第69話 アルデータ王国アリスタ

街道に出た後、ひたすら道なりにアルデータ王国を目指す。


なんか、アルデータって国名だけど、ネアンデルタール人っぽい響きだな。プププッ!

とか頭の中で下らない事を考えて居たりするのだが、そんな健二の頭の中とは関係無く、馬車は先へと進んで行く。


街道はこれまでに比べれば、かなり良い方だが、元々交通量が少ない事もあって、割と荒れている。

需要が無いのか、あまり整備はされてないみたい。


しかも、進むに連れ、徐々に道幅が狭くなって行く気がする。

「大丈夫かな? これで道合ってるんだよね?」

と思わず独り言を呟いてしまう。


大学生の頃、バイクに乗って北海道までの一世一代の覚悟でツーリングしたのだが、その際に地図を読み間違えて、近道と思って通った国道が途中からジャリの林道に変わってしまい、焦った事をフト思い出した。


「あの時は心細かったなぁ。完全に一人だったし、段々日も暮れて来るしで。

しかも道はドンドン荒れる一方で、更に迷ってしまったのか、最後は獣道っぽかったしなぁ。」

と当時の言い知れぬ心細さを思い出して呟く。


そんな健二の心中を察してか、マダラが健二に声を掛けてくる。


<主ーー、大丈夫だよー! 道無くても、ほら俺達全然平気だから。>

と。


しかし、それだと馬車がなぁ……まあ、最悪は、馬車を収納して、背中に乗せて貰って移動するか!


道が狭くなって来たので、何か少し心細くなっていたのだが、よくよく考えれば、今までは道無き道を進んでたので、まあ状況は大差ない。

それに今回は、俺一人じゃないもんな! ハハハ、無駄に不安に思ってしまったな。




特に国境と言っても、フェンスや万里の長城の様な明確な国境がある訳でも無く、砦は点在するものの、特にここのラインというのは存在しない。

そして、昼食の休憩に入った頃には、既にアルデータ王国の領土に入っていたのだった。

何故判ったかって? それはアルデータ王国の砦を通り過ぎたからである。


アルデータ王国とクーデリア王国は良好な関係なので、横を通り過ぎる通行人に何も言ってこなかった。

現代日本に住んでいた健二としては、『え?そんな入国審査とか無くても良いの?』と不安に思ってしまうが、特に問題は無いっぽい。

横を通る際に、手を振ったら、警備の兵も手を笑顔で振ってくれた。

なので、ついでにこちらから声を掛けて、近くの都市の名前と方向を聞くと、


「ん?何だ、アルデータ王国は初めてなのか? このままその街道を行くと、アリスタという都市があるぞ。」

と親切に教えてくれた。


「せっかくだから、1箇所ぐらい、アルデータ王国の都市とかにも寄りたいよなぁ。」


<お!良いね。何か美味しい物あるかな?>

<魚にゃ! 魚が食べたいにゃ!>


「いやぁ、魚は辺境だし無いんじゃないかな? 川魚ならあるかもだけど、それは別に内の拠点の裏の川でも獲れるしなぁ。」

と俺がピョン吉とジジに返していると、


<主ーー、ぼく、お肉食べたい。>

と久々に目を覚ましたコロがお強請りして来た。


保護した当初は、赤ちゃんで、ミルクか果汁程度しか口にしなかったコロだが、冬の間に成長し、現在では90cm近くまで大きくなっている。

そして、今では、肉だろうと、野菜だろうと、モリモリと食べる様になったのだ。 子供の成長って早いよなぁ~。

しかし、まだまだ甘えん坊で、俺の腕や膝に陣取って寝ている。


ちなみに、マダラ達だが、普通の草だけでなく、実は肉も食う。

マダラ曰く、

<食えと言われれば、何でも食べるよーー。 草だとね、ヒール草とか、マギ草が美味しいよーー。あ、でも果物も好きだし、オークの肉串も美味しいよねーー>

との事だった。


日本では、よく、玉葱が駄目とか、甲殻類が駄目とか、種別によって駄目な食物があるが、こっちでは毒意外は普通にOKという事みたい。

まあ、禁止食物が無いのなら、こっちとしては、安心なのでオーライである。




結局その日は、アリスタに到着する事も無く、街道沿いでキャンプである。



こうして、淡々と日々が過ぎているが、実際はマダラ達の移動速度のお陰で、通常の馬車による1日の移動距離の2倍近い距離を進んでいるのである。

一般的な馬車でこのスピードを出してしまうと、振動で馬車がバラバラになるか、その前に乗員が、振動で倒れるのだが、サスペンションが良い仕事をしてくれているので、問題が無いのである。



