第12話 新居

程なくして車は建物の地下駐車場に入っていった。


「では、私はここで失礼します。」


「浅葱さん、ありがとうございました。皆さんにもよろしくお伝えください。」


「はい、時々は珊瑚にも会いにいらしてくださいね。」


「はい」


浅葱さんと別れると、エレベーターに向かう。


部屋は5階らしい。エレベーターの扉が開くと、目の前にドアがあった。


この階には、この部屋しかないようだ。


「ここが、俺達の新居だ。」


翡翠がドアを開けると、広い玄関があった。


「うわ、凄い!」


「こんなところで驚いてもらっては困るな。ほら、中に入るぞ」


促され中に進むと、40帖はあろうかという広いリビング


「凄い!本当に、ここに住むの?」


「あぁ、ここが俺と瑠璃の部屋。部屋を案内する」


そう言うと、私の手を取って各部屋を案内し出した。


リビングの隣にキッチンがあり、L字型のキッチンは広くて使い勝手がよさそう

だった。


冷蔵庫の横には、ワインセラーもついている。


奥にはパントリーも備えられていて、収納もばっちり。


廊下を進むとバスルームやトイレの水回りや家事室まであって、その先にはゲスト

ルームと書庫があった。


「この書庫の中にあの鳥居に通じる扉がある。これだ。

 普段は閉じているが、俺と一緒ならいつでもここからあっちの世界に行ける」


「ホント!凄い!」


「リビングに戻るぞ」


リビングに戻ると、リビングにあった他のドアを開けた。


ドアは3つ。


一つは翡翠の書斎兼私の勉強部屋。


もう一つは、クローゼット。


最後の部屋は、キングサイズのベットが中央にある寝室だった。


「どうだ、気に入ったか?」


「気に入ったというか、別次元すぎてビックリしてる」


翡翠は私をリビングのソファーに座らせ、コーヒーを運ぶ。


私が部屋の凄さに放心状態になっている間にコーヒーを淹れてくれていたようだ。


「瑠璃に相談せずにここまで決めたのは悪かったが、俺も今後仕事をするとなると

 立場的にもある程度のセキュリティーを考えないとならない。

 もちろん、瑠璃を護るためにもだ。

 ここなら、瑠璃の学校にも近いし通いやすいと思うが・・・」


「驚いたけど、翡翠の気持ちは伝わってるから大丈夫。

 ここから、私達の生活が始まるんだね。」


にこやかに翡翠の顔を見るとホッとした顔を見せてくれた。


「瑠璃の家だが・・どうする?」


小さい頃から私の育った家、無くなってしまうのは淋しいけど・・・。


考え込んでいると、翡翠が私の頭をポンポンと撫でる。


「引っ越しはするが、家はそのまま置いておこう」


「いいの?」


「いいさ、俺にとっても瑠璃との思い出のある家だ」


「ありがとう」


翡翠の優しさに感謝しながら、温かい腕にくるまれていた。


翌日は、朝早くから引っ越しが行われ浅葱さんの手配した引っ越し業者さんの手に

よって、午前中の内に引っ越しが終わった。


私ひとりだったら、いつまでかかっていたのか・・・。



午後からは、翡翠の運転する車で一緒に百貨店に向かっていた。


「翡翠って、運転できたんだね。というか、免許もってたんだね。」


「昔、こっちに遊びに来た時に親父に取らせられた。

 まさか、役に立つ日が来るとは思わなかったな。

 瑠璃に会わなかったら、運転しないままだったんだろうな。」


「そうなんだね、それにしても凄い車・・・」


「親父から、婚約祝いって午前中届いた。」


私達が乗っているのは、車に疎い私でも知っている黒い高級外車だった。


改めて、翡翠がお金持ちの御曹司だと認識し、自分との違いに俯いてしまった。


「瑠璃は気にし過ぎ、俺も俺の両親も瑠璃だから婚約を認めたんだ。

 瑠璃は俺が金持ちだから好きになったのか?」


「そんな!違う!」


「だろ。瑠璃は妖狐の俺を好きになったんだろ。

 後から、他のものがおまけでついてきただけだ。」


「自信を持って、俺の隣にいろよ」


そうだ、私は翡翠が好き。


蘇芳さんにも、言われたんだった。


お互いを信じないと、私は右耳の耳飾りを触って、力強く頷いた。



程なくして、車は目的の百貨店に着いた。


お店の中で、これからの生活に必要な物を揃えていく。


お揃いの茶碗に箸、マグカップ・・・二人一緒のものが増える度に幸せも増す

ような気がした。


「瑠璃、これも買わないか?」


少し恥ずかしそうに翡翠が指さしたのは、お揃いのパジャマだった。


私も翡翠につられ、恥ずかしくなってしまう。


「そ、そうだね、これなんかどうかな?」


ちょっと、挙動不審になりつつシンプルなパジャマを選んだ。


翡翠は深いグリーンで私は鮮やかなブルー、どちらもお互いの名前にちなんだ色

にした。


結局、お互い両手いっぱいの買い物をしてマンションに帰ることに。



部屋に戻ると買ったものをしまう。


こうして、ひとつずつ二人のものが増えていくんだろう。


これからの新しい生活に期待が膨らんでいくのを感じた。


月曜日、今日から翡翠は仕事が始まる。


翡翠の腕の中で、早く目覚めた私はキッチンで朝食の準備をしていた。


朝7:00、眠い目をこすりながら翡翠が寝室から起きてきた。


「おはよう、いい匂いがするな」


「朝食作ったの。翡翠は今日から仕事でしょ。

 朝はちゃんと食べないとね」


「ありがとう、じゃあ食べようか。「いただきます」」


翡翠は美味しい、美味しいといいながら完食してくれた。


「帰りは21:00頃になると思う。何かあったら連絡して。」


そう言って、持っていたスマホを見せた。


仕事をするにあたって、浅葱さんに持たせられたらしい。


番号は昨日のうちに交換しあったので、大丈夫だ。


「うん、分かった。晩御飯食べるよね。」


「うん、瑠璃の手料理食べたいから、お腹空かして帰ってくるよ。

 じゃあ、行ってくる」


「いってらっしゃい!キャッ!」


翡翠は私のおでこにキスをすると、ニヤリと笑って出て行った。


残された私は、真っ赤になりながらにやけてしまうのを抑えられずに自分の準備

に取り掛かるためリビングに戻っていった。


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