第32話 一握の自由


「よう、遊びに来てやったぞ。ダネル」


俺が扉を開けて部屋に入ると、本を読んでいたダネルは顔をぱっと輝かせる。


「カイル! 待ってたんだ!」


本をほっぽり出してはしゃぐダネルを横目に後ろを振り返ると、黒い服の教会員が立っていて扉に手をかけるのが見える。扉を閉める間際、教会員は「分かってるな」という目線を俺へと向けて、外側から鍵をかけた。

いつものことなので、もう何とも思わなかった。


週に1回、4時間。

それが俺とダネルが遊ぶことを許された唯一の時間だった。

ダネルはいつもこの部屋にいて、ほとんど外に出ることが許されていない。

教会の中だって、自由には歩き回ることが出来ないのだ。

理由はダネルが生まれつき体が弱く、日光に長く当たると体調が崩れてしまうからということだった。過度な運動と魔法の使用も、医者から固く禁止させられているらしい。


ダネルと遊んだことは喋ってはいけないと、父から強く言われていた。

ダネルの部屋は教会の中でも限られた人しか入れない場所にあり、ここに部屋がある事自体、ほとんどの教会員が知らないらしかった。

つまり父の命令は、教会員にもダネルの事は内緒だという意味だった。


初めてダネルと会ったのは4歳になる手前。

俺の役目は、外に出られないダネルの遊び相手になることであり、選ばれた理由は司教の息子である事と、単純に年が同じだからというもの。それ以上の理由はない。


ダネルは大体、外での俺の生活の話を聞きたがるか、読んでいる本に登場する英雄ごっこをしたがった。


ダネルが俺と出会う前からずっと大切にしていた本がある。

それはどこにでもありそうな冒険物語だが、ダネルは数ある本の中でも、特にその本を気に入っていた。

主人公は炎の魔法を操り、剣の達人で、ドラゴンにまたがって各地を旅する。

どんな相手にも、どんな逆境にも、勇敢に立ち向かっていく。

年中部屋で過ごす自分と真逆の存在にダネルが憧れるのは、当然の事とも言えた。


「おじい様は、もう少し僕が元気になったら出してあげれるって言ってたんだ。ちゃんと病気を治して、真面目に勉強をしてたらいつか外に出れる。だから頑張るよ。死んじゃったお父様とお母様の分まで元気に生きたい。偉大な英雄になりたいんだ、僕」


ダネルはそう言った。

でもそれから1年が経ち、2年が経って――、俺たちが5歳になり、6歳になっても、ダネルが部屋を出られる様子はなかった。


ある日、俺は父に聞いてみた。

ダネルの病気はいつ治るのか。そもそも、俺と遊ぶときのダネルは別に普通だ。部屋にいる時に、病気の影を感じた事はない。ひょっとしたら、少しくらい外に出ても平気なんじゃないのか。

そう聞いてみた。


すると父は鼻をヒクリと引きつらせたあと、大きなため息を吐き、引き出しから一枚の新聞記事を取り出した。


「……もう字が読めるようになったはずだな? ならば遅かれ早かれ耳にする事になるだろう。むしろ、とっくに察しているのかとも思っていたが」


「?」


それは何年も前の古い記事だった。

俺は小さく難しげな言葉の並ぶ新聞記事に、よく分からないまま目を通す。


「……………………!??」


俺はそこに書かれていた、あまりにも理解不能な内容に言葉をなくした。


記事に書かれていたのはダネルの父『ロネリ・モロゴロス』が巻き込まれた事故について。何年も前のこの事故の時に、息子である『ダネル・モロゴロス』も一緒に死んだと書かれていたのである。数えてみると、それはまだダネルが2歳の赤ん坊の時の話だった。


「残念だが、お前の言うは来ないだろう。

もちろん、この事をダネル様に言ってはならん。お前は今まで通り、話し相手になって差し上げればいい。それを教皇様も望まれているんだ。

……そうだ、そんな事より先月からうちに教えに来ている魔術講師だが、教え方が悪いのでクビにした。また別の者を探す、それまでは魔術の練習は――――…………」


そこから先、もう父の言葉は耳に入ってこなかった。

意味が分からなかった。

何故ダネルがそんな扱いを受けているのか。なぜダネルがそんな扱いを受けなければいけないのか、一つも理解ができなかった。


俺が初めて会った時から、もうすでにあいつは死んだことになっていた……?


