第16話 オーガ討伐とトラウマ (改)

地図の通り、森に入って行く。

まあ、こう言う時に頼りになる様な周辺感知能力や、自分の気配を消す様な能力なんかは持って無いが、音を立てない様に、極力気配を消す事をイメージしつつ、ソッと歩いて行く。

勿論、耳や目、そして第六感までも(気分だけは)全開である。


その点、ピョン吉は流石で、俺よりも気配を消すのが上手い。

飼い主として、ペットに――いや、マスターとして従魔に笑われない様に頑張る。



森の中に入って、約1時間が経過した。

大体、目撃報告のあったエリアに到達したが、今のところオーガは見つからない。


しかし、良く見ると、木々の3m~4mの辺りの枝が折れて居たりするのを発見した。

腐葉土で落ちた葉っぱで足跡は見えないが、どうやらオーガの通り道で、間違い無い……と思う。


もうちょっと、何かレーダーの様な索敵に使えるスキルとか、魔道具とかあれば良いのにな。

あとは、映画の宇宙人が使って居た様な光学迷彩とかも良いよねぇ。



暫く、木の枝が折れて居る部分を追って進んで行くと、少し先行しているピョン吉が、立ち止まり、こっちを振り返って、何か合図を送っている風である。


「(どうした? オーガを発見したのか?)」

と小声で聞くと、首を縦に振っている。

俺も、必死で気配を探ろうとするが、まだ俺ではピョン吉先生の域には届かなかった。


しかし、ピョン吉の指し示す方向へ、静かに進んで行くと、俺にさえ判る程の気配を感じた。


大した強さというか、強者の気配は感じ無いが、木々のかなり先の方から、何かが居る気がする。


俺達は、更にソッと近付く。


幸い、気配のあるのは、風上である。



50mぐらい進むと……見えた! ほー、あれがオーガか。



4m前後の大きな赤いっぽい皮膚の巨体に、頭部は角が2本生えている。

顔は口が大きく裂けていて、獰猛な牙が見えて居る。

オークとは明確に違い、全身が筋肉に覆われて居て、見るからにマッチョな奴だ。

どちらかというと、赤鬼っぽい感じ。


しかし、凶悪な見かけとは裏腹に、赤い熊と対峙した時程の危機感は全く感じ無い。

確かに、オークやオーク・ジェネラルと大差無い気がする。

しかし、油断は禁物である。


目の前の3匹を取りあえずヤル事に集中する。

ユックリと長剣を抜き、一気に全力で駆け抜け、最初の1匹の足をすれ違い様に切断し、その回転のまま右後方に居たもう1匹の足も横薙ぎの一振りで、ほぼ切断した。


「「ガァーーーー!!」」

と足を斬られたオーガの悲痛な叫び声が、森に木霊する。

無傷のもう1匹は驚きつつ、慌てて、棍棒を持ち上げようとしているが、そうはさせない。

そのままくるりと方向転換して、3匹目を目指して踏み込み、上段から振り下ろして、手首を切り落とし、その勢いのまま一回転して脹脛を右から真横に切断した。

「ガァー!」

と3匹目も悲鳴を上げる。

俺は倒れ込んだ3匹の首を切断し、トドメを刺した。


一気に静寂に包まれる森の中。

ちょっと返り血を浴びてしまい、実に不快である。

血振りをして、剣を鞘に収め、3体の遺体を回収した後、水で返り血を洗い流した。


ピョン吉もこちらに近寄って来たので、血の跡を踏む前に急いで抱き上げる。

「ありがとうな。後4匹はオーガが居る筈だが、気配は感じるか?」

とピョン吉先生にお伺いを立てると、暫くの間、耳をピンと立てて周囲を見渡して、一方向を指して、キュイと鳴いた。


ふむ、あっちの方角か。

回答を聞いて、俺も必死に気配を探ってみたのだが、やはり俺にはまだ感じ取れる物はなかった。



戦闘のあった場所からピョン吉の指示する方向へと進む事100m、俺でも判る程に殺気だってこちらに向かって来る気配と物音を複数察知した。

何か木の枝とかバキバキと折りながら突き進んで来ている様で、慌てて飛び立つ鳥とかの鳴き声や、ギュアーとか何かの鳴き声とかがドンドンと近付いて来ている。

