第52話 ホワイトを目指す (改)
一足先に、屋敷に戻ると、なんか結構人数がチラチラと屋敷前辺りに居て、ゴソゴソと噂話をしていた。
「おう、昨日までは何も無かったよな?」
とか言っている様だったので、突如として生えた家に驚いているみたい。
そんな野次馬達をスルーして、俺が屋敷の通用口を開けて入ろうとすると、
「え!?お前さんがここの人なの?」
とその内の1人から聞かれた。
「ええ、関係者ですね。」
と言葉を濁して曖昧に返事をすると、なんで昨日までは何も無かったのに、今日になったら屋敷があるのかと、興奮気味に聞いて来た。
「ああ、それですか、知り合いの高名な魔法使いの方に、建てて頂いたらしいですよ? まあ詳しい事は存じてませんし、吹聴しないようにと言われておりますから。」
と誤魔化しておいた。
うむ、我ながら、完璧なストーリーである。
野次馬達は、えらく興奮気味に唸っていたようだった。
さて、通りを見て居ると、5人は意外に早く45分ぐらいでやって来た。
指示しておいた様に、インターフォンが鳴ったので、遠隔操作で通用門を開けてやると、恐る恐る5人が入って来る。
そして、俺が玄関で出迎えると、恐縮した5名が袋を抱えて屋敷に入って来た。
玄関のホールに並んだ俺の従魔達を見て、驚く4名。
3歳のユマちゃんは、大きな屋敷と俺の従魔にキャッキャと喜びの声を上げていた
「ママーー、ウサギちゃんです! あ、猫ちゃんも居るです!」
と嬉し気だ。
「ああ、こいつらは、俺の従魔で、賢い奴らだから、大丈夫だよ。」
と説明すると、他の4名の表情が少しだけ和らいだ。
「まずは、部屋割だね? 取りあえず、1階の部屋の一番ゆとりのある部屋をジョンさん一家で使って貰うかな。 残りの2人は適当に部屋を決めてね。」
とザックリ部屋の構成を見せてやった。
「えっと、こんな凄い部屋を割り振って頂いて宜しいのでしょうか?」
と恐縮する4名。ユマちゃんは大喜びだったが。
「うん、特には問題無いよ。俺の部屋は2階の一番広い部屋ぐらいしか使わないし、普段は居ないからね。
あと、色々相談あるから、荷物を置いたら、一度1階のリビングに来てくれる?
ああ、お腹減ってるかな? 飯を食いながら話すか。じゃあ、食堂に集合で。」
と言って、一足先に、食堂へ降りたが、慌てて全員が荷物を置いて降りて来た。
「そんな、主にそんな事をさせてはダメですから。」
と言っていたが、まあ半分趣味みたいな物だしな。
まあ、強引に落ち着かせて、ストックしていた作り置きをドンドンと並べていったら、ポカンと口を開けて固まっていた。
「さあ、あんな所に居たんだから、栄養が足りてないでしょ? 育ち盛りも居る事だし、遠慮無く食べましょう。」
というと、ユマちゃんだけ椅子が低すぎて、テーブルに届かなかった。
なので、ストックルームから、慌てて、幼児用の椅子を取り出して来た。
「ユマちゃんは、こっちの椅子にしようか。」
と言って、両親の間にセットしてやると、喜んでいた。
そして、全員で食事を開始。 まあ俺だけ手を合わせて頂きますをした。
最初は、
「ご主人と同じテーブルで食事をする等――」
とか言っていたが、面倒だったので、強引に命令として食べ始めさせた。
一口食べると、絶叫したり、涙ぐんだりしながら、「美味しい」「うめー!」とバクバクと食べていた。
一頻り食べて、落ち着いた頃、全員にホッとしたような笑顔が浮かぶ。
「さてと、改めて自己紹介をするけど、俺はケンジ。Aランクの冒険者であり、一応商業ギルドにも登録してある。
まあ、特に商売をしている訳じゃなく、暢気にスローライフをしてます。
歳は18歳、えーっと、他には――そうだね、俺の本当の拠点はここじゃないんだよね。
一番近いのは、この街だけど、ここから徒歩だと3日ぐらい離れた場所、ドワース領からも外れた所を開拓して従魔と共に住んでます。」
と伝えると、驚いている。
「えっと、ここに住んで無いのに、こんな立派な屋敷があるんでしょうか?」
とジョンさん。
「うん、まあ追々話して行くけど、3年前にちょっと色々あって、このドワースの街を出たんだよね。
それで、また舞い戻ったというか、色々で、この土地を領主様に貰ったので、この街に来た時用の屋敷を建てた感じだね。
だから、普段は本来の拠点に居る感じですね。で、まあ色々質問等もあると思うんだけど、まずは先にこれを言って置きたいんだ。
まず、第一に、奴隷と主人ではなく、信頼し合う、雇用主と雇われ人又は友人として考えて欲しい。
奴隷だから、一緒にご飯を食べられないとか、奴隷だから、休みが無いとかは、無いからね。
まあ、勿論、これから話す内容もだけど、他言無用で、秘密厳守して欲しい。
尤も、君らの命と引き換えとかって状況であれば、命を優先して欲しい。これはお願いであり、命令でもある。
そうで無い限りは、他言無用という事ね。ここまでOK?」
と聞くと、全員が頷いた。
「よし。じゃあ次なんだけど、まず、この別荘には、基本、ジョンさん一家に住んで管理して貰う予定にしているんだ。
そして、定期的にこちらから送る品を、商業ギルドや、ガバス商会に納めに行って欲しいんだよね。
後は、領主様、冒険者ギルド、商業ギルド、ガバス商会、雷光の宿のジェイドさんからの連絡の橋渡し役をやって貰いたい。
俺も時々、こっちに来るから、その時はお世話をお願いすると思うけど、普段は庭を時々手入れしたり、シーツを換えたりするぐらいかな。
それだったら、ユックリ家族と暮らせそうでしょ?」
とジョンさんに聞くと、ポカンと口を開けていた。
「ああ、退屈だったら、庭に家庭菜園でも作っても良いし。 まあそこら辺は臨機応変にね。台所も食材も自分らが食べる分なら自由に使って良いよ。
その代わり、その食材を使って商売とかはしちゃ駄目だよ。それはキチンと約束して欲しい。」
「次に、ステファン君とアニーさんだけど、まあここは要ご相談なんだけどさ、アニーさんはお母さんと弟妹達と、一緒に住みたいよね?
