第55話 ドワースでつかの間の休息 (改)
村を出発して、1日経過した。
流石に体調は復活したものの、比較的若い村人でさえ、スタミナは復活していない。
最低でも1時間に1回は20~30分の休憩と、水分や塩分の補給を行ったりしているので、思った以上に距離が伸びなかった。
今朝も朝食を取って、日差しが熱くなる前に距離を稼ごうと、早々に出発した。
もう少しでラスティン子爵領を抜け、ドワース領に入る頃、前方から馬車の一団がやって来て、先頭車両の御者席からジョンさんが手を振っていた。
護衛で残したジジとAシリーズも、馬車からチョコンと顔を出している。
「おお! みんな、馬車が来たぞー!」
「「「「「「「「「「おおぉ!!」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「やったー!!」」」」」」」」」」
と村人から歓声が上がったのだった。
ジョンさんと、助っ人で来てくれた御者にお礼を言い、心付けの寸志を大銀貨1枚ずつ渡すと、大喜びしていた。
「まあ、一旦ここで休憩入れたい所だけど、一刻も早くドワース領へ入るべきだと思うから、もう一頑張り頼むね。」
というと、ジョンさんも助っ人の御者も親指を立てていた。
早速各馬車に7名ずつ分乗し、従魔も2匹ずつ分乗した。
あ、コロは俺の腕の中で、キャン♪と可愛い声を上げて桃に齧り付いているよ。
「いやぁ~、やっぱ馬車は速いわ。 もうドワース領で、完全に北の森も見えなくなったね。」
「上手くすれば、日暮れ前にドワースの街に着くと思います。 遅ければ明日ですが。」
とジョンさん。
「うん、何とか今日中に辿り着きたいね。
で、別荘で1泊して、翌朝トンボ返りだな。 ジョンさんも色々迷惑掛けるけど、宜しくね。」
「はい。勿論です。
一応、妻には、早ければ今夜辿り着く旨を伝えてます。 50人以上になるからと、料理を作らせてますから。」
とナイスな笑顔のジョンさん。
「おお! 流石は、頼りになるね。
良いなぁ、何とか今夜辿りついて、温かいご飯と風呂に入りたいね。」
というと、
「ですね。やっぱり、お風呂は癖になりますよ。」
と微笑んでいた。
昼飯時、ジョンさんに村を出る際の悪戯を話すと、大爆笑していた。
「ハッハッハ! それは愉快ですね。 いや、逆にその時期になったら、隠れて見ていたいですよ。」
と余程嬉しいのかツボに嵌まったのか、目尻に涙をにじませつつ腹を抱えている。
「だよな。俺も見てみたい。出来れば、その報告を受けたラスティン子爵と正妻の顔もな。」
というと、更に笑い転げていた。
やっぱり、口にはしないけど、ジョンさん自身、色々と腹に抱えていた物があったんだろうなぁ……。
そんな俺らの様子を不思議そうに見て居た村人達だが、ご飯もちゃんと食べて幸せそうな顔をしていた。
馬車は順調に進み、特に盗賊や魔物も出ず、街道を進む。
夕暮れ時が近付いているが、ドワースの街は、もう目と鼻の先だ。
そして、夕闇に包まれる頃、ドワースの中へと入ったのだった。
馬も御者も頑張ってくれたお陰で、かなりハイペースで辿り着く事が出来た。
別荘の門を開けて馬車は中へと入って行くと、
「「「「「「「「「でっけーー!」」」」」」」」」
「「「「「「「「お屋敷だーー!」」」」」」」」
と村人が騒いでいた。
まあ、ここに全員入れるのは拙いので、敷地空いたスペースに集合型の宿舎を出した。
「「「「「「「「「「うおぉ!!」」」」」」」」」」
と響めく村人達、出てきたヤリスさんとユマちゃんがジョンさんに飛びついていた。
正直、ちょっと羨ましかった。
俺が前世で望んだ家族の姿を見た気がしたからね。
そして、予告通り、申し訳無いが、屋敷の中には村人を入れなかった。
まあ宿舎にも食堂はあるし、風呂もある。(初めて出したので知らなかったけど)
だから、屋敷に入れなくとも、喜んでくれていた。