そして、翌日の昼過ぎ、漸くアルデータ王国の辺境都市アリスタの城壁が見えて来たのだった。


アリスタの城壁は、ドワースの城壁よりも若干低い様に見えるが、城壁で囲まれるエリアは、おそらくドワースよりも、かなり広い様に思われる。


「城壁が見えてきたから、スピードを一般の馬車ぐらいに落としてくれる?」

とマダラに指示を出して、目立たない様な偽装を開始する。

馬車には俺と従魔しか乗ってなくて、荷物も何もない。

長旅なのに、荷物が無いと、確実に怪しまれるので、適当に予め用意しておいた、偽装荷物を取り出して、馬車の荷台に配置すれば、完了である。

長旅を平穏に過ごす為、極力目立たぬ様に、更に絶対権力者には近付かない様にしようと、心に決めている。



「お、東門からとは、珍しいな。」

と門番の衛兵が、笑顔で言いながら、身分証の提示を求めて来た。


「ああ、ドワースの方から来たので。そうか、こっちの門の利用者って少ないんですね?」


「ああ、そうだな。そうか、ドワースから遠路遙々来たのか。一人旅か?」

と聞いて来たので、


「ああ、俺と、俺の従魔も一緒です。まあ、人間は私だけですがね。」


「従魔が居るのか? 念のため、従魔の登録も見せてくれるか?」

と言われ、ピョン吉、ジジ、コロのペンダント型の登録証を見せると、


「げ! おまっ! これ、キラー・ホーンラビットかよ! こっちは、シャドー・キャットか! ん?この白いのは??」

と驚いていた。

俺は敢えて、キング・キラー・ホーンラビット、ハイパー・シャドー・キャット、シルバー・フェンリルという正解を告げず、ニッコリと笑って見せるだけにした。


「ん、まあ、登録されているみたいだし、Aランクの冒険者でもあるから問題無いだろう。

くれぐれも、街の中で暴れさせたりして、問題起こさない様に、注意だけは頼むぞ。」

と言われたので、「ええ、勿論ですよ。」と応えておいた。


ついでに、従魔と泊まれる様な宿を聞くと、


「うーん、そうだな、若干割高になるけど、『銀の食卓亭』って言う中級よりやや高級な宿があるんだが、あそこなら、多分大丈夫だぞ。

馬車も預かってくれるし、厩舎もあるからな。 あと、あそこには、大浴場もあるから、懐に余裕あるなら、お薦めだ。

なんせ、店の名前が『銀の食卓』って付いてるぐらいだから、飯も滅茶美味いしな。」

と教えてくれた。


俺は、礼を言って、門番の衛兵が教えてくれた宿を目指す事にしたのだった。




街の中は、非常に人も多く、賑わっている。

屋台からは、肉を焼いた良い匂いが漂って来て居る。

<ああ、主ーー、買うにゃ! あの肉串を買うにゃ!!!>

とさっきまで魚、魚と言っていたジジが騒いでいる。


<主、俺もあれ!>

といつもの様に言葉少ないピョン吉も指示して来る。


コロも肉の匂いに目を覚まし、

<にくーーー!>

と叫んで居た。


なので、取りあえず、馬車を駐停車し、肉串を6本買って、落ち着きの無いジジや、ピョン吉、コロ、そして頑張ってくれたマダラ達にも食べさせてやった。

屋台のおっちゃんは、マダラ達が肉串を食ってるのを見て、

「えぇ~? 馬が肉串を食べてる!?」

と驚いていた。


ハハハ。馬じゃないんだけどね。


漬け焼きしているタレが絶妙で、肉串は確かに美味かった。

あまりに美味かったので、更に12本追加で購入し、宿へと出発したのだった。





『銀の食卓亭』は、外から見た感じ、とても綺麗で、かなり良い宿の部類であった。

「これは、もしかしてハゲの雷光の宿と同ランクなんじゃなかろうか?」

と思わず呟く程であった。


しかし、受付で聞く限り、宿の料金は雷光の宿よりもリーズナブルで、一泊2食付きで1人25000マルカ程度。

確かに日本のビジネスホテルに比べれば、高いかも知れないが、ちょっとゴージャスな温泉旅館に比べれば、十分にお手頃である。

