第64話 遠出

 マダラが楽しかったらしいので、同じソリを10台程、増産してみた。

 まあ、出産して育児中の馬は、お留守番だが、ハイ・ホース達もノリノリだったので、敷地内でソリを引かせて村人達にも遊ばせている。


 一方俺とマダラとコロ、そしてたまには外の空気も良いだろうと、腹心2人を連れて、遠出に出掛けている。

 ピョン吉やジジも誘ったのだが、

 <<<<<<<<<<<<寒いから!ヤダ!>>>>>>>>>>

 と速攻で拒否された。 うう……主人なのにな。



「ケンジ様、このソリと言う乗り物は、冬とは思えない程に快適ですね!」

 と温かいスープをカップで飲みながら、外の景色を楽しむステファン君。


「だよな。自分で作っておいて言うのも何だが、実に快適だな。

 逆に馬車の方が揺れるし、キツいよね。

 俺、いつも不思議に思うんだけど、あの馬車の揺れとか、みんな平気なの? お尻とか。」

 と聞いてみたら、


「いや、平気な訳は無いじゃないですか。ハハハ。」

 と笑われた。


 やっぱり、そうなんだね? 俺だけが不快に思っていた訳じゃないのか。

 ちょっと安心。


 今日はちょっとドワースの街まで行ってみようかと思っているのだが、通常だと10時間ぐらいは余裕で掛かる道のりが、雪とソリのお陰で、大幅な速度アップとなり、何と昼過ぎにはドワースの門まで辿り着いてしまった。


 しかし、通常の門は閉まっていて、横にある、わりと小さい通用口?しか空いてない。


「こんちわー!」

 と俺が声を掛けると、出て来た衛兵のオジサンが、俺達の乗り物を見て驚いていた。


「え? よくまあ、こんな雪の中、来たなぁ。 ああ、ケンジ君か。」

 と。


 あれ?俺この人知ってたっけ? とは思ったが、

「ハハハ、ちょっと新しい乗り物のテストで、やってきました。」

 と言うと、納得して通してくれた。


 街の中も、屋台は出ておらず、店は一応開いている所もあるが、兎に角、人が居ない。

 なるほど、冬のドワースはみんな家に籠もってるんだな。


 西通りを進んで行くと、外扉は閉めているものの、ガバス商会は店を開いていた。

 一応挨拶だけと、顔を出して見ると、ガバスさんが驚いていた。


「お久しぶりです。もしかして、お子さん生まれました?」

 と聞くと、先週無事に出産したらしい。

 奥さんに似た可愛い女の子だったらしい。


「おお! それはおめでとうございます。

 良かったですね、奥さん似の女の子で。そうですか。いや、それは目出度いですね。

 奥さんは産後、お元気そうですか?」

 と聞くと、ちょっと顔が曇り、少し産後の状態が悪いらしい。


 あらあら。


 と言う事で、申し訳無いが、一応念のためにも治療をさせて貰う事にした。

 奥さんの寝てる部屋へと通して貰って、まずは寝てる奥さんの症状を聞きつつ、判る範囲で症状を消すイメージでハイ・ヒールを掛けた。

 すると、顔色の悪かった奥さんだったが、顔に赤みが差してきた。


「ふむ。これで大丈夫だと思いますが、ちょっと起こして貰って、これを飲んで貰って下さい。」

 と泉の水と、桃を等を渡した。


「あ、あと万が一の時の為に、ポーション渡して置きますので。」

 と特級ポーションと特級スタミナポーションを2本ずつ更に渡した。


 ガバスさんは何度もお礼を言ってきて、代金を支払うと言っていたが、


「いや、じゃあこれは出産祝いって事で。」

 と辞退した。


 赤ちゃんも見せてもらったが、確かに奥さんに似ていて、可愛い女の子だった。

 生まれたてだと言うのに、目鼻立ちもスッキリしている。


「おお、これは美人さんになりそうですね。名前は決めたんですか?」

 と聞くと、アリーシア と名付けたそうだ。


「ふむ、アリーシアちゃんか。 スクスク大きくなれよ!」

 と声をかけて、ガバス商会を後にした。



 別荘に辿り着き、門を開けて中に入ると、それなりに、雪掻きもされていて、徒歩での通行にも問題は無さそうである。


「おお、ジョンさん、頑張ってるなぁ。」



 厩舎にマダラを連れて行き、汗を拭いたり、泉の水や餌をあげた後、母屋の方に入ると、ジョンさんがビックリしていた。


「よくこんな雪の中、無茶しますね? 本当に危ないから気を付けて下さい。」

 と注意されたが、ソリを見せて説明すると、


「あー、なるほど、そんな乗り物を作ったんですか。凄いですね。」

 と驚いていた。


「それに、ほら、ステファン君もアニーさんも、ずっと拠点に居たからさ、たまにはと思って連れて来たんだよ。

 悪いけど、1,2日、お世話になるね。」

 と言うと、


「何言ってるんですか。ここはケンジ様のお屋敷ですから、何時でも好きな様に来て頂いて、何の問題もありませんよ。」

 と笑顔で言っていた。

 まあ、そうではあるが、急に来られると、やっぱり、ね?


