第15話 初めての依頼
ギルドのホールに入ると、昼近い為か、殆ど冒険者の姿は無く、併設された飲食コーナーに数組の冒険者が居る程度であった。
なるほど、この時間だと人が少ないのか。ある意味狙い時だな。
受付カウンターを見ると、昨日のお姉さんと目があった。
お姉さんがニマニマしながら、手招きしている。
その指使いが、何とも昔懐かしの某リンダの振り付けに似ていて、思わず吹きそうになってしまった。
全く、困っちゃう だ。
「どうも、こんにちは。昨日はありがとうございました。」
とお礼を言うと、
小声で、
「(ケンジ君、聞いたわよ、一気にCランクになったんだってね。)」
とウインクする受付のお姉さん。
気さくな感じで話掛けてくれるのは良いのだが、何となくウッカリ余計な事を人前で言いそうで怖い。
「はぁ、まあ。」
と少し苦い顔をして、気のない返事をすると、察してくれたらしく、
「(ああ、ちゃんとギルドマスターから余り大ぴらにならない様にと全職員に伝達されているから、安心してね。)」
と慌てた様に言い訳をしていた。
「はい、宜しくお願いしますね。」
「で、今日は何か依頼をお請けになりますか?」
と切り替えた感じで、今度は普通に聞いて来た。
「えっと、今日は昨日の買取の件の査定が終わっているかの確認と、あと資料室に魔物図鑑とかあると聞いて、少し魔物の情報を見てみたくて来ました。」
と答えると、
「あら、残念。丁度良さそうな依頼あったんだけど、まあ勉強も大事よね。
資料室は、誰かスタッフに声を掛けてから使ってくれれば、大丈夫よ。
あと資料の持ち出しや、汚したり破損する行為は厳禁なので、気を付けてね。
最悪、弁償や降格、除名なんかになるからね。
もし、資料室に誰も居なくて、鍵が掛かってたら、お手数だけど、スタッフに声を掛けてくれれば開けるから。
今日は1人、資料室に籠もっている子がいるから、開いてるわよ。」
と。
「なるほど、ありがとうございます。
ところで、そのお薦めの依頼ってどんな感じのなんですか?」
と聞いてみると、俺がやって来た時に使ったのは、西門だが、東門から出て3時間程の街道沿いから森に入った辺りで、オーガという角の生えた魔物の目撃報告があったらしい。
5匹から、場合によっては、小さな群になっている可能性があるらしい。
通常なら、オーガ単体の場合、最低Cランクで、群の場合、数にもよるけど、Bランク~Aランク相当になるらしい。
現在高ランクの冒険者は他の依頼を受けていて、丁度空いてる冒険者が居なかったそうで。
そんな折、俺がCランクになったので、ギルドマスターが丁度良いじゃないかという、鶴の一声があったそうな。
「そのオーガって強いんですか?」
と聞いてみると、
「そうね、私自身は冒険者じゃないから、一般的な知識として言うと、オーガは素早くはないけど、滅茶苦茶堅いって聞いてるわ。
皮膚がね、ちょっとやそっとじゃ、斬れないらしいのよ。
で、力もあるし、中には剣や武器を使う奴の居るらしいのね。
攻撃スキルを持ってるって言われてるわ。
まあ、一般的には、オーク・ジェネラルの1.5倍くらいの強さって言われているわね。
オーガは、堅さと頭の賢さがオークの比じゃないのね。」
と。
この依頼は基本依頼料金+討伐したオーガの数×10000マルカの報酬らしい。
「討伐証明部位が必須だけど、もし少しでも本体を持って帰って来られる様なら、それは別途買取対象よ。
オーガの皮は耐久性も対物理攻撃耐性も抜群なのよ。
その上軽いから、皮鎧とかの素材として高値で取引されているのよね。
どう? 少しは気持ちが動きそう?」
「なるほど。で、その依頼の最低達成条件は?」
「フフフ、良いわね。その慎重さ。
まず、期間は、依頼受託から2週間以内で、目撃報告のあるのが5~7匹って事だから、最低討伐数は4匹。それ以上だったら多ければ多い程グッドよ。
ランクアップの+評価となるわ。
あ、あと注意して欲しいのは、上位種が居る可能性もあるって事ね。その場合は依頼のランクが上がるから、失敗とは見なされないわ。
あ、あともう一つ。これは一応最低Cランクって事になっているけど、本来はソロじゃなくて、Cランクパーティーって事だからね?