その上、一般市民にとって、風呂が贅沢品なこの世界では、破格値かも知れないな。


この際、前世のここ20年間の生活基準は、思い出すのを止めて置こう……せっかくの旅気分が萎えるからな。


俺は、価格に納得し、従魔のピョン吉達も同室を許可して貰う代わりに、2人用の部屋にして貰った。

まあ、その分部屋代は40000マルカと高くなったが、馬車と馬2頭の代金も含め、55000マルカで従魔達の食事も込みとなったのだった。


「あ、うちの馬、結構食べるので、60000マルカ払いますから、多めに餌をあげてもらえますか?」

と聞くと、受付のお姉さんは、笑顔で了解してくれたのだった。


一旦部屋に入って、確認すると、清潔な部屋で、ベッドのマットも申し分無い。

更に、大浴場を確認すると、これまた良い。 これはかなりどころか、マジで大当たりの宿だ。


いやぁ~、宿も大当たりっぽいし、アリスタの街、悪く無いなぁ。

早速、街を散策する事にしたのだった。



宿のスタッフに市場の場所等を聞いて、ピョン吉達と出発する。


<主、美味しい物、沢山買おう!>

<さっきの肉は美味しかったにゃ!>

<おにくおいしかったー!>


<フフフ、また何か美味しそうなを発見したら、教えてくれな。>

<<<了解(にゃ)!>>>



沢山の屋台の中から、幾つかの屋台を梯子して、スパイスが効いた肉串や、焼き鳥、太めのソーセージ、厚めに切ったハム?が挟まれたサンドイッチなどを買って食べ歩く。

サンドイッチは残念な事に、パンが堅くて駄目だった。具は良かったんだけどなぁ……。


鮎っぽい川魚の塩焼きも発見して、これも食べたが、なかなかに美味であった。


どうやら、このアリスタでは、香辛料等が特産らしく、見かける露店では、香辛料の量り売りなんかも多い。

従って、肉串等にも結構ちゃんと香辛料を使っているので、ドワースで食べる肉串より、4割増しぐらいで美味しい。


「これだけ香辛料が揃ってるなら、こっちの材料だけで、カレー作れるんじゃないかな?」

と健二が呟く。


自炊生活が長い健二であるが、流石にカレーのルーは、市販の固形のルーを使っていたので、自分でスパイスを調合する程の知識は無かった。



だが、今の俺には、『詳細解析』大先生の後ろ盾がある。作れるんじゃないか? と思い、香辛料を全種類、10kg単位で買い集め始める。

特産で余所と比べ安いとは言え、金額はそれなりに高額である。



そんな高額な香辛料を10kg単位でポンポン購入する、従魔を従えた超美形の青年は、ここアリスタの市場でも、異色を放っていた。

買った10kg単位の香辛料の袋は、背中のリュックに入れて居るが、そのリュックが満杯になる気配も無い。

見る者が30分も監視していれば、直ぐに異常さに気付く訳である。


アリスタの街は、地方都市としては、非常に治安の良い街ではあったが、そんな治安の良い街であっても、不届きな輩はそれなりの人数居たりする。

彼らが直ぐに行動に移らない、大きな理由は、健二の従えた従魔の存在であった。


「うぁーー、超手を出してぇが、あの従魔、ヤバいなんてもんじゃねーな。

あれは、普通のキラー・ホーンラビットじゃねーぞ? それに後ろの黒い猫もシャドー・キャットの上位種じゃねーか? 白い犬はまあ、大丈夫そうだがな。

ヤベーな、こんなカモは滅多にいねーのに……。」

と路地裏から、親指の爪を噛みつつ、熱い視線を健二に投げ掛けていたのだった。



そんな事とは露知らぬ健二は、ウキウキしながら、ドンドンと買い漁って廻っていた。

<主、彼方此方から、敵意の籠もった視線来てる。>

とピョン吉が警告を発した。


<左後ろの路地と右横の路地、あと左斜め前の屋台の後ろ辺りにも居るにゃ!>

とジジが隠れて居る場所を教えてくれた。


<ぼく、噛みついてこようか?>

といつになく、好戦的なコロちゃん。


うーーん、目立たない様にしてたつもりだったんだけど、目を付けられたかな?

