第11話 ロジャーさんの神対応 (改)


カード表面には、本人の名前とランク、そして発行元のドワース支部と現在所属の支部名が記載される。

また、パーティーを組んでいる場合は、パーティー名も記載されるらしい。

その他の情報も記載されるらしいのだが、どんな内容なのかは、禁則事項との事で、教えて貰えなかった。

口の前で人差し指を×にして、言う様がアザトかわゆい。


街の見た目は中世ヨーロッパなのだが、なかなかにハイテクである。



ついでに、お姉さんにお勧めの宿を聞いてみると、

「うーん、風呂付きとなると厳しいですね。料理が美味しく、比較的低料金の宿なら、『小麦亭』がお薦めです。

少々高くても良いなら、『おいしん坊亭』ですね。

まあ、この時間だと『小麦亭』は既に満杯かも知れません。なんせ、人気のある宿なので。」

との事だった。


「他には何かございますか?」

と聞いてくれたので、


「ああ、そうだ。ここに来るまでに倒した魔物って買取可能でしょうか?」

と聞いてみた。


すると、ホールの奥の広めのカウンターを指差しつつ教えてくれた。


「では、買取カウンター方に提出して下さい。」


「ありがとうございます。では今後も宜しくお願い致しますね。」


俺は頭を下げ、買取カウンターへと向かったのだった。



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■ロジャーさんの神対応 (改)



買取カウンターには、割と優しそうな顔をした細身のオジサンが座っていた。


「お、いらっしゃい。初顔だな?

買取で良いのかい?」


「初めまして。さっき冒険者に登録した、ケンジと言います。

宜しくお願い致しますね。」


「ハハハ、なかなか礼儀正しい少年だな。

長年ギルド職員やってるが、初めてだぞ。」

と微笑んでくれた。


「え? その懐のって、キラー・ホーンラビットか!

お前可愛い顔をして、よくそんな獰猛な奴を手懐けたなぁ~。

まあその顔なら、荒くれた女冒険者なら、イチコロで手懐けそうだけどな。ハハハ!」

と笑っていた。


「で、売るのはそいつじゃないんだろ?」


「ええ、売るのはこのリュックに入っているんですが、ここだとちょっと狭くて出せないんですよ。

これ、容量は小さいですが、一応マジックバッグなんで。」

と俺がガバスさんと相談して決めておいた筋書きを小声で説明すると、


「げ、マジか。そいつはスゲーな。良くそんなのを手に入れたなぁ。

じゃあ、ここでは拙いな。 どうせ他には内緒なんだろ?」

と察して小声で応えてくれた。


そして、オジサンに連れられて、解体倉庫の方へと移動し、解体倉庫のスタッフを呼んでくれた。


「どうしたんだ? ロジャー。 こっちまで来るたぁ珍しいじゃねーか。」

と解体倉庫のガタイの良いオジサンがやって来る。


「やあ、サム。この子が何かカウンターに出せない物を買い取って欲しいらしくてな。

ここで出させて貰う事にしたんだよ。」


「も、もしかして、そのリュックはマジックバッグなのか?」


察したサムと呼ばれる解体倉庫のオジサンが驚きながら聞いて来る。


「ええ、申し訳無いですが、この事はご内密にお願いしますね。なんか面倒ごとになると、聞いたので。」

と言って、俺は床の上にゴブリンの討伐部位と魔石を次々に並べ、次にオークを丸々5匹取り出した。

「おおーー、丸々5匹か、なかなか凄いじゃねーか。 ん?いや、1匹はオーク・ジェネラルか!!」

とサムさんが驚きの声を上げる。


「あれ、君ってさっきFランクで登録したばかりだよね?

凄いね、この斬り口。」

と買取カウンターのロジャーさんも驚いている。



「あのぉ~、まだあるんですが、邪魔なので、出しちゃっても良いですかね?

