第51話 奴隷商に行く (改)
健二と別れた後、一旦見送られたエドワードさんだが、実は、馬車だけを先に帰して、遠くから、コッソリと健二の様子を窺っていた。
すると、驚く規模で魔法を発動し始め、一気に草を抜いて従魔達に集めさせた。
そして、今度はなんと、塀を建て始めた。それも普通のただの塀ではなく、ちゃんとした装飾のある様な立派な塀である。
何をやっているのかは、どんな魔法を使っているのか、全く理解が及ばない。
そして、エドワードさんが驚いてアワアワしている間に、敷地の周囲を取り囲む立派な貴族屋敷の塀にも勝る塀と門が出来上がった。
更に驚いたのは、塀の向こうに、何をやったのかは判らないが、いきなり男爵クラスの屋敷が出現したのだ。
これには、「ほへ?」と間抜けな声を上げ、リアルに腰を抜かしてしまった。
こんな魔法?は古今東西聞いた事がない。
エドワードさんが腰を抜かして、ポカンとしている間に、健二と従魔が仲良く神殿の方向に消えて行った。
そして、暫くしてやっと、立ち上がり、門の隙間から敷地内を覗き見すると……、
あれだけ雑草塗れだっただった敷地には、薄ら芝生が生え、通路は石畳で組まれ、ロータリーの真ん中には、見た事も無い様な噴水まで置かれていた。
エドワードさんは慌てて、領主館に戻り、事の次第を報告すると、不思議な事に、領主様は、
「ガハッハハハ、流石は、俺が見込んだ男だ。」
と大笑いしていたのだった。
翌朝、健二は住み慣れた安住の地である拠点に引き籠もれる為、一大決心をして、サンダーさんに聞いておいた、奴隷商へとやって来た。
しかし、店の前までは辿り着いたものの、なかなか店の中に入る勇気が無く、店の前で完全な不審者となっていた。
<主、店に入らないのか?>
と代表で1匹だけ連れて来たピョン吉がヤレヤレといった様子で聞いて来た。
そして、到着してから20分程ウダウダした後、ピョン吉の角に突かれつつ、店の中へと足を踏み入れたのだった。
「いらっしゃいませ。
私、この店の店主をしております、オリバーと申します。」
とデップリ気味の簾頭のオヤジが、営業スマイル全開で挨拶をして来た。
「あ……初めまして、冒険者のケンジです。ギルドマスターのサンダーさんに聞いて、こちらにやって来ました。」
と何とか応えると、
「なるほど。
して今日はどう言った感じの者をお探しでしょうか?」
「えっとですね。こちらに屋敷を建てたのですが、そこで管理をしてくれる方を探してまして。
性格が良くて、安心して任せる事が出来る方が良いのですが、どうでしょうか?」
「ふむ。となると、家事や掃除、調理等が出来る者が良いですね?
文字とかは読めた方が宜しいでしょうか?」
と条件を更に提示してくる。
「そうですね、文字が読める方が良いですが、読めなくても、努力家で頭の回転が早い人なら、こちらで教える事も可能です。」
「ふむふむ。性別や年齢、種族等に拘りはございますか?」
「いえ、特にはありません。」
と答えると、暫くして、候補の奴隷を7人程従えて来た。
1人目は、割と細マッチョな40代中盤ぐらいに見えるおじさん……というか、前世の俺より若いな。
執事の経験者らしいのだが、仕えた貴族の家の都合で何やら奴隷に墜とされる結果となったらしい。
読み書きも出来るし、計算も出来るとの事。
そこで、俺は、いつ使うの? ここでしょ!とばかりに鑑定してみた。
『詳細解析』
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名前:ジョン
年齢:35歳
誕生日:6月18日
父:アドレ・フォン・ラスティン子爵
母:マルス
種族:人族
性別:雄
婚歴:有り 妻ヤリス(28歳) 子ユマ(3歳)
身長:178.2cm
体重:67.6kg
称号:罠に堕ちた男
職業:元執事
レベル:38
【基本】
HP:391
MP:472
筋力:198
頭脳:157
器用:164
敏捷:102
幸運:49
【武術】
短剣術:Lv7
忍術:Lv7
投擲:Lv6
【魔法】
火:Lv3
風:Lv2
無:Lv4
【スキル】
魔力感知
魔力操作
隠密
認識阻害
調理 Lv3
速読
【加護】
【状態】
精神:疲労大
肉体:疲労軽微
健康:右膝に怪我あり
【経歴】
ラスティン子爵家でメイドをしていた、母マルスが、当時18歳のラスティン家長男アドレに手籠めにされその後出産。
アドレの正妻ジュリアによって、その後マルスはイビリ殺される。私生児となった1歳のジョンは、馬小屋に住まわされるも、当家に仕える執事やメイドからの助けもあり、なんとか成長する。
6歳の頃より、執事や、当家に仕える騎士などにより、鍛えられ、力を付けて行く。
少年時代には、裏仕事をさせる為に暗殺や情報活動、工作活動をさせられていたが、アドレが当主となった機会に高齢となった執事の元で仕事を覚え、戦闘執事としてラスティン子爵家に仕える。
頭の回転は早く、物覚えも良い、真面目な努力家でもある。
その後、正妻に嫡男が生まれ、その座を案じた正妻の陰謀により、先日、妻ヤリス(28歳)と子ユマ(3歳)と共に奴隷墜ちする。
尚、妻と子も当商会に居る。
【展望】
非常に真面目な性格故に、暗殺者としての技術や忍術を使った潜入等を熟すが、犯罪を嫌う性格で、愛妻家であり、子煩悩である。
出来れば妻子と同じ所に買われる事を切望しており、その願いが叶えば、誠心誠意仕えたいと心に決めている。
またラスティン子爵家で知り合った妻ヤリスも非常に愛情の深い、貞淑な女性で非常に好ましい性格をしている。
優良物件だと思いますが、如何ですか?
