第46話 再びドワースへ (改)

泉の森で一泊した後、2日掛かりで拠点に戻って来た。

途中、偶然見つけたダーク・スライム1匹の体液も回収し、十分な素材が集まった。


1匹のダーク・ハンター・ウルフを解体し、皮を綺麗に洗浄した。

まあ、ここからは、あの制作過程が入る訳だ。


人生、そうそう簡単に済ませてくれるような美味しい話は無く、5回程、大小の失敗を繰り返し、漸く2つのマジックバッグの作成に成功した時には、あれから既に2ヵ月が過ぎようとしていた。


「何か制作に時間掛かり過ぎて、間が空いちゃったけど、ちょっと孤児院に持って行って来るよ。」

と従魔に言うと、まあ当然の様に、全員が連れて行け!とゴネる訳ですよ。


なので、今回は大きな用事も無いし、良いかと全員で移動する事にしたのだった。

毎回街道や草原等走って移動するのだが、今後を考えると馬車とかを持った方が良いのだろうか?

しかし、そもそもだが、『安定して』馬車を引ける様な従魔は居ない。

万が一にもピョン吉達に引かせたら、ウサギ故の振動で悲惨な光景しか浮かばないしなぁ。


一番手っ取り早いのは、俺が転移魔法を習得する事だが、まだまだ短距離でしか成功しない。

果たして、遠くまで日帰り旅行を楽しめる日はやって来るのだろうか?


前世では、大好きだった旅行も温泉も結局20年近く行く事は無かった。

結婚するまでは、月に1回程、温泉に出掛けていたのにな。

更に、結婚後は、なかなか実家にも帰れず、また初孫を抱かせる機会がほぼ作れずに、お袋には寂しい思いをさせてしまった。


何年かに一度、必死で小遣いを貯めて、交通費にして俺だけ逢いに行ったりしたが、孫を連れて来て居ない事を謝ると、

「良いのよ、あんたらが、仲良く幸せに暮らしているのなら、気にしないでね。」

と少し寂しげに笑いながら言っていた、年老いたお袋の顔は、今でも時々思い出す。

本当に親不孝な息子で申し訳無い。



ただ、最近は、俺が薄情なのか、それとも転生したからなのかは判らないが、お袋の事も、あの酷かった妻と息子がやった仕打ち同様、思い出す頻度が極端に減っている。


今俺が頻繁に思い出すのは、孤児院の子供らの笑顔だ。

あの子らの事が凄く気になって仕方が無い。

ちゃんと食べてるかな? とかそう言う内容なんだがな。

もしかしたら、無意識の内に、自分の子(実際は他人の子)から貰えなかった笑顔を貰った事で、心の穴を埋めようとしているのかも知れないな。


まあ、たまにナスターシャさんも含まれるが、そう言う意味合いではなく、早く本を渡してやらなきゃって事をね。



 ◇◇◇◇



街道から離れた所に陣取ったテントで1泊し、朝から従魔達を従えて街に入った。

既に従魔登録はしてあるから、大丈夫だとは思ったが、ちょっとドキドキ。



「ああ、ケンジさんか。驚いたよ。こんなにモフモフが増えてるなんてな。」


「ああ、脅かした様で申し訳ないです。どうしてもこいつらが、街で肉串食いたいって言うもので。」

と従魔達を見回すと、少し引き攣った笑顔で、


「そ、そうか。まあ良いんだが、トラブルだけは気を付けてくれよ?」

と念を押され、街に入った。


朝から、肉串の良い匂いで、従魔達がキュッキュー、ニャンニャーと喧しい。

なので、奴らが望むままに屋台に寄って、肉串等をドンドンと買い与え回る。

というか、何本も同じ様に肉串の屋台の梯子をしているが、意味あるんだろうか?


