第18話 すれ違い (改)
「おう、ガバス居るか?」
「あら、ギルドマスターじゃないですかぁ~。 先程戻りましたので、少々お待ちを。」
「店長ぉ~、ギルドマスターが来てますよ?」
と店の奥に声を掛けるツインテールがトレードマークの看板娘。
奥から出て来たガバスさんが、
「おお!ギルドマスターじゃないか。久しいな。ガハハ。」
と笑いかけるが、ギルドマスターの表情は硬い。
「ん? どうした、何かあったのか?」
「実は、ケンジの事だ。うちの職員がヘマして、ギルドを追い出しちまって、街を出た。」
とギルドマスターが悲痛な顔で告白する。
「あ!そうだ、店長、今から2時間ぐらい前に、そう言えばホーンラビットを抱いた今朝の少年が、『街を出て山に戻ります。ありがとうございました。』って伝言残してましたよ。」
とツインテールが言い忘れた伝言を伝える。
「なんだってーーー! 何故もっと早く言わない!!」
と思わず声を荒らげるガバスさん。
「かぁ~……やっぱりか。おい、ガバス、お前あのケンジを何処で拾った?」
「いや、それを口で伝えるよりも、俺が行く!!
俺が冒険者ギルドを勧めちまったんだ。」
と悲し気な顔をするガバスさん。
「いや、ギルド側の落ち度で、お前の所為じゃない。
悪いが俺も一緒に乗せて行ってくれないか?」
「判った! 15分で用意する。」
とガバスさんが、バタバタと馬車や食料の用意をし始める。
サンダーさんは、西門の方を見つめ、大きなため息をつくのであった。
10分で用意を終え、早速馬車に乗り、西門を目指す。
途中で見つけたギルドの職員に、取りあえず、心当たりを探しに西門の外に出る事を伝え、緊急依頼は継続する様に指示した。
◇◇◇◇
馬車に揺られ、2つの月明かりで照らされた街道を西へと目指す。
「なあ、ガバス、ちょっと疑問に思うんだが、そもそも西に山ってあったか?」
とサンダーさん。
「ん? そう言われりゃ、確かに西には、魔宮の森と魔絶の崖だな。」
「うん、だよな。
知ってるか知らないが、関係者だし、必要だから聞くが、お前、あいつが、災害級のブラッディ・デス・ベアやダーク・ハンター・ウルフとかSランク~SSランクの魔物を持っていたの知ってるか?」
と。
「……… いや、何か色々持ってるのは知ってたが、そこまでとは流石に聞いてなかった。」
と言って無言になる。
「で、今進んでいる方向と、持ってた魔物を合わせて考えて見たんだが、そうすると、あり得ない様な答えが出て来るんだよ。
笑ってくれよ。 あいつの言ってた山って魔絶の崖の中なんじゃねーかってよ?」
「………………」
「………………」
「笑えねぇな。あり得るぞ。 気付けば、独りぼっちで居たって言うし、全くこの国やこの世界の常識なんて知らなかったからな。
言葉は喋れるが、字は読めなかったし。」
「え? あいつ普通に字を読み書きしてたぞ?」
「ああ、それは俺が馬車の中で教えたんだよ。」
「じゃあ、何か? あいつは字の読み書きを1日ぐらいで覚えたってか!?」
「ああ。」
「………………」
「………………」
無言の2人を乗せた馬車は、街道を進んで行く。
しかし、残念な事に、既に20分程前、ケンジが街道を逸れた地点を通過し、只管街道沿いを探していた。
翌日の昼には、健二を拾った地点へと到着したが、健二の姿は発見出来なかった。
「なあ、ケンジを見落としたって事は無いよな?」
「ああ、馬車を操縦してた一睡もしてねぇし、見落としは無かったと断言出来るな。」
「歩きだよな? それ程先に進んで居るとは思えないのだが。」
「ああ、本当なら、遅くとも夜明け前には追いつけている筈だ。」
「「あぁぁぁぁーーー!」」と2人のオヤジが頭を抱え悶絶するのだった。
まあ当然の様に、緊急依頼を請けた冒険者達も発見する事はなく、結局捜索は5日間で打ち切りとなった。
その間に入って来た健二絡みの情報は、全て東の街道をキラー・ホーンラビットと信じられないスピードで疾走していたという情報ばかりであった。
冒険者ギルド ドワース支部は、この不祥事を公表し、深く謝罪した。
また、女性の花形職として人気のあるギルドの受付嬢職だが、高給取りでチヤホヤされるからと、いい加減な気持ちで働かない様にという教訓を残した。
この事件で、新人(と言っても職歴1年以上)は、失職どころか、多大な賠償金を背負う羽目となり、実家は売却され、家族もそれ相応の借金を負う事となった。
当の本人は借金奴隷に落ち、ギルドへの賠償金に当てられた。
ギルドは、健二のギルドカードを失効させる事無く、ギルドからの賠償金も加算し、先のオークションに出された、ブラッディ・デス・ベア等の買取金額を合わせてギルドカードの口座へと入金し、保管する事となった。
一方、ガバス商会は、健二との契約で販売し始めた文字表と意味文字カードがバカ売れし、グングンと急成長して行く。
しかし、ガバスは、契約を違える事なく、健二の商業ギルドカードの口座へと、その売り上げの10%を振り込み続けた。
雷光の宿では、健二が提案した自然酵母によるふっくら柔らかいパンが大ブレークし、もの凄い客入りとなる。
わざわざパンを食べに高級宿へと王都や隣国から泊まりに来る程。
そこで、宿だけでなく、専門のパン屋まで作り、庶民へも販売を開始した。
それがまたまたブレークし、連日、売り切れご免のパン屋に長蛇の列が出来る程であった。
ジェイドは、宿もパン屋も含め、パンの利益の10%を同様に商業ギルドの口座へと振り込み続けた。
つまり、健二本人は全く知らないうちに、冒険者ギルドの口座と商業ギルドの口座には、下手な領地の年間予算以上の金額が入っていたのだった。
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メンテナンスを行い、一部文章の改善等を行っております。基本的な内容には変更ありません。(2020/05/21)
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