第36話 怖い話はお好きですか? (改)

俺は、やっと少し落ち着きを取り戻し、ユックリと話始める。


「はぁ。本題に戻るのですが、実は俺、それと似た話を知って居るのですよ。

それはそれは悲惨な話なんですがね。かなり無礼な内容を含むので、言うべきかどうかを悩みます。

それにこちらにそれを証明出来る何か道具があるかは不明なので。」


やっぱ、内容が内容だけに、言うのを憚られるよなぁ。

特に貴族様相手だし。


「いや、ここまで話して置いて、その黙りはちと酷いぞ。覚悟を決めた。文句は言わん。頼む。」

とマックスさんからお願いされる。



「じゃあ、実際のところ、領主様の所が何処までこの話の人物と同じ境遇かは判らないのですが、一つの可能性の話程度に思って下さい。

――カッコウという狡猾な鳥がおりましてね、この鳥は托卵をするんです。托卵とは、自分の卵を、他の鳥の巣に行って産み、数を揃える為に、その鳥の巣にあった卵を木から落とすんですよ。

そうすると、帰ったその巣の持ち主は、気付かずに、自分の子と思って、大事に温めるんです。

本当の自分の子は実は木の下に落とされて亡くなっているんですがね、気付かないんですよ。

そして、卵から孵って、目も開かない内から、そのカッコウの雛は何をすると思います?

他の卵や雛を巣から蹴落とすんですよ。親鳥が餌を捕りに行ったりして、見てない隙に。

何でだと思います? 多くの餌を独占する為です。

そして親鳥が愛情を持って育てたら、実は全く違う鳥だったという怖い話です。」

と俺が言うと、シーンと静まり返った。



「で、話は続くのですが、一般的に人間でもカッコウと同じ事をする女が居るんですよ。いや、良いんですよ、それでも自分の子と思えるのであればね。

しかし、得てして余所で種を貰って、慌てて婚姻し、月足らずとか早産とかで誤魔化す例は、もの凄く多いんですよね。

何故か、女性には大体父親が誰か判りますが、父親側には、判らないですからね。

だから、生まれた子を見て、自分の生まれた頃と似てると、両親や兄弟に言われると、ホッとするってのもありますよね。

そして、托卵した女は、そう言う事を平気でヤル様な女なので、父親の居ない所で、子供に見せちゃうんですよ。素行の悪さや、影で父親を馬鹿にしたり、目下の者を人とも思わない様な態度を取ったり。

そんな母親を見て子供達は、ああ、こんな感じで良いのか。と育つ訳です。どうです怖い話でしょ?

その男の子は、父親の言う事は聞きもせず、傍若無人に振る舞い、母親と一緒になって罵倒する様な子に育ちました。

で、私の知って居る人物は、それとは知らずに、必死に妻子の為に働き、働き、働き抜いて、お金を稼いで来ました。しかしドンドン湯水の様に使われて、自分の食べる物さえも用意して貰えず、最後は妻が夫の名義で借金をして、離縁して出て行きました。

子供と一緒に。そして、その男は、人様に迷惑は掛けられないと、必死で妻が残した借金を払い終わり、自分の食べる物さえ無く餓死しました。」

と言って、俺は天井を見上げ、涙を誤魔化した。


「その女性ですが、結婚する前は、もうね、グイグイと押して来たんですよ。そして1回ヤったらそれっきり。

後は子供を産んだ後も、何かと理由を付けて、殆どそう言う事はありませんでした。

男性は、結婚した時も子供が出来た時も生まれた時も、この世の春とばかりに、大喜びしてたらしいです。

なんかね、ちょっと領主様のお話を聞いた時に、凄く似てる気がしてしまいましてね。

まあ、単に似ているだけで、思い過ごしなら、勿論それに越したことはないのですがね。」

と話を締め括ると、ガバスさんは、ブルブル震えながら、「女、こえぇ~」と呟いていた。


そして当の本人、マックスさんは、滅茶苦茶真っ青な顔をして、「え?え?? そんな……」と愕然としていた。



「思い過ごしなら良いのですが、後妻さんを貰った後、ご長男さんの身に何か良くない事や、事件に巻き込まれる様な事は無かったでしょうか?