オークは完璧に血抜き終わってますが、これから出す分は、どれもまだ血抜きが途中かも知れないんで、床が汚れるかも知れません。」



「ああ、構わないぞ? ここの床は毎日ちゃんと綺麗に洗うから。」


一応許可が出たので、泉の森からの道中で倒した魔物をドンドンとその横に出して行く。




「ちょ、おまっ! これって、ブラッディ・デス・ベアじゃねーか。

え? そっちは、ダーク・ウルフ? いや、上位種のダーク・ハンター・ウルフの方か。

キラー・スパイダー。 げげ!! それはシャドー・サーペント、ロック・リザード、デス・ハンドレッド・フット、ポイズン・キラー・スコーピオン、イーブル・アロー・イーグル、ダーク・ブラッド・バットって……。

ちょっとタンマ!! ストップ、ストップ。」

これ以上は一気に受け入れられねぇーよ。流石に。どれもこれも貴重なSランク~SSランクの魔物じゃねーかよ。

しかも最初のブラッディ・デス・ベアなんて、災害級だぞ?

どんだけ出て来るだよ、そのマジックバッグは。

しかも、どれもこれも、今倒したばっかって斬り口じゃねぇか!

それ、時間停止か?」


「はい。くれぐれもご内密に。ギルド職員って守秘義務あるって聞いてます。

無闇に冒険者の秘密を開示しないって。だからお願いしますね?」

と頭を下げてお願いした。


「ああ、それに関しちゃ、安心してくれ。

こう見えても酒を飲まない限り、口は堅い。」

と言いながら、ガハハと笑う、サムさん。


「それ、メッチャダメなパターンじゃん。」

と思わず突っ込む俺。


「ハハハ、ノリ良いな、お前。

安心しろよ。俺は今まで口を割った事は無いからな。

なぁ、ロジャー?」

とロジャーさんに声を掛けると、ロジャーさんが呆れた顔で俺達2人を見て居た。


「これ、ちょっと一気にはキツいですね。

時間停止があるのなら、少しずつ出して貰った方が、傷みが少なく、高く捌けますね。」


「だな!」


「じゃあ、ケンジさん、一旦、ここからここまでを仕舞って貰えますか?

で、その買取に出したい物の総量ですが、さっき出した物の倍くらいあったりしますか?」

と聞いて来た。


俺は、リストの分量を計算して、

「さっきの量だと、あれが2回程度ですね。」

と答えると、絶句していた。


「ガハハハ、こりゃあ最高だぜ。おめぇさん、見かけによらず、エゲツねぇな。」


サムさんが大爆笑していると、ロジャーさんも苦笑いしながら「これはギルドマスター案件ですね。」と呟いていた。



「え? いや、そんな大事にはしなくてですね、ソッと行きましょうよ。ソッとね?」


思った以上に大事になりそうなで俺も焦って制止する。


「いや、そうは言ってもさ、このランクの魔物で、この量だから。ね?

そもそも魔物のランク的に、これが話題になるのは避けられないよ?

まあ、討伐者の名前を伏せる事は、可能だと思うけど、それでも君のランクを上げる事にはなるだろうし。

まあ、さっきのホールの騒ぎもあるから、全く目立たない様にってのはかなり難しいかも知れないね。」

とロジャーさんが静かに諭して来た。


「うぅぅぅ……。想定外だーー! やっぱ、俺、ドワースに来ちゃダメだったのかな。」


俺はガックリと項垂れながら、後悔し始めていたが、そんな様子を見てか、ロジャーさんが必死になって励ましてくれる。


「おいおい、そんな寂しい事を言うなよ。な?

俺がちゃんとギルドマスターにキッチリ伝えるから。

それにここのギルドマスターは、当たりだぞ? きっとお前さんの意思を汲んで、何とかしてくれるってよ。な?」


「俺、余り目立ちたくは無いんです。

全く世の中から隔離された山奥に1人で居たので、世の中の常識も知らなかったし、何処でも良いから、時々人と話したり、美味しい物とか食べたり、作ったりしながら、ノンビリ暮らしたかっただけなんですよ。」

