第70話 アリスタのスラム

「へっへっへ、兄さん、羽振り良いねぇ~、俺らにも分けてくれよ。」

と小剣や長剣等の武器を手にした8名の、見るからに小悪党面の男共が飛び出して来て、健二の周りを取り囲む。


ああ、このタイミングで出て来る事にしたのか。

前世の自分なら、ガタガタ震えて、腰を抜かしてしまうシーンなのだが、相手の実力が判るだけに、全く怖くない。

寧ろ、心が急激に冷えて行く感じさえする。


「悪いけど、俺、Aランクの冒険者だから、オジサン達じゃ、太刀打ち出来ないよ?

それに、この従魔達だけでもオジサン達を数秒で片付けるくらい強いけど、怪我とか命とか無くなっても良いのかな?

出来れば、このまま穏便に去ってくれれば、無かった事にして上げるけど、どうする? 命掛けちゃう?」


「ハッハッハ、バカ言ってるんじぇねぇよ。誰がお前みたいな、優男にやられるって言うだよ。」

と8人の中のボス格の男が言い放つ。


<お前達は、子供らを守って、ヤバい時だけ手を出すようにして。>

<<<了解(にゃ)!>>>


俺は、ピョン吉達に指示した後、一歩前に出て、

「じゃあ、本当に良いんだね?」

と言って、瞬時に雷魔法のスタンを8発展開し、放った。

「「「「「「「「バッシーン」」」」」」」」

と稲光が飛んで、男達に当たると、その場に男達が倒れ、身体からはプスプスと煙りが登っていた。


うん、このスタンは使えるね。

でも最小限で放ったつもりだけど、これでも少し強かったか……。


「に、兄ちゃん、大丈夫だったか?」

「兄ちゃん、強ぇーな!」

と俺を案内して来た子供が怯えながら、小屋から顔を出して来た。


「ああ、こう見えても割と強いんだぞ。Aランクの冒険者だからな。」

と応えると、他の子達も怖ず怖ずと、外に出て来た。


俺は、取りあえず、肉串と、サンドイッチを出してやって、全員にクリーンを掛けてやった。

かなり薄汚れていて、酸っぱい匂いもしてたからねぇ。


そして、煙の出ている男達を後ろ手にロープで縛り、全員の足を連結した。

これで逃げる事は出来ないだろう。


さて、こいつらをどうするか。

衛兵に引き渡すべきだが、一番良いのは、ここに呼んで来るのがベストだな。


「なあ、誰か、この強盗共を引き渡す為、衛兵を呼んで来てくれないか?」

と食べ終わって嬉しそうにしている子供らに頼んでみると、


「よし、おいらが呼んで来るよ!」

と2人の子供が走っていった。


20分ぐらいで、衛兵3名がやってきて、縛られて転がされている8名の状態にビックリしていた。

そして、どうやら、この街では、結構有名な小悪党だった様だ。


「ああ、こいつらか……。あんた、良く無事だったね。」


「どうも。まあこう見えてもAランクの冒険者だから、こんな小悪党ぐらい、20名でも30名でも訳ないですよ。」

と冒険者ギルドのカードを見せると、更に驚いていた。


「へー! そんな若さでAランクなのか、いやこれは失敬した。

この街の冒険者ギルドに所属するAランクは大体顔見知りなのだが、君は見かけた事がないけど、旅の冒険者なのか?」


「ええ、クーデリア王国のドワースの方からやってきました。

まあ、イメルダ王国の方まで廻ろうかと思ってまして。」

と応えると、あまり商人以外で、そこまでの旅をする人は居ないらしく、「珍しいな」と言っていた。


ゴミ共の回収も状況説明も終わり、衛兵達は、

「じゃあ、ここら辺はあまり治安が良くないので、十分に気を付けて。

良い旅を続けてくれ。」

と去って行ったのだった。



さて、子供らだ。どうするかな?

環境が無ければ、俺の拠点で環境を用意してやる事は出来るんだが、そうなると、生まれ育ったこの国から出て行く事になる。

さあ、どうしたものか。


「なあ、君ら、誰か面倒を見てくれる大人は居ないのかな?」

と聞くと、


「えっとね、サラお姉ちゃんと、ドリス兄ちゃんが時々、食べ物を持って来てくれるんだよ。」

と1人が教えてくれた。


聞けば、冒険者に登録出来る年齢になり、ここを出て行った、先輩格の少年少女が居るらしい。

そして、週に1回程、差し入れを持って来てくれるらしい。


「ふむ、一度そのお兄ちゃんとお姉ちゃんに話しが出来ないかな?」

というと、


「判った、多分、この時間なら、冒険者ギルドに戻ってると思うから、おいらが呼んで来るよ。」

と子供らが走って行った。


子供らの日々の暮らしの話を聞くと、やはり食えたり食えなかったりと、かなり厳しい状況が判明し、胸が痛くなる。


「なあ、子供達よ、俺の拠点に来るか? 食べ物も一杯あるし、村の人も優しくて良い人達だし、村の子供らも20人くらいは居るのかな? いやもっとだっけ?

