第14話 変化

私と翡翠が身も心も一つとなった日から、私に変化が起きていた。


朝、「瑠璃、起きろ!」翡翠の驚いた声で目が覚めた。


体には気怠さがあり、前夜の甘い時間を思い出させる。


「な、何?」


目の前には、驚いた翡翠の顔・・・。


翡翠が私の手を引いて、バスルームに連れていく。


体に何も身に着けていなかった私は、慌ててシーツを巻き付けついて行った。


「瑠璃・・鏡・・・」


もう、鏡がどうしたの?そう思って鏡を見た。


「エッ!?何!わ、私・・・」


鏡の中には、翡翠と同じ白銀の髪で、エメラルドグリーンの瞳をした私がいた。


髪の毛まで腰まで伸びている。


「私、翡翠になっちゃった・・・」


自分の姿に唖然としていると、翡翠がどこかに電話をしていた。


「・・・あぁ、瑠璃が・・・、妖狐・・・頼む。」


「誰に電話してたの?」


「あぁ、浅葱だ。今日の仕事を休むのと、蘇芳をここに連れて来るように言った。」


「仕事を休むの?」


「今日は瑠璃も学校もバイトも休め。いいな。」


「う、うん。」


翡翠の有無を言わせぬ態度に、頷く。


確かに、この姿では学校にも行けない。


二人で身支度を整えて浅葱さんと蘇芳さんが来るのを待った。



二時間程して玄関のチャイムが鳴った。


翡翠が二人を迎えに行き、ソファーに座る私の姿を見ると二人とも目を見開いた。


「これは・・・、完全に妖狐化したということか・・・

 他に変化はないのか?体調は?」


「実は・・皆の頭の上に耳が・・見えます」


「瑠璃、そうなのか?」


「さっき、気がついた・・」


「では、我々と同じ、妖と人間を判別できるということか」


「え、皆も見えるの?」


「力の強い妖には、判別する能力がある。ということは、瑠璃様には高い妖力が

 あるということだ。

 今後、他の能力も目覚めていくかもしれないな」


皆で相談して、私の妖力や何か変化があったら必ず知らせること、普段はウィッグとカラコンで過ごすことが決まり、浅葱さんと蘇芳さんは帰って行った。


「俺も瑠璃の体にこんな変化があるとは思わなかったな」


「私もビックリなんだけど、皆こうなるの?」


「ん~、言い伝えみたいなものだったから、実際見たのは初めてだ」


翡翠の話では、人間を妖に変える力はそれぞれの妖種族の長の血筋にしかなく、

今までそんな事をする妖もいなかったため、伝説のような話しだったらしい。


「でも、瑠璃も俺と同じになって何か嬉しい」


「私も!」


そんな会話をしていると、思い出したように


「なぁ、瑠璃、明日だけどバイトに俺も一緒に行ってもいいか?」


「え、何で?」


「瑠璃は、バイトのマスターに相談して今回俺達は結ばれたからさ。

 結果報告とお礼を兼ねて挨拶しておこうかなって思うんだ。」


「そうか~、私もいつかは翡翠を紹介したいと思っていたから

 明日一緒に行こうか?でも、仕事は大丈夫なの?」


「明日の午後は抜けるようにするから大丈夫。

 学校に迎えに行くよ」


「うん、分かった。」


翌日、学校の授業が終わり萌と出入り口に向うと、学校の前の道に翡翠の車が

止まっていた。


「瑠璃、こっちだ」


「あ、萌また明日、じゃあね!」


「エッ!ちょっと、何あれ!もう、明日聞くからね!」


「うん!」


驚いている萌に手を振り、翡翠の車の助手席に乗った。


きっと明日は萌に根ほり葉ほり聞かれそうだ。


かえって説明するきっかけが出来て良かったかもしれない。


車を駐車場に置き、手を繋いでデュパンに入った。


「マスター、おはようございます!」


「おはよう、るーちゃん」


「今日はマスターに紹介したい人がいるの!」


翡翠を隣に立たせてマスターと向かい合う。


ん!私達3人の動きが止まった・・・。


マスターの頭の上に角が2本見える・・・。


