第61話 秋冬の風物詩

日々朝夕の寒さが深まる拠点の中に植えた木々も落ち葉を落とす様になって来た。


俺は落ち葉を集め、鍛冶で作った大きめの釜の中に洗った小石をせっせと敷き詰める。

子供らは、俺がやっている事をチロチロと遠巻きに眺めており、気になってしょうが無い様である。


フフフ、お前ら、待ってろよ? 今に良い匂いを嗅がせてやるぞ。


大きめの石で今度は竈を作ってその上に釜を置く、中の小石の上には洗ったサツマイモを置き、蓋をした。

子供らに言って、落ち葉を集めて持って来させると、火魔法で点火する。落ち葉が景気良く燃え始めると、今度は薪を入れて団扇で扇いで薪に火を点けた。


「ケンジ兄ちゃん、何ができりゅの?」

と興味津々の子供達。


「フッフッフ、きっと美味しい物が出来ると思うよ?」


秋から冬と言えば、そう、焼き芋である。

小石からの遠赤で、中までホックリとした焼き芋を作るのだ。


子供らは、火加減を見ながら、薪を両手で抱え、燃え尽きそうになる前に新しい薪を俺に手渡す。

見ると、子供らが薪を抱えて一列に並んでて、思わず笑ってしまった。 どうやら、薪を手渡す順番の様である。


30分程すると、釜の隙間から、甘い香りが漂い始めた。

俺は、一回蓋を開け、サツマイモを180度回転させてまた蓋を閉じた。


竈の傍に、テーブルと椅子を作って、竹で作った籠を出し、頃合いを見て、竹で作った籠に焼き芋を取り出して、一本折って見ると、黄金色の美味しそうな焼き芋が出来上がっていた。

熱々のところをフーフーとしながら、一口味見してみると、滅茶滅茶甘くて美味しい。


「おー!上手く出来たぞ!さあ、みんなで分けて食べてごらん。熱いからこれに包んで食べた方が良いかな?」

といって、竹の皮で半分に折った芋を包んで渡して行く。


「わーーい、ケンジにいちゃん、ありがとー!」

と嬉し気に手にした子達が、美味しい、熱いと言いながら、嬉しそうに食べて居る。

俺は第二陣をセットして焼き始めた。


子供らの歓声を聞き付けた大人達もワイワイとやってきて、第二陣の争奪戦をやっている。

「まだまだ焼けばあるから!」

というが、甘い物に飢えている女性陣の目の色がマジで怖い。


結局、男性陣は第四陣が焼き終わるまで食べる事が出来なかったようだ……。


村人達は、どうやら焼き芋という物を、知らなかったらしい。


「まさか、こんな簡単な調理で、ここまで美味しい物が出来るとは……」

と驚いていた。


フフフ、これ、街でも売れるじゃないか? まあ直ぐに、真似する奴が現れそうだけどな。


大豆と言えば、きな粉が出来るな。

そう言えば、餅米って、食糧倉庫にあるんだっけ?


調べると、あったよ、餅米! 女神様、流石です!!

ちなみに、きな粉も食糧倉庫にあった。


そうなると、労働力は十分あるし、餅つきするしかないよな。

杵と臼、それに蒸籠を作る必要があるのか。


それから、俺は数日掛けて、木の板を切ったり削ったり、竹で簾を作ったりと孤軍奮闘。

臼は、大きな御影石っぽいのを岩を真っ二つにカットして、その中心を土魔法でコツコツ分解して削って行く。

出来る限り滑らかな表面にするようにと心がけてみた。

杵を四本作り、一応完成した。


思った以上に苦労したので、完成が嬉しい。

取りあえず、出来上がった杵を振り回して見ると、俺のスピードに耐えられなかったのか、杵の頭が飛んで行って、工作室が大惨事になってしまった……。

余りにもベタな大失態に愕然としてしまった。

杵に柄を刺した後、抜けないようにストッパーを入れるのを忘れてしまっていたのが原因だった。

まあ、怪我人が出なかったのは幸いだがな。




餅米に水を吸わせ、蒸籠の上に敷いた綿の布の上に餅米を適量敷いて、布で包む。

これを3段重ねにして、一番上に蓋を置いた。

一番下には、水を入れた大釜を置き、薪に火を灯すと、暫くしたら、湯気が蒸籠の中を満たす。


ああ、懐かしい、餅つきなんて、小学校の頃以来じゃないか。

美味しかったなぁ、突きたての餅。




おこわが蒸し上がった頃、

「お、またケンジ様が面白そうな事をやってるべ?」

と野良仕事を終えた村人達が集まって来る。

待ってました! 労働力!!


ああ、子供らは、さっきからズーッと横で火の番してくれてるよ。


「今から、餅つきを始めたいと思います。

多分食べた事は無いと思うけど、お餅ってのを作るから。

手伝ってくれた人には、食べさせてあげるよー!」

というと、全員が期待に目をキラキラさせながら、手を上げている。


「じゃあ、手伝ってくれる人は、全員手と顔を洗ってきて!」

まあ顔はどうでも良いんだが、なんか土とか付いてるからね。



こう言う時の村人達の動きは実に早い。

速攻で洗い終わった人が駆けて来た。


「あー、そこ走らない走らない。土埃が餅に入っちゃうから。」

と注意すると、競歩の様な素早い歩きで戻って来た。

思わずその妙な動きに子供らが腹を抱えて笑っている。


俺は、おこわを石臼に移し、餅の付き方を教えていった。

全員美味しい物が出来るという事で、聞き入る表情が何時になく真剣そのものである。


俺が補助をしながら、一回目の餅が突き上がると、片栗粉をまぶした板に乗せて、綺麗なテーブルに移動し、テーブルの上にも片栗粉を薄く伸ばして、餅を小分けにして、丸めて見せる。


「じゃあ、この丸める作業は女性にお願いしますね。

男性は、餅つきで。 ガンガン作って行きましょう。」


出来上がった餅をきな粉餅にして、試食させると、これまでにない食感と味に、更にヤル気を漲らせる村人達。

餅つきが俺の手を離れたので、俺は、大根おろしの準備を始める。

作った卸し金を使って、大根二本をおろして、醤油を掛けて味を調整する。


結果、おろし餅も好評で、好みによって、村が二派閥に割れた。

主に子供と女性はきな粉餅派、男性はおろし餅派が多い。


そしてそんな二派閥に、俺は、この日の為にせっせと炊いた餡子を包んだ餡子餅という、爆弾を投下した。

餡子餅、大人気でした。


村人達に、きな粉が大豆、餡子が小豆から出来ている事を教えると、実に驚いていた。

豆をこう言う風に使う食文化も発想も無かったらしい。


また、一番驚かれたのは、このお餅の原料となるのが、餅米という、これまで米=家畜の餌という概念を崩した事だ。

「お米って食べ方次第で、滅茶苦茶美味しいのですね。」

とシミジミ語って居たよ。


「そうだね、お米は凄く色々な料理に合うから、是非とも主食の1つに加えて欲しいな。

ここでもお米の栽培をしてくれると嬉しいんだけど、なかなか労働力が足り無いよねぇ。」

と俺が言うと、


「確かに、どれもこれも栽培するとなると、人手不足ですね。」

と悲しそうな顔をしていたのだった。


やっぱり人数は力だな。

美味しい食生活の為にも、これは本格的に人を増やす事を考えないと駄目かも知れないな。

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