第68話 旅立ち

翌朝、暗い内に目覚め、いそいそと準備して、朝食をサッサと済ませ、馬車を用意する。


「ケンジ様、お気を付けて下さいね。」とステファン君。


「ケンジ様、ちゃんと毎日連絡下さいね!」とアニーさん。


「マスター、行っちゃうんですか? ……錬金と魔法の自主練しておきます……」とリサさん。


「みんな、ちゃんと連絡も入れるし、何かあったら、連絡頂戴ね。」

と言って、拠点を出発したのだった。



今回のコースだが、森を反時計回りに迂回して行く予定である。

そうすれば、森に面した領や国等を知る事が出来る。



まずは平原まで移動し、その後、南西方面に向かいながら反時計回りに進み始めた。

<主ーー! 久々の未知の旅だな!>

とピョン吉が俺の膝の上にノシっと顎を乗せて伝えて来る。


馬車のサスペンションは上手く機能している様で、それ程不快な揺れや突き上げは無い。

なかなかに優秀である。

平原を横切り、泉の方を中心とした大円を進んで行く。

初日で約80kmを走破し、午後4時半には、キャンプの用意を開始した。

流石に一日中走ってくれたマダラ達に外で寝させるのは可哀想なので、小型の厩舎も出してやって、魔法で、クリーンを掛け、ブラッシングもしてやった。

その後、餌や果物や泉の水をだしてやると、大喜びでバクバクと食べていた。


俺達もテントに入り、まずは風呂でサッパリした後、食糧倉庫経由でアニーさんが用意してくれた夕食をピョン吉達と食べた。


「いやぁ~、やっと念願の旅に出られて、嬉しいね。

もう久しく、海の幸を食べてないからなぁ。

イメルダ王国に行けば、手っ取り早く、魚を仕入れようっと。」


<主! 私も魚食べたいにゃん!!!>

とジジも魚に反応する。


「ああ、食べたいよなぁ。絶対海のある街には行きたいよな~。

あぁ~お寿司食べたいなぁ。」


今回の旅の一番の目的は、これ。

お寿司が食べたいのである。

転生して早4年、更に転生前の前世では、最低でも3年は食べて無かったので、既に7年程はまともな寿司を食べて無い計算になる。

但し、コンビニの納豆巻きや稲荷は除くだが。


自分でも、ちらし寿司やカッパ巻きぐらいなら作れそうなのだが、マグロや鯛なんかのにぎりも必要だ。

そしてどうせなら、この世界の美味しい食材で作られた寿司が食べたいのである。





翌朝、朝食を食べ終わると、道無き平原の続きを走って行く。

時々、休憩時には、上空へと飛び上がり、周囲の地理状況の確認を行う。


しかし、相変わらず都市はおろか、集落さえも見えない。


午後3時のおやつ時間の休憩時に確認したところ、集落も無かったが、このまま直進すると、森にぶち当たるみたいであった。


「うーーん、どうしようか。このままあの森に突っ込んでもなぁ。

少し西に迂回するかな。」


視力を強化して、西の方を確認すると、遙か向こうで森が切れている様子だ。


地上に戻ると、マダラに言って、進路を西に変更して貰った。



結局、森を迂回する感じに午後5時まで走って、森の切れ目までは到達したのだった。

今夜の野営地でテントを張り、厩舎を出してやった後、上空から西側を確認すると、西北西の方向に、微かな煙と屋根が幾つか確認出来た。


「お! 村発見!?」


発見した村の方向をシッカリ記憶して、地上へと降りた。

明日はあの村に行くとしよう。




翌朝、朝食を済ませ、昨日発見した西北西の村を目指して出発した。

比較的馬車で走れそうな所を選んで行くと、余計に時間が掛かってしまい、村に到着したのは、午後4時頃であった。



村の周りには畑があり、幾つかの畑からは芽が出ていた。

そして、村を取り囲む様に、ボロい柵というか、塀とというか微妙な物が頼りな気に建っている。


村の入り口まで行くと、村への来客自体が珍しいのか、ドッと人が集まって来たよ。


俺は、馬車から降りて、怪しい者じゃないんですよ? アピールを必死で開始する。


「こんにちは! 旅の者です。ドワースの方(方向)からやって来ました。」

とまるでこれじゃあ、消火器売りの詐欺だな……と自嘲しつつ笑顔で話し掛ける。


「ほぇーー、あんた、ドワースから来んさったとね?