[>>続きはこちら>>]
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うっはーー! こんなストーリーもあるのか。
酷いなラスティン子爵家。許せんな。
まあ、どうせ広い家だし、1人だけで管理も難しいし、丁度良いか。
あそこなら、普通に暮らせるだろうし。
まあ、彼は決まりだな。
2人目は、栗毛の女の子か……。
うーん、まあ一応確認する?
『詳細解析』
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名前:アニー
年齢:14歳
誕生日:10月22日
父:ドラン
母:ジョニス
種族:人族
性別:雌(未)
婚歴:無し
身長:160.5cm
体重:51.2kg
B:80cm Aカップ
W:42.8cm
H:81cm
称号:
職業:
レベル:10
【基本】
HP:90
MP:105
筋力:78
頭脳:67
器用:84
敏捷:55
幸運:32
【武術】
短剣術:Lv1
【魔法】
土:Lv1
風:Lv2
無:Lv2
【スキル】
魔力感知
魔力操作
調理 Lv5
裁縫 Lv2
土木作業
農耕作業
解体
素材採取
【加護】
【状態】
精神:疲労大
肉体:栄養不足
健康:肺に疾患あり
【経歴】
隣のラスティン子爵領の農村出身。
父親とは2年前に死別、現在母ジョニス(30歳)と弟ランド(5歳)と妹ローラ(3歳)が実家に居るが、労働力が不足している事もあり、困窮している。
税が重く魔物による被害で税が払えなくなり、幼い弟と妹を食べさせる為、自分から奴隷に堕ちた。
【展望】
非常に真面目な性格で、子供らの面倒見も良い気立ての優しい子だが、内臓の疾患は放っておくと、取り返しがつかない事になる。
幸い、健二の聖魔法で治療可能。病名は結核。 聖魔法で、結核菌を殺すイメージでヒールを掛ける事で治療可能。
仕上げに健二特製のスタミナポーションで完全復活する。
現在は栄養不足の為、成長が宜しく無いが、元々は生命力に溢れた愛情深い女の子。
隣に居る幼馴染みステファン君の事を憎からず想っていて、お互いに相思相愛、出来れば一緒の所に買われて行きたいと心に思っている。
信頼の置ける人物だと思いますが、2人セットで如何ですか?
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わぁーー!!! 何て悲しいストーリーなんだよ。
これも放っておけないじゃん。
しかもだよ、これもラスティン子爵絡みじゃねーかよ!!! どんだけ酷い所なの?
いかんな、凄く感情移入しちゃってる。
じゃあ、母親と弟妹を一緒に住まわせてやる必要がある訳か。
うーん、どうするよ?
農家か……拠点の横で農業でも気楽にやらせるか? 親子で。
農業用の魔道具でも作ってやれば、楽に農業出来る様になるよな?
まあ、結果だが、3人目の男の子、14歳のステファン君、これも似た話だが、こっちは両親死別。
親を救おうと、治療代の為、借金したのだが、騙された結果、両親共に死亡。
しかも、これもラスティン子爵絡み。
流石に許せんよな。何か機会あれば、嫌がらせしてやりたいぞ!
という事で、一通りは目を通したよ。
他4人は特に良いや 要らないって感じ。
特に何か女っぷりをアピールして来たが、官能系も肉体派も要らんな!って事で、選択肢から除外した。
まあ、これもある意味一期一会だろう。
兎に角、あの悲しいストーリーに完全に参ってしまった。
俺が黙って5分くらい、一人一人ジックリ観察してたもんだから、不安気な顔で奴隷商のオリバーさんが、
「如何でしょうか? お気に召す者はおりませんでしたか?
