第6話 世間知らずの勘違い (改)
道中で俺は今まで疑問に思っていた事を色々尋ねてみる事にした。
「ところで、こちらの世界ってどの様なシステムになっているんでしょうか?
やはり、何処かに受付があって、申請する感じですかね?
いやぁ、目が覚めると知らない場所に独りぼっちだったので、まったく状況が判らないんですよ。」
「ん?何の話だ?システム? 受付ってあれか? 門番の衛兵を言ってるのか?」
となかなか話が噛み合わない。
「あれ? 何か変ですね。
もしかして、ここって死後の世界ではないんですか?」
と最大の疑問をぶつけてみると、オジサンに大爆笑された。
「ダハハハ!!! なんじゃそりゃ。
死後の世界? いや、少年、お前生きてるじゃん?」
と。
「ん? 確かに息もしてるし、心臓も動いてますね。 あれれ? 生きてる? 生きてるか!」
とこれまで壮大な勘違いをしていた事を実感してしまった。
そして、オジサンはこの世界の基本的な事から、教えてくれたのだった。
まず、俺は死後の世界と勘違いしていた、ここは、女神エスターシャ様がお創りになった、ドリアスという世界で、ここら辺は、クーデリア王国という国。
そしてこれから向かっている、この先の街はドワースというドワース辺境伯の領都だそうだ。
国や領地には、ちゃんと守るべき法があり、法を犯すと、衛兵に捕まり、領主様によって罰せられるらしい。
ザックリ言うと、盗み、詐欺、殺人、強姦は違法で、その他の細かい法律もあるらしい。
これらの犯罪を犯すと、良くて犯罪奴隷、悪ければ死罪、更に悪ければ、一族全員が罰せられるらしい。
あと、住民は税金を払い、払えない場合は、最悪借金奴隷とかになる場合もあるらしい。
なるほど。つまり文明は中世時代のヨーロッパ的な感じと考えれば良いのかな。
「あの、良く知らなくて申し訳ないんですが、その王様とか貴族様って、我が儘とか無茶を言ったり、気分次第で平気で人を死刑にしたりとかって無いんですかね?
まあ、この質問自体、不敬に当たるのかも知れないのですが。」
とよくある愚王や我が儘貴族的な事を心配して聞いてみた。
「ハッハッハ。あるあるだな。 うん。そう言う貴族やそう言う王様は居るさ。
まあ、クーデリア王国の王様はとても素晴らしい方だから、そこら辺は心配は要らないね。
貴族は……まあここだけの話、ヤバい奴も沢山居るぞ。
ドワースの領主様は出来たお方だから、そこら辺は心配要らないな。
でも、他の領地とか、街道とかで、そう言う貴族様に出会っちゃうと、かなり面倒な事になる場合もあるな。」
と後半苦い顔をしながら説明してくれた。
ちなみに、国家反逆罪や不敬罪は一発死刑らしい。 おお怖っ!!!
「だから、人前で王族や貴族の悪口とかは口に出さない様に、気を付けろよ? マジでヤバいからな。」
と釘を刺された。
「ところで、自己紹介がまだだったな。俺はドワースに店を持つ商人で、ガバスって言うんだ。」
「あ、そうでしたね。申し遅れました。私は杉田健二って言います。杉田が姓で、健二が名前です。」
というと、
「え? 姓があるって事は、少年は貴族様かい?」
と驚いて聞いて来た。
「あ、いえ、普通に平民と言いますか、特に貴族でもなんでも無いです。
ただ、俺、名前しか覚えてなくて、実際何歳なのか、自分がどんな顔をしているのかさえ、記憶無いんですよ。」
まあ、これは嘘では無い。
出身地にしたって、どうやら地球とは違うみたいだから、日本とか判らないだろうし、自分の顔や姿だって、泉の水面で見ただけ。
髪の色はどうやら、金髪ってのだけは判るけどね。
「そうなのか。それはまた色々大変だな。
まあでも、貴族でねぇなら、下手に姓は名乗らない方が面倒な事にならないかもな。」
「なるほど。 じゃあケンジでお願いします。」
と素直にアドバイスを聞く事にした。
話の途中で、昼飯休憩を取る事になった。
丁度良い空き地に、馬車を駐め、馬に飼い葉と水の桶を出してやり、俺達も馬車の横にシートを敷いて腰を掛けた。
「ところで、少年……いやケンジか。お前さん手ぶらで何も持ってねぇな?
