第4章 招かざる災い
第23話 やっと会えたのに
真白は用意された部屋で一人、くつろいでいた。
──ベッドってふかふか!
硬くて薄い敷き布団が当たり前の真白にとって、初めて見るベッドの柔らかさはまるで雲の上にいるような気分だ。それに、明日のことを考えると真白は楽しみで仕方なかった。
──明日はいよいよ、魔女さんの書斎に入れる。
西の諸国の魔術師たち、話を聞いたことはあるが実際にその術を見たのは、この前りゅかが放った術が初めてだ。
──もう、りゅかってば、魔術師だったら教えてくれればいいのに!
真白はりゅかのことを、生前凄い腕をもっていた術者くらいにしか思っていなかった。
──まさか魔術師で更に高位のウィザード様が師匠だなんて……。
真白は納得してしまった。どうりで姫巫女である月佳姫からも頭を下げられているわけである。
──私も敬語を使った方がいいのかな?嫌がられるか。
真白が生まれたばかりの頃からいた存在がりゅかである。まだ小さいときに話していた口調のまま今までやってきたが、幼いときから巫女になった真白は、大人の世界で敬語を使うことを同年代の子どもよりもいち早く覚えてしまった。しかし、りゅかは師匠と呼ばれることを、また彼に対して敬語を使うことをひどく嫌がったのだ。
──敬語を使うなら、術を教えてあげない!ってりゅかに拗ねられて泣いたっけ。
まだ真白が幼かった頃、意地でも敬語で話そうとした真白に対して、りゅかもつい意地になってしまった。なんと師匠辞める宣言までしたのだ。当然、真白は師匠を失っては立派な巫女になれない。幼かった真白には効果てきめんだった。あまりの恐怖に真白はその場でギャン泣きしてしまったのだ。
──でも、なんでりゅかが師匠を引き受けてくれたんだろ?それに……。
真白はベッドでうつ伏せになったまま、考えはじめた。
──それに、なんでりゅかはここに連れてきたんだろう?
巫女であるからこそ、薄々勘づいていた。ここに連れてきたのはりゅかだと。しかし、彼の目的がわからないし、聞ける雰囲気でもない。考え込んでいた真白は不覚にも突然現れた気配に反応が遅れた。
真白は誰かが確実に自分を見つめていることに気付き、顔だけ振り向いた。その者たちを見て、真白の目は見開かれた。
「「真白!!」」
月佳姫と武黒の声がして、真白は起き上がると、その者達の全体を見る。ベッドと部屋を遮るように天井からかかる薄い絹で出来たカーテン。確かにカーテン越しに本人たちが立っている。
「兄上!月佳姫!」
真白はベッドから降りると、急いで二人に近付く。そして月佳姫の手を握った。
「お会いしとうございました」
真白が涙目で二人を見つめる。月佳姫は確かに感じる真白の手の感触で悟った。
「どうやらここはあらゆる世界の狭間のようですね。魂も体も曖昧な世界」
魂だけの存在であろうが、体だけであろうが生活することができる曖昧で不思議な世界に迷いこんでしまったのだと月佳姫は告げる。これもりゅか達の思惑を探る手がかりになるだろうか。
しかし、どこからか観られている視線に月佳姫は気付いた。
「気付かれましたね」
月佳姫はその視線に向かって微笑む。
だが、真白には誰が観察しているのかすらわからなかった。真白は理解が追い付かないまま辺りを見回す。
ふいに真白の手が誰かに捕まれる。我に返った真白は掴んだ者の目を見つめた。
「時間がねぇな。真白必ず迎えに行く」
武黒が真白の手をしっかり握って言う。
「満月の夜なら私たちも狭間に渡れます」
月佳姫も矢継ぎ早に言う。二人の体の輪郭がぼやけていく。
「兄上! 待って!」
真白は握られた兄の手を強く握り返す。
「待ってろ! 絶対に迎えに行くからな!」
「兄上!」
一瞬強い光が放たれた。真白はあまりのまぶしさに目を閉じる。真白の手からふわりと消えていく兄の温もり。そして、目を開けるとそこには誰もいなかった。
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