あいつは今も、いつか病気を治して外に出られると信じているのに。

あいつはあそこで、確かに生きているのに。


ただ一つ確かなのは、大人たちがずっと嘘をついていたという事。

そして、このままではダネルは永遠に、物語の英雄にはなれないという事だった。





父から真実を聞いて、数か月が経った。



真夜中――、聖堂は冷たく静かだ。

その日、俺は珍しく聖堂の上階にある部屋で過ごしていた。


「本が読めるようになったので、教会が管理している本をゆっくり読んでみたい。だから聖堂で一晩過ごしてもいいか」と言ったところ、「勉強熱心なのは良いことだ」と簡単に許可が出た。


もちろん本当の理由は違う。

俺は机の上に山積みされた本には目もくれず、部屋の扉をそっと押し開く。


「――――」


通路には、わずかにともる灯りのほかには何も見えない。

足音どころか人の気配さえ感じない中、俺は廊下に身を滑らせた。精霊教会の大聖堂とはいえ、別に何階もある建物の中をまんべんなく見張りがウロウロしているわけではない。基本的には、出入り口に最低限の警備がなされているだけである。


夜とはいえ勝手知ったる聖堂の中、迷うことなくダネルの部屋がある階へ忍び込み、そのまま折れ曲がった細い通路を手探りで進む。

そしてドアノブに手をかけた。もちろん、固く鍵がかけられている。


俺は胸元から用意していた鍵を取り出す。

ダネルの部屋の合い鍵――、隙を見て教会員からくすねたものを内緒で複製しておいたものだ。


俺は音を立てないよう、息を殺しながら鍵をドアノブに差し込んだ。


――――ガ……、チャリ


「よし」


俺は小さくつぶやき、薄暗いダネルの部屋の中へと入った。

時刻は0時を大きく回った深夜。当然寝ているだろうと思い、俺が部屋を見回すとベッドにダネルの影がない。

よれた毛布が、さっきまでそこにいたのだろうことだけを示している。


「鍵は内側からは絶対に開かないはず……、どこ行った……?」


俺は予想していなかったことに眉を顰めるが、その答えはすぐに見つかった。

テラスへと続くドアが薄く開いているのである。


聖堂の裏手が見下ろせる小さなテラス。

手すりがついていて、上には覆いかぶさるような屋根がある。だから見えるのは横長の切り取られた空だけだ。


手すりの手前で首を持ち上げ、夜空を見上げている小さな影があった。


「…………ダネル」


「――――うおわああっ!!??」


「おい、バカ大きな声出すなよ。バレたらどうすんだ」


俺が人差し指を口元に当てると、ダネルは不服そうに声のボリュームを落とした。


「カカ、カイル? なんでこんな時間に、こんなところにいるんだよ……!」


「隙見て合鍵を作っといたんだ、ほれ」


「合鍵作っといたんだって……、それって鍵を泥棒したってことじゃないの? 駄目だよ、そんなことしちゃあ……」


ダネルは俺が合い鍵をちらつかせると、露骨に眉を顰める。

だが俺は特に構わず、合鍵を胸ポケットにしまいなおした。


「にしても、外から鍵だけかけて誰もいやがらねえんだな。拍子抜けしたぜ」


「……用事があったりする時は枕元の紐を引っ張るんだよ。そしたら下の階から、大人が来てくれる」


「ほおん、じゃあ鳴らさなきゃ来ないってことか」


「そりゃまあ…………。ねえ、そもそも何でこんな時間に来たの? 見つかったらきっと怒られるじゃすまないよ?」


「決まってんだろ、遊ぶんだよ。お前も寝付けなかったんだろうが。

どうせならそうだな、やったことないのがいい。

…………隠れんぼ、とかどうだ?」


俺がそう言うと、ダネルはいよいよ理解が出来ないという風に首を横に振った。


「本当にどうしちゃったの、カイル? 

