第31話 幼なじみと同じ床で
二人は昼過ぎに宿についた。だが、藍炎から紹介された宿の入り口の前で二人は固まっていた。
「さすがは女好きと名高い東見の領主様だな……」
武黒は悪態をつく。なぜなら、二人が紹介された宿は普通の宿ではなかった。もちろん、一般人のふりをしている武黒達が城の従者御用達の宿を使うわけにはいかない。とはいえ普通の宿では、相部屋だったり壁が薄かったりする。会話が筒抜けだ。
「だからって男二人でここは……」
蘭丸も苦笑いをしている。そう、ここは男女が密会やら、遊女を招いて楽しむ宿なのである。
確かに密談どころか色々濃いことができる。だけども男二人で、しかも同僚と泊まる日がくるとは予想もしていなかった。
そして、二人は部屋に入るなり、更に落胆することになる。
「「布団が一つかよ!!」」
そう、そこには大きなサイズではあるが敷き布団どころか、掛け布団も一つだった。枕は二つあるが。二人はどっと疲れが押し寄せてきたのを感じた。
「俺は寝るぞ!」
武黒は眼帯を剥ぎ取り、さっさと着替えると、即座に布団に入っていった。出発は夜である。それまで寝なければ。
二人は目立たぬよう夜間に移動し、昼間に宿で過ごす旅程を組んで、奥美を目指すことにしていた。蘭丸も観念すると、さっさと着替えて布団に入る。
「武黒、狭い。もっとつめてよ」
ただでさえ大柄なのに真ん中を陣取った武黒を、蘭丸は枕で軽く殴りながら自分の寝床を確保した。
「ねぇ、武黒。人の噂って怖いね」
蘭丸も床についたが、なぜか緊張してしまって話しかけた。しかし、証拠もないのに真白ちゃんのせいにされてるとまでは蘭丸は言わなかった。蘭丸は横向きに寝たまま、訳もなく畳を見つめる。だが、武黒もそれだけで察したのだろう。
「いつもそうだ。なんかある度に叩かれる。奥美に生まれて幸せだったのか時々考えるけどよ、もしただの村娘だったらとっくに殺されてたんだろうなとも考えちまう」
武黒も横向きに寝て、目を閉じながら話しはじめた。蘭丸はうん、うんと武黒の話に相づちを打つ。お互い幼なじみだ。考えてることはだいたいわかってしまうし、受け止めてもらえそうな謎の信頼感も出来ている。そして蘭丸は気付く。
──おかしいぞ。なんかしっとりした雰囲気になってしまったではないか。
蘭丸は墓穴を掘ったと自覚した。幼なじみと同じ床で語り合う想い。普段なら言えないこと。
──なんか寒いけど、武黒の方を向くなんて恥ずかしくなってきちゃった。ん?寒い?
「ねぇねぇ、もっとつめられないの?」
しかし、今二人は深刻な問題を抱えていることに気付いた。蘭丸は武黒に話しかける。
「見てわかんねぇのか。無理だろ」
武黒も悪態をつく。あぁ、背中が暖かい。そして布団から出たかわいそうな手足たち。
「「寒い!!」」
いくら大きなサイズとはいえ、男二人である。ましてや武人であり、大柄だ。二人の背中がくっついていても、手足は若干はみ出していた。更に季節はまだ春になったばかり。少し冷える。しかし、二人は疲れているせいか、気付けばそのまま眠りについていた。
──そうだ。俺は真白を泣かせないために、誰にも文句言わせねぇために強くなるって決めたんだ。
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