第35話 何処かで聞いた様な話 (改)
「おお、君がケンジ君か。私がここの領主、マックス・フォン・ドワース辺境伯だ。
まあ、堅苦しいのは、俺も好まん。普通に喋ってくれて構わんぞ。」
と気さくな感じで口火を切る、40歳前後のオジサン。
日焼けした肌に、鍛えられた身体。顔には古傷の跡と皺。
顔立ちは若かりし頃のイケメンッぷりを感じさせられる、ナイスミドルという感じだ。
「ありがとうございます。閣下には、何か色々とご迷惑とお手数をお掛けしたようで(特に平原の件ね)。
どうも申し訳ありません。」
「ああ、良いんだ。気にするな。
それにしても、また奇特な事をするもんだな。」
とマックス辺境伯。
よっしゃーーー!言質取ったどーー!!
これで、もう大丈夫! 俺の心的にな。
「奇特な事?? ああ、元受付嬢の件ですか。
いえ、(平原の件のみならず)そちらの件も色々とご助力頂いた様で、誠にありがとうございます。
まあ、確かに大金なのかも知れませんが、生きて行く上で、そんなには必要無いですし、聞いてしまったからには、寝覚めの悪い思いをしてしまいますから。
だから、自分の心の安寧の為です。お気になさらぬ様に。」
「ほほぉ、自分の心の安寧の為か。面白い事を言うな。
まあ、君の事情は大体サンダーやジェイド、それにガバスからも聞いておる。
話では、相当な実力を持って居る様だが、女性が怖いってのは、俺も同感だ。アハハハ。」
「ハハハ。まあ人にもよるのでしょうけど、一度心に刻み込まれてしまうと、なかなかね。」
と苦笑いする俺。
「で、一応現在王都の方に居るらしいので、ここに連れて来るとなると、相当に時間が掛かってしまうのだよ。
この件の裁定には、聞いて居るかとは思うが、王家の方も絡んで居てね。
一応、サンダーとガバスから、君の意向を聞いて、昨日緊急連絡用の魔道具で陛下と打ち合わせを行ったんだ。
陛下も君の要望にビックリしておったぞ。そんな奇特な男には是非お目に掛かってみたいと仰せであった。」
「え!? いや、是非ともそれは、ご勘弁頂きたいです。トラブルの予感しかありませんですし。
あと、その元受付嬢は、別にこちらに転送される必要は無いですよ? 本当に二度とは逢いたくもないですし。
借金奴隷から解放して、そのまま放置で良いんじゃないでしょうか?
少なくとも、それ以上救いの手を差し伸べる程、バカじゃないつもりですから。」
と俺が言うと、
「ハハハ。なるほど。判った。
しかし、あの手の女は、多分後々逆恨みして鬱陶しい気がするんだがな。本当に良いのか?」
「ええ、私もそう思います。
でも、逆恨みして、次に何か少しでも俺に害を及ぼした時は、本気で排除するので大丈夫です。」
と俺が決意して言うと、
「君の本気は怖そうだな。」
と笑っていた。
ええ、ヤル気になれば、割とエグい攻撃しますよ?