部屋とテラスの中だけで隠れんぼになるわけないだろ?」


「あったり前だ。隠れる場所はこの部屋の外だ」


「……!? へ、部屋の外に出るってこと? そんなの、ダメだよ……! 大人の許可なく部屋の外歩いちゃダメだって言われてるんだもん……!」


「おい、何のために俺が鍵を開けたんだよ。

見つからなきゃ大丈夫だ。別にお前だって教会のどこになにがあるか知らないわけじゃねえだろ? 夜中、誰にも秘密で隠れんぼ。絶対面白いに決まってんじゃねえか!」


「で、でも………。ううん……」


否定の言葉を探すダネルの目に、しかし好奇心の光が宿ったのが分かる。

部屋を無断で出てはいけないと言うことと、出たくないは別問題。元々ダネルは一冊の冒険物語を繰り返し読んでいるような奴だ。

ダネルにとって初めての冒険が今、扉の向こうにある。ワクワクしないはずがなかった。



俺とダネルは裸足で、夜の聖堂の中へと飛び出した。

ひたひたという二つの足音だけが響く。ごくたまに聞こえる何処かからの物音に息を殺しながら、目線を交わし合う。

ダネルは最初こそおどおどとしていたが、すぐに俺を追い越して楽しげに走り始めた。


鬼と子に分かれて、だだっぴろい聖堂の中を追いかけ合う。

どのくらいそうしていたかは分からないが、俺たちは眠気などすっかり忘れて遊び呆けた。それは、狭い部屋での冒険ごっことは比べ物にならないほどに楽しいものだった。


今度は俺が鬼の番、

随分隠れるのがうまくなったダネルを探してしばらく彷徨っていたが、やがて通路の先でじっと立ち止まっているのを見つける。

何やら黙って考え込んでいるようだった。


「……ダネル?」


「…………」


ダネルが立って見下ろしていたのは、下の階へと続く階段。

俺は思わずダネルの顔を覗き込んだ。


「おい、さすがに下に降りたら見つかっちまうぞ。それに、あまり部屋から離れるといざとなった時に戻れな――――」


「――――ありがとう、カイル」


「あ?」


「すっごい楽しかった。こんなにドキドキしたの、多分初めてだ。ただ部屋から出て、かくれんぼをしただけなのに、心臓がバクバクして止まらないんだよ」


「へっ。これからは……、そりゃいつでも好きな時にとは言わねえが、俺がこうして遊びに来てやる。そしたらまた出来る。かくれんぼだって、鬼ごっこだって、冒険ごっこだってな」