だから、ソロならもっと難易度が高くなるから。」
という事だった。
ふむ。特に問題点は無かったな。
「あ、じゃあ、報告のあった現地に行って、調べ廻ったけど、居なかった場合ってどうなりますか?」
「ああ、そう言うケースもあるわね。
その場合は、本人が納得するまで調査し、結論として報告を上げてくれれば、保留依頼となって、再度別の冒険者に調査依頼が出るのね。
そして、同じく居ないという報告があれば、失敗扱いではなく、依頼の報酬金額は支払われるわ。
勿論、討伐分のボーナスは出ないけどね。」
ふむ。良く考えられているな。
「じゃあ、その依頼請けたいと思います。
現地までの地図ってありますか?」
と聞くと、ニヤリと笑い、
「そう言ってくれると思って、既に地図を書き写しておいたわよ!」
と鼻の穴を膨らませていた。
念のために、一旦資料室で魔物図鑑を見て、オーガのイラストを確認し、ピョン吉にも、
「良いか、これから、こいつをヤリに行くからな。」
と話掛けると、
「キュー!」
と鳴きながら、つぶらな瞳で俺を見つめ返して来た。
よし、じゃあ行くか。
図鑑を元の場所に戻し、先に資料室に居た、黒いローブ姿の女の子に
「お先に。」
と声を掛けて出て行った。
何か言いたそうな素振りもあったけど、特には返事も無かったので自意識過剰なのかも知れないな。
そう言う勘違いは端から見ると、痛いので、気を付けねばな。
さて、今の時刻は、12時前か。
おっと、大事な事を聞き忘れてた。
さっきの受付嬢のお姉さんに、
「あ、あと1点。ここの東門って夜は何時頃に閉まるんですか?
あと、今の日没って何時頃なんでしょうか?」
と聞いてみると、
「ん? 基本的に、門は24時間空いてるわよ。
日没は、今は春だから夕方の6時ぐらいかしらね。」
じゃあ、今から約6時間か。
まあ、最悪宿泊が無駄になるだけだな。
「よし、じゃあ、今から行ってきますね。」
俺は、ポケット入れた地図を再度確認してから、冒険者ギルドを後にした。
東門までの道のりで、屋台で肉串やサンドイッチ等を購入し、東門から出た。
そして、最近運動不足のピョン吉を地面に降ろし、
「さあ、ピョン吉、走るぞ!」
と声をかけ、一緒に走り出す。
一応、ピョン吉のペースに合わせ、軽いジョギング程度の速度にしている。
すれ違う馬車や旅人、冒険者達が、驚いた目で俺達を見て居るが、ピョン吉がきっと可愛いからだろうな。
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「おい、今の見たか?
凄いスピードで駆け抜けたけど、あれってキラー・ホーンラビットに追いかけられているのか?」
「きゃぁー、あの子、大丈夫かしら?」
「おい、あれって、あの噂の草原の殺し屋使いか?」
「あの子ってば、メッチャ可愛いのよ!」
とか言う会話が道行く冒険者達の間であったとか無かったとか。
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◇◇◇◇
1時間程走り続け、やっと街道沿いの目印のポイントへと辿り着いた。
ピョン吉のペースに合わせたので、予定よりかなり遅くなってしまったのはご愛敬だ。
やっぱり、適度な運動は必要だからね。
さてと、森に入る前に、一旦休憩を挟むとしよう。
「おい、ピョン吉、少し休憩にするぞ。
ほら、お前の大好きな、水と、果物だぞ。」
俺は、自分の分のコップとピョン吉の分の水飲み皿に、泉の水を入れ、桃も1個皿に置いてやった。
ピョン吉が嬉しそうに、キュイキュイと鳴いている。
おまえ、本当にこの桃が好きだな。俺もだけどね。
桃を食べ終わり、水をもう1杯飲んでから、立ち上がった。
さあ、行ってみようか!
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