俺を先頭に、ジジ、A0~A9、そして殿がピョン吉。

これらが一列に並んで歩く様は、結構目を引くらしく、道行く街の住民が、余りの従魔の多さにギョッとして立ち止まったりしている。

中には噂を聞き付けて、態々見物に出て来た人も居るようだ。


「あ!増えてるし!」とか言ってる人は、きっと3年前の俺を知って居る人だろう。


やっと従魔達が満足したのか、屋台で立ち止まらなくなり、ペースが上がる。


神殿へ向かう途中……西通りには、ガバスさんの店もある。

流石に素通りは悪いので、ちょっとだけ挨拶して行こうかと、店を見ると、前にも増して客が増えている。

店の中に入りきれない客が通りまではみ出ている状態である。

うっはーー、これは、表からはキツそうである。


裏側に廻って、勝手口をノックすると、暫くして店員が出て来た。

「あ! ケンジさんですか? 少々お待ちを!」

と慌てて引っ込んで行った。


「あ、忙しかったら……」

良いんですよ? と続けたかったんだけど、そんな暇はくれなかった。


しかし、すぐに、ガバスさんが飛んで来て、


「おーーー! ケンジ!!!」

とむさ苦しさを全開で抱きついて来た。


「ちょ! 今度はそんなに間を開けて無い筈なんだけど、何かあったんでですか?」

と聞くと、


「いやぁ~、掛け算が凄いんだよ! 作る傍から、倍、倍の勢いで出ちゃうんだよ!」

と興奮して、唾を飛ばしながら力説していた。


「ちょっと唾が!」

と言っているんだが、興奮してて、聞きやしねぇーし。


まあ、要約すると、バカ売れ過ぎて、大変。

親子関係の魔道具もバックオーダー入ってるから、はよ作れ! って事らしい。


「へー、あの魔道具、そんなに需要あるのかぁ?」

と聞くと、かなりヤバい勢いでバックオーダーが貯まってるそうで。

値段を聞くと、売値が1台、なんとビックリ、ボッタクリ価格の大金貨6枚。


「げー! 6億マルカっすか! それボッタクリじゃん!」

と思わず叫ぶと、


「人聞き悪いから! しかしな、いやそのくらいの価格じゃないと、もっと売れちゃうからね。」

と至極まっとうな理由だった。

それに、売れる切っ掛けとなったのは、ドワース辺境伯のお家騒動と、それに伴う公爵家のお取り潰しが原因だそうで。

この一件に、この魔道具が絡んで居る事が知れ渡り、凄いんだそうで。

一気に20件程、購入の打診があって、ヤバいのでこの価格にしたらしい。

という事で、現在バックオーダーが50個程貯まってる状態で、待たせてるそうな。


「マジか。」


「ああ、俺も白金貨1枚に値段設定しておけば良かったって、後悔してる。」

とガバスさん。

まあ、待たせてる相手が王族絡みとか貴族絡みなので、シャレにならないらしい。


「そうか、じゃあ、まあ大急ぎで作る様にしますよ。 50個ぐらいなら、多分1週間後には持って来られる……筈。多分。」


「お、おう! じゃあ本当に、マジで頼むな!

ところでよー、静かに住みたいってのは判るだが、こうも何時来てくれるのか判らず、連絡も取れないとなると、何かの際、実に困るんだよ。

何とかならねぇか?」

とガバスさんが縋る様に聞いて来た。


うーん、何とかってねぇ。


「逆に質問ですが、通信魔道具とかって何かあるんですか?」

と聞くと、


「ああ、一応ヤバいアーティファクトの魔道具が、世に存在するが、まあ、金を出しても手に入らないな。」

という事だそうで。


「うーん、そうですか……。 ちょっと何か連絡手段考えないとですね。」


「まあ、立ち話もなんだから、茶ぐらい飲んで行けよ。」

と言われたが、そんな状況でも無さそうなので、


「まあ、せっかくのお誘いなんですが、孤児院にもお届け物あるし、ハゲの所でご飯でも食ってから行こうかなと思ってまして。」

というと、


「あっ!」

とガバスさんが目を逸らす感じ。


「どうかしましたか?」

と聞くと、


「まあ、行けば判るが、ヤバい事になってるぞ、ハゲの所も。」


なんか、ハンバーガーがバカ売れで、更に客入りが凄いらしい。

ファーストフードの筈のハンバーガー1個のお値段、何と驚きの小銀貨2枚だそうで。

それでも売れて困っているらしい。

更に、フライドポテトも大人気だとか。


「あー、そう言えば教えましたね。確かに作り方を。」

と俺が言うと、


「取りあえず、帰る前に必ず商業ギルドで金額確認しとけよな! 諸々の売り上げ振り込んであるから。

あ、そうそう、あと領主様の所にも寄ってくれよ。再三連絡が来てるから。」

という事だった。



早々に、店の裏口から撤退し、思わず「ふぅ~」とため息をつくのであった。

何か、早々に連絡手段考えないと駄目だな……。


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 メンテナンスを行い、一部文章の改善等を行っております。基本的な内容には変更ありません。(2020/05/22)


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