第6話 消えるおさつ事件、これにて解決!

「イズミ」

「なんですか」

「これが『事件の最後にある思わぬてんかい』ってやつ? 俺たちむけの」

「……そうかもしれません」


 広々としたなんでも探偵団本部にある、大きくて長いろうか。学校がえり、探偵団メンバーの手によって強引につれさられたふたりは、そこのぞうきんがけをさせられていました。もうかれこれ2時間くらい。

 理由は、ふつか続けてよあそびしたから。

 タケルははてしなく長く、ながーく続くろうかで、くやしそうに大声をはりあげました。


「なにがよあそびだよ、俺らは事件のそうさしてただけだっつーの! 探偵団のバーカ!」

「でも、学生の団員は夕方6時までに帰るのがルールですからね……」

「しらねーよ! お前は探偵団の一員かもしれないけど、俺はそうじゃねーし! ていうかお前が探偵やってたなんて、聞いてなかったんだけど!? なんでだまってたんだよ!」


 だって、団員ですなんて話したら、ぜったい根ほり葉ほりしつこく聞かれるにきまってるじゃないですか。そう返事をする代わりに、イズミはため息をつきました。

 『探偵よりもまず、学生たちのお手本に』。団長――イズミパパが、イズミを探偵団に入団させたとき、いっしょにしたやくそくごとでした。だから、ルールは守らないと。……いやでも僕そもそも入りたいなんて一言も言ってないし。なんでこんなことをしてるんだ? おかしくないか? 僕はそんなにひまじゃない! ミステリー同好会の活動がいそがしいんだ!

 ふつふつとわきあがる怒りをおさえていると、タケルが話しかけてきました。


「ところでさ」

「はい」

「俺、まだ気になることがあるんだけど」

「まだあるんですか?」


 イズミは顔をしかめます。このぞうきんがけをしている間、事件についてずっと質問ぜめにあっていたのでした。


「イズミがさ、最後らへんに『あなたが使った手口といっしょです』みたなこと言ってたじゃん。あれ、どういういみ?」

「そのままのいみですよ」

「おさつをゴミ箱にすてんのと、けいさつのふりすんのって、どこがおなじなんだよ」


 バケツにぞうきんをつっこんで洗いながら、タケルはまゆにしわをよせてたずねます。いかにもタケルらしい質問だ、とイズミはため息をつきました。


「べつにけいさつのマネをしたわけじゃありませんよ。けいさつのふり、にせのけいさつてちょうをつくる、どっちも犯罪じゃないですか」

「じゃあお前が言ってたの、どういういみなんだよ」

「相手がうまい具合にかんちがいしてくれるように、ゆうどうしたんです」

「……は?」


 落ちにくいよごれを必死にこすっていた手を止めて、イズミはもういちどため息をつきました。タケルはふゆかいそうに顔をしかめます。


「じゃあ、ぎゃくに質問しますよ」

「なんでだよ」

「いいから。犯人はどうしておさつばっかりぬすんで、こぜには取らなかったと思います?」

「えー……?」


 タケルははてと首をかしげました。……そういえば、どうしてでしょう。


「なんでかって」

「はい」

「それは」

「はい」

「……いっかくせんきん?」

「なるほど。タケルせんぱいらしい答えですね」

「バカにしてるだろ」

「ちょっとだけ。まあそれもあるでしょうけど、ほかにも理由があるんですよ」


 そう言いながら、イズミもぞうきんをバケツに放ります。それからきゅうけいだというようにそのそばに座りこみました。


「コンビニにはたくさんお客さんがいますよね? そのお客さんに、お金を捨てているところを見られてしまっては困ります」

「そりゃそうだな」

「だから彼はこぜにじゃなくておさつにしたんですよ」

「……ん?」


 なんで、という顔をしてタケルは首をかしげます。ああもう、ものわかりが悪いんだから!


「丸めた紙を捨てるところを遠くから見たって、だれも気になんかしないでしょう! 『ゴミ箱に捨てているんだから、あの紙くずはゴミだ』と決めつける、それをせんにゅうかんと言うんです! とりおさえるときだってそうです、あのじょうきょうで黒いてちょうを見せられたらせんにゅうかんでけいさつてちょうかなーなんて思っちゃう! はい、作戦だいせいこう!うまくいきました!」

「ああ、なるほどー!」


 まくしたてるようなイズミの説明に、タケルはははぁとうなずきました。どうやらやっと理解してくれたようです。


「そうか、お前なかなかやるな。犯人とおなじ方法を使って、犯人を追いつめたわけか!」

「……まあ、僕くらいになると? ただ追いつめるなんてやぼなことはしません。いちど出しぬかれた相手には、100倍にしてかえしてやります」


 ほめられて悪い気はしないのか、イズミはすこし得意そうに言いながらも、頭の中でひとりのおとなの顔を思い浮かべていました。……毎日まいにちじまん話ばかりしている、ミステリーをひとつも信じない、あの顔です。

 そう、ただ追いつめるなんてことはしない。父さんが解決してきた事件の100倍すごいミステリーを見つけ出して、ぜったいにぎゃふんと言わせてやるんだ。

 決意をあらたにしたイズミの横で、タケルもまんぞくしたようにそういうことかとしきりにうなずいています。

 もう質問はないようなので、これで事件は本当のいみで終わったと思っていいでしょう。あとはこのじごくのぞうきんがけを終わらせるだけです。

 イズミはバケツの中に手を入れて、てきとうにじゃぶじゃぶとぞうきんをあらいだしました。


「ほら、頑張りましょう、タケルせんぱい。サボってるのばれたら団長に怒られちゃいますよ。もしかしたら向こうのろうかも追加されちゃうかも……」

「なにがバレたら怒られるって?」


 ――とつぜん後ろから聞こえてきた声に、ふたりはそのままのたいせいでかたまりました。こ、この声は……。


「……団長……」

「ふたりとも、あっちのろうかも追加です」

「ええええぇぇぇぇーっ!」


 ミステリー同好会の事件は、まだもう少し続きそうです。

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