いえ、カッコウの事を思い出すと、何か嫌な予感がしたので。」


「――あった。2年に1回ぐらいの割合で、そう言われてみれば、あったな。

どれも当時未然に防げたが、それも内部に敵が居たと考えれば、あり得ない話ではないな。」

とマックスさん。



「で、質問なのですが、こちらの世界では、親子関係を証明出来る様な魔道具とか何かあったりしますか?」


「「いや、無いな。」」




「そうですか、残念ですね。DNA解析とまではいかないまでも、血液型さえ判れば、多少は判断出来るんですがねぇ。」


「なあ、ケンジ君。そう言う魔道具は作れないだろうか?」


「出来るかもしれませんが、その為には親子関係のハッキリしているサンプルが必要ですね。

それより、鑑定スキルとかでもっと簡単に鑑定出来たりしないのでしょうか?」

とキャサリンさんを思い出して聞いてみた。


「おお! キャサリンが居たな。どうだろうか? 可能であればやってみる価値はあるか。」


「後は、悪手になる可能性もありますが、騙して嵌める手もありますね。

例えばですが……」


と暫く頭の中で纏めて、


「まず、相手の周囲だけに噂を流すのですよ。 凄い魔道具が出たと。

王都で流行っているとか、もっと魔道具の開発先進国で、親子関係を判定する魔道具が発売されたってね。

で、信じさせる為に、それで生き別れになった親子が再会出来たって美談とかを周りで吹聴するんですよ。

美談に混じって、何処かの貴族のお家騒動で、長年騙していた奥さんが死罪になったとかも交えてね。

もし、恥じる所が無ければ、『ふーーん』で終わりますが、実際にカッコウだったら、『ヤバい!』って焦りますよね。

そうすれば、こっちの物です。

ちょっと間を置いて、ガバスさんが仕入れたって話を流し、ガバスさんを呼んで領主様とご長男とで試し、親子と判定された後、

奥様と領主様で判定したら、親子じゃ無いと判定され、奥様と娘さんで判定させて親子、領主様と娘さんで親子じゃ無いと判定出来る様に仕組むんです。

そして、自白させれば良いかと。まあ多分有罪なら、判定自体を受けませんね。何だかんだ理由を付けてね。」

というと


「ほほー。面白いな。それは面白い。

そうか、自白か。確かにあのプライドの高いあいつなら、面白い物を見せてくれるな。

実は、娘は何処も俺に似てないのだよ。」

と悲しい顔をしていた。


「まあ、ちょっと魔道具自体も本物が作れないか、少し試して見ますよ。

やはり真実に勝る物はないですからね。特にこの様な件では、実際にどうなのかが、領主様の心の安寧には必要と思いますので。

という事で、ある程度の量の血液サンプル少し皆さんにご協力頂く事になりますが。

暫く時間を頂けますか?

出来るだけ、ちゃんと判定出来る物を作りたいですからね。」



 ◇◇◇◇



そして、庭で食べ物を出され歓待を受けていた従魔達と合流し、歓待してくれてたメイドさん達にもお礼を言って、領主館を後にしたのだった。

帰り道の馬車の中、

「なあ、ケンジ、あの話を聞いたら、お前が女を怖がる理由を理解したぜ。

でもな、そんな女ばかりじゃねぇから、絶望だけはするなよな?」


「ええ、判ってます。というか判っちゃ居るんですけどねぇ。ハハハ。」


「で、実際に作れる宛てはあるのか?」

と聞かれた。

まあ、尤もな意見だ。


「まだ判らないですが、理論的な事は大体大雑把に知って居ます。 人間の血液にも身体にもDNAって物がありましてね、これは全員一人一人違う物なんですよ。

例えば、同じ『あ』という字を書いたとしても、『あ』とは読めますが、一人一人癖やなんかがありますよね?あれと同じ感じです。

DNAは一人一人別々なんですが、親子関係があると、癖が残るみたいな感じで、その結果、親子で顔が似たり、癖や性格が似たりするみたいです。

だから、人によっては、『生物の設計図』とも言っているみたいですね。」

と答えると、


「おおお! すっげーー!!! それ俺でも理解出来た。なるほどな。」


「そして、よくよく考えると、凄く身近に血液を垂らして、個人を特定する物がありますよね?」

と俺が言うと、


「あ、ギルドカードか!」

と納得するガバスさん。


「おめー、やっぱ凄いわ。」

と感心していた。



その日の内に、ガバスさんの協力で、何組かの間違い無い親子の血液を小瓶に取り、速攻で拠点に帰ったのだった。


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 メンテナンスを行い、一部文章の改善等を行っております。基本的な内容には変更ありません。(2020/05/22)

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