第17話 ギルドの失態と焦り (改)
十分にドワースから離れた事で、少しだけ、心も落ち着きを取り戻した。
「今日はここらで良いか。」
とピョン吉に同意を求め、テントを取り出す。
テントの中に入ると、やはり落ち着く。
「確かに雷光の宿も素晴らしいとは思うが、これに比べちゃうとなぁ~。」
と苦笑い。
湯船にお湯を溜め始め、その間に軽く遅めの夕食を取った。
「ぁぁあ~。堪らん。」
「キュキュゥーーーー」
と湯船肩まで浸かり、オッサン臭い呻きを漏らす1人と1匹。
「まあ、食うには困らないし、魔法の初級編に関しては、写本させて貰ったから、特に街に居る必要はないんだよね。
しかし、ズッとテント暮らしってのも味気ないよなぁ。
ああ、心落ち着く家が欲しいな。どう思う?」
「キュッ!」
「そうか、やっぱりそうだよな。
そう言えば、誰の領地でも無ければ、開拓者の持ち物になるって言ってたな。
そうか、自分で開拓しちゃえば、全然OKだよな。」
と新たな方向で目標を定めるのであった。
時間は遡り、ギルドのロビーで列に並んだ健二の順番が巡って来るほんの数分前、健二の並んだ列の隣の隣が、あのオーガの討伐依頼を勧めたお姉さん……ジュリーであった。
しかし、タイミング悪く、お姉さんはギルドマスターの許可を貰う為に、席を外していた。
更に運悪い事に、一階のフロアーでは、一番事情を理解している、買取カウンターに居たロジャーさん(実は副ギルドマスター)も、倉庫へと席を外しており、この騒動には気付いて居なかった。
真っ先に異変に気付いたのは、新規登録とオーガの討伐を勧めたジュリーだった。
ギルドマスター室からカウンターに戻ると、異様な雰囲気に包まれたホールと、1つ席を離れた新人の受付嬢がプンプンと怒気を撒き散らしている。
そして、隣の同僚に
「ねえ、雰囲気変だけど、何かあったの?」
と聞いてみた。
すると、
「ああ、何か偽造カードがどうのとか、何がオーガだ! とか、文句言って、新人一人のカードを没収して、叩き出してたみたいね。
私もバタバタしてたから、あまり詳しくは判らないんだけど。」と。
「ええ? それって、もしかして、ケンジ君じゃないの?」
「え? いや、Cランクとか言ってたから、あの子じゃないわよ? まあ顔は見てないけど。」
「ええええーー! 何言ってるの、今朝再度通達あったでしょ? 極秘でFランクからCランクにギルドマスターが上げたって話。あれがケンジ君よ?」
と焦るジュリー。
取りあえず、その隣でプンプンしている、新人の受付嬢に居ても経ってもおられず、声を掛けた。
「ねえ、サティー、貴方が没収したって言う、ギルドカードを見せて。」
「ああ、ジュリーさん、聞いて下さいよ。全く本当に可愛い顔して、カード偽造ですよ。
おまけに昨日登録していきなりCランクとかバカにしてますよねぇ。
極めつけは手ぶらでやって来て、オーガを倒して、全体持って帰って来たから、討伐証明部位を切り離してないとかって言い訳ですよ?」
そして、差し出されたギルドカードと依頼書は、間違い無くケンジの物であった。
「サティー、貴方何て事をしてくれるの!!!!」
と思わず大声で叫んでしまう。
「あの子は確実に間違い無く、Cランクなのよ?
今朝の朝礼で再三伝達されたでしょ?」
と続けた。
そして、その声を丁度健二の昨日提出した買取査定が終わり、席に戻ったロジャーさんが拾った。
「えええ? 一体どう言う事態?」
と実にデリケートなキーワードを聞き付けて、慌てて2人の受付嬢の所へとやってきた。
事情を聞いたロジャーさんは、真っ青になり、2人の受付嬢を伴って、ギルドマスター室に雪崩混んだ。
ギルドマスターのサンダーさんは、全盛期の自分を凌駕する程の実力を持つ、期待の新人を得た事で、久々に上機嫌であった。
取りあえず、Bランクに推薦可能な依頼も請けさせた様だし、上手く上位種が混じってくれてれば、一気にAランク推薦も可能だと、フンフンと鼻歌交じりだったのだが……。
「ギルドマスター、大変です。
サティーがヤラかしました!!!」
と受付嬢2名を従えたロジャーさんノックもせずにが駆け込んで来る。
そして、内容の一部始終を聞いたサンダーさんは、
「バカ野郎!!! 何やってくれたんだーーー!!!!!」
と叫び、膝から崩れ落ちた。
「俺は独りぼっちで住んでた山に戻ると言うあいつを、守秘義務を守るって事で、必死に止めたんだぞ?