冒険者ギルドに依頼の完了を伝え、ダーク・ウルフの群の半分を売却し、コロの従魔登録を済ませた。
登録時に種族名を書く欄があったので、初めて鑑定すると、
あーら、ビックリ。 シルバー・フェンリルの幼体だそうで。
真っ白な毛だが、そのうちシルバーになって行くのかも知れない。
「しかし、ケンジさん、本当に沢山凄い従魔を見つけて来ますねぇ。」
と受付嬢のお姉さんが半ば呆れていたのだった。
ハハハ、こう言うのもきっと縁なんだろうな。
俺の周りには、男や子供や従魔の良い縁が転がっているよな。
そんな最初の縁で知り合ったガバスさんの店により、明日拠点へ出発するので、帰り着いたら、作成して、使いの者を経由して納品する事を告げると、
「え? なんだよーー、ケンジが持って来てくれないの? 寂しいじゃん!」
と言っていた。
「フフフ、嬉しい事を言ってくれるじゃないですか。じゃあ、俺が持って来る様にしますか。そうなると数ヶ月待って貰う事になると思うけど。 良いですかね?」
とニコニコしながら返すと、
「え? あ、いや、使いの方で良いので、早めにお願いします。」
と焦っていた。 どうやら相当に切羽詰まっているらしい。
店から出る際、
「でもよ、あまり引き篭もらず、ちゃんと出て来て、たまには顔を見せろよな?」
と最後に言ってくれたのだった。
最後の夜という事で、寝てしまったユマちゃん以外のメンバー4名を集め、再度、重要な役割を教えた。
キッチンにある食料倉庫だが、各建物やテントの倉庫と繋がって居る事、そして、それを利用した連絡や指示、品物の受け渡しをする事を教えた。
必ず、休みの日以外は、毎日朝夕に1回ずつ、確認して欲しいと伝えると、「「「「はい!」」」」と了承してくれた。
また、ここの別荘の管理に伴う必要経費や、倉庫に無い必要食材は、全て経費扱いとするので、自分のお金を使わないで良い事を厳命した。
服にかんしても、秋物や冬物、下着の替え等も同じ。
そして最悪、もし誰かに踏み入れられたとしても、出来る限り食料倉庫は見せない様にして欲しいが、命と引き換えにする必要は無いとも再度厳命しておいた。
「何か質問事項あれば、遠慮無く聞いて下さい。」
というと、
「あのぉ~、もの凄く不思議なのですが、この屋敷って、全く汚れが無いのですよ。」
と不思議そうに首を傾げるヤリスさん。
「ああ、そうだったね、言うのを忘れていたけど、この屋敷って、自動で掃除されるから、汚れ着かないんだよね。
あと劣化とかも無いらしいから。 ハハハ、スッカリ忘れてたよ。」
というと、
「え? じゃあ、私の仕事は?」
と困惑している。
「いや、ほら、食事作ったりとか、まあユマちゃんの面倒見たりとか、勉強教えたりとか、色々ヤル事あるでしょ?」
というと、
「え? そんなので、お給料頂くのは変ではないですか?」と。
「じゃあ、こう考えて下さい。
私の持ち物である、ジョンさんやユマちゃんの面倒も見るのがヤリスさんの主な仕事。
ちゃんと、ユマちゃんに、文字や計算も教えて上げて下さいね。 知識は力にもなりますから。」
というと、嬉し泣きしていた。
「本当にそんなに良くして頂いて、良いのでしょうか?」
とジョンさん。
「フフフ、まあこれは私自身の自己満足でもあるので。」
というと、
「判りました。そう言う事にしておきます。」
と頭を下げていたのだった。
--------------------------------------------------------------------------------------------
メンテナンスを行い、一部文章の改善等を行っております。基本的な内容には変更ありません。(2020/05/22)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます