第63話 冬の過ごし方 (改)

俺の歳が19歳になった頃、この拠点でも雪が積もり始めている。

まだまだ序の口ではあるが、俺も含め屋根の雪下ろしと雪掻きが日課となる。


「いやぁ~、今年は楽だなぁ♪」


俺がウキウキしてると。


「ケンジ様、どうしたんです? 雪掻きなのに何だか嬉しそうですね?」

と不思議がる腹心2名。


「ハッハッハ、そりゃあ、だって今年はみんながいるじゃん。

去年までは、俺一人で全部やってたんだぞ? だったら鼻歌ぐらいは、出ちゃうだろ。」

というと、

「ああ、確かにこれだけ広い所を1人で全部やるのは無茶ですよね。」

と納得する2人。


「無茶も何も、やってたけどな。」

と答えると、何か化け物を見る様な目で見られた。 失敬な!!


「でもお陰で鍛錬にはなったな。」


村人達の日課は、雪掻きが終わると、集会場に集まり、俺が置いたリバーシをしたり、俺の書いた魔法の本を読んだり、俺が書いた日本の童話や神話等を読んだりしている。

そして、併設されている厨房では、俺が教えたぜんざいを作ってみんなで食べたりと、温泉に入りに行ったりと、マッタリ、スローライフを満喫している。


「これまでの冬って、ここを知ってしまうと、サバイバルだったわ。」

とおばちゃんがシミジミ呟いていた。


「こんなに幸せで、良いのか不安に感じる程だよ。」

と別のオジサンも言って居た。


聞けば、彼らの冬とは、飢えと寒さを耐え忍ぶ物で、毎年最低1人か2人は亡くなっていたらしい。

聞けば聞く程、ラスティン子爵に殺意を覚えてしまうな。



「まあ、これまでの冬とは180度違って、そんな事は無いと断言出来るが、余りダラッと食っちゃ寝を繰り返すと、太るぞ?」

と俺が言うと、女性陣が軽く恐慌状態に陥っていた。ハハハ。


「ケンジ様は、これまで冬はどうしてたのですか?」

と聞かれたので、


「うーん、そうだね、まず雪下ろしと雪掻きを一人でやって、その後は、日によって様々だったけど、雪だるま作ったり、巨大なかまくら作ったり、色々やって、結構やる事多かったな。」

というと、


「それを全部お一人で、やられていたんですか!?」

と何か凄く可哀想な人を見る目で見られてしまった。


良いじゃ無いか! 1人かまくら遊びしたってさぁ~。雪だるま作ったって、良いじゃないかぁ!

いや、確かに俺の精神年齢を考えると、危ない奴になっちゃうかも知れないけど、見た目は、ほら、ピチピチの19歳だし、まだまだセーフなんじゃないかと?


