第25話 再会までの苦難 (改)

春が来た。

家庭菜園の農作業も板に付き、サクサクと終わらせると、出掛ける準備を始めた。

まずはこの世界の地図を入手したいと考えている。

その為、極秘にドワースの街のガバスさんを尋ねてみる予定にしているのだ。


あんな状態で逃げて来たし、今更ご迷惑を掛ける事になりはしないかと、真剣に悩んだが、しかし、どうしてもこの先、地理情報は頭に入れて置きたい。

何処に行くにしろ、何処に逃げるにしろ、情報が無ければ何も始まらない。



城門を通ると最悪面倒に巻き込まれる可能性や、最悪ギルドの件で、指名手配されている可能性がある。

だから、夕闇に紛れ、空から街へ侵入し、こっそりガバスさんに、接触しようと思っている訳だ。

3年たっているとは言え、一応は文字表とかの件で、記憶に残っていると思いたい。


「まあ、忘れられてたら、それはそれでショックだけど、ある意味、買い物はし易いかも。」


あと、本当なら魔法関連の専門書なんかを図書館で読みたい気もするが、それは別の街でやれば良いと考えている。

値段が買えそうな金額だったら、本屋で買うのも手か。

いやいや、本は高いって言ってたから、こんな小僧が買いに来たら、怪しまれるか。



そして、地図か地理情報を手に入れれば、準備が整い次第、それを元に彼方此方に旅をする事も考えている。

という事で、今は前準備段階という訳だ。



幸い、お金は巾着袋に殆ど手付かずで残っているので、何か入り用があっても問題は無いだろう。

まあ、足り無くなったら足り無くなったで、何処かの街で作ったポーション類を売れば、十分な資金になるだろうし、最悪トラブルになっても十分撥ね除けるだけの力は付いたと思う。



「さてと、服装だが、夕闇を使うから、服装も黒ベースで、黒ローブでフードまで被ってって……と。

後は、黒い布を使って、髪の毛と口元をマスクして、グローブとブーツは、茶色だけど、まあこれは良いか?

いや、薪の炭で黒くするか……。」

10分ぐらいゴソゴソと炭をブーツと手袋に擦りつけてみたのだが……


「ああーーー、ダメだ良く考えたら、これって汚れが付かないんだった。」


そうなんだよね。

この女神様から用意して頂いた服は、どれもこれも、自動洗浄が付与されているっぽくて、汚れないのだった。


という事で、ブーツとグローブに関しては断念した。

しかし、今の俺には、『気配遮断』という強い味方が居る。

多分、これで何とかなるだろう。


姿見の前で、チェックしたが、どう見ても

『はーい! 僕今から闇に紛れて悪い事するんですよーー!』

と言わんばかりの格好だった。


「フフフ、どうせなら、忍者の黒装束とか欲しかったな。」

とヤケ気味に呟く。



<なあ、主よ、本当に俺達を置いて行くのか? 一緒の方が良くないか?>

とピョン吉の声が頭に響く。


「ああ、すまないな。本当は一緒に行きたいが、お前、結構知られてる可能性高いんだよね。

だから今回は悪いがお留守番してくれ。」


<アハハ、ダメにゃん。 ピョン吉達は、真っ白で目立つにゃん。

今回の任務に最適な同伴者は、うちにゃん。>

と高らかに笑うジジ。


「あ、いや、従魔連れてるだけで目立つから、ジジもお留守番だし。」

と俺が補足すると、


<にゃんでにゃーーー!>

とジジの悲痛な叫び声が響く。 ホント、頭に響く。


「ちょ! 頭痛いから、音量下げて。

まあ悪いけど、今回はごめんな。」


ジジが拗ねている。

まあ、図体はデカいが、この中では、一番年下だからな。


「まあ、その代わり、もし買えたら、お土産の肉串を買って来てやるからさ。」


<主! 俺は、2本所望するぞ!>

<<<<<<<<<<わーい、お土産お土産ーー♪>>>>>>>>>>

と五月蠅いウサウサシリーズ。


「わぁったから。大人しく待ってるんだぞ?」


<判ったにゃん……>



 ◇◇◇◇



久々に、本当に久々に草原まで全力で走った。

あのこの世の終わりの様だった惨状も、今では、綺麗に整地したので真っ平らだ。

実に走り易い。

街道が見える手前まで走り抜け、街道が見え始めた所で歩きに切り替えた。

春先とは言え、日の入りが大体5時過ぎぐらいだから、逆算すると、歩きで丁度良い筈である。

逆に走ってしまうと目立つから、これくらいで丁度良い筈なのだ。



街道は春先という事で、冬の間に途切れていた物流を取り戻すかの様に荷馬車や商団の馬車が行き来している。

うーん、マズったな。

これはちと、予想外だった。


何が面倒かって、相当数が俺の横を通り過ぎて行く訳だ。

で、悲しい事に、こう言う時程、頻繁に馬車から優しい声を掛けられてしまうのだ。


「おーい、兄ちゃん、ドワースまでかい?