どうやら、先程のオーガが放った断末魔の叫び声を聞きつけ、援軍に駆けつけてきた様だ。


俺は戦闘する為の場所を素早く探し、右斜め前方に発見したちょっと開けた空間で、迎え撃つ事にした。



しかし、人生とは不思議な物だ。

前世では元妻が鬼の様な顔で、ヒスを起こして怒鳴られただけで、ブルっていた俺が、本物の鬼を目の前にしても怖くないんだもんなぁ~。

ハハハ……と思わず渇いた笑いが零れる。



ピョン吉を木の陰の地面に置き、剣を抜いて、正眼に構え、少し腰を落として準備をすると、10秒もせずにオーガ4匹が棍棒や大剣を片手に、正に鬼の形相でつっこんできた。


「グガーーーーー!」

と真ん中の1匹が吠えると、「「「ガガーー!」」」と返事をして、3匹が俺の後ろに回り込もうとする。


俺は、瞬時に左側から回り込もうとする、1匹の足を切りつけたが若干浅かった様で、再度その場で一回転してもう一度横薙ぎの一閃を放った。

そして、その1匹が倒れるより早く、右側に回り込む2匹の方へと駆け寄り、1匹の振り下ろす棍棒を掻い潜って、太ももを大腿骨に達する程の傷を負わせた。

残念な事に、棍棒による一撃の回避で、剣筋が流れ、こちらも一撃で切断するには至らなかった。


しかし、そのまま勢いを活かして回転し、左足首を切断した。

もう1匹も慌てて対応しようと棍棒を振り上げるが、その動きは非常に遅く(感じただけ?)、先に俺の横薙ぎの一撃が左膝下に直撃し、サクッと綺麗に切断した。


「「「ギョガーーーーーガガガ」」」

と足を斬られ倒れた3匹の悲鳴の中、真ん中の大剣を持つオーガが両手で大剣を構えて、こちらに掛けて来る。

そして、「グォーー」という気合いの入った雄叫びと共に、大剣を袈裟斬りに振り下ろして来た。

流石に、この一撃を剣で受けるのは悪手だと思い、右を抜ける様に、太ももに斬り付けると、スパッと斬れて、その勢いを支える事が出来ずに、前のめりに倒れ込んだ。

俺は、瞬時にターンして、最後の1匹が体勢を立て直す前に、上段から構えた一撃で、横から目の前の首を切断した。

頭部が下に落ちると共に、勢い良く四つん這いになった巨体の首から緑の血が勢い良くドピュードピューと噴き出す。


そして、地面でグアーガーと呻き声を上げている足を失ったオーガ3匹の首も刎ねて、トドメを刺した。


「ふぅ~、これで4匹、合計7匹か。」


4匹の遺体も回収して居る時に、例の全身がむず痒い感じと力が漲る感覚があった。

オーガの討伐で、レベルが上がったらしい。


その後、ピョン吉にオーガの気配を探して貰ったが、反応がないという素振りを見せる。


念のため、オーガがやって来た方向へと暫く進んで行くと、オーガの巣というか、粗末な屋根だけの塒を発見した。

何かの骨が散乱していたが、特に冒険者等の装備は無かったので、この骨の中に犠牲者は居ないのだろう。


うむ。一応、他の魔物が住み着かない様に、粗末な小屋をぶっ壊して廻り、街道の方向を目指して森を駆け抜けた。


途中、ゴブリンの群を発見したので、これも殲滅した。

ゴブリンは討伐部位を剥ぎ取り、魔石を抜き取った。


しかし討伐自体は良いのだが、一番面倒だったのは、このゴブリン達の亡骸の処分である。

放置すると、余計な魔物が寄って来て、繁殖したり、変な病気の元になるので、ちゃんと処理する必要があるらしい。

実に厄介である。


通常は燃やすのが手っ取り早いらしいが、森の中という事で、Bプランとして穴を掘って埋める事にした。

結局、20体の遺体を埋める穴を掘る羽目になり、20分程余計に時間が掛かってしまった。

討伐しに来たのに、何故か土方をやるという、一見全く別の内容をやっている事に矛盾を感じるが、それを含めてがワンセットなのだとか。

他の冒険者達はどうしているんだろうか? 森の中でも燃やしたりしているのかな?