というと、


「そうだったのか、それは苦労をしたんだな。

そうか、一人で暮らしていたのか……。」

と何やら納得してくれた。


「まあ、早計なヤケを起こさず、ギルドマスターにはキッチリ説明して来るから、ちょっとだけ、な? ちょっとだけ待ってくれよ。」

とロジャーさんが言い残して、素早く駆けて言った。


「まあ何だ……おめーさんも、苦労したんだな。」

とサムさんも、厳つい顔に似合わず、優しい目をして声を掛けてくれた。


少し精神状態も落ち着き、ふと思い付いてサムさんに聞いてみた。


「サムさん、ちなみに、この赤い熊ですが、これって強いんですか?」


「ああ、この中じゃあ、こいつが一番ヤバいな。

SSSランクなんて今じゃあ無いが、あったとしてもSSSランクに収まるかどうかだな。

ここまでになると、一括りに災害級って呼んでるな。」


「ああ、そうなんですね? 道理で。

動きはそこまで早くなかったけど、戦い方が結構巧みでした。

あと、あの爪が凄かったです。

まあ、あれで俊敏だったら、今頃は生きてなかったでしょうけど。」

というと、


「え?こいつかなり俊敏って話だが? ちなみに討伐までどれ位の時間掛かったんだ?」

と聞いて来た。


「えー?時間ですか? どれくらいだったかな?10分? 何か連続攻撃をしてたから、躱すのに集中してて判らないですね。

まあ、10分~15分くらいじゃないですかね?」

と思い起こす様に考えながら答えると、


微妙な顔をしたサムさんが「そ、そうなのか。」と呟いていた。


「ちなみに、他に災害級ってどんなのが居るんですか?」


「他と言えば、そりゃ、なんたって、ドラゴンとか、ケルベロスとか、バハムートとか、ベヒモスとか、リバイアサンとか、クラーケンとか色々居るだろ。

まあ詳しく知りたいんなら、ギルドに二階にある資料室で魔物図鑑を見るんだな。」


なるほど、そんなのがあるのか。

これはどちらにしても見ておかなきゃだな。


「ありがとうございます。時間作って見てみます。」




15分程すると、ロジャーさんとは別にかなり精悍な顔つきのロマンスグレー(推定50代)がやって来た。

ああ、この人、きっと俺と同じ50代でも全然違う人生を送って来たんだろうなぁ。

と若干羨ましい羨望の眼差しを向けてしまった。


「おう、俺がここのギルドマスターやってる、サンダーだ。

お前が今日登録したケンジか?」

と爽やかな笑顔で話しかけて来た。


「あ、初めまして。ケンジです。

何か色々お手数掛けて申し訳ありません。」


「いや、構わねぇぞ。それがギルドマスターの仕事だ。

で、これか! スゲーな。おい。これは。

えーー!? 絶対物理耐性を持つと言われたブラッディ・デス・ベアを袈裟斬りかよ。

おいおい、スゲーな。」

と大絶賛。

そして並べられた魔物達を次々に見て廻り、興奮していた。


「で、お前さん、目立ちたくないんだって?

ハハハハ。まあ色々人には事情ってのがあるから、判らんでは無い。

まあ、俺もお前さんの気持ちは汲んで努力はするが、冒険者ギルドとしては、これだけの実力を持つ冒険者を低ランクのままにしておくのは拙いってのは判ってくれるか?

それに、ランクが多少あった方が、ロビーでの事を含め、今日みたいな面倒事は、回避されるぞ?

まあ、その分、それに寄生して利用しようとする輩は湧いてくるが、ランクさえ上がれば、それも排除出来るし、何だったら貴族の横槍だって、弾き返せるぞ?」


ギルドマスターの頼もしい言葉に思わず

「ほう! 貴族の横槍を弾けるんですか! それは凄いですね。」

とちょっと興味を示してしまう。


「まあでも、実績ってのもあるから、一気に実力相当まで上げるのは無理だし、取りあえず、上のギルドマスター室で今後の対策とかをジックリ話そうか。なぁ~に悪い様にはしないさ。」


「おっと、その前に、ここからここまでは一旦収納してくれ。傷んでしまうからよ。」

とサムさんに言われ、出した物の半分を一旦仕舞い、ギルドマスター室へと連行されたのだった。


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 メンテナンスを行い、一部文章の改善等を行っております。基本的な内容には変更ありません。(2020/05/21)


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