第25話 魔術と巫女の力

 翌朝、真白はりゅかに案内され、魔女の書斎に来ていた。


──大きい……。まるで書庫だわ。


 個人の書斎というよりも、国が管理している書庫並の広さだ。書斎のある部屋は一部吹き抜けになっており、上の階にもたくさんの本がぎっちり陳列された本棚がある。壁一面の本棚一つ一つが高く、茶色の梯子はしごが所々にかけてあった。


「真白が探したい本はこっちだよ」

 りゅかは真白を手招きした。彼はどの本棚に何があるのか全て把握しているのだろう。迷うことなく真白を案内する。


──民族学、西洋文学、応用呪文学……。

 真白は本棚にある本のタイトルを見ながら、りゅかに付いていく。どうやら本棚は系統ごとに陳列されているようだ。


「それにしても、医学から自然科学、人文に魔法学なんでもあるのね」

 どうやら魔女はあらゆるジャンルの本を収集したようだ。本当に個人の書斎という域を越えている。りゅかが立ち止まったので、真白も立ち止まる。


「魔術はね、あらゆることに精通してないと扱えないからね。巫女の力もそうでしょう?」


 りゅかは驚いている真白に声をかけた。


「うん、私も医学や歴史、天文から武術までたくさん勉強したな」


 真白も返す。医学や自国や周辺の国の歴史を知ることは、巫女として領民を助ける為に必要ではある。だが巫女は算術や戦術、しまいには合気道や舞、雅楽まであらゆる教養を学ばされる。


「特に自然の力を学ぶことは大切だったなぁ。こんなに自然について論理的にまとめられた本はなかったけど」


 真白は目の前にあった自然科学に関する本を手に取ってペラペラとめくる。公用語は大陸との交渉で必須のため、勉強していた。会話することも読み書きも流暢にできるが、やはり読むことは慣れない。更に内容が難しくて知らない専門用語ばかりであり、トドメは魔法の呪文ときた。魔法の呪文は古い言語で成り立っているため、真白にはわからないのだ。真白は本を元の場所に戻した。


「そうだね。巫女の力は自然の力を借りるものだもんね」

 りゅかは苦い顔をしている真白を見ながら、話を続ける。


「巫女や術者が扱う力が自然の力を借りて、エネルギーに変える力だとしたら、魔術師の力は自然を操る力なんだ。元々、魔術師が持っている魔力と呼ばれるエネルギーで、自然をコントロールする力」


 りゅかは真白達の世界で発達した力と、自分の生まれた世界で発達した魔術の違いを説明した。自然を論理的に分析するのもコントロールに必要なためだと続ける。


「そうなんだ。じゃあ私は魔術扱えないね」

 真白はがっかりした顔をした。せっかく魔術について調べるのだから、魔術をかじりたいと思っていた。しかし、真白は魔力を持っていないのだ。だからりゅかは魔術を教えてくれなかったのだろうか。


「巫女の力も魔術師の力も同じエネルギーを扱っているんだけどね。ただ、利用するか制御するかの違いでどちらも魔力だよ」


 りゅかは説明する。じゃあなぜ魔術を教えてくれなかったのかと真白は聞く。


「利用する方が少ない力で済むからね。体の負担もかからないし。それに真白だけ魔術を使っていたら、周りから怪しまれるでしょ?」


 りゅかは説明した。ただでさえ、真白の居た国は島国なのだ。一人だけ妙な力を操る巫女がいたら噂になってしまう。


「でも魔術を知るだけでも、元の世界に帰れる方法が見つかるって魔女さんが言ってたよ」


 りゅかは真白に微笑んだ。一緒に頑張ろうと言うりゅかは、本当に真白を元の世界に帰そうとしているように感じられた。真白も笑顔になり力強くうなづいていた。

  

  

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