良ければ、一人一人、能力を説明させて頂きますが?」
と言われ、
「そうですね、この中では、3人が気になりました。
では、右端の男性から3人の前職と能力や注意すべき健康状態、その他のマイナスポイント等あれば教えて下さい。」
というと、オリバーさんは、汗を掻きながら、元某家の執事をしていた事、よって家事~調理や管理能力がある事を告げて来た。
あれれ?膝の怪我は言わないのか。 ふーーん。
次にアニーも肺の疾患と栄養不足は申告していない。
アニーは黙っている様に言われているらしく、咳を必死で耐えて居るのが見受けられる。実に苦しそうだ。
ステファン君に関しては、まあOKだろう。
「ふむ。では、この3人を検討したいですね。この3人でお幾らになりますでしょうか?」
と聞くと、ジョンさんが20000000マルカ(金貨2枚)、アニーさんが20000000マルカ(金貨2枚)、ステファン君は10000000マルカ(金貨1枚)で、合計50000000マルカ(金貨5枚)だそうだ。
ふむ。なんか、ジョンさんは家族と離れ離れになりそうなので、悲痛な顔をしている。
「判りました。では、金貨5枚、こちらですね。
ちなみに、全員勿論健康という事で間違いないですね?」
と念を押す。
「ええ。そこは問題無いです。」
と汗を拭きながら、答えるオリバーさん。
特に奴隷に関してだが、健康状態を偽って売る事は、重大な詐欺行為と見なされる。
商人としては、一発アウトとなる案件である。
なんか、ムカムカするよね。
「では、何故そこの男性は、膝を壊していて、女の子は肺に疾患を患っているのでしょうか?
ほほー、これは是非とも領主様や商業ギルドのキャサリンさんにも聞いてみないとダメですね。」
とこの嘘つきオヤジに追い込みを掛けた。
「ああ、一応、記録が残る様に、商業ギルドのギルドカード払いにしましょうかね。」
と言って、Sランクのカードを見せると、顔色一辺、ガタガタと震え出した。
「アコギな商売をしたら、商業ギルドの規約違反ですよね。勿論法律にも違反する事なので、拙いですね。非常に拙い。
再度確認しますね。3人でお幾らでしょうか? ああ、あとそうですねぇ~、こちらの男性と一緒にこちらに来た、奥さんと子供さんも一緒に付けて下さいね。」
と更に追撃すると、轟沈した。
「ど、どうかこの事は一つご内密にして頂けませんか?
お詫びの印に、半額、半額にさせて頂きますから。あと、その男の妻と子供も付けます。どうか、平にご容赦下さい。」
と頭を床に擦りつけてきた。
簾ハゲが哀愁を漂わせる。
俺は思わず、悪い顔をしていたかもしれない。
「まあ、じゃあ、こちらにも条件があるので、その男の家族2名を含めて、金貨3枚出します。その代わり――――」
と条件を言って飲ませた。
実はだが、この奴隷商の管理している奴隷達のほぼ全てが結核に感染し、ヤバい状態になっていた。
なので、全員を俺に治療させる事を条件としたのだ。 あとは、奴隷の待遇改善ね。
結核って、確か暗くジメジメした悪環境で蔓延するって聞いた様な気がしたんで、取りあえず、完治後は日に1回は日光浴を1時間ぐらいはさせてやれとね。
店のスタッフも含め全員に結核菌を殺すイメージでヒールと、クリーンを掛けた。
まあ、一応全員チェックしたけど、既に状態異常は出て無かったので、多分OKだと思う。
オリバーさんには、他言無用と口止めしておいた。 まあベラベラ喋れば自分の悪事もバレるから、きっと黙っている事だろう。
お陰で、俺は多分優秀な奴隷5名を手にして、街の中のパンデミックを未然に防止。
全員の奴隷紋に血を1滴落として、マスター登録を終わらせた。
奴隷紋って、首の付け根というか、肩口辺りにあるのね。ちょっとビックリ。
解放すると、消えるらしい。
ジョンさんが泣いて喜んでいた。
ああ、膝を治療したからじゃなくて、妻子と一緒に居られる事に関してである。
「良かったですね。まあ、全員の必要な着替えや、服、靴、食器類は、有るから良いか。他に日用品や女性の必要な物とかを買いそろえて貰えますか?
今だと、夏用しかないかな?まあ、冬は冬で買えば良いから、取りあえず7日分ぐらいはそれで足りるかな?」
と言って、各自に大銀貨1枚を渡した。勿論子供の分もね。
まあ、こっちの常識は知らないけど、普通にビックリしていた。
1時間ぐらいで、屋敷に来る様にと、場所を教えて解散したのだが、あまりの事に5名とも呆然としていたのだった。
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メンテナンスを行い、一部文章の改善等を行っております。基本的な内容には変更ありません。(2020/05/22)
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