だから、そんな俺達を信用して、やっとの思いでCランクに上がる事を了承させたのに、ナニヤチャッテルノ?」
余りの怒りに後半片言になってしまう、サンダーさん。
「お前朝の朝礼で再三伝達した事、聞いて無かったの?」
とサティーさんに詰め寄る。
「え? いえ……私低血圧で、朝はあまり頭が回らないって言うかぁ~。」
と言い訳にもならない言葉を返すサティー。
「で、肝心のケンジはどうした? ちゃんと確保したのか?」
と思い出した様に聞くと、
「いえ、今発覚したばかりでして。取り急ぎご報告に来ました。
今から手分けして街に探しに行かせます。
最悪ギルドからの緊急依頼扱いでも良いでしょうか?」
とロジャーさん。
「ああ、それで良い。兎に角急げ!! で、奴の宿はどうなってる?
昨晩は雷光の宿だったが、連泊か?」
「あ、昨日私が小麦亭とおいしん坊亭を勧めましたので、今日はそのどちらかでは無いかと。」
「じゃあ、その3箇所と、後は、4つの門へケンジが出て行ってないかを確認してくれ!」
とサンダーさんが指示を飛ばした。
「大丈夫ですよぉ? 幾らなんでも、この時間から門の外には出ないのでは?」
とまだ事態の大きさを理解していない風のサティーが口を尖らせて言う。
「バカ野郎、まだ事態の大きさを判ってねーよーだな。
あいつは、SSランクを超える器なんだよ。
暗かろうが、明るかろうが、関係ねぇーんだよ。昨日だって、暗くなってからでも門の外で寝るとか、言ってたぐらいだぞ?
それに、どんな辛い思いをしたのかは知らねえが、兎に角目立たずに穏便にしてくれと。
守秘義務を守ってくれと言ってたのに、お前はそれを全部ぶち壊したんだ。
これは冒険者ギルドの内規に抵触するばかりか、冒険者ギルド全体の信用にも関わる話だ。
お前、働き始める時に、冒険者ギルドの規約にサインしたよな? 内容と処罰はちゃんと頭に入ってるのか?」
と追い込んだ。
「あ、あ……」
と急に事態の大きさを理解したサティーさんが、青い顔でガクガクと震え出した。
「おい、ステファニー、悪いがサティーを何処か資料室辺りに隔離して外に逃げない様にしておいてくれ。
処分はまず、ケンジを確保してからだ。」
と告げた。
腰から力が抜け、ヘナヘナと床に座り込んだサティーをステファニーが引き摺って、資料室に入れて、閉じ込めた。
「あらあら、あの可愛い坊や、傷付いちゃって居なくなっちゃったの?
それはダメだわ! あんな逸材が!!(ロジャーさんの言う逸材とは違う意味で)」
と拳を握り絞めるステファニー。
一足先に雷光の宿から戻って来た職員が、既に今朝チェックアウトした事を伝えて来た。
次においしん坊亭にはチェックインしてない事が判明した。
一番ギルドから遠い小麦亭から戻った職員は、つい先程、1時間前に、急遽キャンセルを言いに来て、そのまま返金も受け取らず、何度も頭を下げて、寂しげに出て行った事を伝えた。
「おいおい、ヤベーな。既に街から出ちゃったんじゃなねぇか? 門の方はどうなってる?」
「はい、まだ確認が取れておりません。往復の距離を考えると、あと15分ぐらいは掛かるかと。」
「そうか、遠く離れちまったら、もう二度と捕まえる事は出来ない可能性が高いな。
そう言えば、誰かと一緒にこの街に来た様な事を言っていたな。
多分、道中で馬車に乗せて貰ったんだろうな。誰だろうか?
話しっぷりだと、街の住人で、冒険者の内情にも詳しい可能性があるな。出て行った門が判ったら、その門に昨日ケンジを乗せて来た奴の名前も確認させてくれ!」
とロジャーさんに指示した。
冒険者ギルドだが、一番近い西門から、職員が息を切らせながら、戻って来た。
「ハァハァ……、キ、キラー・ホーンラビットを抱えた少年が、ハァハァ……西門から約1時間30分程前に出て、ハァハァハァ、行ったと門番が。
ハァハァ、で、その少年 ハァ は、昨日、西通りのガバス商会のガバスさんと、やって来た…との事でした。」
と予想以上の情報を一気に持って来てくれた職員を労いつつ、一気に冒険者を動かす事にしたのだった。
元冒険者であるガバスさんをサンダーさんも、ロジャーさんも知って居た。
とある事故を切っ掛けにガバスさんが引退し、それまで稼いで貯めたお金を元手に、今のガバス商会を始めたのだ。
サンダーさんは、ロジャーさんに冒険者への緊急依頼を任せ、ガバスさんに逢いに行く。
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メンテナンスを行い、一部文章の改善等を行っております。基本的な内容には変更ありません。(2020/05/21)
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