第53話 待ち伏せ (改)

翌朝、朝食の後、ジョンさんに馬車と馬を購入して貰っている間に、屋敷から少し離れた場所に馬小屋と倉庫を設置しておいた。


朝食の間に色々とラスティン子爵領についての話を聞いて驚いたのだが、彼の地では圧政で、食い詰めた者の多くが盗賊に身を墜としているらしく、排除しても排除しても増える一方なんだとか。

当初は、ジョンさんを護衛代わりに付けて、アニーさんとステファン君の3名で、迎えに行って貰おうかと考えて居たのだが、完全に当てが外れた。

迎えに行くにしても、道中がかなりヤバい状況なので、ジョンさん曰く、自分では守り切れないだろうと言っていた。

魔法も多少は使えそうだが、確かに、戦力に関しては、隠密や忍びの方向に特化しており、多数を相手に正攻法で、守るのは難しいだろうな。


仮に、何人かの冒険者を雇ったとしても、多勢に無勢で来られると、結果は同じか。


となると、俺も一緒に着いて行くしかないか。

最適な順番としては、ダーク・ウルフを討伐してから迎えに行く事なのだが、どうしたものか……。


地図でルートを確認してみたが、早いルートは北へ向かう街道沿いから左に逸れると森、右に行くと村、真っ直ぐ行くとラスティン子爵領の領都である。

まあ、先に迎えに行く方が気分が楽か。




ジョンさんが、なかなかの馬2頭引きの馬車を調達して来てくれた。

着替えや食料等を巾着袋に詰め込み、ヤリスさんとユマちゃんの見送りを受けつつ出発した。



4人と従魔を乗せた馬車は、北門から街道を北上する。

一日目の日暮れ寸前まで進み、街道脇で、テントで一泊する。

夜中の番は従魔達がやってくれた。


そして2日目の昼頃には、北の森の手前まで辿り着いた。

もうすぐラスティン子爵領に切り替わる。


少年少女2人はアニーさんの家族に会える事に目を輝かせていたが、反対に御者を務めるジョンさんの顔は引き締まっていた。

そろそろ盗賊が出回るエリアに入るからである。




来るか来るか?と少し緊張していたが、更に2時間何事も起こらず、無事に村への分岐点に到達した。


「ふぅ~、来なかったな。 ところで、村の方は大丈夫なのか?」

とジョンさんに聞くと、不思議と村、特に農村は襲撃を受けないそうだ。


「なるほど、おそらく食い詰めた農村出の盗賊なんだろうな。」



街道から村へ向かう道に入ると、途端に道がデコボコだらけで、ペースが上がらない。

馬車をヤルのであれば、こう言うスピードの上がらない場所を狙うんだろうな。


と思っていると、

「出たーーー! 前方300mの道沿い両側に各6人ずつ、潜んでいるぞ。」

と俺が小さく叫ぶ。


「ど、どう致しますか?」

とジョンさん。 少年少女2人も少し顔が青い。


「まあ、どうするもこうするも、通るしかないのだが、話を聞くと、ちょっと同情もしちゃうよね。

とにかく、出来るだけ殺したくは無いから、従魔を馬車の周りに配置して、更にシールドを展開するか。

それに気になる事もあるし……」

と俺が言うと、従魔を配置するのは判った様だが、シールドが理解出来ていない様だった。


「ああ、シールドって言ってるのは、えっと、まあ結界みたいな感じ? 攻撃を跳ね返す様な。」

と説明すると、「「「おおーー!」」」と3名が感心していた。


「あと気になる事というのは?」

とジョンさんが聞く。


「うん、なんかね、その両脇の12人なんだけど、滅茶苦茶弱いんだよ。

もしかしたら、子供なんじゃないかな?」

と俺が言うと、ちょっと表情が陰っていた。



俺は、ピョン吉達に馬車の周囲を囲んで貰い、更にそれを囲む様にシールドを展開し、先へと進ませる。



そして潜んでいる辺りに差し掛かると、悲しい事にガリガリに痩せた子達が飛び出して来た。

「やい、い、命が惜しかったら、食べ物を分けてくれ!」

と木の棒を手にしている。

これは予想以上に酷い………。


「ああ、そんな棒を持たなくても、食べ物ぐらいは、分けてやれるぞ?」

と俺が答えていると、馬車の荷台に居たアニーさんが、


「あ!ランドじゃない!!」

と叫んで飛び降りて来た。

後に続く様に、ステファン君も続く。


「え? 姉ちゃん? あ!! 兄貴も?」

と周りを取り囲んでいた、幼い子が呟いている。


「ああ、弟君か。 そうか、村は相当酷い有様の様だな。」


俺は、シールドを解除して、従魔達の警戒も解除した。


馬車を端に寄せて、テントを出して、ジョンさん達3名に指示して、スープとパンを全員に配って廻らせた。


「取りあえず、それを食って、村に戻ったら、食料出すから。」

というと、涙を零しながら、食べていた。


そんな子供らを見て居ると、メラメラと怒りの炎が心に渦巻く。


「貴族の世襲制って、本当に癌だな。」

と俺が吐き捨てる様に言うと、ジョンさんが驚いていた。



 ◇◇◇◇



アニーさんとステファン君が村を出て1ヵ月が過ぎていたが、その1ヵ月で村の荒廃振りは加速し、かなり危険な状態となっていた。

村に辿り着いた所で、その惨状を見た2人は、跪いて、咽び泣いていた。


直ぐに、手分けして、全員を集めさせて、エリア・ヒールで癒やし、炊き出しを行った。

大人は総勢28名。 既に家畜も居なくなり、食べ物は底を付き、あるのは井戸水と、身近に迫った死ぐらいだったようだ。


「危なかったな。あと数日遅れていたら、拙い所だった。」

