第72話 急ぐ訳
翌日は朝食を全員で食べ終わると、買い物に出掛けた。
余りにも昨日の夕食が美味かったので、本日も香辛料をメインにお買い物する。
ついでに、見かけない野菜なんかも購入しておいた。
野菜の種なんかも結構沢山買っておいた。
市場で服も結構安く出て居たので、村の人達へのお土産も兼ねて、色んなサイズの服等を大量に大人買いしておいた。
余りにも沢山買うので、店主が後で宿まで届けてくれると言うので、少し多めにお金を払っておいた。
新鮮な鶏の卵なんかも結構安く売っていたので、これも購入。
ああ、そう言えば、拠点って、家畜が居ないんだよねぇ。
牛とか鶏とか飼えば、ミルクや卵も新鮮なのが手に入るな。
よし、今度鶏も買って帰るかな。
市場の隅で中古専門の武器屋を発見し、最初は冷やかし気分で見ていたのだが、何の気なく鑑定してみたところ、結構良い剣や槍や弓等が無造作に樽に突っ込まれて売られていた。
値札よりという、どれでも10000マルカと書いてる札が置いてあったので、ちょっと嬉しくなって、「お宝発見!」とか思い、選別してゴッソリと買っておいた。
まあ、俺は女神様が用意してくれた武器があるので、まず使わないと思うけど、俺が居ない間に万が一があると、村人達は自ら防衛しないといけない訳で。
だから、転ばぬ先の杖って事で、お守り代わりに武器倉庫にでも入れて置こうかと思ったのである。
他にも魔道具屋や付与された武具屋とか色々発見して、面白い物はドンドン購入しておいた。
しかし、あれだね、この世界では、何故か農耕用の魔道具とかって発想は無いのかね?
農機具を置いてある所もあったけど、普通に鍬や草刈りの鎌とかはあるけど、本当に普通であった。
元の世界の米国の巨大農園とかTVとかで見た記憶だと、飛行機とかを使って農薬を散布してたりしたけど、こっちはそんな物も無いから、全てがほぼ人力である。
やっぱり、うちの拠点で稲作とか正式に始めるなら、田植機とか脱穀機とか、作るべきなんだろうな。
昼食は市場の傍の屋台等で適当に食べ、午後から、この街の神殿に行って、お祈りし、司教様に孤児院への寄付をしておいた。
話を聞くと、本当に満杯状態で、建物を増築するお金も無い状態で、心を痛めていたらしい。
なので、増築しても困らないぐらいには寄付しておいたので、多分そのうち改善されるんじゃないかと。
◇◇◇◇
そして、アッと言う間に2日が過ぎ、出発の朝となった。
買い付けた物は全部収納し、最低限度の見せかけの荷物と子供達を乗せ、宿を出た。
「わーい、馬車って初めて乗るけど、すごーーい、全然揺れないんだね。」
と子供らがはしゃぐ。
一方馬車に少なからず乗った事のあるドリス君とサラさんは、不思議そうに頭を傾げている。
フフフ、俺特製の魔改造馬車は揺れないのだよ。
門を無事に通過して、見せかけの荷物を収納すると、全員が驚いていた。
そして、後はマダラにお願いして、来た道を戻って貰う。
「えーーっと、色々ツッコミ所が多過ぎて、何処から突っ込んで良いのか迷いますが……」
と少し青い顔をしたサラさん。
「ん? どうした? 馬車に酔ったのか?」
と俺が、ヒールを掛けようとしていると、
「いえ、そうじゃなくて、何で御者をやっていた筈のケンジさんがここに? 誰が御者をやっているのでしょうか?
何か、私の目がおかしいのか、誰も見えない気が?
