第83話 トールデンを堪能しよう

さて、お待ちかねの夕食、本当に美味しゅうございました。


ゲンさんの所で食べたご飯は、これぞ家庭料理! ザ・お袋の味って感じで美味しかったけど、ここの宿も高級割烹かよ!と言いたくなる程に絶品。

お通しの小鉢類もどれも繊細に味付けされていて、ジンワリ浸みてる出汁とか、風味とか、一つ一つが感動物だった。


そして、メインに思わず「うそぉ! すき焼きか!」って叫んでしまったよ。

だってまさか、こっちで、すき焼きに出会うなんて、夢にも思わなかったからね。

そうしたら、逆に用意してくれてるお姉さんが驚いてたね。

「え? お客さん、イメルダ王国は初めてと聞いてたんですが、良くご存知ですね?」

って。

すき焼きという事で、そのお姉さんが付いてくれて、横で調理してくれるんだけど、余りにも俺が涙ながらに食べるものだから、不思議そうにしていた。


「私も結構何年もここで働いてますが、余所の国の方で、こんなに箸が使えて、こんなに泣きながら食べる方は、初めてですよ。」と。


だってさぁ、前世から数えて25年ぶり? いや27年ぶりだ! そんだけすき焼きに縁が無ければ、やっぱりグッとこみ上げて来る物がある訳ですよ。

あの最後に食べたすき焼きだって、どうしても食べたくなって、当時住んでいたアパートで一人すき焼きやって、逆に空しくなったんだよなぁ~。

だから、封印してたら、今度は結婚して、2人ですき焼きだ!って思ってたら、全然一緒に飯も食えなかったし……ああ、いかん、変な事を思い出すと折角の飯が不味くなる。


「ハハハ、だよね。ごめんね。色々感激しちゃってさ。 良かったら一緒に食べない? 美味しいし。」

というと、喜んでくれて、

「えっと、本当はダメなんですけど、そこまで目の前で感激する程美味しいと言われると、食べたくなってしまいますね。ちょっとだけご相伴に与ります。」

とお姉さんも食べていた。


ちなみに、ピョン吉やジジやコロもガツガツと遠慮会釈無く食べていた。

頭の中で美味しい美味しいって五月蠅かったし。

お代わり要求も半端無かったからね。


しかし、こいつらって、本当に何でも食うよなぁ~。

まあ、実際のところ、味はちゃんと判っているみたいで、不味い物はお代わりを要求してこないんだよね。

初めての街でも、ピョン吉大先生が指定する屋台では、まず失敗が無いから凄いよな。


最後の締めのうどんを食べて、満腹で動けないくらいになった。


「ご馳走様でした。」と手を合わせ、


「ありがとうね。久々に美味しいすき焼きを食べたよ。

小鉢なんかも、良い味してたよ。出汁も効いてたし。厨房の方にもお礼言っておいてね。」

と言って、お姉さんと厨房の方へ、チップで銀貨を10枚手渡しておいた。


そして、暫くすると、隣の部屋に布団を敷いてくれたので、そのままちょっとだけのつもりで、ゴロリと横になったらグッスリ眠ってしまったのだった。




次にハッと気が付くと朝で、丁度日の出の頃合いだった。


「もう朝かぁ。いかんな、あのまま布団の魔力に吸い付かれて寝ちゃったか。」


洗面所で顔を洗い、歯を磨き、朝のコーヒーを飲んでいると、部屋のドアをコンコンとノックされ、「どうぞ」というと、昨夜のお姉さんが居た。


「おはようございます。昨日は過分なご配慮を頂きまして、ありがとうございました。

板場の者も大変喜んでおりました。

もうお目覚めの様なので、朝食をお運びしても宜しいでしょうか?」


「おはようございます。

いえいえ、久々にすき焼きを食べさせて貰ったお礼です。

昔両親と食べてからもう何年も経ちますから、本当に嬉しかったのです。

そうですね。朝食も運んで下さるんですか?」

と聞くと、大丈夫との事だったので、お願いした。


さあ、朝食は何だろうか? ワクワクが止まらないな。




暫くすると、御膳とおひつを運んで来てくれた。


フフフ、ピョン吉達もちゃんとお行儀良くお座りして待って居る。


「おー! 焼き魚と大根おろしに、ほうれん草のおひたし、それに出汁巻き卵! お椀は豆腐となめこですか!!

これまた朝から、嬉しいメニューだ。」

と俺が小さくガッツポーズを取ると、お姉さんがクスクスと笑ってた。


どうやら、ご飯をよそってくれるらしい。


「ところで、ちょっとイメルダ料理について、お聞きしたいんですが、沿岸部とかに行けば、お寿司とかってあるんでしょうか?

あとは、ウナギの蒲焼きとかって、あったりしますか?」

と聞くと、


「あら、本当に驚きますね。イメルダ料理をよくご存知ですねぇ。

うな重ならこの街でもちょっと高級ですが、食べられますよ?