マスターも私と翡翠を見て、目を見開いている。


「あ、あの・・マスターって・・・鬼?」


「るーちゃん、いつから狐になったのかな?」


「えっと・・・昨日からです・・・」


そんな会話をしていると、翡翠がマスターに話かけた。


「もしかして、鬼族の常磐トキワか?」


「あんたは、妖狐の若頭領かな?」


「あぁ、翡翠です。瑠璃がいつもお世話になっています。

 俺達、婚約していて、先日瑠璃が俺達の事を相談したみたいで、おかげで全て

 上手くいきました。ありがとうございます。」


「るーちゃんの相手が妖狐の若頭領とはな・・・。

 あれか、長の血族による妖化でるーちゃんはこうなったのかな?」


「まあ、そういうことです。」


「俺がいるところだが、バイトは続けていいのかな?若頭領」


「はい、あなたがいるなら、かえって安心です。よろしくお願いします」


二人の会話に微妙に理解できないでいるが、マスターは鬼で、私はこのままバイト

は続けていいという事らしい。


「折角だから、俺の淹れた珈琲でも飲んでいってくれ。

 るーちゃんは、バイトの準備だよ。」


「「はい」」


バイトの間、翡翠とマスターはいろいろと話していたみたいで暫くすると、

マスターから今日は翡翠と帰るように言われた。



部屋に帰ってから、翡翠にマスターの事を聞くと話してくれた。


マスターの名前は、常磐トキワさんで、翡翠のお父さんの友達で以前、

鬼族の祭りで会った紫黒シコクさんの叔父さんにあたるらしい


マスターは昔、人間と恋に落ちたという、でも周りが許してくれず、いろいろ

説得しているうちに、相手の人は事故で亡くなってしまった


それからは、妖の世界には戻らず彼女の好きだった珈琲の店、デュパンを始めて、

今に至るということだった。


悲しい恋の話だった。


それを考えると、私と翡翠は恵まれていたんだと周りに感謝した。


次の日、学校に行くと案の定、萌に直ぐ掴まった。


「瑠璃、昨日のイケメンは何!」


「えっと~、彼・・です。」


「ハ~、いつから付き合ってるの?全然知らなかったんだけど・・」


「知らせるのが遅くなってゴメンね。

 話そうとは思ってたんだけど・・・ついつい?」


「もう、詳しく話しなさい!」


それから翡翠の事を聞かれた。


私は、社会人で自分より6歳上の25歳、デュパンのお客さんとして知り合って、

一週間前から付き合っているとこたえた。


まさか、妖狐ですなんて言えないもん。


萌は社会人の彼かぁ~、なんか大人の魅力があっていいよねなんて言っていた。


とりあえず、萌に翡翠の存在を話せて良かった。



マスターが鬼だと分かってからもう一つビックリしたことがあった。


それは、常連さんの岩井さんも妖だということ、岩井さんは妖狸だった。


知った時には、あまりにもイメージとぴったりで笑ってしまった。


こんな身近に妖の人が何人もいたなんて・・・。


後、変わったことがもう一つ、デュパンに新たな常連さんができた。


それは、紫黒シコクさん。

昔から懐いていた憧れの叔父さんのマスターに会いによく来店するようになった。

妖の世界から姿を消したマスターをずっと探していたようで、今回翡翠が紫黒さん

に居場所を教えたようだ。


「瑠璃ちゃんは、妖狐になったことに後悔はないの?」


デュパンのカウンターにいた紫黒さんにふと思い出したように聞かれた。


「はい、後悔はないですよ。かえって、こうなって良かったと思っています。」


「そんなものなのか?」


「そんなものですよ」


紫黒さんは、まだ好きになった人がいないと言っていた。


だから、翡翠と私が羨ましいとも言っていた。


いつか、紫黒さんにも本気で好きになれる人が表れるといいなと思う。


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