第12話 サンダーの話術 (改)

「さーって、ケンジ、よくぞ、この街に来てくれた。俺は嬉しいぞ!

で、さっきの話の続きだが、まずお前さん、今日からCランクな!!」

とイキナリぶっ込んで来た。


「え? それはちょっと一気過ぎませんか? せめてEランクになりませんかね?」

と額に汗を掻きながら、交渉を開始する。


「だって、Eランクってよ、ゴブリン10匹倒せれば、自動的に昇格するだぜ?

お前さん、オークもオーク・ジェネラルも倒して納品してるだろ? しかもソロで。

それだけ見ても、現時点で、Dランクは超えてるんだよ。

まあ、聞けよ、Cランクって物のメリットをよ。」

と饒舌に語り始めるサンダーさん。


Cランクからは、中堅の上位として世間が見てくれる事や、ソロ活動してても余りデメリットが無い事。

逆にDランクの場合、ソロだと世間から見ると、微妙なランクである事や、ソロで請けられる依頼が少なかったりする事を挙げていた。

Cランクからは、何処の都市に行っても、城門の衛兵から、ギルドの受付や宿屋での対応も含め、断然、雲泥の差がある事。

更に提携する宿屋では、割引料金で泊まれたりもするらしい。


マジか! それはお得ですな~。


ギルドの売店でも若干の割引があったり、ギルドの買取時の査定もアップし易いとか、色々なメリットをぶっ込んで来た。


「なるほどぉ~。そんなにも違う物なのですね? いやぁ~色々世知辛いもんですね。」

とその魔法の様なトークにフンフンと前のめりに聞き入ってしまう健二。


「それに、それだけじゃないんだぜ? まあ、お前さんの希望はさっき聞かせてもらったが、総合すると、マッタリと『腰』を落ち着ける、『家』が欲しいじゃないかと思ってよ?

まあ興味無いなら、これは余りメリットじゃあ無いかも知れないが、ギルドでは、実力を持ったCランク以上の冒険者に、そのギルドの所属として、本拠を構えて欲しいと思っている訳よ。

だから、Cランク以上の冒険者へは、家を買う時の斡旋や補助金を出しているんだよ。

つまり、例えばだな、ランクによって違うが、Cランクだと購入金額の5%をギルドが補助するんだぜ?

5%ったって、10000マルカやそこらの買い物じゃねぇから、デカいぜーー!? どうよ? スゲーだろ? Cランクはよぉ?」

と家の話題に振った際、俺の目が光るのを見て、一気に攻勢を掛けて来るサンダーさん。


「まあ、本当は最低でもBランクぐらいに上げたいんだが、流石にBランクとなると、ギルドマスター単独の権限を越えるから、ちと厳しいんだわ。

しかし、近々にあのブラッディ・デス・ベアが、オークションに出品されると、ギルド本部も動かざるを得ないから、そうなると、お前さんの意向を汲んで、内密に事を運び易くなる。

グランド・マスターは、俺の友人だし、上手く話をして、飲ませるからよ。そこは信用してくれ。

そうすりゃあ、家の補助金だって、10%だぜ! 10%!!

まあ、な……これがAランクなら15%行けるんだが、焦って騒ぎになると、厄介だし、まあそんな感じだ。

それによ、Cランクになると、もう一つお前さんが喜びそうな事もあるぜ?