どちらにしても、畑仕事とか手伝ったりして、温かいご飯とユックリ安心して寝られる部屋も用意出来るぞ。

ああ、俺奴隷商とかじゃないから、そこは安心して欲しいんだけど、どうかな?」

と言ってみるとと、聞いた子供の半分は、ご飯が食べられるというところで目を輝かせるのだが、半分は警戒を強めていた。


まあ、当然だよな……俺でも、そんな上手い話は無いだろうと疑うよなぁ。


さて、どうしたものか。




先輩格の少年少女を呼びに行った子供達が、15歳くらいの冒険者を連れて帰って来た。


「あ、あんたか? この子らに呼びに行かせたのは?

で、俺らに何の用だ? この子らに何かしようって事なら、許さないぞ!」

と少年が警戒からか、強い口調で問い詰めて来た。


「ああ、そんなつもりは無い。俺はクーデリア王国のドワースで登録している、Aランクの冒険者で、ケンジという。

ここには、旅の途中で寄ったんだが、この子らと知り合ってね。

聞けば、ここでこの子らだけで暮らしていると聞いて、ちょっと何とか出来ないかと考えてたんだよ。

俺も、両親は居ないから、同じ様な境遇だし。(まあ嘘ではないよな。)」

とギルドカードを見せると、一応は安心したらしく、険しい表情を緩めてくれた。


少年の方は、ドリスという、Eランクの冒険者で、少女の方は、サラと言い、同じくEランクの冒険者らしい。

2人でパーティーを組んで、薬草採取や、ゴブリン等の単発の討伐依頼をやっているとの事だった。


「なあ、もうすぐ夕方だし、先にこの子らに、もうちょっとマシな服を揃えてやりたいんだが、頼まれてくれるかな?

俺が金は出すから。」

と言って、大銀貨3枚を出して、少年に渡した。


「え? どう言う事ですか?」

と困惑気味のサラさんが、聞いて来る。


「いや、落ち着いて話せる所で話をしたいんだけど、この服装だと、入れてくれない可能性があるからさ。

俺は今、『銀の食卓亭』って言う宿に泊まってるんだよ。

だから、子供らの服や下着、あと靴もだな……買いそろえて、着替えさせてやってくれないか?

そして、『銀の食卓亭』で飯を食いながら、話をしないか?」

と打診してみると、

「えー! す、凄い所に泊まってるのね。流石はAランクって事かしら。

判ったわ、じゃあ、買い物と着替えが終わったら、銀の食卓亭へ子供らを連れて行けば良いのね?」

とサラさんが、了承してくれた。


「ああ、別にそれ全部使っても良いから、着替え分も何着かと、入れるリュックとかも揃えてやってな。

ついでに、君らも着替えとか買っていいぞ?」

というと、少し顔に笑顔が出て居た。


「それと、これは仕事として、お願いするから、銀貨1枚ずつで受けて貰えると嬉しい。」

と言って銀貨1枚をそれぞれに手渡し、宿へと先に戻ったのだった。


宿に戻った俺は、宿のスタッフを捕まえ、子供ら10名と冒険者2名が追加で泊まれないかと聞くと、

雑魚寝でも良ければ、大部屋があるとの事だったので、そこを確保し、毛布を人数分と夕食も12人分追加でお願いした。

ちなみに、大部屋と食事諸々で、大銀貨2枚であった。


俺は、一足先に部屋に戻り、今後のプランをブツブツと独り言を言いながら考えていた。



1時間ぐらい経った頃、ドアがノックされ、宿のスタッフが、

「お連れ様がいらっしゃいました。」

と伝えに来てくれた。


お礼を言って、下の方へ迎えに行くと、こざっぱりとした服に着替えた子供らが、全員背中にリュックを背負って嬉し気に立っており、その横にはドリス君とサラさんも付き添っていた。


「おお! こざっぱりしたねぇ。 うん、良い笑顔だな。

さあ、宿の人には言ってあるから、取りあえず、夕飯を食べて、部屋でユックリと話そう。」

と俺が言うと、


「え? おいら達、ここでご飯食べて良いの?」

と子供らが驚いている。


「ああ、君らの部屋も……と言っても大人数だったから、大部屋になるけど、12名全員が泊まれる様に取ってある。

今夜はここの大浴場でユックリ風呂にも入れるぞー!」

と俺が言うと、サラさんが、大浴場に興奮していた。


取りあえず、あんまり騒がない様にだけ注意して、食堂に隣接する、個室へと移動して、お待ちかねの夕食を食べるのであった。

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