しょうがねぇから、俺が飯を分けてやるよ。 まあ携帯食だから美味くはないがね。」
と優しい言葉を掛けてくれた。
い、いかん。久しぶりに人から暖かい言葉を掛けて貰って、死ぬ前のあのひもじい想いと心無い妻の罵声と仕打ちが頭の中をグルグル廻って、思わず涙ぐんでしまった。
「おいおい、大丈夫か?」
「すみません。久しぶりに人から優しい言葉を掛けて貰って、思わず感極まってしまいました。
お心遣いありがとうございます。でも心配には及びません。一応食料は持って来てますので。ほら。
良かったらお一つ如何ですか?」
と桃を出したら、これまたガバスさんが驚いていた。
「お、おま、お前、その桃、一体どこから?
あ! その腰の袋は、もしかして、マジックポーチか!!」
と目を見開いて驚いている。
なんか、この巾着袋はマジックポーチって名前の魔道具らしく、恐ろしく値段が高いらしい。
そもそも、殆ど世に出回って居ないので、高い安いの前に、持って居るのは、王族や一部の貴族、それに国によっては国軍が持っているぐらいらしい。
もっとも、収容出来る容量は50m×50m×50mぐらいが最高で、時間停止になる物はもっと容量が小さいそうだ。
「そんなの持ってたら、俺の店は、今の100倍どころか、この国屈指の大商会になっているぞ!」って。
兎に角、ガバスさん曰く、人に見せない方が良いって言ってた。
ガバスさんに桃を1つ渡し、俺もピョン吉と一緒に食べ始める。そして釣られる様にガバスさんが桃に齧りついてイキナリ絶叫していた。
「うっめーー!!
お、おい、これ普通の桃じゃねぇーだろ? これも人前で出しちゃダメだぞ?
昔のお伽噺で、神桃ってのが出て来るんだがよ、それは凄い効果を発揮する桃らしくてな。
1つ食べると寿命が延びて、ステータスも上がるとされている。
おそらく、『鑑定』は出来ないから判らんが、これは普通の桃じゃねぇ事だけは確かだな。
それに、この桃1つを巡って、2つの国が戦争を起こし、共に滅んだという話もあるぞ。」
と。
マジか。いや、1つどころか、バクバク食べてますが? しかも一時期は主食でしたけど?
それもしかして、ヤバかったのか?
ちょっと、脅かさないで欲しいなぁ。こっちは中身は小市民なオッサンなんだから。
あー、何かドキドキして来たよ。
そして、俺は嫌な予感がしたので、葡萄やブラックベリーやリンゴやマンゴー等、森で手に入れた果物を1つ1つ取り出して見せ、食べて貰うと、
「…………」
とガバスさんがフリーズしてしまった。
どれもこれも、ヤバい程の効能がある(と言われている)果物で、神桃と同じ扱いだってさ。
実際の効能が如何ほどの物なのかは、鑑定でも出ないので判らないらしい。
「お前、これまでこれの価値も知らずに、食べてたの? 一体どれ位食べた?」
って真顔で聞かれ、
「えーっと……
……
…………取りあえず、目が覚めて最初に発見してから3ヵ月ちょっとで、毎日3食ぐらい?」
と答えると、ガバスさんがプルプル震えていた。
「おいおい、ケンジよ、おまえさん、このまま街に入ったら、多分大騒ぎになるぞ?」
と真顔で言い出し、取りあえず、乗りかかった船だからと、ここで一泊して色々教えてくれる事となったのだった。
「何か色々お手数掛けます。」
と頭を下げた。
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メンテナンスを行い、一部文章の改善等を行っております。基本的な内容には変更ありません。(2020/05/21)
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