フフフ、今日騒ぎになったガンツ居ただろ、あいつは万年Dランクなんだよ。ハッハッハ。

これであいつが何か言って来ても、Cランクで撥ね除けられるって寸法よ。どうだ?」

とドヤ顔のサンダーさん。


「じゃあ、お手数ですが、色々内密で、騒ぎにならないように、お願い致します。絡まれたりとかって嫌なので。」

と思わず、頭を下げた。


「おーし、そうと決まれば、取りあえず、ギルドカードを渡してくれ。サクッと切り替えるから。 おい、これ!!」

と後ろに居たロジャーさんに流れる様に渡し、ロジャーさんはサクッと一階へと降りていった。


「いやぁ~、今日は目出度いなぁ~。お、そう言えば、宿は取ったのか?」

と聞かれ、ハッとする俺。


「あ! まだです!! ヤバいな。もう小麦亭ダメだろうな……。どうしよう。

まあ、最悪テントもあるけどなぁ。せっかくの初日にテントってのも悲しいか。」

と焦っていると、


「ああ、それなら心配要らねぇよ? おーい、ステファニー!!」

すると、隣の部屋からスーツっぽいタイトな美人のお姉さんがやって来た。


「なんでしょうか、ギルドマスター。」


「おう、悪いんだけどよ、俺がこいつ、ケンジを話で引き留めてしまってよぉ、宿がまだらしいんだよ。

だから、悪いんだけど、ちょっと『雷光の宿』に行って、一部屋押さえて来てくれるか?

