第5話 使者と能力

実は注意深く、スマートフォンの画面を確認している。テレビのニュースも妻との会話もそっちのけだ。

結局メールは、朝食の間には来なかった。

仕方なしに、家を出る。

「ささきみのる」

家を出た途端、声がする。明るい雀たちの声より随分低音な声だ。

見回すと一匹の黒猫がいた。

実は最低限の小さな声で話しかける。

「きみか?」

猫に声をかけた瞬間、背後から声をかけられる。

「あなた?」

最悪なタイミングで妻に見られてしまった。

恐る恐る振り替えると、妻はクスクス笑っている。

「まさか、あなたが猫に話しかけるほど猫好きだと思わなかったわ」

実は頭をかきながら、答える。

「……バレたか」

「とりあえず仕事に行ってらっしゃい。この子は私が面倒見てるわ」

妻はにこにこしながら、黒猫をつれていく。

黒猫はにやりと笑いながら、実に話しかけた。

「ささきみのる、早く帰れよ」

その声は先程の低音ボイスだ。


仕事を素早く終え、家に帰る。

あまりの早さに妻はびっくりしていた。

「あら、あなた、猫にそんなに早く会いたかったの?あの子名前何にする?」

思いの外妻もランランとしている。

あの子と呼んだ方を見ると、今まではなかったどでかいキャットタワーの上に黒猫がにやついている。

「あれは、君が?」

妻は少し照れながら頷いていた。

「えぇ。私、本当は猫大好きでね」

可愛らしい妻を見れたことに喜びを噛みしめながら、

じっと猫を見る。

「ささきみのる、早い帰りだったな。話の続きをするか」

猫はそういうとキャットタワーをすごいスピードで降り、実の足にゴロゴロと擦りついた。

猫を抱き上げながら、妻に告げる。

「少し猫と遊んでいいかなぁ?」

妻はにこりと笑い、

「いいわよー」

実は猫を連れて自分の寝室に向かう。

「ささきみのる、君の妻は、いい人間だなぁ。美味しい食事と快適な生活をくれた」

実は誇らしく思った。

「さてさて、前置きはともかく、君からの質問に答えよう」

猫は一瞬にしてきりっとした顔をした。

実は静かに言葉を発する。

「今、自然に動物たちの声が聞こえるんですが…あれ、聞こえなくするとかできますか?」

猫はきょとんとして尋ねる。

「それはささきみのる、君が望んだことだろう?」

「夢の中でも言いましたが、そもそもあの力、辞退させて頂くと伝えたのに、気がついたらこちらに戻されていて」

猫は片足で背中をかきながら、答える。

「あー、あれは思慮深い日本人ならではの遠慮ではなく、本心だったか」

実は激しく頷いている。

「ふむ。困ったものだなぁ。一度与えてしまった能力についてはキャンセルは出来ない」

猫の言葉にたいして、実はうなだれた。

「ただし、どれかにスポットをあてれば、他の声は随分小さくなるはずだ……現に今、他の動物の声聞こえているか?」

たしかにこの一週間実を悩ませていた、野良猫の声や自粛したいような害虫、害獣系の声はほとんど聞こえない。

「たしかに。」

「ちなみに、逆にすべての動物の声を聞くことも修行を続ければ可能だ」

「修行?」

「そりゃそうだろう?なんの修行もなしに色んな力が手にはいるはずない」

「色んな力?」

「あぁ、ささきみのる、君は、色々な能力を手に入れられる」

実の頭はくるくるとまわっていた。

「ちなみに、君はもうすでに他の能力も身に付いている物もある」

猫がそういった瞬間に、スマートフォンからは聞きなれない、だが誰もが知っている運命の音がした。

混乱した頭だったが、実は静かにスマートフォンを開く。そこには

神という怪しいアドレスからメールがきていた。

「ささきみのる、私の部下には無事会えたかな?

君に今、与えられている能力は

動物の声を聞く、風と話す、空を飛ぶだ」

夢の中ではあんなに勿体ぶったのに、何故かとても簡潔にメールは告げていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る