そ、それに、この馬車、全く揺れないし、滅茶苦茶早くないですか?」
とサラさんが聞いて来る。
「ああ、そうか、御者か! マダラがやってるよ。」
「マダラさんと仰る方なんですね? ど、何処に?」
「ああ、あの馬が左がマダラ、右がB0って言うんだよ。マダラは、ハイ・ホースって言う魔物なんだよね。
だから、ちゃんと行き先も伝えてあるから、大丈夫なんだよ。御者要らずなんだよね。この馬車。
しかも、ハイ・ホースだけに、滅茶苦茶足が速いんだよ。フフフ うちの自慢の従魔達なんだよ。」
というと、もの凄く呆れていた。
「何という、常識破りな!」
「よせやい、褒めるなよ。照れるだろ?」
「いえ、褒めてませんが?」
「サラ、今更1つ1つ突っ込んだら、負けだよ? 気にしちゃ駄目だよ。ケンジさんだもん。」
と酷い言い様のドリス君。
「前に言ったけど、俺さ、ズーッと1人で生活してたから、この世界の常識には疎いんだよね。
だから、何か問題ありそうだったら、教えてね。」
とフォローしておいた。
さて、帰りの馬車だが、何故かマダラが張り切っていて、行きよりも人数が増えているのに早いんだな、これが。
実際に、あのロンシャッテ村には、半日以上早く到着してしまった。
「あんれ? ケンジさんじゃねーか!」
「どうしたんだ? 何か忘れ物かい?」
って村の人達も驚いていたぐらい。
「ハハハ、いや、急遽予定が変わって、一旦戻る事になったんで。
あ、ついでにと言ったら申し訳ないのですが、鶏って何羽か分けて頂く事って可能ですか?
家でも、新鮮な卵が食べたいなぁーってね。」
というと、
「そんだら事なら、遠慮は要らねーさ。大恩あるケンジさんだし、雌2匹と雄1匹ぐらいでええか?」
「あ、えっと、可能なら、雌4、雄2?ぐらい欲しいのですが、売って頂けますか?」
「おお、構わねぇぞ? 積んで行けるか?」
という事で、ジジの出番である。
鶏を捕まえて、ジジの影の中へポイッポイッと投入する。
「ほぇーー! こんな事が出来るだか? 驚れーーた。」
と村人がポカンと口を開けていた。
余りに面白いらしく、ひよこも3匹程放り込んでくれたのだった。
そして、人数も多いからと、そのまま流れる様にお暇し、更に拠点へと向かう。
途中の野営では、子供達もドリス君達も、テントに驚いていた。
「まさか、テントの中でお風呂に入れるとは……
これ、絶対に私らの塒にしていた宿より良いわよ。」
とサラさんが絶句していた。
こうして、ハイペースな旅もイヨイヨ終わり、行きの2/3未満で拠点へと戻って来た。
「さあ、見えて来たよ。あれが俺の開拓した拠点だよ。」
と俺の指刺す先をみて、
「え? と、都市? 要塞? いやいや、村ってレベルじゃないですよ。これ。」
と驚くドリス君。
「えーー? これが拠点? うっっそーー!!」
とサラさん。
子供達はワイワイキャッキャと喜んでいる。
外門を自動で開けて、中に入ると、畑がビッシリ。
しかも、成長が早く、植えて間もない割には、シッカリと育っている。
「「わぁー、凄い」」とは冒険者の2人。
「あ、見えて来たね。あれが内門で、あの中にみんなで住んでるんだよ。」
と説明すると、
「いや、これマジで、想像の1000倍くらい凄いわよ。」
とやはり呆れ気味のサラさんだった。
内門を開けて中に入ると、
「あ!ケンジ様だーー!」
「あらあら、早かったわねぇ。お帰りなさい!」
「あーー、ケンジさまだーーー。」
「ケンジ兄ちゃんおかえりーー」
と村の人達が出迎えてくれた。
「どう? ここが俺の拠点なんだけど、暮らしていけそうかい?」
と聞くと、全員がウンウンと無言で頷いていたのだった。
帰り着いた俺は、早速鶏小屋を出して、ジジの影から鶏を出して貰った。
腹心達と話した結果、宿舎タイプを1つ出してやり、そこで暮らさせる方が良いという事になり、宿舎も設置した。
新しくやって来た子供もドリス君もサラさんも、村人から歓迎を受け、その日は歓迎会という名目の宴になったのだった。
しかし、アレだな……帰り道が早かった原因がやっと判明したよ。
マダラが、マロンと我が子に会いたかったのが理由だったらしい。
ハハハ、そうだよね、生まれたばかりの我が子だもんね。ごめんよ。
……ちょっと見ない内に、子馬以上のサイズになっているけどな。
とマダラには申し訳無い事をしたなと、思ってしまったのだった。
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