてくれたので、早速3人で回る事にした。
「ここが1箇所目です。割とメインストリートにも近いので、便利は便利ですが、周辺が結構ゴチャゴチャしているのがデメリットですかね。」
うーん、没だな。
2箇所目は、メインストリートからは更に少し距離はあるが、割と閑静な住宅街である。
広さ的には、最低条件をクリアしているが、ボロい上物が生えている。
ふむ、これはキープか。
3箇所目はメインストリートを貴族街寄りに進んだ1つ裏の通りにある所で、ここは上物が無くてかなり敷地も広い。
強いてデメリットを上げると、貴族街が近い事か?
まあ治安は良いが、面倒に巻き込まれる可能性もある。
4箇所目はメインストリートから離れた場所だが、治安も良く、そこそこ周囲も栄えている場所で、敷地も広いがボロボロの上物があり、敷地内も草ボウボウである。
煩わしい貴族街からも離れているし、ここまでの道は結構広くて馬車でも通れる。
ふむ。ここも良いな。
5箇所目は、かなりスラムに近いらしく、周りが寂れきっていて、風向きによってはスラムから悪臭が漂う事もあるらしい。
あーー、ここにもやっぱりあるのか……スラムは。
パスだな。
「どう? ショーキチさん。 俺は場所と広さ、治安の良さで4箇所目が良いかなと思うんだが。」
「ええ、まあかなり放置されてた様で、住める様にするには、かなりの時間と労力が掛かりそうですが、その後の面倒はあそこが一番無いと思います。」
とショーキチさんも同意してくれた。
という事で、お姉さんに4箇所目を購入する事を伝え、手続きを進める事にした。
商業ギルドに戻り、手続きの書類に署名し、代金を支払って、無事拠点の敷地をGet完了。
「ところで、えっと、ケンジ様、あそこの改築や整備の人の手配を断ってらっしゃった様ですが、どうするご予定ですか?」
と俺の物となった4箇所目の敷地へ歩いていると、聞かれた。
「ああ、あそこは俺と従魔達で綺麗にするよ。今からね。」
と俺がニヤリと笑うと、何か覚悟を決めた様な顔をしていた。
フフフ、多少草集め程度はお手伝いして貰うかもだけど、そんなに覚悟を決める様な事にはならないからね?
でも守って貰う秘密の1つでもあるから、取りあえず今は黙っておこう。
敷地に到着した俺達は、いつもの様に敷地を取り囲む塀をドンドンと巾着袋から出して設置していく。
正門と裏門を付けて完全程良く目隠しを完了した。
振り返ると、ショーキチさんが固まっていた。 そのままスルーして、今度は古いボロ家を土魔法で土台ごと上げて分離し、収納した。
更に敷地内の草を地面から土魔法で浮かせて、横倒しにし、それをピョン吉達にも手伝って貰って集める。
地面が見える状況になったら、今度は敷地内の地面を綺麗に平らにして、屋敷の建つ部分の土台を強化し、その上に屋敷(中)を設置した。
またこの先何があるかは判らないので、隅の方に、宿舎も設置した。屋敷の横に厩舎と倉庫も設置し、門から玄関までを石畳とロータリーには噴水も設置する。
周りの地面には芝生の種を蒔いて、水を撒き、『大地の息吹』スキルを発動した。
「ふぅ~、大分この作業にも慣れて来たな。
ショーキチさん、完了したよー。 屋敷の中を案内するから、こっちの世界に戻って来て!」
と少し大きめの声を掛けると、ハッと我に返るショーキチさん。
しかし、口をパクパクさせるだけで、声が出てなかった。
取りあえず、ショーキチさんの後ろに回り込み、背中を押して玄関から屋敷に入った。
「どう? 結構良いでしょ?」
と俺が言うと、
「ま、まるでお伽噺の様で、未だに自分の目で見た物が信じられません。 ケンジ様……あなたは一体? ……」
と途中で言葉が途切れた。
「まあ、こう言う事だから、秘密を守れる人しか、雇えないんだよね。
この屋敷だって、秘密だらけだし。」
俺はショーキチさんをキッチンへと連れて行き、食糧倉庫の扉を開いて見せた。
「これは、他の拠点の食糧倉庫と繋がっていてね、他の拠点からの連絡や、物の受け渡しなんかにも使っているんだよ。
だから、これは絶対に人には知られちゃ拙い訳。
俺からの連絡は、主にこの食糧倉庫経由で知らせるから、宜しくね。」
というと、真剣な顔になったショーキチさんが、
「ええ、御恩に報いる為、命に代えても秘密は厳守します!」
と胸を叩いていた。
「あ、だから一番大事なのは命だから。 そこは掛けなくて良いよ。 そう言う事の無い限りは内緒ね。
あと、命掛けるなら、サツキさんと子供に掛けるべきだし。 あ、でもそんな命の掛かる局面には、必ず知らせてくれよ。
出来る限りの援助は惜しまないから。」
と俺が言うと、涙を流してお礼を何度も言われた。
やっぱり、ショーキチさんは良い人材だ!
「で、明日からは、こっちに移動して、ここで住んで貰うので、サツキさんを連れて来ないとね。
ああ、あと出産の方もちゃんと調べて産婆さんだかの手配を忘れ無い様にしなきゃね。
明日か、明後日の内にちゃんと、それは調べて、事前にやっとかないと、急にじゃ拙いからね?
兎に角、安心させてやらないと。」
「判りました。ありがとうございます。」
「しかし、そうすると、もう1人ぐらいご飯とか作れる人が居ないとキツいよね。
産後は1~3ヵ月ぐらい女性は動けなかったりするから、全部ショーキチさんがやろうと思うと、厳しいと思うよ。
うーん、そうか。嫌じゃなければ、明日にでもあの奴隷商に行くか。まあそこら辺はサツキさんの希望を聞いてからにするかな。」
その後、屋敷を隅々まで案内して、使い方を教えて回ると、ショーキチさんは、一生懸命メモを取っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます