入学式 朝 1,2

 1

 早朝、少年の眠るベッドに忍び寄る少女。少女は少年のかぶる布団を引っ剥がすや否や叫ぶ。


「れーくん、おっはよ~。今日もいい天気だよ~」


「んん~、あぁおはよう一紀」


 少女は、少年が起きるのを満足そうに見届けると、枕元のあるものを手にとって少年に問いかける。


「ねー、れーくん?なんでこんなもの目覚まし時計がこんなところにあるの?幼馴染み兼、れーくんのお世話係の私が、毎朝れーくんのこと、ちゃぁんと起こしてあげるって言ってるよね。なのに、なんでこんなものがここにあるの?私のことが信用できないの?ゆりかごから墓場まで、おはようからおやすみまでずぅぅと一緒にいるのに、なんで?どうして?」


 一息にまくし立てる少女に、少年は気圧されたようにびくつきながら返答する。


「ひっ、ご、ごめん、一紀。信用してないわけじゃなくて、でも今日は入学式って大事な日だし、万一、一紀が体調崩してた時用に準備してただけだよ」


「うぅー、それが信用してないってことじゃない。たとえ、火の中、水の中。流行りの感染症に掛かって40度近い熱が出たとしても、私はれーくんのお世話をするって言ってるのに」


「いろんな意味でそれはやめてくれるかな?ま、そろそろ下に行こうか、今日は早めに出たいしね」


「わかったっ!今日もあーんってしてあげるからね」


 不謹慎きわまりない会話を軽くこなしつつ、二人は朝食を階下に向かう。このとき、甘えて少女が絡めた腕を、少年は振り解けなかった。




 2

 零人の家から数キロ離れたとあるマンションの最上階に望遠鏡を構える少女がいた。


「『6:52、窓から侵入してきた赤山一紀に起こされ、約三分間の会話の後、朝食のため部屋を出る』っと、今日はいつもよりはやいんだね、赤山さん。零人君が目覚まし握ってるからそれが原因なのかな?あの人零人君に関してはすごい勘が冴えるから」


 少女は、ぶつぶつと独り言を言いながら、ノートに文字を書き付ける。


 しばらく、望遠鏡を覗き、眺めた内容をノートに書く、という動作を続けていると不意に後ろから声がかかった。


「おはよう、二姫ふたひめ。あんたまーだ、あんな男のストーキングしてるの?」


「おはよう、おねいちゃん。もぅ、零人君はあんな男なんかじゃないよぅ。とってもかっこいいひとなんだからぁ」


「ああ、はいはい。で、朝ご飯はどうする?」


「流さないでよぅ。あ、ご飯は持ってきてくれるとうれしいな、ここでもっとずぅぅと零人君のこと見ていたいから」


「おねいちゃん」と呼ばれていた少女が、溜息をついて部屋を出て行っても、少女は相変わらず望遠鏡を覗いてはニヤニヤするという行為を続けるのだった。

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