そして、やっと穴の中にゴブリン達の亡骸を放り込んで穴を埋めて終了。



という事で、森の中でトータル2時間半程を費やしたが、何とか街道へと戻って来た。

森の外で30分程の休憩を取ってから、来た道をドワースへ向かって駆け抜けたのだった。



 ◇◇◇◇



午後5時過ぎに、東門から街へ入る。


「いやぁ、今日は結構良い運動になったな。」

とピョン吉に声を掛けると、ピョン吉も「キュイ!」と同意してくれた。


ピョン吉と2人で街の中を歩いていると、やはり結構な数の視線を感じる。

ピョン吉が可愛いから目立つのかも知れないな。



5時半には冒険者ギルドに辿り着き、中に入ると既に多くの冒険者が依頼から戻って来て、カウンターに列を作っていた。

殆ど無人の昼間とは違い、目立たない様に気配を殺し、ソッと空いてる列に並んだ。


やっと順番が巡って来たので、ギルドカードと、依頼書を提出し、依頼の完了を報告する。

受付のお姉さんは、昼間の人とは違う人で、この人は黒髪を後ろでアップにして結んでいて、ちょっと日本の美人OLを思い出す感じ。

なんだか、懐かしいなぁ。


「はい、ケンジ様……えーっと、オーガ討伐ですね。

では、討伐証明部位の提出をお願いします。」

と言われ、ハッと思い出した。


いかん、討伐証明部位は切り離してないな。どうしよう。


「(あー、すみません。討伐証明部位は切り離さず、そのまま持って帰ってきちゃったんですが、ここじゃ出せないので、地下の倉庫で確認して貰えますかね?)」

と小声で聞いてみた。


「え? どう言う事でしょうか?

そう言ういい加減な事では困るのですが。」

と忙しい時間帯という事もあり、一気に殺気立つお姉さん。

あっちゃーー……どうしよう?


そこで、困ってしまい、

「あー、じゃあ、他の職員の方にお願いするので。お手数掛けてしまい、申し訳ありません。」

と謝って、ギルドカードと依頼書を返して貰おうとするのだが、何かスイッチが入ったらしく、カードも依頼書も返して貰えない。

そして、トーンを上げて、お小言が始まった。


長年の経験から、こう言う状況の女性は自分の怒りで益々ヒートアップして行く事を知っているので、冷や汗が止まらない。


「大体、何ですか貴方は。

そんな若さでCランクとか、巫山戯るのもいい加減にして下さい。

何がオーガ討伐ですか!!」

と声を荒らげる。


周りでガヤガヤとしていた冒険者達も、お姉さんのキーキー声で思わすシーンとしてしまい、俺の情報がダダ漏れになってしまった。


そして、

「あれ?あの子、昨日の子じゃない?」

「あ、本当だ。あれ?あの子って昨日登録したばかりよね?」

「いや、今Cランクがどうとか、オーガ討伐とか聞こえたぞ?」

「え?何何? 早速ギルドカードの改竄か何かやらかしちゃったのか?」

とヒソヒソし始める。


更にヒートアップしたお姉さんは続ける。

「それに貴方、ギルドカードによると、昨日初登録となってますが、何も実績の記録が無いのに、何でCランクなんですか?

おかしいですよね? このギルドカードは無効です! 衛兵に突き出されたく無ければ、さっさと消えて下さい。」

と言われてしまった。

ヒスった女性の声に完全に動悸が荒くなり、ハァハァと息が苦しくなってしまう……。


ああ……俺、やっぱダメだ。


「えーー!? あの子あんなに可愛い顔をしてるのに、偽造しちゃったの?

ガーーン、お姉さんショックだわ。」

「あらら、坊主。残念だったな。期待してたのに。」

と言う声がグワングワンと耳鳴りの様に聞こえる。


俺は、居たたまれなくなり、ジリジリと後退りつつ踵を返し、冒険者ギルドを後にしたのだった。


「はぁ~……ピョン吉。やっぱり俺に街は無理だった。一緒に森に帰るか。」

とトボトボ歩いて行く。



何か、ヒスを起こす受付嬢の黒髪のお姉さんと、年格好は違うが、最悪の仕打ちをしてくれた元妻の形相が重なり、完全に気持ちが萎えてしまった。

やっぱり、女は怖いわ。



小麦亭へと立ち寄り、泊まるのをキャンセルし、「こちらの都合ですから。」という事で、返金は辞退した。

お世話になったので、お別れの挨拶をとガバスさんのお店に寄ったのだが、外出中との事で不在だった。


なので、ツインテールの女の子に

「では、訳あって、元居た場所に戻るので、宜しくお伝え下さい。

そして、良くして下さって、ありがとうございました。とお伝え下さい。」

と伝言を頼んで置いた。


ピョン吉が「キューー?」と心配そうな表情をしてくれているが、ピョン吉をモフっても気分は持ち直せなかった。


西門からドワースを出て、西へと歩き始める。

辺りは夕闇に包まれ、徐々に星が瞬き始める。


暗くなった事で、人通りも馬車も居なくなった街道をトボトボと歩いて行くが、一直線に戻りたくて、徐々に街道から山の方へと逸れて行った。

そして、途中からは走り出し、更に3時間程進んだ所に、平原を見つけて立ち止まったのだった。


 --------------------------------------------------------------------------------------------

 メンテナンスを行い、一部文章の改善等を行っております。基本的な内容には変更ありません。(2020/05/21)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る