第19話 拠点作り (改)

ドワースを飛び出した翌朝、更に西側の方へと進み、通称、『魔宮の森』と呼ばれる森の手前までやって来た。

まずは、候補地選びだ。


極端に森に近付くと、魔物の襲撃が多くなる。

俺自身が自由自在に魔法を使える様になれば、結界やバリア的な物を張れるんだとは思うが、現在はまだ訓練を始めたばかりで、魔力感知すら出来て居ない。

そこで、ある程度は森から距離を取って、平原に建てるつもりである。


結局ベストな位置は、ピョン吉と出会った場所の近所になった。


この場所は腰の高さまで草が生えていて、非常に死角が多い。


当面テントに住むにしても家を建てるにしても、まずは草を刈る事から始めないとダメである。

ああ、元の世界の草刈り機とかあると便利なんだけどなぁ。


そう言えば、いつもバタバタする事が多くて、巾着袋の中身をまともに確認していないな。

せっかくだから、テントを建てるスペースだけ草を刈ったら、ジックリ中で見てみるか。


長剣を抜き、7m半径程のエリアの草を刈る。

視界が開けたのは良いのだが、ちょっと計算違いが。

この草だが、どちらかというと、ススキとか芦とかの様な茎が結構堅い植物で、半端に刈った結果、草の短い茎が剣山の様になってしまった。


なので、諦めて、鍬を巾着袋から取り出して、まずは、半径7mのエリアの地面をザクザクと耕し、そして切り株を全部引っこ抜いた。

何かに使える可能性もあるので、刈った草と切り株も全て収納しておいた。


耕してしまった地面を綺麗に平らにする必要がある。

そこで俺は、ちょっと森の入り口近くにあった大岩を思い出し、それを使って地面を固める事にした。


早速、大岩を収納して戻って来ると、手を上に掲げ、2mぐらいから落とすイメージで大岩を落とす。

ドゴン と大きな地響きがする。

また収納して、若干横にズレて、取り出す。

ドコン。これを延々と繰り返し、1時間程で、割と平らに踏み固められた地面が出来たのだった。


早速、テントを出して、ピョン吉と中に入る。

ピョン吉には、水と果物を出してやり、俺は巾着袋のリストに集中する。


初めて悉に見ると、本当に驚く様な品揃えである。

俺がこちらに来てから加えた物なんかは、1%にも満たない。


最初は名前順で見て居たが、色んな脈略の無い物が無造作に並んでいて、全然判りづらい。

そこで、表示方法を変えて、文字ベースの表形式にすると、2列目にカテゴリーがあったので、カテゴリーでソートを掛けてみた。


まずはカテゴリーだけ、どれくらいの種類があるのかをチェックすると、例えば、武器、魔法、錬金、アウトドア、生活、農業、林業、漁業……ともの凄く事細かく分類されていた。

で、だよ。面白いカテゴリーを発見したのだった。


当初は建築というカテゴリを探していたんだけど、まあ建築もあったにはあったが、それとは別に、建物というカテゴリーもあったんだよ。

なので、そのカテゴリーだけにフィルタをかけて、画像表示で見て見ると、あるわあるわ。

これから建てようと思っていた家の完成形が。


洋館、純和風、ロッジ風、リゾート風、宮殿風等、もの凄い数の建物が入っていた。

これには流石におどろいた。


俺は、思わず急いでテントの外に飛び出して、試しに、1つ純和風を出してみたんだけど、それはそれは素晴らしい日本庭園だった。


「…………」


あまりの素晴らしさに思わず言葉を失ってしまった。


一度収納して、今度はロッジ風の中のログハウスを出して見ると、これまた写真とは違ってもっと大きく立派だった。


そこで、まずは収納して、どれにするかをジックリ考える事にした。


テントの中に戻り、建物のカテゴリーを更にジックリ確認していると【城壁(大)】【城壁(中)】【城壁(小)】【城壁(小x1)】【城壁(小x2)】【城壁(小x3)】なる物も発見。