お寿司はここだと、鮮魚が手に入らないので、もっぱらちらし寿司やおいなりさんぐらいですかね。

沿岸部だと、新鮮なお魚のお寿司が食べられますよ。」

と教えてくれた。


俺は、更にガッツポーズ。

お姉さんにうな重の店の名前と場所を聞いて、素早くメモを取ったのだった。


そんな俺を見て、

「も、もしかしてうな重を食べに行かれるんですか?」

と急にソワソワしだすお姉さん。


「ええ、是非とも今日の昼はうな重を食べに行こうかと……」

と俺が満面の笑みで答えると、


「あ、あの! も、もしかすると、判り辛い場所にあるかも知れないので、おご馳走して頂けるなら、私、ご案内しますけど!!」

と言ってくれた。


「え? ああ、結構判り辛いのか。 案内して貰えるのはありがたいですが、宿の方は昼間抜けても大丈夫なんですか?」

と聞くと、ニッコリ笑って、


「ぜんっーーーぜん、平気です。どうしましょうか? 11時に宿の前で待ち合わせで宜しいですか!?」

と力強く拳を握り、話を進めて来た。


「判りました。では、街をブラついた後、午前11時に宿の前に戻って来ますね。」

というと、お姉さんが横を向いて、小さくガッツポーズをしていた。

ハハハ、ウナギ食べたかったんだねぇ。



朝食後、ショーキチさんとサツキさんに挨拶をして、遠慮無く買うべき物を買う様に再度念押しし、その後は厩舎のマダラとB0の顔を見に行った。

マダラ達に、食事が足りてるかを聞くと、沢山出してくれたので、足りてるとの事だったので、水桶に泉の水を入れて置いてやり、デザートの果物を出して置いてやった。



さあ、お待ちかね、トールデンの街の散策だ!

ピョン吉達を引き連れて、宿の周辺から街の屋台を物色して回る。


まずは、昨日目を付けておいた、立ち食い蕎麦屋だ!!

ピョン吉達は興味を示さなかったので、取りあえず、近所の焼き鳥を買って食わせて置き、おれは本命の蕎麦屋に突撃である。


「へい、らっしゃい! 何にしやす?」

と言うので、何があるかを聞くと、エビならぬ、ザリガニの天ぷら蕎麦があるらしい。

他には、山菜蕎麦、茸蕎麦、とろろ蕎麦、きつね蕎麦、月見蕎麦、あとはかけそばとの事。

いやぁ~、迷うなぁ。


「じゃあ、茸蕎麦で!」

とオーダーすると、竹で編んだ籠に入れて茹で、チャッチャと湯切りして、丼に盛り付け、ササッとと出された。

お金を払って丼を受け取り、

「おーー!久々だ! 頂きます!」

と箸で蕎麦を持ち上げ、ズズーッと一気に啜る。


美味い! またカツオの出汁が効いたツユが良い。

熱いけれど、一気に完食してしまい、最後にツユも残らず飲み干した。


「ご馳走様。美味しかったよ! また居る間は時々来るよ!」

と丼を返して、街の散策を再開する。


乾物屋っぽいのを発見したので覗いて見ると、商品に鰹節や煮干しを発見した。


これは是非とも購入しておかなければ!という使命感に急き立てられ、店員に声をかける。


「こんにちは。この鰹節と煮干しは、どれ位なら纏めて購入しても大丈夫そうでしょうか?」

と。


「いらっしゃい。お兄さん余所の国の方? どれ位欲しいの?」

と店員のお兄さんが聞いて来た。


「うーーん、どれ位? そうだな。鰹節なら出来れば30本ぐらい、煮干しだと麻袋2つか3つぐらいかな?

次に何時購入出来るかは判らないからなぁ。

ただ、あまり一気に買っちゃうと、この街の人や店に迷惑掛かると拙いし。」

と答えると、


「わー、結構凄い数をご所望ですね。鰹節はそうだなぁ、10本、煮干しは麻袋1つぐらいなら影響出ないかな。」

と予想外の大量注文に驚きながらも答えてくれた。


「あ、じゃあそれでお願いします。」

と即決で購入。


「あ!そうだ! 海苔とかも置いてますか?」

と聞くと、店員のお兄さんがニヤリと笑い、

「あるよ!」

と。海苔の束を見せてくれた。


「あ!じゃあこれも欲しいです。どれ位ならOKですかね?」

と聞くと、海苔は結構高価で貴重らしく3束までにして欲しいと言われ、これも3束購入した。


そうして買った物を見せかけのリュックにあり得ない量の煮干しの麻袋を入れ(と見せかけて巾着袋に収納)、店を出た。



その後も街を散策し、味噌や醤油などを数軒を回ってすこしずつ量や種類を増やしていく。

時々五月蠅いピョン吉達がご所望の屋台で、焼き鳥や大判焼き等を買ってやったりする。


しかし、あまり食べてしまうと、うな重が食べられなくなるので、自分の分は、我慢して収納する。


「食べたいのに食べられないのは、これは地味に辛いな。」




ハッと気付くと時刻は10時半、そろそろ宿に戻らないと、約束の時間に遅れそうだな……

引き返そうとした所で、七味をブレンドして売っている店を発見し、思わず店の中に吸い込まれる様に入ってしまう。

「へい、らっしゃい。 お!お兄さん異国の人? 珍しいねぇ。」

と店の店主。


「どうも! 七味ください! どれくらいまでなら購入して大丈夫?」


「え? 何? 大量に買ってくれるの? そうだなぁ~、この小さい樽1個ぐらいまでなら良いかな。」

と店の奥から樽を持って来た。


「じゃあそれで!」


「あいよ、比率はどうするね? 俺のお薦めで良いか?」

と聞かれ、健二自身も比率が判らないので、お任せした。


会計を済ませ、店を出ると、10時45分を過ぎていた……

ヤバい! 結構遠くまで来ちゃったから、これは少し走らないと、間に合わないぞ。


「ピョン吉、ジジ、コロ、悪いけど約束の時間に遅れそうだから、少し走るぞ。」


<<<了解(にゃ!)>>>


とは言え、街の中は結構人通りが多いので、余りスピードも出せない。

ピョン吉は、角も生えてるから、人に刺さると大問題なので、小脇にピョン吉を抱え、必死で先を急ぐのであった。

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