第57話 挨拶回り (改)

早朝、拠点を出発し、久々の出番で張り切っている馬達のお陰で、サクサクと進んでいる。

例の平原には、午前10時過ぎに到着し、小休憩をいれた。

馬達に、泉の水や例の桃やリンゴを与え、俺達も同じメニューで休憩する。


「しかし、何時飲んでも美味い水です。」

と嬉しそうに飲む村人達。

今度、この水袋と似た様なのを作って見ようかな。



平原から街道へと合流し、何か異常なスピードで馬車が進んで行く。

本来であれば、10~12時間ぐらいは掛かる距離なのだが、何故か午後4時半には西門に到着したのだった。


「なんか、以前より、近く感じるのは気のせいですかね?」

と同行した女性も不思議がっていた。 全く同感だ。


門番の衛兵が、俺を発見すると、


「おお! 久々じゃないか!!」

と微笑みながら通してくれた。

俺もちょっと照れながら、片手を上げて挨拶する。


ここで、村人達と一旦別れ、俺は徒歩で彼方此方に廻る事にした。

今日のお供は、ピョン吉とジジとコロの3匹。

いつもの流れでガバスさんの店に寄ると、相変わらずの繁盛っぷり。


裏に回って裏口をノックすると、店員が出て、そのままガバスさんの書斎へと通された。

ふむ、少しは余裕が出たのかな。


「おう、ケンジ! 久しぶりじゃないか。もっと小まめに街に出て来いよな!」

と相変わらずのガバスさん。


「調子はどうですか?」

と聞くと、


「ガハハ! お陰様で西側には足を向けて寝られねぇよ。」

と絶好調の様子。


「ところで、これから冬になると、寒さと雪で余り外に出られなくなりますよね?」

と前置きして、俺が試作した定番のボードゲームを出してみた。


「で、そんな家に籠もりがちな季節にピッタリの娯楽品です。

リバーシと言います。ルールは簡単で――――」

と説明すると、目の色を変えて聞き入っている。


そして、軽く2ゲーム程実際にやってみせると、


「け、ケンジ、これは凄いぞ! わぁ~、また忙しくなるーー!」

と絶叫するガバスさん。


「そう言えば、今日は奥さん居ないのですね?」

と聞くと、


「ああ、嫁な、今5ヵ月でな。自宅でユッタリしているんだよ。」

と。



「おお! それはおめでとうございます! で良いんですよね?」

と俺が聞くと、「当たり前だ!」と笑っていた。(若干顔が引き攣っていたが)


「まあ、あれだけ『あんな物』を売って廻ったから、ちょっとドキッとしてしまいます。

ガバスさんの所は大丈夫だと思ってますけどね。でも、店に商品があるからと言って、絶対に子供を検査するのは止めた方が良いと思いますよ?

