第10話 初めての街、初めての冒険者ギルド (改)
初めて見るこの世界の街並みは、映画で見る中世ヨーロッパの街並みと同じ感じだが、中世ヨーロッパの様に、道路に汚物は無い。
この世界のトイレ事情だが、汚物処理は、スライムが担当しているらしい。
正に、究極のエコである。 魔物が恐れられているこの世界だが、スライムだけは別格で、共存している。
スライムの捕獲等は、駆け出し冒険者であるFランク相当の仕事で、家のトイレや浄化槽で増えすぎたスライムを間引いたり、新しいスライムを捕まえて来たりする依頼があるらしい。
スライムと言われて、ピンと来なかったのだが、どうやら話によると、ゼリー状の身体を持つ丸っこい鏡餅的な体型をしているらしい。
(俺としては、昔みた映画に出て来た、隕石に入って地球にやって来た、ゲル状のアメーバ的な物を連想していたのだがな)
一般的には、大人しい性格だが、種類によっては、毒を持って居たりするので、注意は必要らしい。
まあ、スライムの色で判るので、間違いはそうそう無いのだとか。
街の中はかなり活気があって、屋台や店が元気に客引きをしている。
客引き行為は、強引過ぎなければ、問題ないらしい。但し、脅したり強制的に連行するのはNGである。
彼方此方で、肉を焼く良い匂いもしており、思わず縁日の様でワクワクしてしまう。
ガバスさんの店の前で、お礼を言って別れ、教えられた道を通って、冒険者ギルドを目指す事にした。
途中で誘惑に負け、良い匂いの漂う屋台から、肉串を2本買い、この世界で初めてお金を使った。
お代は、2本で400マルカ。
屋台のおっちゃんは、ピョン吉に驚いていた。
2本の肉串を受け取り、1本は見えない様に巾着袋に収納し、1本の肉串をピョン吉と分け合って食べた。
この肉串の肉はオークらしいのだが、初めて食べた魔物の肉ではあるが、実に美味い。
一般的に魔力やランクの高い魔物程美味しいとされている。
まあ、食えない魔物もあるけどね。
しかし、この肉串のお陰で、オークに対する見方というか価値観が大きく変わった気がする。フフフ。
ギルドを目指して、街を歩いていると、ピョン吉を抱いている所為か、ちょいちょい視線を感じる。
特に悪意や敵意を感じないので、まあ良いのだが……ちょっと居心地が悪い。
そして、漸く盾と剣の交差する看板を掲げた冒険者ギルドの建物に辿り着いたのであった。
カラン♪
扉を開けると、冒険者ギルドの中には、依頼から戻って来た冒険者でごった返しになっていた。
ガバスさんに聞いた通り、受付の列に並び、順番が来るのを待った。
『良いか、ケンジ、冒険者相手には、余り丁重な言葉を使うと舐められるからな?
あと、ギルドでの新人イビリのテンプレには注意しろよ?』
との忠告を貰っていたので、結構警戒して、必死で目立たない様に気配を殺しているつもりだったのだが……
ドカッ!と後ろから蹴られ、思わず、前の人にぶつかってしまった。
「イテッ! おいおい、何しやがる!!」
と前の冒険者が叫びながらこっちに振り向いた。
俺は慌ててしまった事で、口調に関する忠告を忘れ、普段通りに頭を下げつつ謝った。
「ああ、大変申し訳ありません。何か後ろから背中を蹴られてしまいまして。」
俺がぶつかってしまった冒険者は俺の後ろの冒険者を見て、
「ああ、またお前か! ガンツ!! 懲りない奴だな。」
と言いながら、俺の後ろの冒険者に向かって殺気を飛ばしていた。
すると、俺の後ろのガンツと呼ばれた冒険者は、
「さて? 何の事だか判らねぇな。」
とそっぽを向いて口笛を吹いている。
こいつ……隠す気すら無いのか。
「おう、坊主も変な言い掛かり付けるんじゃねぇーよ!
何か俺がやったって証拠でもあるのか?」
と抜かしてやがる。
まあ、ここで揉めるのもアレなので、前の冒険者のお兄さんに、
「何か巻き込んでしまって、すみません。」
と再度、謝罪しておいた。
「ああ、あいつなら遣りかねねぇ。気にするな。」
と言ってくれた。
とそこで、フト俺が抱いているピョン吉に気付き、驚きの声を上げる。
「あ! 坊主、おまっ、それ『草原の殺し矢』じゃねぇか!!」(注:人によっては『草原の殺し屋』とも『草原の殺し矢』とも言う)
「ああ、こいつ、ピョン吉って言います。
ダッカム草原(←名前はガバスさんから教えてもらった。)を横切っていたら、じゃれついて来たので、ペット――いや、従魔にしちゃいました。
とても人懐っこい奴なんですよ? 最初は、結構やんちゃだったんですが、今では凄く大人しいし。」
と俺がペット自慢をニッコリ微笑んですると、
「お前、ダッカム草原ってそれ、ヤバいってされてるホーンラビットの巣窟じゃねぇか!
それ絶対じゃれついてたんじゃねーと思うんだが?」
と。
「そうなんですか? 大袈裟に尾ヒレ着いてるんじゃないですかね?
