第17話 嬉しい知らせ

その日、私は不思議な夢を見た。


夢の中には、いつかの白い狐がいた。


狐の背には、私達と同じ白銀の髪にエメラルドグリーンの瞳をした可愛い男の子

がまたがって、狐と遊んでいた。


するとその子は、私の方を向き「もうすぐ会えるよ」と手を振り笑った。


私は、何故か暖かい気持ちになってその子に微笑んでいた。



目が覚めると、丁度翡翠も目を覚ましたところだった。


「なんか、不思議な夢を見たの」


「俺も・・・男の子が白い狐に乗って、もう直ぐ会えるって言うんだ」


「え!?同じ夢・・・。」


「あの子が、そのうち俺達に会いに来るんじゃないか?」


「そうかもね、楽しみ!」


お互いあまり深く考えず、その子に会えるのを楽しみにしていた。


お正月は、久しぶりに妖の世界に戻った。


珊瑚さん、浅葱さん、鴇くん、蘇芳さんみんな元気で私達を暖かく向かえてくれた。


お正月には、お父さんと菖蒲さんも屋敷に戻った。


皆で、餅つきをしたりお雑煮を食べて過ごし、人間のお正月と変わらない時間を

過ごした。


後で聞いた話では、人間界で暮らす菖蒲さんが、人間のお正月を知り始めたこと

らしい。


私としては、いつもと変わらない行事を皆とできて、嬉しかった。


妖の世界から戻り、翡翠とデュパンに行くと紫黒シコクさんもいてまったり

寛ぎモード。


「紫黒さんも来てたんですね。」


「うん、実は昨日まで常磐と一緒にあっちに行ってたんだよね。」


「そうなんですか?」


「ああ、紫黒に言われて、久しぶりに帰ってきたよ。

 これからは、あっちとこっちを行ったり来たりするかもな」


「俺は、常磐と一緒にいれるからありがたいよ。

 常磐のことを教えてくれた翡翠には感謝だな」


デュパンには和やかな時間が漂っていた。


新しい年に入り、私の学校生活も1年と少しになっていた。


2月に入りバレンタインのもうすぐとなったある日のこと私はいつもの様に

学校で授業を受けていた。


「瑠璃、何か顔色が悪い気がするんだけど・・・大丈夫?」


「ん~、なんかここ最近体調悪くて・・まあ、大丈夫だよ。」


「だったらいいけど、何かあったら休んでよ」


「うん、ありがとね」


そう、最近何となく調子が悪い。


微熱が続いている感じ。


妖狐になってなんか変わったのかな?


後で、翡翠に相談してみよう。


そう考え、午後は早退し、デュパンにもお休みする事を告げて早めにマンション

に戻った。


翡翠はいつもの時間にマンションに帰ってくると、ソファーに横になっていた

私を見つけ駆け寄る。


「瑠璃、調子悪いのか?」


「ん~、なんか最近体調が良くなくて、妖狐になったことと何か関係があるかも

 しれないし、病院に行く前に翡翠に相談しようと思って」


「そうか・・・じゃあ、ちょっと蘇芳に診てもらおう。」


「うん」


暫くすると蘇芳さんが部屋にやってきた。


「最近、体調が優れないとか?」


「そうなんです。微熱が続くというか・・・」


私の言葉を聞いてから、右手を私の頭から下にかざしていく。


お腹のあたりに手がかざされると、目を見開いた。


「あ~、これは・・・。」


「「 え、何なんですか!?」」


私と翡翠は声を合わせて聞いていた。


蘇芳さんは、私達の顔を見て笑みをみせた。


「おめでたです。」


「「 おめでた・・・ 」」


「おめでたって・・・赤ちゃんができたということですか?」


「そのようですね」


「翡翠、赤ちゃんだって・・。」


翡翠は茫然とした様子で立っていたが、次の瞬間


「赤ちゃん・・俺と瑠璃の赤ちゃん!」


そう言って、嬉しそうに私を抱きしめた。


その時になって、嬉しさと同時に不安が押し寄せる。


「蘇芳さん、妊娠ってどうしたら良いですか?

 私、人間の病院に行っても大丈夫なんですか?」


蘇芳さんは、私の不安が分かったのか


「瑠璃殿、私が定期的に診ますから安心してください。

 出産は、妖狐の産婆がおりますし、産み月が近くなったら、屋敷に戻り

 ましょう。」


と提案してくれた。


翡翠もそれでいいというように、頷いてくれた。


私の妊娠を知ってからの翡翠の行動は早かった。


お父さんと菖蒲さんに連絡をし、妊娠の報告と籍を入れると告げ


その日の内に、浅葱さんが婚姻届の用紙を持ってきて、有無を言わさず記入させ

られた婚姻届けは浅葱さんによって、区役所に届けられ受理され、私は “笠井瑠璃” から “阿部瑠璃” になった。


結婚した嬉しさと共に思ったのは・・・


翡翠に普通に戸籍があったという事実。


「今更なんだけど、翡翠って“阿部”って苗字だったんだね。

 戸籍があるのもビックリだったんだけど」


「あ~、それなあ。

 俺の先祖に阿部っていう妖狐と人間のハーフがいたんだよ。

 それから俺達一族はこっちの世界では阿部って名乗ってるんだ。

 戸籍は、親父たちがこっちで生活するのに作ったらしい。」


「そうだったんだね。」



私は翡翠の前に向かい合い、真直ぐ顔を見た。


私の改まった様子に、翡翠も真直ぐに私を見つめる。


「阿部翡翠さん・・まだまだ至らないところもある私ですが、

 これからもずっとあなたの隣にいさせてください。」


私の言葉にふっと微笑み、翡翠が口を開く


「阿部瑠璃さん・・・これからも瑠璃を幸せにします。

 ずっと俺の隣で笑っていてください。」


見つめ合う顔に笑みがもれ、自然とお互いの唇が重なった。


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