余程の事が無い限り、『俺はお前を信じてるから』という感じで、奥さんに不信感を抱かせてはダメですよ。」

と忠告した。


「え? 何でだ?」

とキョトンとするガバスさん。


「ああ、あれってね。逆の立場で考えると判りますが、『俺はお前を疑ってる!』と言って居る様な物でしょ。

折角仲良く、信頼関係が築かれていても、それ1つで今までの信頼関係全部を否定してるのと同じに感じてしまうからですよ。

だから、絶対に余程の事が無い限り、やっちゃダメですよ? 特に奥さんの前で。」

というと真面目な顔になり、


「なるほど! そう言やぁそうなるな。」

と納得していた。


「じゃあ、奥さんにお土産を。 つわりが始まると、特定の物しか食べられなかったり、色々大変ですからねぇ。」

と言って、桃やリンゴや葡萄などの例のフルーツ盛り合わせを籠に入れて渡すと、喜んでくれた。


「まあ、ポーションとか何か必要があるかも知れないから、何本か渡しておきましょうね。」

と俺特製の特級シリーズを各2本出して渡した。


「え? 良いのかよ、こんな高価な物を。」

と驚いていたが、問題無いと納めてもらった。


「ところで、何かラスティン子爵領の事で面白い話は流れて来てませんか?」

と俺が含みのある笑いを漏らすと、


「げ! もしかして、お前か? あの騒動の発端は?」

と凄い顔をして聞いて来た。


話を聞くと、税の収集係がとある村にやって来たら、村自体がポッカリ神隠しの様に消えていたらしい。

慌てて、ラスティン子爵に報告すると、大騒ぎになったと。

そして、それがあれよあれよという間に、何故か王宮まで伝わってしまい、これまでの悪行が暴露されて、お家お取り潰しとなったらしい。


「ハッハッハ!!!!!」

と俺は心の底から笑ってしまった。これは爽快である。

そうか、お取り潰しかぁ! 実に愉快だな。

という事は、この国の王様は捨てたもんじゃ無いって事で良いのかな?

まあ、でもそうなら、もっと早く動けよ!って事なんだけどねぇ。

やっぱり、組織が大きく成りすぎると、なかなか末端まで目が行き届かなかったりするんだろうなぁ。



「その笑い……やっぱ、お前が一枚噛んでるのか。 こわっ!

でもな、その一件以来、各領地に、王宮からの査察が入る事になってな、これまで悪い事やってた領主は青い顔をしてるってよ。

ガハハ! ざまぁだな。」

と笑っていた。


「まあ、女神様はちゃんと見ておられるという事でしょうね。きっと。」

と締め括った。




俺とガバスさんは、早速リバーシの契約もあって、一緒に商業ギルドへ行く事となった。


久々にキャサリンさんに面会すると、


「おー! ケンジ、やっと冬の前寸前に来たか。 もっと頻繁に顔をみせんかい。

いやぁ~、このところお前さんが一枚噛んでいる件で、うちのギルドも王国一の収益率でウハウハじゃぞ?」

と笑顔で出迎えてくれた。


先に、ポーションを納め、ガバスさんとの契約に調印を完了した。


「わぁ……これはまたまた売れそうな物を。 お前の発想力は本当に凄いのぉ。

惚れてしまいそうじゃぞ? ガハハハ!」

とバカ笑いしている。 もう、お茶目なお婆ちゃん。


「そうそう、ジェイドの所も、また新しい事を始めよって、そっちも凄い事になっておるぞ?」

と言っていた。 そうか、完成したのか。


<主、ハゲ飯行くのか?>

<ハゲ飯食べるにゃん!>

<あにきー、ハゲ飯って何?>

と従魔達が頭の中でハゲハゲ五月蠅くなってきた。


じゃあ、これから、ジェイドさんの店に寄るかな。

というと、キャサリンさんも着いて来ると言う。


「今や、なかなかあの店で食べようと思っても食べられんのじゃよ? 予約で一杯じゃからのぉ。

だから、ケンジと一緒なら、食べられそうじゃし、これを逃すと来年になってしまいそうじゃからな。」

と食い気全開であった。


なるほど、そこまで凄い事になっているとは……な。


それで、止める1階の受付嬢を強引に振り切ったキャサリンさんが、嬉しそうに微笑みながら、道を歩いて行く。

「そうじゃ、ケンジ、あの約束はどうなっておるのじゃ? はよ、錬金室のくりーんるーむとやらを見せてくれんかの?」

とキャサリンさん。


「あー、そう言えば前にそんな事を言ってましたね。うーん、まあ良いと言えば良いんですがねぇ。

あまり場所とか知られたくないんですよね。」

と正直なところを告白すると、

「じゃあ、目隠しでもして行くか?」

と大真面目に言っていた。

そこまでして見たいのか。


「まあ、良いですけど、往復とかで4~5日掛かると思って頂かないとダメですが、大丈夫なんですか?」

と聞くと、


「そうか、5日はキツいのぉ。」

と苦い顔をして考えていた。


まあ5日も休めないだろうから、多分この話は有耶無耶になって流れるよな? 


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 メンテナンスを行い、一部文章の改善等を行っております。基本的な内容には変更ありません。(2020/05/22)


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