第9話 ドワース到着 (改)

倉庫の食材を使って、本格的に夕食を作る。

誰かの為に食事を作るのは本当に久しぶりである。

聡が小さい頃は、飯マズな妻に代わって、よく俺が作ったものだ。

聡は、俺の作ったハンバーグが大好きだったよなぁ。

可愛かったなぁ~小さい頃は。


とか回想していると、いつの間にかハンバーグを作ってしまっていた。

この世界に米があるかは判らないが、折角なので、俺は米、ガバスさんはパンも用意しておいた。

新鮮なレタスやキュウリ、トマトを使ったサラダ、ポテトフライ、茹でてソテーしたニンジン等の付け合わせを用意し、皿に盛り付ける。


テーブルに並べて、勧めると、ガバスさんはは、待ってましたとばかりに、バクバクと食べ始める。

「うっめーー! これは何て料理なんだ? というか、ケンジ、お前料理人でも行けるな!」

とベタ褒め。


フフフと笑いつつ、俺も手を合わせて、頂きますと食べ始めた。


うん、久々のハンバーグだが、美味く出来ている。


「なあ、その白いツブツブは何だ?」

とお米を指刺して聞いて来た。


「これは、お米を炊いた物、通常ご飯とか言います。俺はこれが大好きなんですよね。いろんな料理に合うので。」

というと、食べて見たいらしい。


少し茶碗に入れて出してやる。

「これは、ハンバーグと一緒に口に入れて食べる感じですね。


ふーん、米というと、あれか、家畜の餌とかで売ってるな。

それがこんなに白くなるのか。」

と驚きながら、口にする。そして、言われた様に、ハンバーグも口にして、モグモグと咀嚼している。


「ああ、なるほど、これは合うな。うん。ある意味、パンよりも合う気もするな。」

と納得していた。


「しかし、このパンも美味いよな。貴族の白パンでもこんなには美味くないと思うぞ? ふっくらで柔らかくて、パンと言われなければ、別の何か高級な物と思ってしまう程に美味いな。」

と。


まあ、パンは倉庫に在った物を出してるだけなんだけど、元の世界のパンは、こちらのパンより美味いらしい。



「いやぁ~、久々に美味い飯を食ったな。ありがとうな。」

とガバスさんからお礼を言われた。


「いえいえ、俺も久々に人とご飯を食べて美味しかったですよ。

それに、色々と教えて頂いて、こちらこそ、ありがとうございます。」

と改めてお礼を言う。



「しかし、お陰様で、今後の夢というか、生きる目標が見つかった気がします。」


「ほう、どんな感じを目標にしたんじゃ?」


「まず、魔法を習得する事。

何処かにノンビリ暮らせる家を持つ事。

まあ、出来れば彼方此方旅をして廻るのも良いですね。

観光もしたいし。

あとは、争い事とか、騒動や標的にされない、静かで安全な暮らし これが大前提の条件ですね。」

というと、笑われた。

本気の大爆笑だった。


「酷いですね。人の夢や目標を大爆笑するなんて。」

と抗議すると、


「いや、間違い無く、何処に行っても、女共は騒ぎ、男共は嫉妬するとは思うぞ?

まあ、悪意を向けて来る奴は、何処であれ、大なり小なり居るさ。

完全に平穏無事は、誰であれ難しいのがこの世の中ってもんさ。

まあ、そんな夢なら、俺もあやかりたいぞ。平穏無事にノンビリってな。」

とまた腹を抱えて笑っている。


「はぁはぁ、笑い過ぎた。

でも、魔法の方は少なくとも適性さえあれば、何とでもなるんじゃないかな?