これらを確認すると、どうやら大は半径10km、中は半径5km、小は半径1km、小x1は半径500m、小x2は半径200m、小x3は半径100mであった。

つまり、あれだ、ドワースの街を取り囲んでいた様な城壁を、簡単に設置出来るという事である。


思わず俺は、

「凄いな。これは……。

女神様はどんだけ俺を甘やかせてくれるんだよ。

本当にありがたい。ありがとうございます。」

と上を見上げ、お礼を呟いた。


そこで、大きめの紙を取り出して、レイアウトを考える事にした。

本格的に住むとなれば、多少は広さがあって、余裕があった方が何かと良いだろう。

趣味で家庭菜園をする可能性もあるし、鍛冶小屋を建てる可能性もある。


という事で、定規とコンパスを出し、半径20cmの円を紙に描いた。

これを【城壁(小x2)】と仮定し、1/1000のスケールで配置を決めようという訳である。


各タイプの家の寸法に合わせ、ハサミで切り家のイラストを描いて、パーツを作る。

更に鍛冶小屋や、工作室も作る。


「後は何が要るかな? 畑? 一応倉庫とかもあった方が良いか。

フフフ。 なんかプラモデルを作っている感じでちょっと楽しいな。」



 ◇◇◇◇



それから3ヵ月が経ち、試行錯誤を積み重ねた拠点が完成していた。


結局自分の家をどのタイプにするかで悩んだ末、一度住んで見て、自分に合った物を採用する事にした。

やっぱり日本人として、畳のある生活には憧れるのであるが、純和風の庭園付きは、純和風だけに、雨戸等の管理が大変で、早々に断念。

テントの生活に慣れている事もあり、それに似た様な生活になる物を探した結果、洋館(中)をチョイスした。


(小)と(中)で悩んだのだが、もしかして、いつの日か、ガバスさんを招く事があるかもしれないし、レイアウト後に(中)→(小)は可能だが逆は無理というのが理由である。

それと、屋敷の中を一部改造し、建築パーツのカテゴリーにあった畳を使って、畳のエリアを作った。

これで、畳に寝転がるという、贅沢も可能となった。


屋敷と言えば、食料倉庫だが、実はどの屋敷にもキッチンに食料倉庫があって、驚く事にテントの食料倉庫と共通である事が判明した。

なので、家の食料庫に自分が追加した物を入れて置くと、出先のテントの食料倉庫から取り出せるのである。

おそらく、空間がリンクしている感じなのかと想像しているが、いやぁ~、実に便利だ。



屋敷の横には高さ30mの監視塔を設置し、万が一の際は、遠見が出来る様にした。


更に鍛冶小屋や錬金小屋や工作室、家庭菜園、井戸等を設置した。

屋敷の前には、噴水を設置した。

理屈は良く判らないのだが、水源も水脈も要らずで水が噴き出している。

井戸も同じ理由で普通に使えている。



更に、お礼を兼ねて神殿(小)と神社(小)を設置させて貰った。

まず神殿には、御本体カテゴリーにあった、女神エスターシャ様の像を設置した。

神社には、鳥居(小)を設置し、中に御本体異世界神という物を設置した。

『御本体異世界神』だが、実際に取り出してみたが、モヤッとしててなにやら形すら判らないのだ。

「そう言えば、ご神体って見た事が無いんだけど、神社にあるご神体ってどんな物なんだろうか?

やはり、祀られている神社神社で違うのかなぁ?」

と呟きつつも、もしかすると、自分自身が知らないからモヤッとした物なのかも知れないなぁと思うのであった。


という事で、どちらも定期的にお参りする様にしている。



神殿と神社の設置には、お礼というか感謝は勿論ベースにあるのだが、あわよくば、女神様や恐らく地球の神様に直接お目通りして、話しを聞ける機会が出来るのでは?という下心もあったのだが、そんな都合の良い話は無く、まあ普通に参拝して終わりである。

一人の生活は気兼ねが無いし、嫌な事も無いので快適ではあるのだが、人と言葉を交わす機会が無いので、独り言が多くなって困ってしまう。


まあ、救いは、ピョン吉が一緒に居る事だ。

ピョン吉は実に賢くて、どうやら俺の喋る言葉を理解していると思う。

聞くとイエスかノーかをちゃんと意思表示するし。


日々の日課では、家庭菜園の他に、剣を使った素振りや、魔法の訓練を欠かさずに行っている。

そして、先日やっと魔力感知に成功した。

体内にある魔力の塊をボンヤリと理解出来る様になったら、その先は意外に早く、ピョン吉やピョン吉が配下にしているホーンラビット10匹の魔力もボンヤリ感知出来る様になった。