良かったら、乗ってくかい?」


とか、


「おう、チンタラ歩いて居たら、馬車に轢かれるぞ?

ショウガねぇから乗ってけよ! ガハハハ」

と言うツンデレタイプまで居る。


俺はその度に、心の中で手を合わせながら、連れなく手を横に振って、

「いや、直ぐそこから、横に逸れるから。

ありがとな!」

とそっけない態度を取る。


既に2時間で20台近くに声を掛けられた。

一応、背中には、ダミーでリュックを背負っては居るが、旅人に見えるだろうか?

余りにも夜を意識して、真っ黒な衣装にしたから、逆に目立っているんじゃないだろうか?

とか、余計に気になってしまっている。


あー、早く夜になれーー!

と心の中で叫んでしまうのだった。


<主、元気か?>

と突然頭の中にピョン吉の声が響く。


一瞬ビクッと身体が震えてしまった。


<あービックリした。脅かすなよ!

ああ、一応元気は元気だが、ちょっと拙い状況だ。>


<ん? どうした?>


<いやさ、ほら雪のある間は街道も雪だらけで、馬車が通れないじゃん。

だから、春先で荷馬車の数が半端ないんだよ。

でさ、親切な人達が、乗ってけって言ってくれるんだけど、ほら、乗ると会話があったりして、拙いからさ。

全部断ってるんだよね。もう、そっちでビクビクするわ、申し訳無くて心のなかで手を合わせるわで、心が大変。>


<ああ、なるほどな。 主、頑張れ! じゃ!>

と無情に連絡が切れた。


ハハハ。くそーー!



馬車の誘いをスルーし続け、午後3時を過ぎた頃、遠目に懐かしいドワースの城壁が見えて来た。

大体あと30kmぐらいか?


夕暮れが近い事もあって、ラストスパートの様に、馬車からの親切な声が増えた。


なので、合間を見て、俺は街道から逸れて、街道からあまり見えない辺りまで横にズレて、それから街道と平行する感じで歩いて行ったのだった。

4時半になった頃、城門の直ぐ傍まで辿りついた。


まあ、西門はここからは見えない位置だがな。



やっと、岩の上に腰を降ろし、温かいお茶を飲む。


<おい、ピョン吉、今城壁の傍まで無事に辿り着いた。

中に無事入ったら、また連絡する。>


<おお、主、了解だ。呉々も肉串を忘れ無い様にな。>


こ、こいつ……肉串だけか!!

まあ良いさ。


辺りが徐々に夕焼けモードに差し掛かる。


さあ、気配遮断大先生の仕事っぷりに期待するか。

午後5時を回った頃、俺は気配遮断を最大限に発動しつつ、リュックを巾着袋に仕舞い、重力魔法で空へ飛び上がった。

久々に見る街並みは賑やかである。


衛兵は城門だけで無く、城壁の上の通路を定期的に歩き、周囲を警戒しているが、俺には全く気付いた様子は無い。

フフフ。良い仕事してまっせ、気配遮断大先生!


俺は城内上空を飛びながら、人気の無い路地裏に素早く着地した。

そして、再度リュックを取り出して、背中に背負い、暗くなり始めた西通りに入り、取りあえず五月蠅い従魔達へのお土産を購入する事にした。


「おう、美味しいオークの肉串買って行かねぇか?」


「ふむ。美味そうだな。じゃあ、お土産にすっから、30本くれ。1本幾らだ?」


「え!? マジか1本300マルカだ。えっと、30本だから……」


「じゃあ9000マルカだね。ほら、銀貨1枚な。」


「お、おう。じゃあ、お釣りが小銀貨1枚だな。今焼くから、10分程待ってくれるか?」


「ああ、じゃあちょと10分程そこらをブラついて来るよ。」


「おう、忘れずに取りに来いよ?」





そして、俺は5件程屋台で購入して周り、ガバス商会を目指すのであった。


ガバス商会の店の前に立ち……いや正確にはガバス商会があった場所の前に立ち、呆然としていた。

まさか、ガバス商会が潰れたのか!?


