第5話 旅は道連れ (改)
1時間程休憩し、朝食も食べて、眠気はあるものの、心も体もリフレッシュ出来た。
まずは、この崖、高さ約50mを降りて、その先の川……目測で15mぐらい?を渡り、あの街を目指さなくてはならない。
取りあえず、崖は迂回して降りたとしても、あの流れの急な川をどうやって渡るかが問題である。
とてもでは無いが、泳いで渡る間に、思いっきり流されるのは目に見えている。
最悪、あの街に辿り着かなくなる可能性も、溺れる可能性もある。
そこで、森の木を切って、丸太橋を掛ける事を思い付いた。
ここの森の木は、大体25m~30mは有りそうな背の高い木が多い。これを2本程ロープや蔦でくっつければ、立派な橋になりそうである。
早速、巾着袋から斧を取り出して、手頃な木を2本切り倒した。
初めての経験であったが、思った以上に軽く切れたのには驚いてしまった。
枝を払い、丸太状にした2本を何箇所かでロープで結び、幅約1.7m程の丸太橋が出来上がった。
後はこれを巾着袋に入れて、崖を降りるだけである。
しかし、万が一の事も考え、予備の丸太を何本か伐採して行く事にした。
1時間程掛けて、倒した木々を巾着袋に仕舞い、あらためて周囲を見回し、苦笑いをしてしまう健二。
念には念をと木を切り倒す内に、ノって来てしまって、100本程切り倒してしまったのである。
そのせいで、周囲の森は20m程後退し、切り株だらけになってしまった。
「ちょっとやり過ぎたな。」
と反省しつつ、崖の緩やかな所を選んで、慎重に下って行く。
特に高所恐怖症ではないが、ここまで来て、グシャっとトマトが落ちた様な結果はご免である。
1時間掛けて、やっと崖の下に降り、上を見上げると、朝日に照らされた崖が聳え立っていた。
「よく、こんな崖を降りて来られたなぁ。
生前の身体であったら、例え18歳ぐらいに戻ったとしても無理だよな。
死後の世界の身体は本当に凄いな。」
川の一番狭そうな所へ行き、作った丸太橋を巾着袋から方向を指定する感じで、取り出すと、向こう岸までの立派な橋が架かった。
向こう岸に渡り終わり、腰の高さまで生えている草原を進んで行った。
崖の上から見た時に、草原の向こう側の森の更に先に、道らしき物が見えたので、それまで森も突っ切って真っ直ぐ進む感じである。
草原では、時々、人懐っこい角の生えた兎が居て、人を怖がらないのか、じゃれて飛びついて来る。
フフフ、可愛らしい。
特に構ってちゃんらしい、兎が勢い良く飛びついてきたので、思わず角を掴んで、ぶら下げ、その顔をマジマジと近くで見てみた。
嬉し気にじゃれて来るのは良いのだが、角で突かれても、特にチクリとする程度なので、問題は無いのだがな。
クリクリとした目をしており、真っ白で可愛い。
柔らかな毛並みが素晴らしい。
思わず、可愛さの余り、ウリウリとモフモフを堪能させて貰った。
モフモフしていると、プルプル震えだして、嬉しいのか、オシッコを漏らして喜んでいた。
「ハッハッハ、嬉ションか。そうか。可愛い奴め。」
俺は、この一番勢いの良かった兎に、ピョン吉と名付け、話掛けながら歩いていった。
2人で進む道中は、なんか張り合いが出て、眠気も飛んで丁度良かった。
最初は、遊んで欲しいのか、ジタバタ落ち着きの無いピョン吉であったが、何時までも角でぶら下げる訳にもいかず、オシッコを漏らした事もあったので、テントを出して、風呂場で洗ってやった。
身体を洗われるのが相当嫌なのか、抵抗していたが、最後は諦めて言う事を聞いて大人しくなった。
綺麗になったので抱き上げると、プルプル震えている。
寒いのかと思って、身体を拭いてやり、首だけ出してタオルを撒いてやると落ち着いた。
軽く昼飯代わりの桃を食べ、ピョン吉にも分けてやると、腹が減っていたのか、ガツガツ食べていた。
そして、テントを収納した後、胸に抱いたピョン吉をモフりながら、更に先へと進んだ。
森の中では、緑色で耳の尖った二足歩行の小さい変な生き物が、「ギギギ」と声を上げながら、棍棒を振り上げ襲って来た。
話が通じず、一方的に襲って来るので、思わず斬り捨てさせて貰ったが、まさかこれが死後の世界の案内人じゃないよな?