Cランクのケンジが泊まるって言う事で。費用はギルドが払うって言って。美味しい夕飯を用意しておく様に、くれぐれもマスターに伝えて置いて。」

というと、了解しましたと言って、ササッと部屋を出て行った。


「何から何まで、何か色々ありがとうございます。

右も左も判らないので、これからも一つ宜しくお願い致します。」

と改めて頭を下げてお礼を言った。


「なーに、良いって事よ。

これからも持ちつ持たれつで、上手くやって行こうな!」

とギルドマスターが右手を差し出して来た。


「ええ、こちらこそ。」

とガッシリ握手したのだった。


丁度そこへ、ロジャーさんがやって来て、Cランクのカードを持って来た。

俺は再度血を1滴垂らし、個人の特定化を行った。


「おう!おめでとう。これで今日からケンジは、『ドワース支部』所属のCランク冒険者だ!!」


「ありがとうございます。」


更に絶妙のタイミングで、先程のステファニーさんが、

「ギルドマスター、1部屋確保出来ました。」

と息を弾ませながら戻って来た。


「じゃあ、今日は美味しい物を食べて、ユックリと休んで、また明日か明後日にはギルドに顔を出してくれ。

依頼を受けてくれても良いし、少し休んでくれても良い。」

と優しい言葉を掛けてくれたのだった。


結局、大変申し訳ない事に、ステファニーさんが土地勘の無い俺を『雷光の宿』まで送って下さると言う。

辺りはもう日が落ちて、薄暗くなっているので、


「何か申し訳無いですね。本当なら送り届けるのが男の役目なのに。」

と頭をさげると、


「いえ、ギルドマスターの命ですし、私も可愛い美少年にお近づきになれて、嬉しいですから。」

と嬉しそうに笑ってくれた。 ええ人や。


そして、案内された『雷光の宿』を見てビックリ。


「えーー!? これメッチャ高級な宿なのでは?」

と思わず凄すぎて、ガクブルしながら聞くと、


「ああ、確かにそうですね。

ドワースで、3本指に入る宿ではあります。

まあ、ギルドマスターの昔のパーティーメンバーがマスターやってる宿なんですが、ここが凄いのは、なんと! お風呂があるのですよ。」

とドヤ顔のステファニーさん。

美人さんってどんな表情も絵になるから良いよねぇ。 

遠くで見てる分には、心が和むよね。 して、その心は、『近づき過ぎると、緊張で息が出来なくなる。』 だな。



中に案内されると、

「お!ステファニーちゃん、何度もお遣いお疲れ様。

で、ケンジ君は君か! よろしくな。雷光の宿のマスターやってる、ジェイドだ。

ようこそ、雷光の宿へ。」

と歓迎してくれた。


まあ、日本の宿と比べると、接客的にはあれれ?これで高級宿?って思うけど、これはこれで肩が凝らなくて良いな。

「どうも、ケンジです。お手数掛けますが、1泊宜しくお願い致します。」

と頭を下げる。


「おうおう、Cランクの冒険者にしては、えらく若いし、腰が低いな。

って……おい!それ、お前、草原の殺し矢じゃねーのかよ!!」

とピョン吉を見て、カウンターの奥へと身を隠しながら叫んでいる。


「ああ、こいつ、ピョン吉です。

心配要りませんよ? 大人しい奴ですから。」

とモフりながら答えると、


「サンダーの野郎、俺が昔キラー・ホーンラビットにケツを角で刺されたのを知ってるのに、あの野郎!!」

と受付カウンターの裏で吠えている。


ジェイドさんの外見は、サンダーさんと正反対で、イケメンではあるが、完全にスキンヘッドで、身体もムキムキのフルマッチョの大男だ。

言われても、とても高級宿のマスターに見えない。

そんな、大男がカウンターの裏でプルプル震えているのは、ちょっと可愛い。


「マスター、大丈夫ですよ? ほら、私が触っても全然大人しい子ですよ?

元SSランクがこんな可愛い子を怖がるなんて、マスターってば可愛いですね。ウフフ」

といつの間にか横から手を伸ばし、モフりを堪能するステファニーさん。

そして、ピョン吉も、満更では無いのか、ウットリと目を瞑っている。

何か、ちょっと悔しい気分。



「本当に大丈夫だな?」

と言いながら、カウンターの裏から顔を出してきた。

心無し顔色は悪い。


「なるほど、しかし、これで何となく納得しました。

もしかして、昔のパーティー名は雷光だったんですか?

サンダーさんが雷で、ジェイドさんが光か!」

と言いながら頭に目が行く俺。


「ちげーから、絶対に今お前が思ったのと理由はちげーから!!!」

と声を挙げるジェイドさん。


「お前、今俺の頭を見て光って思ったろ?

まあ、パーティー名が雷光だったのは間違い無いけど、雷は確かにサンダーからの意味もあるが、あいつが光だからな?

俺が雷だし。」

と真逆の事を言っている。


「え?逆ですか? それはまた何で?」

と聞くと、


「あいつが、光の速さで剣を振る『光速の剣士』って呼ばれてたの。」


「え?サンダーさん剣士なんですか! てっきり魔法系かと思ってました。

じゃあ、ダブルで剣士? それともジェイドさんは盾役ですか?」

と聞くと、


「バカ野郎! 俺は魔法使いだよ!見りゃ判るだろ?

雷魔法が得意で、『雷帝』って二つ名があったんだよ。」

と青筋を立てながら、説明してくれた。


「ほぅ、なかなかに興味深い。 魔法使いですか! 是非魔法の手引きを!!」

と手を差し伸べてみたが、ペシッと撥ね除けられた。


「俺は弟子は取らないの。悪いが他を当たってくれ。」と。


「くそぉ~、流れで上手く行くかと思ったのに。 なあ、ピョン吉」

と俺がピョン吉に声を掛けると、その意を汲んだのか、ピョン吉が、目を開け、ジッとジェイドさんを見つめている。


「あ、きったねぇーー! げ!こっちを見てるし。メッチャ見てるから!!!」

と焦るジェイドさん。


「まあ、安心して下さい。半分冗談ですから。」

というと、


「半分本気か!」

と返された。


「まあ、マジな話、魔法を習得したいというのは本当です。

この街に来た目的の1つですからね。

まあ、図書館に行って、初心者用の魔法の本でも探すつもりではあるので。」

と答えると、「なるほど。」と頷いていた。


どうやら、ステファニーさんは、このやり取りがツボに入ったらしく、腹を抱えて笑っていた。


「おう、まずは飯にするか? 今なら温かいぞ?」

と言われ、食堂で食べる事にした。


「お遣いついでに、ステファニーちゃんも食って行けや!」

とジェイドさんが声をかけ、結局2人と1匹で夕食を食べる事になった。


あーダメだわ。美人さんと食事とか落ち着かない。

前世に女で20年、散々な目に逢ってるからなぁ。

遠くで見る分には良いけど、一緒に飯を食うのはキツいな。


等と頭の中で考えていると、


「どうしたんですか? 難しい顔をして、折角の美味しい料理と美少年っぷりが勿体無いですよ?