「じゃあさ、カイル……」


ダネルがふと、俺の方を振り返る。


「……このまま、僕を外に連れ出してよ」


「――――」


俺はすぐに言葉が出ない。

ダネルの目は暗がりの中で、たしかに少し潤んでいるように見えた。それは小さい頃から一緒に遊んできた俺も、初めて見る表情だった。


「…………外に出て、どうすんだよ。見つかってこの事がバレたら、二度と俺たちは遊べなくなっちまうんだぞ」


「それはいやだ。だったら……、どこか遠くに逃げちゃうとか」


「バ、バカ言うなよ……。あの本みたいに上手くはいかねえ。俺たちは所詮ただのガキだ」


俺がそう言うと、ダネルは悔しそうに唇を噛んだ。

そしてしばらく黙り込んだ後、誤魔化すように笑って言う。


「……ごめん、出来っこないって分かってるんだ。言ってみただけ。

おじい様と約束したもんね。大人しくいい子にしてたら、いつか病気も治って、自由に外に出られるようになるって。それまでの辛抱だもんね」


笑顔を浮かべてはいるが、目は笑っていない。

とりつくろったようなその言葉の裏で、ダネルの本音が殺されたことが分かった。


「――――っ」


俺は耐え切れず、思わず拳で通路の壁を叩く。

喉元まで言葉が出かかっているが震えて出て来ない。

すると今度はダネルが、俺の顔を心配そうに覗いてくる。


「ど、どうしたのカイル? 具合でも悪くなった?」


こいつは優しいやつだ。こんな時にも、自分の気持ちよりも俺の心配を優先するようなやつなんだ。俺は俺が情けなくて、やるせなくて、喉元で抑えていた言葉がついに声に出てしまった。


「――――出来ねえんだ、ダネル……。

それは、無理なんだよ……。外に出られる日は来ねえ。お前はずっとあの部屋で、これからもこのまま…………」


言葉と一緒に、俺の目から涙が零れ落ちる。

何で俺が泣いてんだ。泣きたいのは、辛いのは、俺じゃねえだろ。

ダネルは俺の顔に手を伸ばし、涙を拭い取って、静かに問う。


「どういうこと……? 僕が外に出られないって……。カイルは何か知ってるの?」


「……見ちまったんだよ。古い新聞だ。そこでは、お前が親の事故で一緒に死んだことになってた。理由は分からねえ、でもだからお前の部屋の事は教会の中でも限られた奴しか知らない。病気だなんてのも嘘っぱちだ。だってお前はこんなに元気じゃねえかよ。大人たちはずっと嘘をついてたんだ。教皇だって、周りの大人だって、全員嘘をついてた。お前に希望だけ与えて、ずっとあの部屋で飼い殺してたんだ。何でだよ、何でそんな事が出来る……! お前が何をしたってんだよ……!!」


俺は絞り出すように打ち明ける。

この事実を知ってから数か月、必死で隠そうとしてきた。でも何も知らずに一人約束を守ろうとするダネルを、俺はもう見ていられなかった。

こんな風に部屋から連れ出しても、結局何も変わらない。ダネルはこの教会という場所そのものに、変わらず囚われ続けているのだから。


「そう……、だったのか……。僕って、とっくに死んだことになってて……、それで……」


さすがにダネルも驚きを隠せていない。

しかしそれでも、ダネルは俺よりも冷静だった。というよりはどこか納得がいったような顔を見せた。


「なんでだよ……、もっと怒れよ! お前は生まれてからずっと、ずっと嘘であの部屋に閉じ込められてたんだぞ……っ!」


「…………カイル、実は僕も君に内緒にしてたことがあるんだ」


「…………は?」


「内緒、というよりはずっと言えなかったことなんだけど。

僕自身でも信じたくなかったから、大人たちの言う病気って言葉に僕は半分期待してた。

だってさ、病気なら治るかもしれないだろ? でも、今の話を聞いてやっとわかった。僕の病気は治らないんだ」


俺はダネルの言っている意味が分からなかった。


「違う、お前は病気なんかじゃなかったんだよ……! 最初から、今日まで、全部嘘だったんだよ……!」


「僕の体の事は、僕が一番分かってるよ。

自分に何が出来て、何が出来ないのか。カイルと遊ぶときには、あえてその話を避けてた。でも、君にだけは言っておかなきゃダメだって分かった。



カイル、僕はね――――――――――――」





「――――そういう、事か……。それで資料を……」


ダミアンが呟く。

応接間、溢れ出すように言葉を紡いでいたカイルは話を終え、少し息を切らすように肩を上下させていた。そして思い出したようにポケットから、一枚の紙を取り出す。

俺はそれを見て驚いた。


「これは、研究資料の中の1枚……? カイルが持ってたページがあったのか……」


「……たまたま部屋に入った時に、このページが目についたんだ。ビビッて、頭が真っ白になった。俺とダネルがずっと、そんな方法があればって答えが書いてあったからだ。でも何でこんなものがローレンの部屋にあるのかが分からなかった。それに資料の中にはもっとぶっ飛んだことが書かれてたし……。

