第34話 第二回ガバスさん講座 (改)

領主様の区画は貴族区画の一番中央にある。

元日本人の健二には貴族の爵位とかシステムとかには全く馴染みが無いのだが、馬車の中で急遽、ガバス講座が開かれて、説明を受けた。


そもそも領主様という貴族が領主をしているのに、何故他の貴族がいるの? という素朴な疑問に答える様に講義は進む。


「いや、お前、本当に何も知らないんだったな。良いか、領主様は勿論貴族様だ。

で、騎士団があってその騎士団の団長とかも騎士爵とか男爵とかの爵位をお持ちだ。

他には、準騎士爵とか、準男爵とかもあるが、1つの領土に複数のそういった配下の爵位持ちが領主様を寄親として、住んでる訳だ。

他には、例えば、近隣とか名高い貴族様の別邸があったりもする。

ここの領主様だって、王都には、王都に行った際に住む為の別邸をお持ちなんだ。」

と説明された。


「ああ、なるほどな。つまり官舎と別荘って事か。なるほどなぁ。

貴族様ってのも、色々柵あって大変そうだね。 聞いただけで胃が痛くなるな。

俺は無関係な凡人で良かったよ。フフフ。」

と笑う。


「いや、あまり無関係の凡人とか限らんぞ? 冒険者の中には、SSランクとかで爵位を貰うケースもあるしな。

あのサンダーだって、実際望めば貴族様だったんだからな?」

とまたまた胃の痛い話。


「まあ、余り近寄らなければダイジョウブダヨ!? ネ?」

と嫌なフラグが立たない様にと祈る健二。


「あと、まあここの領主様は気さくで、余り貴族らしくないって言うか、威張らない方だから問題無いが、中にはヤバいの居るから本当に何処かに旅行行く際は、不敬にならない様に気を付けてな?」

とこれからの旅行に対して不安要素をぶっ込んで来た。


「止めてー、旅行が旅行気分で無くなるから。うぅぅ、吐きそう。」


一応、自分で軽くライト・ヒールを掛けて、難を逃れる。


「げ! ケンジお前、何? 聖魔法まで属性持ってるの?」

と驚くガバスさん。


「ああ、バレたか。持ってますよ。内緒にしてくださいね。

事情を知っているガバスさんだから言うけど、俺、多分全属性を持ってるみたいですから。」

というと、


「おいおい……そんな爆弾発言俺に漏らすなよ!!! 寝れなくなっちまうだろ!!

止めてくれーーー!!