ちょっと想定外の事に、頭の中が真っ白になってしまう。

店の前で黒尽くめの変な奴がボーッと看板を見つめていたら、確かに不審に思うだろう。

そのガバス商会ではない、現在の店の店員が、


「なあ、あんた、うちの店に何か用かい? 用が無ければ、ちょっと不気味だから、余所でやってくれないかな?」

と。


「ああ、すみま……すまん。確か前に来た時は、ここにガバス商会ってのが在ったと思ったんだがな。

ちょっと、店が無いとは思わなくて、呆けてしまった。許せ。」

と一応偽装の為にも乱暴な話し言葉風に謝ると、


「ああ、なーんだ。そう言う事かい。ガバスの野郎は、上手くやりやがってよ、今じゃあこの街で1位2位を争う大商会さ。

ほら、この道を真っ直ぐ行くと、40mぐらい先に、新しい店舗があるさね。」

と笑いながら教えてくれた。


はぁ~、ビビったぁ~。


「お、そうなんだ! ありがとうございます。 今度何かの際には、お宅にも寄らせて貰うからね。」


「おう、頼むぜ!」

と笑いながら見送ってくれた。


そうか、成功したのか、ガバスの親っさん。 おめでとうだな。




店の前に辿り着くと、マジで滅茶滅茶デカい店舗に代わっていた。


「スゲーなぁ。やるじゃん、ガバスさん。」

と呟きつつ、ガバスさんの姿を探すが、残念な事にスタッフも増え、客も多いが、本人の姿が見当たらない。

しかも、外は暗くなったというのに、客足は止まらない。

これはかなり、ハードルが高いな。


さて、この分だと、一見さんお断りってパターンもあり得る。

今じゃ大商会の会長さんだもんな。


そして、ふと良い方法を思い付いた。

これは、俺とガバスさんしか知らない事だ。


背中のリュックを手に持って、店の中へと入った。

店員を1人捕まえ、


「申し訳無い、3年前にガバスさん本人からこれを購入したんだが、同じ物が100個欲しい。

ガバスさんは、今日はおられるかな?」

と聞いてみた。


一見古ぼけたリュックを怪訝そうな顔で眺めつつ、しかし100個という単位に色気を見せ始める店員。


「えっと3年前ですか……その頃の事は存じませんが、もっと良い物はございますよ。」

と。


「いや、俺の話を聞いていたか?

俺は、これをガバスさん本人から3年前に購入した。全く同じ商品が100個欲しいと言ったんだ。」

と繰り返した。


すると、店員はガバスさんに聞きに行く事も、取り次ぐ事もせずに、面倒そうな顔に変わる。

「え?何か言い掛かりですか? そんな事言って、会長に取り次げって話ですか?」

となかなかに痛い所を突き始める。


「じゃあ、ガバスさんでなくても当時の古い店に居た、水色の髪のツインテールの女の子でも構わないぞ?

居るなら聞いてみてくれ。」

とぶっきらぼうにリュックを差し出した。


店員は凄く面倒そうな顔をしながら、リュックを片手に店舗の奥に引っ込んで行った。

あのツインテールが成長して、出来る店員になっていれば、ガバスさんに聞きに行くだろう。

もしダメなら、その時は、何処か適当な面の割れて無い、適当な店に行くしか無いか。

ああ、そう言えば、商業ギルドもあったな。地図なら商業ギルドに行けば何とかなるか?

と頭の中では、既にダメな方向に思考を切り替えつつあった。


ボーッと待ってるのも何なので、店の商品を眺めて行くと、一番目立つ所に懐かしい文字表を発見。

更に横には意味文字カードも置いてあった。

おお、商品化成功したんだね。


10分ぐらい待たされ、ソロソロ諦めようかと思ったその時、店の奥からドタドタと人が色々な物をケリ散らかしながらやって来る音が聞こえた。

現れたのは、更に少し頭部前戦の後退した、ガバスさん本人が、目を血走らせ、リュックを片手にキョロキョロと走らせて、何かを探している。

俺は、フードを取って、マスクを外し、片手を上げて手を振った。


すると、俺を発見したガバスさんが、駆け寄って来て、

「バカ野郎! 何で挨拶もせずに行っちまいやがった。」

と俺を抱きしめた。


余りにも衝撃的なシーンに、辺りはシーンと静まり返り、全員の動きが止まってしまった。


「ガ、ガバスさん、ちょっ、苦しいし、目立つから。」

とマスクで口元を隠しつつ、耳元で言うと、ハッとして、俺を肩に担ぐ様に拉致して、店の奥へと入って行った。

まあ、絵面としては、マウンテンゴリラに攫われる女性って感じか。俺は男だけどな。


横を通り過ぎる時、俺に塩対応をしていた店員は、少し青い顔をして、固まっていた。

すまん、内心ちょっとスカッとしてしまった。

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 メンテナンスを行い、一部文章の改善等を行っております。基本的な内容には変更ありません。(2020/05/21)


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