と討伐依頼を後回しにした自分の判断を褒めたのだった。


しかし、拙いな……この雰囲気。

とてもじゃないが、アニーさんの家族だけ助けるって雰囲気ではない。

涙ながらにスープを啜り、パンを食べる子供12+幼児4名+大人28名を見て、腕を組みながら考える健二。


アニーさんは、久々の母親や妹のローラちゃんに抱きついて号泣しているし。


「とにかく、栄養付けさせて、体力を戻さないと、話は始まらないな。」

と呟くのであった。


パンとスープを食べ終わった所で、栄養が付くようにと、あの桃を1人1個渡してやった。


これで落ち着けば、夕食には少し肉の入った物も食べさせて大丈夫かな……。




あまり気にしてなかったのだが、あの桃、凄いね。

1個食べると、一気に全員の顔色が赤みを差して、目に光が復活した感じになった。

あまり極限状態で人が食べるのを見てないから、判らなかったけど、凄い効果だ。


そして、色々と決心した俺は、全員を前に話し掛けた。

「えーっと、皆さん、少しは落ち着いた様なので、今後について話をしたいと思います。

今回俺は、ここに居る、アニーさんの家族を連れて行く為にやって来ました。」

と俺が言うと、凄く悲しそうな顔をしてザワザワと周り近所の者と話をしている。


「しかし、ここまで酷い状況の皆さんを残して行くのも、人として気が引けます。

これからアニーさんのご家族を連れて行く場所についてを説明します――――」


まず彼らには、王国外の魔境に近い場所で、安全に暮らせる事。肥沃な土地で、農作物がスクスク育つ事、拠点の周りには、ドワースの街の城壁よりも頑丈な塀で囲まれ、魔物は入ってこない事等を説明した。

そして、税は掛からない事も説明すると、


「ほ、本当にそんな美味い話があるんじゃろか?」

と一人のおじさんが呟く。


「ああ、その疑問はご尤もですね。私でも同じ立場なら、そう考えるでしょう。

なので、判断材料になるかは判りませんが、これまでの俺の話をします。

それで、判断して、一緒に来る方は付いて来て下さい。」

と前置きして、女性に裏切られた事を含め、女性が怖い事や、これまでの3年ちょっとの流れを説明した。


「という訳で、私は人を裏切る事も裏切られる事も嫌悪しています。

出来れば、あまり人と拘わらずに生きて行きたいと思ってました。

まあそんな俺にも、良くしてくれる方が数名ドワースの街に居まして、その方達を裏切らない為に、主人に対して裏切り行為をしないと言われ、奴隷を購入しました。

彼らも、ある程度信頼関係が築ければ、奴隷から解放するつもりで居ます。

ああ、貴方方を奴隷にしようとは思ってません。

その代わり、私のパーソナル・スペースには立ち入らないで貰いたいと思ってます。

立ち入り出来るのは、奴隷という形の彼らだけに限定します。

どうでしょうか? 大体の俺という人物がご理解頂けたでしょうか?」

というと、シーーンと静まり返っていた。中には目頭を押さえている人も居た。 もしかして同志なのかもな。


そして、1人が

「お願いします、そこへおいらと家族を連れて行って下さい。」

と土下座された。


すると堰を切った様に、次々に頭を下げてお願いされた。ただ1人、村長の老人を除き。


「あれ、村長さんは、どうでしょう?」

と聞くと、


「ワシの様な老人が付いていってもえんじゃろうか?」

と聞いて来た。


「ああ、そこら辺は俺は問題ないですよ。

寧ろここに残ると、あるのは死だけでしょ?

纏め役も必要ですし、ご迷惑で無ければ是非。」

というと、涙を流しながら、喜んでいた。

となると、必要なのは移動手段となる。


荷物は、俺か、あと1つ残ったマジックバッグに入れさせれば良いか。


「じゃあ、取りあえず、明日移動開始するという事で良いでしょうか?

ここに長居しても碌な事なさそうですからね。

持って行く荷物ですが、このバッグに全員分を入れて下さい。

これはマジックバッグなので、幾らでも入ります。」

と言って、バッグを預けた。

マジックバッグと聞いて、驚きの声が上がったが、みんな一斉に自分の家へと小走りに駆けていった。


「ケンジ様、その拠点の方に寝床とかあるのでしょうか?

これだけの人数ですから。」

とアニーさんが聞いて来た。


「うん、多分、俺が一緒に行けば、問題は無いよ。」

と俺は巾着袋の中の街建設シリーズを見てほくそ笑んだ。


最初にこれを発見した時、絶対に使う機会は無いと思ったんだけどねぇ。

いやぁ~、驚きだ。


さて、そうなると、俺は一先ず、先に討伐依頼をクリアして来る必要があるな。

おれは、今晩の食料を出して、ジョンさんに預けた。


「おい、Aシリーズ、悪いけど、俺が居ない間、この村を守って置いてくれ。

俺は、ピョン吉とジジを連れて、森でダーク・ウルフを始末して来るから。」

というと、Aシリーズが器用に前足で敬礼していた。


フフフ。何処でそんな小ネタを仕入れて来たのやら。


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 メンテナンスを行い、一部文章の改善等を行っております。基本的な内容には変更ありません。(2020/05/22)


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