第58話 挨拶回り2 (改)

そして、いつの間にか、雷光の宿へと辿り着いた。

店の前の屋台は、相変わらずの長蛇の列で、しかもカツサンドもラインナップされていた。


「おーー! もう発売してるんだな。早いなぁ。」


「お!ケンジ、凄いぞ!カツサンド!! あれは良いな!」

と俺を発見して道まで飛んで来て、色々捲し立てて来る。


「なあ、あのカツを使った料理って他にもあるのか?」

とジェイドさんが聞いて来る。


となると、やっぱカツ丼の出番なんだが、残念ながら、この世界で醤油は見かけた事が無い。

つまり醤油の開発や、鰹節とかのだし汁も必要になるので、多分厳しいだろう。


まあ、俺の食糧倉庫にはどっちも材料が入っているんだけどねぇ。


「まあ、ソースカツ丼ぐらいなら作れるかな。」

と俺が言うと、ガッツリ食い付いて来た。


尤も、この世界では、米は家畜の餌として扱われてて、人は食べようとはしない。

というか、そもそもお米を『炊く』という発想が無い。

これは、以前にガバスさんで確かめたので、間違い無いが、先入観無く、白米ご飯が一般的に受け入れらるかは微妙なのである。

女神様の用意してくれている食糧倉庫のコシヒカリやあきたこまちも美味しいのだが、これがどうして、確かめてみると、こちらの異世界米も絶品なのである。


またいつもの部屋に通され、通常のランチの前にカツサンドやモ○バーガー擬きを食べさせて貰った。

「うん、美味いじゃん。文句無しに美味しいですよ!」

と俺が褒めるとジェイドさんが満面の笑みを浮かべている。


一頻り、ランチまで完食した後、

「さっきの話だけどよ、そのカツの食い方の ソースカツ丼 ってのはどんなのなんだ?」

と食い下がるので、


「じゃあ、カツを揚げて、あとは、キャベツを千切りにして水に晒した奴と、トンカツソースを持って来てくれれば作れるかな。」

というと、

「おう、ちょっと待ってろよ!」

と小走りに消えて行った。


ガバスさんは、

「もしかして、アレと合わせる感じか?」

とか言いながらニヤニヤしている。


キャサリンさんは、ランチまで完食した癖に、口から若干涎を垂らして、ワクワク顔で待って居る。

ああ、これは、あれだ! コロに『待て!』をやった時の顔だ。 折角の美人さんなのに台無しである。まあ、ある意味安心出来るけど。


10分もせずに、揚げたてでジューーっと音のしているカツを人数分持って来た。


俺は、丼を人数分出して、おひつから、炊いて入れてあった白米をシャモジで丼に適量ずつ盛ると、その上にキャベツの千切りと油切りされたカツを2cm幅ぐらいでカットしてセットした。

更に、上から、トンカツソースを掛けて行く。


出来上がったソースカツ丼を手渡すと、

「こ、これは何だ?」

と初めて見る、白い粒々を不思議そうに見るジェイドさん。

キャサリンさんは、流石に鑑定して中身を知ったらしく、「え!?」と驚きの声を上げている。


ガバスさんは、おにぎり以来なので、既にガッついて搔き込んで食べて居る。

「やっぱ、これ美味いわ!

なあ、今度その炊き方ってのを教えてくれよ!」

とガバスさん。


そんなガバスさんの様子を見て、恐る恐るだが、食べ始める2人。


「「ッ!!」」


炊きたてのご飯にトンカツ……これが合わない訳も無く、ガツガツと食べ始める2人。


「まあ、この白米を使えば、色々な料理が作れます。

腹持ちも良いし、良く噛んで食べると、仄かな甘みすら出て来るんですよね。

焼き肉やステーキにも合うし、いやぁ~、なんでみんなお米を食べないのか、不思議ですよ。」

と俺が言うと、ガバスさんは、「だよなぁ~」と言い、残り2人は驚いていた。


「まだまだ奥があるんですが、今日はこの辺りで止めときましょう。フフフ。」




ハゲの店を出た後、キャサリンさんは、俺の料理にも俄然興味が湧いたらしく、

「5日の件、何とか調節してみるから、待っておれ!」

と言い残し、颯爽と小走りに去って行った。


俺はガバスさんに、

「なあ、お米の種籾って手に入るかな?」

と聞いてみたら、

「どれ位欲しい?」

と聞いて来た。ふむ、手に入るのか。


「じゃあ、どう言う単位で売ってるかは知らないけど、そうですねぇ、200kg辺りで切りの良い単位で欲しいですね。

家の拠点でも、水田にチャレンジしてみようと思ってるので。」

というと、


「水田???」

と不思議そうな顔をしていた。

お米自体がメジャーじゃないのは判るが、水田を知らない? 一体ここではどうやってお米を育てているのだろうか? 一度調べてみたいな。

それによっては、差別化出来るし。 フフフフ。


「じゃあ、俺、冒険者ギルドに寄ってから、こっちの別荘に帰りますね。まあ、2,3日ぐらいは泊まる予定です。また帰る前に声掛けますね。

あ、奥さん安定するまで大事にしてあげてくださいね。今日はありがとうございました。」

とお礼を言って、照れるガバスさんと別れた。




ピョン吉達は食欲も満足したらしく、余り動きたくないらしいが、「ギルドに行くぞ!」と声を掛けて移動を開始した。

歩く時の揺れが気持ち良いのか、コロは俺の腕の中で、スヤスヤと寝息をたてている。



冒険者ギルドの中は、昼時という事で、ほぼガラガラ。

俺を発見した受付嬢が、

「あ、ケンジさん」と言って、手を振っている。


「お久しぶりです。」

と挨拶をすると、


「ホントですよ。ケンジさんぐらいですよ。こんなペースで顔を出すのは。」

と笑っていた。


「ハハハ、まあそこは余り気にしないでくれると助かります。

何か、特に困った依頼とかは無いですよね?

多分、冬になると、雪解けまで顔を出せないと思うから。」

というと、


「ああ、そうそう、聞きましたか? あのダーク・ウルフを討伐して貰った、北の森の向こう側にあったラスティン子爵領――

今は王家の直轄となってますけど、村が1つ消えたんですよ。

知らぬ間に。それも、跡形も無くですよ!! 怪奇現象とか神隠しとかって、みんな大騒ぎなんですよーー! 怖いですねぇ~。」

と興奮しながら、教えてくれた。


「ああ、それ、ガバスさんからさっき聞きましたよ。 まったくもって、不思議な事があるもんですねぇ~。」

とニコニコしながら受け流した。

しかし、今回のドワース行きで、最高の土産が出来たなぁ。 フフフ。


「あ、すみません、依頼の確認でしたね……うーん、討伐依頼というより、素材の依頼は幾つかケンジさんに聞いてみたいのがありますね。

えっと、素材で依頼が掛かってるのは、オーガやオーガの亜種の皮の素材採取の依頼があって、後は……フォレスト・スパイダーでこれは糸袋ですね、後は……トレントですか。

もしかして、ありますか?」

と聞いて来たので、巾着袋の中を確かめると、ハハハ、あるね。


「ああ!良かった。助かります! いやぁ~、結構塩漬けになってたんですよね。」

と喜ぶ受付嬢。


なので、それらを納品して、依頼の事後完了となった。

更に、買取のロジャーさんに、倉庫でまたストップを掛けられるまで出して行き、丸投げして冒険者ギルドを後にしたのだった。




後は、街をブラつきながら、久々の神殿と孤児院に寄るぐらいである。


神殿で、お祈りをしたが、やはり何もイベントは起こらず、そのまま孤児院に顔を出したら、嬉しい事に、子供らがワラワラと寄って来て、笑顔で出迎えてくれた。

「「肉のにーちゃんだーー!」」

「「「あああ!ケンジ兄ちゃん!!」」」


「おう、久しぶりだな。みんな元気そうだな。

おおお、結構背が伸びたなぁ?」

と声を掛ける。



子供の成長は早いものだ。ちょっと見ない内にドンドン大きく成る。

みんな、顔色も良く、健康そのものである。


「今日はみんなに、良いおやつを持って来たんだぞ!」

というと、


「「「「「わーーい、おやつ、おやつ!」」」」

と喜んで騒いでいる。


シスター達も俺に気付き、挨拶して来た。

「お久しぶり過ぎですよ、ケンジさん。ナスターシャの首が伸びてますよ?」

とからかって来る。




孤児院の食堂にて、全員に作っておいた、プリンを1つずつ配る。


「にーちゃん、こりぇ、なにーー?」

と小さい子が興味津々で、指で突いたりしている。


「これはプリンと言ってね、とっても甘くて柔らかい、美味しいおやつなんだよ。」

と俺が言うと、


「甘いのすきー!」「初めて見る!」「ポヨポヨしてるぞ!」

と騒ぎながら、一口食べて、また騒ぐ年少組の子供達。


「ケンジ兄ちゃんが作ったのか? プリンって美味しいな!」

「私、大きくなったら、ケンジ兄ちゃんのお嫁さんになるーー!」

「あ、じゃあ私もーー!」

と7歳~10歳組も目をキラキラさせていた。


ハハハ。ありがたいけど、結婚はもう、かなり懲りてるんで……ごめんなーー。

というか、俺には元々女運って多分無いんじゃないかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る