まあ、こんな所で、直接手を出しては来ないだろうし、判っていれば、何とかなるか。


<教えてくれて、ありがとう。 何か変な動きあったら、教えて。

コロ、今は噛まなくて良いからね。フフフ。>

とコロが先走らない様に指示を出して抑えておく。


その後も気付かない振りで、購入を続けるのだが、ウキウキ観光気分は鳴りを潜めてしまったのだった。

せっかくの気分が台無しだな。


相変わらず、悪意のある奴らの監視は続いているし、どうしたものかな。


気分を変える為に、ジジお薦めの屋台で肉串を12本買い、立ち止まってピョン吉達と食べ始めると、路地裏から別の熱い視線を感じ、フト目を向けた。

すると、路地裏から熱い視線を送っていたのは、身なりの見窄らしい、酷く痩せた5,6歳ぐらいの子供が2人が、俺よりという、肉串に視線を送っている様だった。


俺は、少し彼らに近付いて、肉串2本を差し出して、手招きした。

子供達は、ハッとして、お互いに顔を見合わせて、どうしようかと相談している様子。

更におれは2歩近付いて、

「大丈夫、美味しいから味見してごらんよ。」

と声を掛けた。


子供らが、怖ず怖ずとこちらに近付いて来て、

「ほ、本当に貰って良いのか?」

とちょっと背の高い方の子が聞いてきた。


「ああ、多めに買ってるから、大丈夫だよ。」

というと、肉串を1本ずつ受け取り、肉に齧り付いた。


「うう、うめえー!」

「兄ちゃん、美味しいよー!」


2人は、ガツガツと我を忘れて食べて居たが、ハッとした表情になり、

「なあ、貰ったのに悪いけど、残りは持って帰って他の子に分けてやっても良いか?」

と聞いて来た。


「そうか、他にも仲間が居るのかい?」

と聞くと、ウンと頷く。


「じゃあ、それだけじゃ足り無いだろ? それは君らが食べて、人数分、新しいのを買うから、それを持って行ってやりなよ。

何人居るの?」

と聞くと、指を折って数え始める子供達。


聞けば、他に8人居るらしい。

俺は、この肉串を買った屋台のおっちゃんに言って、32本の肉串を焼いて貰い、取り出した、籠に葉を敷いて、その上にドンドン並べて行く。


聞けば子供らは、スラムと呼ばれる所で、孤児ばかり10名で助け合って、何とかその日その日を生きているらしい。


マジか……。


「神殿の孤児院には入れないの?」


「あそこは、もう一杯なんだよ……」


ここの街は人も多く賑わっているが、その分孤児院に入りきれない程、孤児や捨て子等も多いらしい。

なかなか、ハードな世界である。


買った肉串を持って、俺もその塒にしている場所へと案内して貰うと、ドンドンと治安の悪い寂れた場所へ入って行く。

わぁ……そう言えば、俺、スラムって初めて行くなぁ。


ドワースにもあったらしいが、殆どドワースはメインストリートと神殿の辺りしか知らないからなぁ。


段々とゴミゴミして不衛生な景色が増え、悪臭も漂って来る。

日本を知り、日本しか知らなかった健二に取っては、正に衝撃的な汚環境であった。


まさか、これ程スラムが酷い所とは……。

これに比べれば、俺が最後にいた4畳半は、天国に等しいだろう。


と顔を顰めてしまう。

そして、そんな環境でしか生きる事を許されない子供らの事を思うと、心が締め付けられる思いだった。


環境さえあれば、この子らだって、活き活き伸び伸び育てる筈なのになぁと、残念でならない。


ん? 環境か……。



そして、塒にしているボロボロの小屋へと辿り着いた時、周囲が俄に動き出したのだった。


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話数の出現順を変更際に、設定ミスがあり、コロのサイズを若干修正しました。

m(__)m

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