まあ、美少年の憂いる顔ってのも、それはそれで需要ありますけど。」

とステファニーさんが、美味しそうに食べながら微笑んでいる。


「ああ、すみません。

色々とこれからの事とか考えてました。

そうですね。食事に集中しないと、勿体無いですね。」

と食事を味わう事に集中する。


「おお、確かにこれは美味しいですね。

ステーキのソースは、ラズベリーと赤ワインを合わせたソースですか。

この胡椒もホワイトペッパーと、ブラックペッパーとレッドペッパーを合わせてるのか。

塩はハーブを乾燥させて、混ぜたハーブソルトだな。

良い組み合わせですねぇ。」

と口の中で解析しながら、堪能する。


「驚いたな。ズバリだぜ。お前さんの舌は優秀だな。」

と素で驚くジェイドさん。


「じゃあ、こっちのスープはどうよ?」

とスープを飲めと急かす。


「えー、ただのマグレだから、ハードル上げるのは止めて下さいね?」

と言いつつ、スープを口にする。


「なるほど、一般的なポタージュスープっぽいが、ジャガイモにホワイトマッシュルームを摺り下ろしてますね。

生クリームも少々混ぜてて、これはチーズですか! 後は牛かな?コンソメを少々入れて塩で味を調えてますね。

うん、これも美味しい。」

と絶賛すると、


「いや、驚いた。全部スバリだぜ。

ひょっとして、お前さん、料理も作るのかい?」

と驚きながら、聞いて来た。


「まあ、山の中での独り暮らしが長かったので、楽しみは食事ぐらいでしたね。

だから料理は出来ますが、美味しい物が作れるかは、殆ど人に食べさせた事が無いので。

なんせ、独りぼっちでしたから。」

と答えると、何かステファニーさんも、ジェイドさんも気まずい様な悲しい様な顔をしていた。


「ああ、気にしないで下さい。

今はこうして、誰かとご飯を食べる機会を得てますし。

人と話す事も出来ますし。」

とフォローしたつもりが、


「「色々苦労したんだね。」」

と2人とも涙ぐんでしまった。


その後、デザートまで食べ終わる頃、ジェイドさんが1冊の本を持って現れた。


「まあ、その何だ……直接弟子にしたり、教えてやる事は出来ないが、この本を貸してやる。

良いか、必ず返せよ? 俺に子供が出来たら、読ませるつもりの本なんだからな?」

とジェイドさんが少し照れた様に、そっぽを向きながら、本を差し出して来た。


本のタイトルは、『今日から出来る子! これで君も魔法使い』というかなり痛いタイトルだったが、魔法の初級編らしい。

「うぉー! ジェイドさん、ありがとう!」

と喜んでお礼を言うと、手を振ってキッチンの奥へと戻っていった。


俺がパーッと明るい笑顔をして本を眺めていると、


「うーん、赤い薔薇が咲いた様な笑顔……尊いわ!」

と拳を握って、ニマっと笑うステファニーさん。


まあ、俺は気にせず、パラパラと捲ると、重厚な表紙ではあるが、中身に結構薄い本であった。

「うん、これなら、一晩で、写本出来そうだな。」


ご馳走様をしてから、ステファニーさんと別れ、俺は部屋のキーを受け取って二階の部屋へと向かった。

部屋は、小さいバスルーム付きで、6畳ぐらいのベッドルームであった。

クローゼットと机と椅子も付いていて、まあ、日本のビジネスホテルと言った感じである。

清潔なシーツのベッドが置かれており、悪くない。


早速、風呂にお湯を溜め、ピョン吉と風呂に入った。

最近、本当にピョン吉は風呂好きになっている気がする。

泡泡にされても、嫌がらずに、気持ち良さそうに身を委ねているし、「気持ち良いのか?」と聞くと、「キュゥー」と可愛い声で鳴く。

ハッハッハ。愛らしい奴め。


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 メンテナンスを行い、一部文章の改善等を行っております。基本的な内容には変更ありません。(2020/05/21)


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