第56話 拠点でのリスタート (改)

翌朝、朝日が昇る前に起床し、直ぐに朝食を取り、馬車の準備を始めた。

俺は、力が出る様にと願いを込めて、馬たち12頭に飼料の他に、泉の水と果物を与えて周り、


「今日はまた宜しく頼むな!」

と1頭1頭、首や身体を撫でながら声を掛けた。


そして、準備の整った村人達が集合して、昨日同様に馬車に分乗し、別荘を後にしたのだった。


ドワースの西門を出る際に、ちょっと気になって村人達の顔をチラ見したのだが、不安に感じている様子は見受けられず、寧ろどちらかというと、希望に胸を膨らませている様で安心した。

成り行きとは言え、これだけの人数の生活が掛かっている。

出来る限り、夢が見られる様な生活を提供しなきゃだな。


朝日を背に受け、順調に街道を西に向かって進んで行く6台の馬車。


街道を走っている間は問題無いのだが、この先から街道を逸れた後の、平原までのコースと平原を横切った後の草原以降は、かなり問題がある。

平原とは言うものの、完全に真っ平らな訳でもなく、馬車だとかなり揺れたり、車輪を取られたりする。

平原の後は、特に腰の高さから、目線の高さぐらいの、背の高い草が厄介なのだ。

なので、街道で距離を稼いで、街道から逸れた後は、かなりローペースで安全に進む必要がある。



2時間程、街道を進んで、一度休憩を挟んだ。

村人達に取っては、馴れない長距離の移動となるが、特に馬車に酔ったり、調子を崩している者は居ない様子。

馬に泉の水や果物を与え30分の休憩を終えた。



街道から逸れた後、意外に揺れも少なかったので、そのまま平原まで一気に走り抜け、平原の真ん中で、遅めの昼休みを取ったのだった。

不思議な事に俺の知るガバスさんの馬車の速度よりも速い様で、これまでにかなり距離と時間を稼いでいる。

下手すると、大体1泊コースなんだけど、きっと、この馬のお陰なんだろうなぁ。


村人達と馬に食事を取って貰っている間に、俺は土魔法で、幅5mの真っ平らな道を草原の中に作って行く。

一見では分からない様な偽装を施し、草原の中で道をS字にカーブさせておいた。


そして、草原を抜けると、更に難所である森の部分だが、上手く木を伐採したりしつつ、なだらかな道を作って行く。

敢えて、最短コースには拘らず、出来るだけ森を迂回し、高低差の少ないコース取りを心がけた。


そして、2時間が過ぎた頃、やっと、拠点の城壁が見えて来たので、飛行魔法で一気に平原に戻った。


「すまない、お待たせ。

さあ、馬車に乗ってこっちに来てくれるかな?