それから、同じ緑の小人が何匹もやって来た。
他には、見た目が完全に豚っぽい身体付きの二足歩行のデカい奴が、ブモーと鳴きながら巨大な棍棒を持って襲って来た。
何か真っ黒い狼?とか、畳2畳分でも収まらない様な大きな蜘蛛とか、ファーブル先生もビックリな大きな蠍とか、赤くは無いけど、涎を垂らしながら襲って来る銀色の熊とか、牙が半端ない猪とか、他にも真っ赤な人型の牛みたいなのとか、色々と出て来た。
これも一応、正当防衛という事で、斬り捨てさせて貰った。
どれも、一応証拠として、巾着袋に収納してある。
夕暮れ時に差し掛かる頃、やっと森を抜けた。
暫く歩くと、崖の上で見た道に辿り着いた。
「ふぅ~、やっと道に辿り着いたな。
道まで出れば、テントで宿泊しても大丈夫だよな?」
という事で、ここで一泊する事にした。
寝付きは早く、そのままベッドに倒れ込み、ピョン吉と一緒に爆睡してしまった。
◇◇◇◇
翌朝目覚めると、既に日の出から1時間程は経っている頃合いだった。
一晩爆睡したお陰で、心も体も完全復活していた。
ピョン吉も目覚めたらしく、可愛らしい鼻をモグモグさせて居た。
「おはよう、ピョン吉。
さあ、朝風呂に一緒に入ろうか。」
と言ってピョン吉を抱え、風呂場に連れて行くと、また暴れだした。
湯船にお湯を貯めている間に、ピョン吉をトイレに連れて行くと、プルプルしながら糞をしていた。
「おお、偉いな。ちゃんとトイレで出来たなぁ。」
と褒めてやり、風呂場で俺もピョン吉も泡まみれになって綺麗に洗った。
最初は抵抗していたが、その内ウットリとしだして、シャワーを掛けるとまたじゃれついてきた。
「ハハハ。チクッとするから、角は止めろよ?」
角をデコピンで弾くと、ちょっと強すぎたのか、ピョン吉がコテっとひっくり返っていて、思わず笑ってしまった。
ついでに、腹もシャワーで流し、湯船に浸かる。
「ぁぁーー、堪らんな。 どうだピョン吉、気持ち良いだろ?」
最初はお湯を怖がっていたが、膝を立てた上に乗せて、徐々に沈めてやると、ウットリした表情になり、大人しくなった。
「キュィキュィ」
嬉し気にピョン吉が鳴いている。
「そうか、気持ち良いのか。」
風呂から上がって、身体を拭いてやる。
俺も服を着替えて、朝食の果物を取り出した。
ピョン吉に色々食べさせてみたが、オレンジはダメっぽかった。
ベリー系や桃やマンゴーは大好きらしく、「キュキュ」と嬉し気に鳴きながら、バクバク食べていた。
ちょっと深さのある皿に、泉の水を入れて、ピョン吉に出してやった。
俺もコップに入れて飲む。
何度飲んでも美味しい水である。
ピョン吉も、泉の水を気に入ったらしい。
30分程食後の休憩を取ったら、出発である。
ピョン吉を抱えて、街を目指して歩き始める。
割と平らに整えられている恩恵で、進み具合は順調である。
暫く進んでいると、後ろの方から、カッカッカという蹄の音とガラガラと車輪が回る音が聞こえて来る。
どうやら、馬車か何からしい。
道は場所によって、轍の様な後があったので、おそらく馬車があるのだろうと予測していたが……。
音が聞こえ始めてから、5分ぐらいすると、やっと傍まで近寄ってきた。
「ドウドーー、おい、少年よ。ドワースの街まで行くのか?」
と御者のオジサンが声を掛けて来た。
「おはようございます。
街の名前は判りませんが、この先の街?に行くつもりで歩いてます。」
と振り返って話をすると、
「ん??? 少年、その胸に抱いているのは、まさかホーンラビットの上位種のキラー・ホーンラビットじゃないのか?」
と目を見開いて驚いている風のオジサン。
「え?名前は知らないけど、そんな物騒な名前なんですか? 草原を横切っていると、角の生えた兎がじゃれついて来て、中でも一番人懐っこいこいつは、抱きつく勢いが良かったので、こうして旅の道連れにして、モフモフしてます。
いやぁ~、可愛い奴ですよ。ああ、名前はピョン吉って付けました。なぁ、ピョン吉。」
と俺が説明すると、オジサンがドン引きしている。
「いや、少年よ。それはじゃれついて来たんじゃないと思うぞ? 特にこのキラー・ホーンラビットは、獰猛でな、別名『草原の殺し屋(矢)』とも呼ばれてるBランクの魔物なんだぞ?」
と言って来た。
「ん??? 魔物? 何ですか、その魔物って? 動物とは違うんですか?」
と俺が質問すると、更にオジサンがドン引き。
「え?いや、魔物は魔物だろ? 魔物は一般的に、身体能力が高く、人間の脅威となる生き物で、体内に魔石と呼ばれる、魔力が凝縮されている石を持っている。
お前、魔物を見た事が無いのか?」
と説明してくれた。
「うーん、魔物ですか。聞いた事ないですね。気が付いたら森のすぐ傍に居て、一人で生活してましたから。」
と説明すると、何か可哀想な者を見る目になっていた。
「そ、そうか。それは大変だったんだな。
俺も街まで行くから、乗って行くか?」
と誘ってくれた。
なので、ありがたく乗せて頂く事にした。
最初はピョン吉にビビってたオジサンだが、俺の腕の中で大人しくしている事で多少は安心したみたいだったが、凄く不思議そうに、チラチラ横目で見ていた。
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メンテナンスを行い、一部文章の改善等を行っております。基本的な内容には変更ありません。(2020/05/21)
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