しかし、これはボンヤリなので、まだまだ修練が必要である。



季節は夏が終わり、秋に差し掛かっている。



冬がどれだけ寒くなるのかは不明だが、一応念のため、薪集めをしておいた方が良いだろうと、最近は時々森へ行って、倒木を集める様にしている。

そこでは、茸等も見つけ、食べられるか判らないが、一応採取して巾着袋に入れている。

森に入ると、どうしても魔物との戦闘になる事が多いが、ここ魔宮の森の手前辺りに出て来る様な魔物では、特に苦戦する事は無い。

更に最近は、気配を殺すのも上達し、魔力感知も出来る様になったので、徐々に敵の方角や距離が把握出来る様になって来ている。


何か目に見えて習得出来ていくって、ヤル気を起こさせるよね。

しかもやればやるだけ、実力が付いて来て、更に新しい発見とか、その意味とかも判る様になるし。

前世では、武道はおろか、全くスポーツや運動なんかに興味すら無かった事を考えると、俺自身大きな進歩なんじゃないかと思う今日この頃である。



魔物と言えば、街で食べたオークの串焼きを思い出して、自分自身で初めてオークを解体し、焼き肉をしてみた。


これが美味い美味い。

ハーブを混ぜたハーブソルトで食べるも良し、醤油とみりんと砂糖と日本酒を混ぜたタレで付け焼きにしても美味い。

なので、実戦訓練を兼ねて、積極的に狩りも行う様にしている。

だから、狩った魔物はゴブリン以外、余さずに巾着袋に入れて持ち帰っている。

あ、昆虫系の魔物も持って帰ってきているけど、これは食べて無い。 多分この先の錬金なんかで役立つんじゃないかと思って、巾着袋に死蔵している。


魔物の肉に関しては、消費は俺とピョン吉とその配下ぐらいなので、貯まる一方ではあるが。




秋が深まり、気温が下がって来た。

倒木を切り刻み、薪にして薪置き場にしている倉庫で乾燥させている。

家庭菜園では、収穫を行い、残るは芋類ぐらいだ。

尤も、家庭菜園で育てているのは、元の世界の物なので、この世界の物ではない。

こんな事なら、ドワースでもっと色々買っておけばよかったと後悔したが、まあ今更だな。



一応、暖炉はあるが、屋敷全体が温かいので、全く暖炉を使って居ない………。

薪は沢山あるのに、殆ど野外以外では使う機会が無い。


この屋敷にも、自動で温度を調節してくれる機能が付いているので暖炉もあるけど、別に必要性がなかったりする。

ただほら、日本人としては暖炉って一時期憧れたりするでしょ? 特にクリスマスシーズンとか。

だから、一度は寒くなったら暖炉に火を灯してみたいと思って居る訳だ。

なんか、暖炉の火を見ながら、コーヒーやお酒を飲む風景って、良く無いか?と。


そうそう、屋敷の不思議と言えば、もう一つ。

部屋も台所もリビングもだが、塵一つ見つからない。

普通、使って無い部屋は、いつの間にか埃が堆積していたりするが、この屋敷にはそれが無い。

窓ガラスにしたって、汚れ付かないし、もしかして、これも自動で清掃される感じかも知れないな。




冬になった様だ。森の木々は葉を落とし、寒々しい感じである。

森の中ではミカンと柿を発見したので、収穫しておいた。


食べてみたが、柿は渋柿ではなく、実に甘かった。

そう言えば、以前採取して、巾着袋に入れていた茸類だが、意外な所で食用か毒があるかが判る事が判明した。


巾着袋に入れると、リスト表示されるのだが、ピックアップして詳細を表示すると、プロパティ画面の様に別のパネルで写真付きで表示され、食用とか毒有りとかその毒の症状とかまで表示されるのである。

またフィルタリングで食用だけとかでも分類可能である。


「なんだよ、もっと早く気付けば良かった。」


お陰で、その茸を食材に使い、畳のエリアでコタツでは、卓上コンロで一人鍋を楽しんだりも出来る様になった。

最後の締めの雑炊が美味い。


そうそう、この畳のエリアなんだけど、この屋敷って広いから、空いたスペースの部屋の隅に畳を8枚敷いて、その周囲を取り囲む様にタンスを配置して作ってあるんだよね。

やっぱり、なんか限られた空間の畳って落ち着くんだよねぇ。



食料庫に入っている日本の和牛やブランド豚も美味いのだが、肉や野菜に関しては、特別な事が無い限り、こちらの世界産の物の方が美味い気がする。

なので、春になったら、もうちょっと近辺からこちらの世界の野菜とかを見つけて、本格的に家庭菜園を行おうかと思っている。

まあ、ドワースに行けば種とか種芋とか色々入手出来そうだけど、もう行く気にはならないなぁ。

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 メンテナンスを行い、一部文章の改善等を行っております。基本的な内容には変更ありません。(2020/05/21)


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