 リビングで寛いでいると、ヤリスさんとユマちゃんもやってきて、全員でお茶をして、秋から冬までの拠点の出来事なんかを話をしていた。

「あ、そうだ! その焼き芋あるけど、食べてみない?」

 と籠おいて、ホカホカの焼き芋を7本出した。

 1本をコロにとりわけてやり、1人1本ずつ、竹の皮で包んでやって、渡す。

「本当に熱いから、気を付けて食べてね。」

 と注意した傍から、

「あっつーーい。」とユマちゃんが早々に涙目になっていた。

 素早く、ライト・ヒールを掛けてやり、食べ方を見せてやった。


「おいしーー!」

「本当に、甘いですね。」

「わぁ、ホクホクです!」

 と喜ぶ3名。


「まさか、家畜の餌程度と言われていたサツマイモが、こんなに美味しくなるなんて。」

 とジョンさん。


「え? サツマイモって家畜の餌なの?」

 と驚いて聞くと、

「え?知らなかったんですか!?」

 と逆に驚かれた。


 ハイ、シリマセンデシタ。



 そして、話は、ガバスさんの赤ちゃん誕生の話になった。

 可愛い女の子が生まれた事を伝えると、少し、ジョンさんとヤリスさんの元気がない。


「あれ? どうした? 何かあった?」

 と聞くと、


 ジョンさんとヤリスさんが、深々と頭を下げて、

「ケンジ様、申し訳ありません!」

 と急に謝り出した。


「え? え?? どうしたの? 何かあった?」


「いえ、実は、奴隷の身分でありながら、ご主人様であるケンジさんの許しも無く、妻を妊娠させてしまいました。」

 と今一つ訳が分からない事を言い出すジョンさん。


「おお! お? そりゃあ、目出度い、良い話じゃないですか! ん? それで何で俺の許しなんか必要なの?」

 と聞いてみると、奴隷=主人の持ち物 なので、夫婦でも勝手に子供を設けるのではなく、一応先に許可を頂くのが普通なんだって。


「えーーー? そりゃあ、逆にビックリだわ。 子は人類の宝だよ? ちゃんと責任持って育てられるなら、幾らでも作って良いじゃ無い。

 ダメだよ。そんな風習は。ああ、うちは全然そう言うのは気にしないで。前にも言ったけど、奴隷と言う形ではあるけど、普通に雇い人と雇われ人の関係だと思って。

 なーーんだ。ビックリしたよ。急に謝りだすから。 そうか。じゃあユマちゃんに、弟か妹が出来るだねぇ。良かったねー。」

 と俺が言うと、嬉し泣きしていた。


「あ、でもさ、それを考えると、もしかして、ステファン君とアニーさんも似た様な事を思ってた?

 ああ、君らが好き合っているのはちゃんと知ってるし、だから2人とも一緒に雇って居る訳だから、普通に村に居る時の様に考えて良いんだよ?

 まあ、その歳での妊娠は危険だけどな!ハハハ。」

 と言うと、2人が真っ赤な顔をしていた。


「もう一回、念のために言っておくけど、そう言う奴隷だからとかってのは、本気で止めてね。

 奴隷と言う形のままなのは、俺の心の中の問題だけで、それが解決したら、解放するつもりだから。

 それに、どうしても、俺と反りが合わないとか、俺の下では働きたく無いと言うんであれば、残念だけど、出て行って貰っても構わない。

 まあ出来る限り、継続して居て欲しいと思ってるし。

 そこの所をちゃんと理解してな。

 今回の件だって、 『聞いて下さい! 妻に赤ちゃんできたんですよー!』で良かったんだよ。だからお願いだから、あまりそう言う手合いの考え方は止めようね。」

 と言うと、何度も「「ありがとうございます。」」と言っていた。


「そうか、妊娠かぁ。おめでた続きじゃん。

 あああ、じゃあ、奥さん安静にしておいてね? 安定期に入るまでは大変らしいし。

 なんなら、もう1人か2人、こっちに人を増やしたって、全く問題無いし。

 そうか、産休とか考えれば、2年ぐらいは大変だから、ちょっくらあのハゲデブの所に行って、良さそうな子を探して来るかな?

 ああ、ステファン君とアニーさん、拠点の方はどう? 屋敷の方で人がもっと居ると良いとかない?」

 と聞いてみると、大丈夫との事だった。

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