入学式 朝 3,4
3
「お嬢様、本当によろしいので?」
とある豪邸の玄関。執事服を着た老年の男性が、セーラー服に身を包んだ少女に問いかける。問いかけられた少女は、ふふふと上品に笑って応える。
「大丈夫ですよ、じいや。わたくしはもう高校生になったのですよ?もう子供扱いはやめてくださいな」
「そうはおっしゃられても、この老骨から見ればまだまだお嬢様は子供でありますゆえ。そんなお嬢様の身に何かあったらと思うと、爺は不安で不安で仕方ありませぬ」
「ふふ、大丈夫ですわよ。仮に不審者の一人や二人現れようと、わたくしの敵ではありませんもの。ふふ、うっかりお相手を殺めてしまうかもしれませんが」
少女がスカートを少し捲る。現れたのは白いハイソックスを留めるガーターベルト。そして、ガーターベルトの装飾に紛れるように不自然な空きスペースや膨らみがある。何の躊躇いもなくスカートをたくし上げる様子を見て、老爺はため息をつく。
「はしたないですぞ、お嬢様。そうやすやすと、他人に肌を見せてはなりませぬ。肌を見せる方ともなれば…」
「『残りの人生すべてを捧げる覚悟を持て』ですわよね、淑女足るもの、そして金井家の跡継ぎとして成すべき振る舞いは弁えております」
「それは失礼。では、不安ながらも涙を飲んでお見送りいたします」
「ありがとう、では言って参ります」
老爺との会話を終えた少女は、そのまま今日から通う学び舎へと向かうのだった。
4
同時刻、一人の少女が町中で佇んでいた。紙製の大きな地図を持って難しげな顔でそれを覗き込んでいる。
「確か、この文にまるが付いたところへ行けばいいのだな。ふふ、私は地図が読めるのだからな。コウコウとやらに行くのも容易いことだ」
十分後、少女は薄暗い路地裏にいた。そして、何故か少女の周りには武器を持った男が群がっている。
「おかしいな。恐らくこっちの方角だと思っていたのだが」
「抵抗すんなよぉ、痛い目見たく へぶしっ
「おっ、やる気かねえちゃん。ならようしゃ ぐっ
「このアマぁ、チョーシのっとんのとちゃう で ぇ
「ア、 アニキをよくもっ
「はて、都会のものはかくも軟弱者ばかりなのか。覇気がない、攻めに流れがない、連携もない、使い慣れない武器なんぞ使うから動きが鈍くなるのだ。紫陽花を使うまでもない」
いつの間にか、男たちは少女によって地に沈められ、周囲に散らかされていた。
「この者たちに聞こうと思っても、私に襲い掛かるだけで、何一つ教えてはくれなかったのはなぜだろうか。やはり、おばば様のおっしゃる通り、人の皮をかぶった狼がそこかしこにいるのだろうか。…危険だとは思わないが、とりあえずここを離れるとして、次は左の方に行ってみるとするか。地図などしらんっ、私の直感が正しいのだ」
少女は手に持ったままの地図を投げ捨てると、路地裏をさらに奥へと突き進むのであった。
その後、同高校の生徒に保護されるまで、少女は路地裏を渡り歩き、路地裏にたむろすちょっとガラの悪い人たちを返り討ちにし続けるのだった。
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