今、馬車で通れる道を作ったから、ここから道なりに走って来てね。

護衛に従魔を乗せてるから、多分、魔物は出て来ないよ。

俺は一足先に行って道を完成させて置くから。」

というと、『魔物』の下りでビビったのか、ビクビクしながら御者が馬に指示を出した。


先行した俺は、道を最後まで完成させた。

目の前には久々の拠点の城門が見える。


「さて、村人達が辿り着く前に、期待に応えるべく、チャッチャと拠点の拡張と住み処のセットを急ごうかね。」


拠点の畑スペースを作る為に、城壁(小x1)を同心円状ではなく、中心をオフセットする形でセットしてみた。

半径500mの外側の城壁の終わって中に入って実際の広さを確認する。


うん、これくらいあれば、十分な畑のスペースが確保出来るだろう。



新しい外塀と内塀の間の雑草等は、土魔法で一気に排除し、目立った岩や石も排除した。

刈った草集めは、明日にでも村の人達にやって貰うとしよう。


あとは、内塀の中に、30世帯分の家を用意すれば終わりかな。


全員の家を一般住宅(中)にしてメイン通りに並べて行く。


やはり、これだけは俺の安寧の為に譲れない。

更に俺の屋敷の周りには、別荘と同じ様な塀と門を作って、パーソナルスペースを主張しておいた。


何とか事前の作業を終え、ゆっくりコーヒーを飲みながら、村人達の到着を待つ事にしたのだった。




夕方近く、無事外門に辿り着いた馬車が外門を潜り、中へと入って来た。

とても個人が開拓して建設したとは思えない情景に、村人達が息を飲む。


「いらっしゃい。ここが俺の拠点です。ここら辺は後日畑でも作って貰う予定の場所ね。

住居はあの内門を潜った中にしているから。」



門を開けて中へと案内し、新しいみんなの家をお披露目すると、もう大絶叫だった。



「本当にこんな家を使わせて頂いて良いのでしょうか?」

と泣きながら縋って来る村長や村人達。


「ああ。 な? これならここでも快適に暮らせそうだろ?」

と俺が聞くと、全員が大きく頷いていたのだった。



 ◇◇◇◇



早い物で、拠点に戻ってから、早くも5日が過ぎた。


1日ぐらいは休むかと思っていたのだが、村人達のリスタートは早く、翌日から精力的に農地を整地し始めている。


村人達が、俺の刈った草を除去した後、村人達に混じって、土魔法でフンワリと耕し、小石等を完全に除去し、畑の土作りを手伝った。


「ほぇ~、ケンジ様は、本当に凄か魔法を使うねぇ~。」

と村人達が頻りと感心していて、少しむず痒い。


畝作りや畦作りに専念して貰う事で、既に一部の畑は、先行して種まき等を終えている。


村人達の畑に、俺が仕上げの意味で、『大地の息吹』スキルを発動して掛けてやると、その途端に種から芽が出て、スクスクと育ち始めると、やはり驚いていた。

村人達の畑にも、家庭菜園と同じにスプリンクラーも設置してやると、かなりの重労働が無くなると大喜びしていた。

やっぱり、楽を出来る方法があるのであれば、楽をするに越した事はない。



あと、ガバスさんから依頼されている親子鑑定魔道具だが、合間で大量に生産して、取りあえず仕上げた100個は、早速食糧倉庫経由で、ガバスさんの所へと納品して貰った。

一応大丈夫だとは思っていたが、ちゃんと受けられたというメモが来るまでは、ちょっとドキドキした。


これさ、上手くしたら、人の行き来に使えないかなぁ?


流石にビビりの俺には、入って戸を閉める勇気は無いのだが、それって出来るのかな?


ああ、元の世界にあった何処でも繋がる様なドアとか、最低でも携帯電話が欲しい。

この際、ガラケーでも良いんだがな。

魔道具の通信機かぁ―― 作れないかなぁ?



納品に出してから、3日も経たずに、手紙が入っていた。

見ると、ガバスさんからで、更に追加オーダーだった。

マジか! そんなに世の中には不幸な夫婦関係が存在するのか?


なので、「了解」と書いたメモを帰しておいた。


まあ、ここまで同じ物を量産すると、馴れるもので、最初の頃の苦労は何だったのだろうか?と思う程、短時間で作れる様になって来た。

100個を3日間で仕上げ、更にマジックバッグ3つの作成を開始した。

まあ、これは、待ちの時間が長いから、暫くは掛かるだろう。



前に作った様な大型ではなく、リュックサックタイプとして、かなりコンパクトに作ってみる予定だ。

1つは、ジョンさんの納品用にして貰おう。


待ち時間の間に、特級ポーションや特級魔力ポーション、特級スタミナポーションを各100本作り、その内の各50本を商業ギルドのキャサリンさんに納品する様にとメモを添えた。

一応念のため、キャサリンさん宛ての手紙を同封しているので、大丈夫だろう。



こちらに戻って10日が過ぎる頃、ジェイドさんから、約束の物はまだか?というメモが入っていた。

えーーと、何だっけ?


ああ、思い出した! トンカツとトンカツソースの作り方か。


なので、食品倉庫からトンカツソースを取り出して、材料と作り方のレシピを記載した物と、トンカツの作り方、ミートソースのルーの作り方をメモして、サンプルのカツサンドを大量に作った。

ミートソースのルーも一緒にサンプルを作り、ジェイドさんの所へと持って行って貰った。


ちなみに、カツサンドは村人にも配って試食して貰ったんだけど、作った本人が驚く程に大好評で、会う人会う人、全員カツサンド、カツサンドと五月蠅い。

面倒になったので、アニーさんとお母さんに作り方を教えてやったら、村でトンカツブームが到来した。

いやぁ~幾ら美味しくても、毎日だと飽きるよね?


拠点で割り振られた仕事が殆ど無い事で、恐縮しまくったアニーさんからの要望で、最近は、家庭菜園の世話の傍ら、ご飯を作って貰っている。

ステファン君には、家庭菜園の世話と、馬の世話をお願いしている。


アニーさんのご飯は非常に美味しく、新しい料理を教えると、熱心にメモを取り、直ぐに覚えて、再現してくれている。

懸念した俺のパーソナル・スペースは、ちゃんと確保されていて、凄く快適である。

特に村人を連れて来た事によるデメリットは今の所無い。


完成したマジックバッグは既にジョンさんが納品等に愛用してくれている。

定期的に、孤児院へも取れた野菜や、肉類を運んで貰っている。


そして、行く度に、「肉のにーちゃんまだ来ない?」とか聞かれるらしい。



そうしている内に秋になり、森の木が所々赤く染まっている。

朝夕は肌寒く感じる程だ。


居心地が良すぎて、拠点の周辺しか出回っていないが、そろそろドワースの街にも顔を出さないとダメだな。

それに村のみんなの秋冬物の衣類の買い出しもあるからな。


決心した翌日に出発という事で、村のみんなのサイズ等を聞いてメモに纏めてもらった。

衣服だけで無く、必要な物があれば、それもリストアップして貰う。

まあ、買い出しと言っても、俺には服の購入とかは無理なので、女性陣と男性陣を各3人同行して貰う事にしている。

所謂、金だけ出して、丸投げである。


そうそう、村の中のお金の話だが、村人達が何故か自発的に作物を持って来てくれるので、それを俺が、買い取る感じにしている。

そうする事で、村の中ではまず使う事は無いのだが、お金を各自貯める事が出来る。

この先何かあった際や、欲しい物が出来た際に、有効活用出来る訳だ。


とは言え、特に冬物の衣類は高いので、俺が全部出す事にしている。


さあ、久々のドワースの街に出発しよう。

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 メンテナンスを行い、一部文章の改善等を行っております。基本的な内容には変更ありません。(2020/05/22)


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