お互いに相思相愛な君ら2人には、俺の本来の拠点側を管理して欲しいと思っているんだ。
そして、出来ればアニーさんのご家族も一緒に呼べないかな?って思っているんだよね。
そうすれば、税の支払いにも困らないし、弟妹も沢山食べて、元気に育つ事が出来ると思うんだ。
その拠点には、もの凄く肥沃な土地が沢山余っていてね、畑作り放題なんだけど、どう? どうせ税で苦しむぐらいなら、俺の拠点でノンビリ暮らした方が、安全で暮らしやすいと思うんだけどな。
弟妹の方は、大きく成ったら、こっちの別荘に来ても良いし、まあそこら辺はご相談って事でね。」
と提案してみた。
結果、2人とも了承し、アニーさんは特に大喜び。
「そうと決まれば、早速ご家族を迎えに行かないとだね。多分苦労していると思うから、急いだ方が良いだろうな。
あ、ところで、ラスティン子爵領のその村って何処ら辺にあるの?」
と地図を出して、見て貰った。
すると、何という偶然でしょうか。北の森の向こう側でした。
「マジか。もしかして、森からの魔物の被害とか問題になっているんじゃないの?」
と聞くと、2人とも暗い顔で頷いている。
なるほどなぁ……何でこの5人に心動かされたのか、何となくだけど、女神様の筋書きがあったんじゃないかと推測してしまったのだった。
「しかし、ケンジ様、先程から、まだ何も私達からは何も事情等のご説明をしてませんが、色々とよくご存知ですね?」
と察しの良いジョンさんが聞いて来た。
「ああ、それは先に謝るけど、悪いが奴隷商の所で、1人1人鑑定させて頂いたんだ。
俺の鑑定はちょっと特殊でさ、まあ色々と判断材料が詳しく出るんだよ。
だから、同じ奴隷商の所に奥さんもお子さんも居る事を知ったの。
そして、偶然だろうけど、この5名が全く同じラスティン子爵の被害者と知ったので、思いっきり感情移入しちゃったんだ。」
と説明すると、「なるほど。」と納得してくれた。
ジョンさんは、自分がどう言う経歴なのか、どう言うスキルを持っているのかも知られた事を理解したっぽい。
「安心して欲しい。俺は君らが裏切らない限り、全力で守るし、ペラペラと秘密をバラす様な事もしない。
これでも、裏切られる辛さは、良く骨身に浸みて知って居るから。」
というと、ちょっとホッとした顔をしていた。
そして、話は、給料の事になる。
よくは知らないので、ジョンさんに聞いた所、通常の商会で働いた場合、大体、月に大銀貨2枚~3枚が一般で、番頭や店長クラスで、多くて月に大銀貨5枚ぐらい。
騎士の給料が大銀貨7枚くらいだそうだ。衛兵クラスだと、大銀貨3~4枚ね。
という事で、週休1日でユマちゃん以外は、全員月に大銀貨3枚とさせて貰った。
「え? 我々は奴隷なのですが、それなのにお給料を頂けるのでしょうか?」
と驚かれたが、だって働いて貰うんだから、当然でしょ?と思うのだが、普通奴隷は給料が貰えないか、微妙なお小遣い程度なんだそうで。
「え? それじゃあ、お金貯めて自分を買い戻したりとかってのも出来ないじゃん?」
と聞くと、普通にそんな話は無いらしい。 わぁ~、それはキツい世の中だな。
「うーん、それはキツいね。 利用しておいて、言うのも何なんだけど、奴隷制度自体嫌いなんだよね。まあ犯罪奴隷ってのは、違和感というか、嫌悪感あるんだよね。
じゃあ、何で奴隷を買ったの?って思うだろうけど、追々これも判ってくれるとは思うんだけど、情報を漏らして欲しく無いってのが大きくてね。
それで、契約で縛られる奴隷を薦められて、君らに出会ったんだ。 だから君らも時が来れば、出来るだけ解放したいと思ってるんだよ。特にユマちゃんもな。」
というと、信じられない者を見る様に、4人が唖然としていた。
まあ、この世界の常識だと、そんな上手い話あるんかい!って思うだろうけどな。
そこら辺は、徐々にお互いの信頼関係を築いていければ良いかな?
兎に角、ジョンさんにお願いして、アニーさんのご家族を乗せて来る馬車を入手して貰う事にしたのだった。
雇用条件等の話を終えて、屋敷の風呂場へと案内し、自由に入って良いと伝えると、大喜びしていた。
特にアニーさんやステファン君は生まれて初めての風呂らしく、はしゃいでいた。
「ハハハ、やっぱ風呂の無い人生なんて考えられないよねぇ。」
男風呂と女風呂に別れ、風呂に入ったのだが、彼らの首の肩口にある奴隷紋を改めて見た時には、凄く心が痛んだ。
まあ、俺が悪い訳でも無いのだが、何かねぇ……。
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メンテナンスを行い、一部文章の改善等を行っております。基本的な内容には変更ありません。(2020/05/22)
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