俺は今何も聞いて無い………

俺は今何も聞いて無い………

俺は今何も聞いて無い………」

と呪文の様に繰り返すガバスさん。


「ところで、その不敬に当たらない礼儀作法って、どんな感じにすれば良いんですかね?」

と聞くと、


「最初は片膝付いて頭を下げて、後は適当に語尾に『です』『ます』を付ける?」

と全然ダメなガバスさん。


「ダメだ、人選間違ったかも知れない――」


「だーって、俺だって貴族苦手だもん。」

と言うガバスさん。


「でも、あれだけデカくなると、貴族との取引とかもあるんじゃないの?」


「ああ、それは店長、ほら水色の髪のナナシーな。あいつの担当。」

と。


「わぁ~、ひでー。良いのかそんな事で。」

と俺が非難すると、


「良いんだよ。俺の女房だから。」

と。


「え!? マジか! あれ? 何かビックリ。 え? 何時結婚したんですか?」


「ああ、結婚したのは、今の所に店を移した時だな。」

と。


「失礼だけど、奥さんって歳、俺と変わらないぐらいなのでは?」

と聞くと、


「ああ、ナナシーは今19歳だな。」


「じゃあ、俺の1個上か。で、ガバスさんって幾つなの?」

と聞いたら、


「お、俺は、まあ、40歳だよ。」

と顔を赤くしていた。


「わぁーーー、衛兵さーーーん。こいつですー! ここに犯罪者がーー!」

と俺が言うと、


「おい、こら、人聞きの悪い事を言うんじゃねーよ。

俺らは、あ、愛し合って、イルンダカラ。」

と後半片言になって、真っ赤になる。


「そうか、でもおめでとう。奥さんにはおめでとうと言って良いのかは微妙だけど。」

というと、


「おいおい、そこは自信持って嫁にもおめでとうって断言しろよ!」

とプンプンと怒っていた。


「そうか、結婚かぁ。もう俺は無理だな――」

と馬車の外を見て呟く。


「何言ってるだ。お前18歳なんだろ? 今からじゃねーかよ。

何なら、良い子探してやるぞ?」

と言われ、


「いや、自信ないな。一緒に暮らしたりとか、子供を設けたりとかって、怖いな。

裏切られるのも怖いけど、いつ裏切られるかとビクビク暮らすなんて俺には無理だーー。」

と。


「お前さ、本当に――その若さで、何処まで女から酷い目に合えば、そうなっちゃうんだよ?

いや、無理には聞かないけどさ、でも、全部が全部、そんな女ばかりじゃないぞ?

もっと夢を見ろよ。」

とガバスさんが元気づけようとしてくれる。


「まあ、夢が叶ったと思ったら、最悪を思い浮かべた、その最悪の10倍ぐらいの悪夢だったってだけですよ。

一度植え付いた、悪夢はなかなか瞼の裏から消えないなぁ~。

未だに同じ様なシーンを見ちゃうと、全身が硬直したり、息切れとかしたりするから。

――幸せと思っていたら、実は全部が嘘って、本当に怖いですよ?」


「や、止めろよ。俺は幸せな新婚生活なんだ。

俺は幸せな新婚……

俺は幸せな新婚……」

と後半念じていた。


「そうですねぇ、もし本当に裏切らない人でそれが女性であったら、また考え方が変わるかも知れないかな。

大体、これが悪化した原因は、あの受付嬢ですからね。

せっかく少し癒えてたのに――」


ホントだよ。せっかく良い出会いもあって、人嫌いにはならなかったのに、良い出会いが全て男だけとか悲しいぜ。


「先に言っとくけど、俺別に男好きじゃないからね? そっちの気は無いから。男相手には欲情しないからね。

ただ、女が怖いだけだから。」


「ふむ。裏切らない女か。なかなか哲学的な難問をぶつけて来るな。」

と額の汗を拭うガバスさん。きっと、彼にも過去に色々あったんだろう。


「でもよ、お前さん、あのエルフには、かなりグイグイ行ってなかったか?」

とガバスさんが鋭い事を言う。


「いや、本人が居たら怒るから言えないんだけど、何て言うのかな? 女性としてでは無くて、感覚で言うと、田舎のお婆ちゃんと話す時って、そんなに警戒とかしないでしょ?

キャサリンさんと話す時って、そんな感覚だったんだよね。エルフだけに――」

と俺が告白すると、大爆笑していた。


「まあ、確かに歳から考えれば、強ち間違いでは無いな。鋭いなぁ~。」

とウンウンと頷くガバスさん。


「ちなみに、ガバスさんは奥さんが何歳の頃から知り合ってたの?

相当若い頃から雇ってた感じ?」

と聞くと、


「ああ、あいつが10歳の頃から雇ってるな。

あいつ、孤児だったんだよ。

だから半分親代わりだったな。」


「フフフン。なるほどね~。」

でったーー、リアル光源氏の実写版じゃん。


「な、なんだよ?」


「いや、幸せそうで良いなぁって。フフフ。」


「まあ、その内、俺が良い子探しておくからよ。」


「どうかな? 気持ちはありがたいけど、俺の心の方の問題だからなぁ。

逆にグイグイ女を表面に出して来られると、俺が引いちゃうからなぁ?

何かの拍子にまた受け取り方とか、感じ方が変わる可能性はあるかも知れないけど、まだまだ時間が掛かりそうだと思うなぁ。

まあ、気持ちだけは、ありがたく受けておきますよ。」

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 メンテナンスを行い、一部文章の改善等を行っております。基本的な内容には変更ありません。(2020/05/22)


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