今考えればあの時、冷静になってお前に聞けばよかったんだ。そしたらこんな事にはならなかったんだ。でも……」


「大人は信用できない……、か?」


「…………ッ」


俺がそう言うと、カイルは悔し気に目をつむった。

そして震える手でテーブルに手を突き、ぶつけんばかりの勢いで頭をこすりつける。


「今回の事は全部、俺の身勝手で考え無しな行動が招いたことだ……! 正直事情を話して、謝って許されるようなことじゃないと分かってる! でも、心の底から自分のしたことを後悔してる! 俺が馬鹿だった……! 本当に……、ごめんなさい……!!」 


静寂の中、部屋にカイルの小さな嗚咽が響く。

ダネルはどうして良いか分からないというように、心配げにカイルを見つめている。


俺がダミアンの顔を窺うと「君が言ってあげろ」という風に、小さく頷いたのが分かった。


「…………とりあえず、話は分かった。お前があの研究資料を見て驚いた理由も、何のために資料を盗んだのかも、何故ここにダネルを連れてきたのかもな……」


「――――」


カイルは不安げな表情で、俺の顔を見上げる。

俺は目線を合わせてから、改めてはっきりと言った。


「カイル、お前も分かっている通り、お前の行動は間違ってた。

結果的に俺はとんでもない面倒ごとに巻き込まれたし、もちろんダミアン様だってそうだ。おまけに3日後にはまだ最終審問が残ってる。もしここで俺が許したとしても、事態は解決してはくれない」


「…………」


「だけど……、こんな事になるなんて予想できる訳ないよな。

お前はダネルを救いたいという一心で動いて、たまたま取った方法が悪かっただけだ。

俺はお前の心根の部分まで責めるつもりはないよ」


「あ…………」


カイルは口元を震わせ、涙を堪えるように再び俯く。

ダネルがその背中に手を添える様子が、話を聞き終えた後だとなおさら印象的に映った。



「――――で、ここからが本題だ。

確かに、俺にはダネルの言う所の病気を治す方法に心当たりがある。……今、教会内ではダネルの事はどうなってる?」


「た、多分もうバレてる。でも俺が合鍵を持ってることはバレてないから、ダネルが一人でどこかに逃げ出したと思ってるはずだ……。だから聖堂の外、それも貴族街まで来てるとは絶対に考えないと思う……」


「…………なるほど」


俺は意見を求めてダミアンを見る。

ダミアンはしばし難し気に2人を眺めていたが、おもむろに俺の袖を引っ張って部屋の外を顎で指した。一度外に出て話そうということだろう。


応接間を出て扉を閉めてから、ダミアンは少し声を落として言う。


「どう思う?」


「…………今の話について、でしょうか?」


「いや、ダネルの存在についてだ。あまりにも危うい存在だが、本来得ることのできなかったはずのこの手札は、最終審問でも大きな意味を持つような気がする。少し言い方は悪いがな」


俺はダミアンの言わんとするところを、なんとなく察する。

しかしそれにはまだ、先に確認すべきことが多すぎるとも思った。


「どうでしょう、最終審問がどんな流れになるか次第としか……。

ただ、おっしゃる通り、この情報は教皇が絶対に知られたくなかったもののはずです。それを公の場で明かせば、俺やダミアン様の目的と、カイルやダネルの目的をどちらも叶えられるかもしれない。……後はまさしく、カードの切り方ですね」


「そうだな、分かった。

では私の判断で、ダネルは最終審問まで当家で匿う。差し当たって、マドレーヌに七年前の事件の事を詳しく調べさせよう」


「分かりました」


「猶予は三日、こうなってくるとギリギリだな――――」



ダミアンはそう口元を歪めるが、瞳にはさっきまではなかった光が宿っているように見える。ダミアンにはカイルの貫こうとした正義はどう映ったのだろうか。

それを今聞くのは、あまりにも無粋な気がした。

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