フッフッフ、しかし今年の冬は、開発する予定の物があるんだよねぇ~。

そう!馬車の改造である。


旅をするにしても、このリジットマウントのサスペンションはハッキリ言って拷問に近い。

特にハイ・ホースとなって、強烈なスピードが出る様になったマダラ達に引かせると、ヤバい振動が出る。


まあ、街道は割とマシだけど、この先旅にでて、悪路とかになると、最悪なのは間違いないからね。


なので、村人達がダラッとしている時でも、俺は割と工作室や錬金室に籠もっている事が多いんだよね。




ドワースのジョンさん達だけど、メモによるやり取りでは、特に問題は無いらしい。

雪下ろしと雪掻きだが、ちゃんと指示通り、冒険者ギルドに依頼を出して、助っ人を雇っているという事だった。


そして、度々だが、そんなメモのやり取りの中に、感謝の言葉が混じっている。


『これまでの人生で、一番温かで飢えの無い冬を過ごさせて貰ってます。』と。



ジョンさんは、雪の中での移動が大変なのに、孤児院の方に、食料の差し入れをしに行ったり、それとは別に不足が無いか、聞きに行ったりしてくれている。

孤児院は、俺の渡したマジックバッグを有効活用している様で、特に冬の間に飢える事は無いという事だった。


あとに残る心配事と言えば、ガバスさんの奥さんの出産である。

是非とも無事に元気な子が生まれて欲しい。

まあ、これはここの神殿と神社にお参りする際、欠かさずにお願いしている。



マダラ達だが、何匹か、俺の知らぬ間に妊娠していたらしく、気が付いたら、子馬が居た!! いやぁ~ビックリだよ。

そして、マダラも父親になったみたいで、嬉しそうだった。


餌の他に、泉の水や果物類をお祝いで持って行くと、喜んでいた。


そんなマダラ達だが、この雪もなんのそので、運動不足解消なのか知らないが、雪の上をガンガン走り廻って遊んでいる。

<お前ら、元気だなぁ。雪なのに>

と俺が言うと、


<えー? こんなのまだまだ大丈夫だよー!>

<私達って、パワフルだし、スキルで足場強化が出来るからねー>

と自慢気に言っていた。


<なんと、『足場強化』なんてスキルがあるのか! 流石だな。>

というと、調子に乗ったマダラが、


<主ー、『足場強化』使うと、こんな事も出来るんだよー!>

と膝上まで雪に埋もれていたマダラが走り出すと、徐々に身体が浮いて来て、雪上をパカパカと走りだした。

凄いな、柔らかい新雪の上を歩けるのか! と驚いていたら、更にニヤリと笑う様な顔になったと思ったら、そのまま徐々に浮いて高さ1mぐらいを走っていた。


「え? それ空中じゃん!!」

と思いっきり突っ込んでしまった。


ドヤ顔で説明するマダラの話では、『足場強化』を突き詰めれば、空中を走れるらしい。

凄いな。

つまり、奴の背に乗れば、水の上だろうと、海だろうと、そのまま渡れるって事だよね。


「船要らずか!」

と呟いたが、残念ながら、足場の状態次第では、かなり疲れるらしく、完全に浮くまでにしちゃうと、30分ぐらいまで。そして、高さは2mぐらいまでらしい。


川ぐらいなら、そのまま渡れるが、海はキツいと言っていた。

なんだ、一瞬船無しで他の大陸に行けるのかと、糠喜びしちゃったよ。



さて、そんな中だが、やっとサスペンションの改造が終わり、現在は馬車の室内の改造に取り掛かっている。

前世の世界にあった、キャンピングカーを、この馬車の空間拡張で実現出来ると面白いかな?と思った訳だ。

まあ、マジックテントがあるんだから、馬車でも出来ると思っているが、なかなかに大変だ。

調べて判ったのは、材料というか、魔物の素材が足り無いっぽい。

冬になる前に調べて、討伐に行けば良かったと後悔したが、後の祭りである。

という事で、冬の間の課題にしていた馬車の改造だが、サスペンションの改造までで止まってしまったのだった。


なので、急遽、ソリを作って見る事にした。

マダラ達の『足場強化』を使えば、ソリを使って豪雪地帯でも移動が出来る。

ソリ自体も重量軽減を付与してしまえば、新雪の上でも埋もれる事は無いだろう。


何か、新しい冬の目標を見つけられたので、思わずワクワクしてしまう。



コロは、可愛い幼少時代を終了し、何かシュッとした凜々しいミニ狼っぽい姿に成長した。

中身はまだまだ子供なので、甘えて来るが、サイズは30cmから成長し、全長で70cmぐらいになっている。




そして、3日間掛けて、最初のソリが完成した。


テストの為にマダラに引いて貰ったら、ヤバいぐらいにスピードが出て、顔が凍り付きそうであった。

しかも、マダラの蹴った雪を引っ被るので、寒い。


なので、改良し、今度はガラス製の風防を取り付けてみた。

錬金で、歪みの無い曲面ガラスを作るのは、実に大変だったが、4日間試行錯誤して、やっと完成した。

ソリに取り付けると、かなり前側が重くなり過ぎたので、重量軽減の付与を改良して調節し、やっと試作第2段の完成。


またイソイソとマダラを連れて来て引かせると、今度は雪の直撃も無くて、バッチリではあるが、ガラスが真っ白で全く見えなくなった。

ハハハ……。


更にもう一つ、雪の直撃は無いが、風が風防の上を通って、後頭部に巻き込む事が判明した。

なので、再度改良。


今度は普通に、丈夫な布製の幌を防寒の為に隙間を空けた二重にして付けて見た。

何か、見た目は、既にソリよりという、ソフトトップを付けた軽トラって感じ。

更に、ドアも薄い板とガラス窓で作って見た。

そこで更に欲が出て、そのまま幌を延長して、完全に幌を付けた軽トラっぽい物にしてしまった。

幌の後方も、ハッチを作って、しまったので、どちらかというと、ハイエース? みたいな感じ。

再度、重量バランスを見て、重量軽減の付与を調節した。

室内だが、暖を取る為に、自動温度調節の付与をした魔道具も作成して、装着した。

各窓ガラスには、雪が積もらない様に、ウィンドーシールドを付与してみたので、おそらく視界は保たれるのではないかと思う。


とここまでで、作成開始から、早一ヵ月が過ぎていた。


外は雪本番で、積雪量は、既に1mを超えている。

マダラにソリを引いて貰い、テスト第3弾を開始した。


<じゃあ、マダラ、宜しく頼むよ。>


<ヘイ、合点でーー!>


何処から覚えたか判らない返事をして、マダラが『足場強化』を使いながら豪雪の上を疾走して行く。


おお!!!! 快適だ。 これは良いな!!


マダラに確認すると、<全然平気っす!>

と気安く言っていたので、この冬初めて拠点の内門から外門、そして拠点の外へと出てみた。


「うぉーーー!、辺り一面真っ白だーーー!」

と感嘆の声を上げ、その真っ白な世界に見とれてしまった。


マダラは軽快に周辺を1時間程、走り回ったが、特に疲れた様子も無く、全然平気との事だった。

なので、ちょっと遠出で、平原を越えて街道がどうなっているかを確認しに行ってみた。


やはり、街道も同様に雪に覆われていて、通行人が通った後も無かった。

そりゃそうだよねぇ。


「よし、今日はここまでにして、一旦帰ろうか。」


<はーーい。楽しいからまた遠出しようね!主ー!>

とマダラも楽しかったらしく、お願いされてしまった。


「まあ、俺は良いんだけど、お前、寒くないの?」って聞いたら、

<だってハイ・ホースだもん!>

と言う良く判らない答えが返って来たのだった。

つまり、ハイ・ホースは暑さ寒さに強いって事なのかな?


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 メンテナンスを行い、一部文章の改善等を行っております。基本的な内容には変更ありません。(2020/05/22)


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