そりゃあ、えろう遠か所から来んさったねぇ~。」

とかなり訛っては居るが、ちゃんと『言語理解』が仕事をしてくれているらしい。


おっと、警戒は無くて、かなり友好的な雰囲気だな。


「ええ、森を迂回して、アルデータ王国を通って、最終的には、イメルダ王国の海の方まで行きたいんですよねぇ。」

と俺が言うと、滅茶苦茶驚いていた。


「何処か、宿屋がこの村にあれば、そちらで泊まりたいですが、無ければ何処か場所をお借りして、こちらで一晩野営しても宜しいでしょうか?」

と聞いて見ると、


「ああ、すまんのぉ。ここん村に客なんか来んけん、宿は無かったい。

空き地でよけりゃあ、汚さんように好きに使いんしゃい。」

と許可を貰った。


ちなみに、飯屋なんてのもこの村には無いらしい。

この村……ロンシャッテ村という、ドワース領の辺境の村らしい。

このロンシャッテ村の主な名物は、トウモロコシと、放し飼いにされている鶏と卵。

しかし、辺境故に、交通の便が悪く、鶏は生きたまま売る事はあるが、殆ど貿易はトウモロコシだけなんだそうで。


「へぇ~、トウモロコシですか! 良いですね! 良かったら、俺にも少し売って貰えませんか?」

というと、喜んで、安く大量に売ってくれた。


「えー、こんなに安くして貰うと申し訳ないなぁ。

あ、そうだ、小麦とか、沢山あるので、少しお分けしましょうかね。」

と言って、お金と一緒に小麦を入れた麻袋を5袋程、馬車から取り出した。


「おー!小麦ね? わーー、嬉しかーーー。ええとね? こんなに貰って。」

と言っていたが、こちらも10袋分のトウモロコシを激安で買ってるので、問題無しである。


去年収穫したトウモロコシなので、若干、干からびて居るが、俺の目的には実に良い。

トウモロコシを鑑定すると、何種類かが混じっていた。爆裂種も混じって居たので、それを使う事にする。


(馬車からを装いつつ、)深めの鍋と蓋を取り出し、油を敷いて、乾燥したトウモロコシの実だけを鍋に投入する。

鍋に蓋をして、マジックコンロの上で煎る頃数分……


ポン♪ ポポン♪ ポンポンポンポン♪


と軽快に弾ける連続音が鳴り響く。

ロンシャッテ村の村人達は、ポップコーンの作り方は知らなかったらしく、こちらを不思議そうに眺めている。


やがて、弾ける音がほぼしなくなったので、コンロを止めて、鍋の蓋を開け、上から塩を適量振りかけて、再度蓋をして良くシェイクした。

今度は大きめのボールに出来上がった、ポップコーンを移した。


「良かったら、味見しませんか? ポップコーンって言うおやつですが。」

と俺が言って、先に味見してみた。


「うーーーん、久々だけど、美味いな。 いかん……止められない止まらないになりそう。フフフ」

と俺がバクバク食べるのを見て、驚きながらもソッと食べ始める。


「美味かーー!! 何ねこれ? 家畜の餌と思っとったばってん、干からびてもこんな食べ方があったとねぇ。」

と感心している。


話を聞くと、この村では、トウモロコシの粉でパンケーキの様に焼いたりはするが、トウモロコシを使って、こんな食べ方があるとは思いもしなかったらしい。


「じゃあ、これを流行らせれば、もっとトウモロコシの需要が増えますよ。

まだまだ他にも食べ方はあるんですよ?」

と俺が言うと、どんな食べ方かを教える事になった。


俺は、再度、馬車から、1cm厚の真っ平らな鉄板を2枚出して、油を薄く引き、熱して行く。

そして、両面が程良く温まったところで、生のコーンを荒く砕き、鉄板の上に薄く敷いて軽くプレスした。

そして、直ぐに上の鉄板を離して、焼き色が付いて潰れたコーンを皿に盛って、ミルクを掛けてみる。


うん、まんまアレですな。 美味しい。


「これはコーンのシリアルですね。 朝食とかにこうやってミルクを掛けて食べたりします。

砂糖を少し掛けて食べると更に美味しいですが、他には麦を乾燥させた物や、果物の切り身を乾燥させたドライフルーツとかを混ぜても美味しいですよ。」

というと、その鉄板を分けてくれ! とお願いされたので、サービスで、ヒンジと取っ手を付けてやり、プレスし易くしてやった。


どうやら、シリアルを村の特産品として売り出したいらしい。

村人は大喜びで、なんかそのまま宴会へと突入し始めた。


俺は引き留められたものの、流石に最後まで付き合う程、酒に強くないので、2杯程お付き合いした後に、テントにて爆睡したのだった。


翌朝、出発する際に聞くと、もう少し南に下ると、アルデータ王国へ続く街道があるらしい。

ふむ、じゃあそっちを使ってみるかな。


村人達にお礼と別れを告げて、村を後にしたのだった。

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