まあ、困った事があれば、何時でも俺の店に相談に来いよ。

ここで知り合った縁だしな。」

とガバスさんは男前な事を言っていた。顔はまぁ、男前というより、豪快なオッサン風だけど。


そして、夜になり、寝室へと案内して、それぞれの部屋で眠りに就いたのであった。



 ◇◇◇◇



翌朝、朝食を軽く済ませ、テントを収納して、出発する。

道中も色々と補足の話を聞いて、ドンドンと情報を蓄積して行った。


図書館で魔法に関する本を読んで勉強する予定であったが、大事な事を1つ忘れていた。

そう、文字が読めないのである。


なので、馬車の中で基本的な部分を教えて貰う事にした。

まあ、難しくても、時間を掛けて、覚えるしか選択肢が無いのではあるがな。


それで判った事だが、どうやらこの世界共通の文字は、日本語で言うところの平仮名と同じ様な構成だが、部分的に漢字の様な一文字で意味を持つ文字も存在するらしい。

しかし、数は少ないので、覚える事は、そんなに難しくは無い。

平仮名の55音表と同じ乗りで、文字表を作り、それを使いつつ、ガバスさんの商品の絵本を教材にし、一文字一文字を覚えながら読んで行った。


「おい、その字の表は面白い考え方だな。

それはあれか、歌の様に覚えてしまえば、どの文字がどの音か判るって事だろ?

それ、売れるんじゃねぇかな?」

とガバスさん。


「まあしかし、意味文字(←漢字的な物)は難しいよな。」


「それでもある程度は楽に覚える方法ありますよ。例えば、表に絵、裏に意味文字を書いた札を作って、子供の遊びみたいにすれば、覚えやすいと思いますよ?」

と提案してみると、


「おお!それは凄いな、帰ったら早速作ろう!!」

と大乗り気のガバスさん。


「おい、ケンジ、お前商業ギルドにも登録しろよ。正式に契約して、売れた分だけ%でアイディア料を払うから。

上手くいったら、お前の念願のノンビリライフの足しになるぞ!?」

と良い事を教えてくれたのだった。


勿論、即決して堅く握手しながら、取らぬ狸の皮算用でニンマリ笑う2人であった。



この世界の馬車での旅は、大体2時間置きに馬を休める為に、休憩を挟む。

じゃないと、旅先で馬に倒れられてしまうと、積み荷所か場所によっては命に関わるからである。

ガバスさんの馬車の荷台には、商品がギッシリと満載されていて、非常に重い。

重さは馬の疲労に直結する訳である。


そうそう、肝心な事を忘れていたが、この世界の時間や日付の概念は、ほぼ前世と同じであった。

1日は24時間、1週間は7日、1ヵ月は28日間(4週間)、1年は12ヵ月となる。

で、時間を知るには、『タイム』と心の中で念じれば、現在の時間がステータスパネルと同じ感じに脳裏に浮かぶ訳。

実に便利な世界である。


だから、大体2時間という、時間が判る訳である。



そこで俺は最初の休憩時に提案してみた。

「ところで、ふと思ったんですが、この荷物、一時的に俺が収納しましょうか?