まあ、人を殺めるのはちょっとハードルが高過ぎますけど、二度と立ち直れなくするぐらいなら、どうとでも――
しかし、領主様――マックスさんは、非常に話易い人で、貴族特有?の傲慢さや押しつけがましさも無い。
信頼して良さそうな人物に思える。
それから暫し、たわいの無い話をしていると、
「そうそう、聞けば、ジェイドの所のパンって、君の発案だと聞いた。あれは美味いぞ。
それに、ガバスの所もだろ? ケンジ君は、女性関係以外は最強だな。どうやったらそんな子に育つのか。
是非とも当家に欲しい逸材だよ。ああ、君がそう言う柵を嫌っているのは知って居るから、無理に強いる様な事は断じて無いと誓うが。
しかし、もし、うちの娘が君のお目に適う様なタイプなら、良かったんだがな……」
と言って、苦い顔をしながら、首を横に振っていた。
わぁ~、実の父にそこまで言わせる娘ってどれ程?と逆に怖いもの見たさの好奇心湧くよな。
「え? そんなに酷いんですか!?」
と思わず聞いちゃった。
「――あ、いえ、すみません。何か失礼な事を、ついつい、口にしてしまいました。」
「ああ、いや、構わんよ。 どうせ領内のみんな知って居る事だしな。」
聞けば、出来た親父さんや優秀な長男と違い、何故か娘は、俗世間に言うところの悪い意味で、貴族らしい貴族なのだそうで。
そして、領民へは態度が悪く、有効な矯正の手段は出尽くしたとの事。
「何か無い?」
と聞かれ、自分の息子(実は余所の子)の事と重なり、もしかして? と思わず思ってしまった。
「あのぉ、つかぬ事をお聞きして、無礼に当たって死刑とかないでしょうか?」
すると、
「いや、そんなつもりは毛頭無いぞ。本当に藁をも掴む思いなのだ。
このままでは、長男が家督を継いだ際の災いの種にしかならん。」
と。
「では、率直に色々とお聞きします。
まず、ご長男とその娘さんは、同じ奥様がお産みになったのでしょうか?」
「ほう、イキナリそこを突いて来るか。実は、長男は亡くなったワシの正妻の子で、娘は母親が違うのだ。」
なるほど。
「では、後妻の子という事でしょうか? それとも第二夫人とかお妾さんというんでそうか?あまりこちらの常識を知らず申し訳無いですが。」
「実は、最初の妻は長男を産んだ後、身体が弱くなってしまってね。病気で呆気なく亡くなってしまったのだ。だから、娘は後妻との間に生まれた子なのだよ。」
「なるほど。で、子育ては、主に何方が行ったのでしょうか?」
「その後妻である妻自身が……。早産したため、病弱だから、心配だから等と言って娘から離れなかったから、妻の実家から呼んだ乳母は使ったが、殆ど付きっきりのままだった。」
「では、奥様に問題があるのでは? 子は親の背中を見て育つと言います。
一番近くで目にする親の背中を手本にして育ったのでは?」
「ハハハ。そうだな。確かに、その通りかもしれん。
俺は、生まれたあの子を殆ど数える程しか、抱くことさえ許されなかった。
俺が何かを教えたり、叱ったりという事は、なかなか出来なかった。
ああ……やはり、今思えば、どう考えてもおかしいな。」
どうやら、後妻さんは、どうしても断れない筋から嫁いで来たらしい。
このドワース辺境伯の領地は、王国で一番危険地帯ではあるものの、その反面、辺境故に魔物素材が豊富に取れる場所とも言われている。
特に他国との国境沿いという訳でも無く、戦争は起きない。魔物の襲撃を押さえる為だけに、特化しているらしい。
領地としては、王都から離れているものの、実に財政の潤った、豊かな領地らしい。
まあ、そんな訳で、金遣いの荒い、悪い噂の絶えない妻の実家から、断り切れない様な縁談を持ちかけたのではないかと言っていた。
妻は、結婚当初はそれなりに猫を被っていたらしいのだが、初夜を終え、暫くしたらご懐妊。
早産で、病弱だった為、妻が付きっきりで、育てたと――わぁスッゴいデジャブ感が半端無いな。
何か聞いて居る内に凄く嫌な気持ちが胸の中でザワザワと渦巻く……。
せっかく癒えて来た、忘れかけてた、虚しさや、悔しさ、寂しさが、胸の奥でプスプスと再燃しそうな感じだ。
それを聞いた俺の顔色が、真っ青になっていたらしく、ガバスさんから凄く心配された。
ちょっと一休みする為に、一言断りを入れてから、ピーチジュースを取り出した。
「あ、ちょ、お前……それ。」
そんなに、ポロッと、ヤバい品を出して良いのか? と目で合図して来た。
が、俺は心が掻き乱されていて、とてもじゃないが、この一件が他人事に思えなかった。
「あ! まあ、今はそれどころじゃないから、良いか。 皆さんも飲みます?」
と軽率な行動をしてしまった事で、半分ヤケになって、聞いて見ると、特に領主様は青い顔で考え込みながら、頷いていた。
「プッハー。美味いなこれ。 どうやら中身は桃なのか。いや、実に美味いのぉ。」
「ハハハ。まあ極秘レシピなんで。」
落ち着け、俺!!!
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メンテナンスを行い、一部文章の改善等を行っております。基本的な内容には変更ありません。(2020/05/22)
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