どの兎もキュイキュイと可愛く鳴きながら、10匹ぐらい懐いてきましたよ。
ちょっと角でウリウリされると、痛痒いかんじでしたが、悪意的な物は無かったですね。
まあ、中でもこいつは一番、元気がよくて、胸に飛び込んで来た可愛い奴なんですよ? フフフ。」
というとお兄さんが、苦笑いしていた。
ペット自慢をしていると、後ろから悪意の気配を感じ、瞬時に全身に力を込めると、先程同様に後ろから蹴りが入った。
今度は予期していたので、1mmも動かなかったのだが、後ろで蹴ったガンツが、
「痛ってーーー!」
と蹴った足首を押さえながら、ゴロンゴロンとのたうち回っている。
その一部始終を見ていた前の冒険者のお兄さんは、
「ガンツ、何を一人芝居してるんだ? ばっかじゃねぇ?」
と爆笑し始める。
ガンツのパーティー仲間が、
「おい、動くな! 何だよ大袈裟な……。げ!こいつ、足首折れてるぞ!
おい、動くなってよ! 骨が突き出るから。」
と叫んでいる。
「あらあら、カルシウム不足ですかね? 老人になると、骨が弱くなるって言うからな。
お大事に。」
と俺も後ろを向いて、愛想笑いをしておいた。
すると、
「ガンツ、どんだけ骨脆いんだよ。ガハハハハハ!!!」
「年寄りは、骨脆くなるのか。ヤベーーーー。ギャハハハ」
「新人冒険者に絡んで、骨折って、どんだけ~~。アッハッハッハッハ!!」
と周りの冒険者が、大爆笑している。
見ると、クールな雰囲気の受付のお姉さんまで下を向いて、肩を震わせていた。
ガンツ君、相当周囲に嫌われているんだねぇ。ご愁傷様。
そして、大爆笑のギルドのホールを、仲間の冒険者に担がれながら、退場して行った。
「おう、坊主、見かけによらず、ヤルなぁ!」
と周囲の冒険者から声を掛けられる。
「うーん、本当に特に何もしてなかったんですがねぇ。
本当に相当骨が脆くなってたんでしょうか?
疲れが溜まると、疲労骨折ってのもあるし。
いやぁ~、怖いですねぇ。」
と相槌をうつと、またまた大笑いしている。
こうして、特にガバスさんの言う様なテンプレも起こらず、平穏無事に順番を迎えた。
「初めまして。冒険者ギルド、ドワース支部へようこそ。
今日はどう言った御用向きでしょうか?」
と可愛い清楚な感じで、ブラウンの髪の毛を後ろで縛った、お姉さんが、眩しい笑顔で聞いて来た。
やっぱり、ガバスさんの言う通り、冒険者ギルドの受付は美人さん揃いらしい。
思わず、その笑顔に顔が赤くなるのを感じつつ、
「あ、初めまして。ケンジと申します。今日は冒険者ギルドへの新規登録と、従魔の登録をお願いします。」
と頭を下げると、
「か、可憐だわ!!」
とお姉さんが呟く。
顔を上げた瞬間、一瞬だらしなくデレっと口を半開きにしている顔が見えた気がしたのだが、次の瞬間は最初と同じ、眩しい笑顔だった。
見間違えだよな?
そして、俺とピョン吉の登録も終わり、Fランクのギルドカードと、ピョン吉の従魔の首飾りを受け取った。
冒険者のギルドカードには、血を一滴垂らす事で、その個人に特定化され、以降は本人か、ギルドの機械でしか、詳細情報を読み取る事は出来ない。
教えられた通り、冒険者のギルドカードには、クレジットカードやキャッシュカード的な機能もあって、大きな商店やそれなりの宿では、キャッシュレスの支払いも可能である。
但し、カードの口座に預金額が入ってないと、支払い出来ないが。
カード表面には、本人の名前とランク、そして発行元のドワース支部と現在所属の支部名が記載される。
また、パーティーを組んでいる場合は、パーティー名も記載されるらしい。
その他の情報も記載されるらしいのだが、どんな内容なのかは、禁則事項との事で、教えて貰えなかった。
口の前で人差し指を×にして、言う様がアザトかわゆい。
街の見た目は中世ヨーロッパなのだが、なかなかにハイテクである。
ついでに、お姉さんにお勧めの宿を聞いてみると、
「うーん、風呂付きとなると厳しいですね。料理が美味しく、比較的低料金の宿なら、『小麦亭』がお薦めです。
少々高くても良いなら、『おいしん坊亭』ですね。
まあ、この時間だと『小麦亭』は既に満杯かも知れません。なんせ、人気のある宿なので。」
との事だった。
「他には何かございますか?」
と聞いてくれたので、
「ああ、そうだ。ここに来るまでに倒した魔物って買取可能でしょうか?」
と聞いてみた。
すると、ホールの奥の広めのカウンターを指差しつつ教えてくれた。
「では、買取カウンター方に提出して下さい。」
「ありがとうございます。では今後も宜しくお願い致しますね。」
俺は頭を下げ、買取カウンターへと向かったのだった。
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メンテナンスを行い、一部文章の改善等を行っております。基本的な内容には変更ありません。(2020/05/21)
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