そうすれば、馬車は軽くなるから、馬も楽になりますよ?」

と。


「おお、良いのか!? 是非頼むぞ!」

と喜んでくれた。


途中、何度かゴブリンや、希にハグレのオークが出て来たが、サクッと撃退した。

ガバスさんから、ゴブリンの討伐証明箇所を教えて貰い、右耳と魔石を取り出した。

流石に魔物とは言え、人型の身体を解体するのは、来る物があったが、何とか耐えて、こみ上げて来る物を飲み込んだ。

しかし、不思議と3匹目ぐらいになると、そう言う気持ちが無くなり、ゴブリンでもオークでも全く平気になってしまった。

元々の自分の性格を良く判っているだけに、慣れるのが早過ぎる気もしたが、もしかすると、この身体になった事で心や性格も少し色々な耐性が出来て居るのかも知れないな。


ゴブリンに関しては、滅茶滅茶不味いらしく、肉の買取は無いらしい。

幾ら貧乏でも、空腹でも、ゴブリンは食えないというのが、この世界の共通認識らしい。

不衛生とかの代名詞的としてゴブリンが定着しているので、人の悪口とかでゴブリンに例えられる事が、最大級に貶める言葉となるらしい。

うむ、これは気を付けて心に書き留めておかないとな……。


で、逆にオークは全身余す所無く、売れるのだそうだ。

肉が美味いらしい。普通に豚も居るけど、豚よりも断然美味しいとの事だ。


オーク1匹の買い取り価格は、時価もあるが、大体7万~10万マルカなのだとか。


「ほほー、結構良いお値段じゃないですか。」


という事で、血抜きだけはシッカリやって、巾着袋に収納しておいた。


「後で冒険者ギルドに登録した時、一緒に買い取って貰え。」とガバスさん。


「あ、でもでも、そうしちゃうと、この巾着……マジックポーチがバレちゃいますが?」

と俺が慌てて伝えると、


「まあ、そうはそうなんだが、でもよ、お前さん、この先冒険者としてやって行くんだろ?

やっぱ、せっかくそんな便利な物を持って居るのに、使うのを制限するしかないって不便じゃねぇか?

それによ、冒険者ギルドには守秘義務ってのがあるんだよ。

無闇に冒険者の情報を漏らしちゃダメって事になっているだよ。

だから、買取カウンターではなくて、ギルドの職員に言って、倉庫側で出せば目立たないとは思う。

一応、口止めしておけばな。……多分?」

と。 何故か最後だけ疑問形なのは若干の不安材料だが。


「うーん。確かに、仰る通り、隠しきるのは不便ですね。

あ、一応防犯の為、偽装するってのはどうですかね?」


つまり、適当なリュックを買って、そのリュックがあたかもマジックバッグの様に思わせておいて、実はポーチって感じを説明した。


「おお、それなら、結構騙せるかも知れねぇな。

確かに錬金術師が作ったマジックバッグとかってのも高いけど、あるにはある。まあ容量も小さいから微妙なんだがな。

国や貴族や軍隊が持ってるホンマ物ってのは、エイシェントアーティファクトだからなぁ。」

と言っていた。

なるほど、似非マジックバッグもあるのか。ふむふむ。


そこで俺は、ガバスさんの商品から、適当な古びたリュックを買った。

フッフッフ。これで完璧?



それからも出て来る魔物を積極的に倒しつつ、馬車はドンドン進んで行く。


「しかし、次から次へと……普段からこんなに魔物って街道に出て来るもんなんですか?」

と聞くと、


「まあ、ゴブリンとか、ホーンラビットはチョコッと見かけるが、ここまでは出て来ないな。

普段よりも魔物の数と回数が多い気はする。」

と言っていた。



しかし、戦闘回数は多かったものの、軽くなった馬車のお陰で軽快に走り、結果として予定の2/3ぐらいの時間で走破してしまった。


「うぉーー! こんなに早く着くとは予想外だぜ。 やっぱ軽いって素晴らしいな。ガハハハ」


俺は城門の手前で荷物を荷台に戻し、入場料を支払って、無事に仮身分証を発行して貰えた。

1週間の間に、正式な身分証を作れば、返金して貰えるらしい。

仮身分証のままでも1週間単位でお金を支払えば、延長も出来るらしいが、俺はギルドに登録する予定なので、問題無い。


ピョン吉だが、従魔登録の仮許可書を貰い、街への入場許可を得た。

これは、冒険者ギルドに必ず登録する必要があるらしい。

更に言うと、従魔が街中でトラブルを起こした場合、その飼い主が全責任を負う事になるらしい。


ピョン吉を最初に見た衛兵は、

「ヒィッ! 草原の殺し屋!?」

と悲鳴を上げていた。


フフフ、こんなに大人しくモフられている可愛い奴なのになぁ。


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 メンテナンスを行い、一部文章の改善等を行っております。基本的な内容には変更ありません。(2020/05/21)


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