第32話 ハゲしく美味しい (改)
とここらで、既に昼時となり、丁度良いと言いながら、ガバスさんとハ……ジェイドさんの雷光の宿へと向かったのだった。
「見せて貰おうか、ハゲの実力とやらを!」
雷光の宿は横に別館まで建っており、倍の大きさになっていた。
「おおー! 増えてるし。」
「ハッハッハ。驚いたじゃろ? パンのお陰でこれでもギッシリ満員らしいぞ。」
と笑うガバスさん。
「そうか、みんな頑張ってるんですね。凄いなぁ。
でも、こんだけ満員じゃあ、迷惑じゃないですかね? 確かにハゲ具合は確認したいけど。」
と感心しつつも、あまりの繁盛っぷりに邪魔になりそうで気後れしてしまう。
しかし、本当にみんな頑張ってるんだなぁ。すごいね、俺にはもうそう言う頑張りは難しいな。
いや、元々あまりそう言う欲というか野心的なのは無かったしなぁ。
俺はコツコツやって、家族が幸せな笑顔を見せてくれるのが夢だっただけだもんなぁ。
儚い夢だったが。
「おおおおおお!!! ケンジーーーー!!」
と向こう側からむさ苦しい眩しいのがやって来た。
「ッワッ!!! 眩しい!!」
太陽に反射し、キラリと光る頭。
「こら、誰がハゲやねん!! 剃っとるだけやって!」
とお約束を守るジェイドさん。
「お久しぶりです。何か天然酵母で大当たりしたそうで。フフフ。
でも、あんなに振り込んで頂いてて、大丈夫なんですか?」
と俺が聞くと、
「ハハハ。まあそこら辺は大丈夫だ。
酵母のお陰で今があるからな。
おう、昼飯食って行ってくれるんだろ?
是非ともお前の意見を聞きたい!!」
とジェイドさんがニヤッと笑う。
「ええ、可能なら――あ、でも従魔は無理っすよね?」
とジジの方を見ると、
「お!黒いのが増えてる――っておい!お前!これSSランクぐらいなんじゃねーの?
シャドー・キャットの上位種だろ? サイズがそもそもおかしいし。」
とギョッとした顔で驚くジェイドさん。
「ああ、いやこれだけじゃないんですよ。確かジェイドさんって兎大好きーーでしたよね?」
と悪い笑みを浮かべて、影から10匹のAシリーズを出した。
「ギャーーーー!!! ヤバい奴増えてるじゃん!!! しかも全部サイズがおかしいって!!」
とガクガク震える。
「ハハハ。ビビりのウサギ恐怖症は健在ですか。
これ、全員従魔です。 ピョン吉はキング種にアップしました。他は普通にキラー・ホーンラビットですよ。」
というと、
「いや、普通のってそもそもキラー・ホーンラビットが通常Bランクぐらいで、群ないから。
群れたらA処かSランク相当になるぞ。しかもお前んところのは、普通じゃないからな。」
とやはりカウンターの影でブルブルしている。
「いやぁ~、そう言う姿を見ると、お変わりなくて、ホッとしますね。」
「じゃあ、1室空けて用意すっから、そこでみんなで食ってけよ。」
と提案してくれたのだった。
一応、別館の広いホールに急遽テーブルを出して、俺、ガバスさん、ジェイドさんの3人と、傍で12匹が運ばれて来る食事を堪能する。
「いやぁ~、酵母素晴らしい出来ですね。流石です。
このメニューに見事に合いますね。
ふむ、これは、リンゴ酵母ですよね? ハゲしく美味しいじゃないですか。」
「おう! ってか今語彙に別の意味乗ってなかったか?
――まあ、メニューによって、酵母を合わせてるからな。
いやぁ、おめーの言った様にやったらよ、今までのパンがパンに思えなくなってよ。
本当に驚いたぜ。」
そして、散々美味しい食事を堪能し終えて、食後の紅茶タイムへ突入。
「そうだ、俺、ジェイドさんにお礼を言おうと思ってたんですよ。
あの魔法の本のお陰で魔法使える様になったんですよ。
まだまだ日々研究中ですが、お陰様で光も雷もマスターしましたよ。」
とお礼を言った。
「いや、だから、俺は光じゃなくて、雷の方だからな。
そうか、しかし、たった3年で? しかもあれって初級編だけじゃなかったか?
そうか、雷までなぁ。頑張ったんだな。
で、どうするんだ、中級も勉強するのか?」
と言われ、アッしまったかな? と思いつつ、
「あ、いや、まあ、もう中級は、もう大丈夫です。ハハハ。」
と渇いた笑いで誤魔化した。
「ハハハハ そうなのか? せっかくこう言ってくれてるんだから、遠慮は要らないぞ?」
とそんな俺達のやり取りと、若干薄笑いで引き攣った顔のガバスが煽る。
こ、こいつ、判って居ながら――。
「ん? そうなのか? 折角だし、本貸してやろうか?」
とジェイドさんの好意の追撃がハゲしい。
なので、俺は
「まあ、今はどちらかというと、空間魔法の方を色々実験しているので、取りあえずは大丈夫ですよ?」
と若干方向を逸らした。
「ほう、お前、空間魔法の属性もあるのか、良いなぁ。俺は雷と水だけだったからなぁ。
それでも無属性は別として、2属性持ちってなかなか居ないんだぞ? そうか、空間魔法かぁ。」
と羨ましそうな目をしていた。
すいません、俺、実はもっと沢山属性持ってます。
「ハハハ――」
そう通常、この世界では、無属性は適性属性に数えないらしい。
まあ、持ってて当たり前って事らしい。
逆に、これが無ければ、魔道具は使えないんだとか。
でも、あまり無属性を鍛えようとする人は居ないみたい。
やっぱり、火とか水とかの派手な結果を優先したくなるんだろうな。
無が基本なのに。
しかし、何だろう、この人(男)達なら、本当に気安く構えずに普通に話せるな。
世の中こんな人だらけなら、どんなに楽か……。
女性相手だと変に構えてしまう、この違和感。
まあ、これでも大分回復したうちだとは思うのだが。
離婚以来、暫くはコンビニの店員の女性すら怖かったからな。
まあ、確かに多分遙かに年上のキャサリンさんは、綺麗だけど女性の怖い部分を感じさせないというか、お袋を感じさせるというか、安心感あったけどなぁ~。
あれなのかな? 上手く言えないけど、『女として』というより『人として』接してくる相手だと大丈夫なのかな?
そして、気楽で楽しい一時を終え、また来る事を約束させられつつ、雷光の宿の別館を後にしたのだった。
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メンテナンスを行い、一部文章の改善等を行っております。基本的な内容には変更ありません。(2020/05/22)
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