第11話 翡翠の両親

翌日はとっても爽やかな秋晴れの日となった。


「ご両親とは、何処で会うの?」


「あ~、親の働く会社で会う事になってるんだ。


 ここから電車で20分くらいかな。」


「そうなんだ、会社なんかに行って大丈夫なの?」


「大丈夫だよ。よし、行こう」


二人で手を繋ぎ歩く、電車に乗ると周りの翡翠に向ける視線に気がついた。


翡翠はとってもカッコいい。


180㎝は超えるだろう身長に細身で、腰まである白銀の髪にエメラルドグリーン

の瞳・・・かなり目立つ。


その隣が私みたいな地味な女って・・・改めて自覚し、落ち込んでいく


「瑠璃、俺達は二人でひとつ、この耳飾りのように対なんだ。

 なにも、心配に思うことなんてないだろ」


翡翠は私の考えていることなんて、お見通しのようだ。


「うん、そうだね。私は、翡翠を信じてついていくだけだよね」


「そう言う事!」


お互い微笑み合うと、丁度、目的の駅についたようだ。


そこはオフィスビルの立ち並ぶ、大きな駅だった。


翡翠について行くと、駅にほど近い大きなビルの前で立ち止まる。


「着いたよ」


「エッ!ここなの!?」


そこは私でも知っている有名な会社“フォキシーコーポレーション”だった。


ファッション、美容、宝飾、更には不動産関係まで様々な事業を展開し、雑誌や

テレビのCMなどでも目にすることは多い。


まさか、翡翠のご両親がこんな有名な会社で働いているなんて・・・


「中に入ろう、浅葱が迎えに来てるはずなんだ。」


「えええ!浅葱さんまで、ここで働いているの!?」


「あぁ、そうだ。あ、ほら、居た。」


「瑠璃様、お久しぶりです。では、ご案内しますね」


浅葱さんは、黒縁の眼鏡をかけていて、当たり前だけど和服ではなく仕立ての良い

スーツ姿で、こうしてみるとできる男って感じ。


とても妖狐とは分からない。


浅葱さんの後ろについて、並んで歩く私と翡翠。


何気に私達を見る周りの視線やヒソヒソ声に居心地が悪く感じる


「何か、周りに見られているような気がするんですけど・・・」


「気のせいですよ。こちらのエレベーターに乗りますよ」


私の気のせい?そうなのかなぁ?


しっくりこなかったが、丁度エレベーターの扉が開いたので、話はここまで

となった。


浅葱さんは、エレベーターに乗ると36階のボタンを押した。


ん!?36階って最上階!?


驚いていると、あっという間に36階に着いた。


コンコン 


「翡翠様と瑠璃様がお見えになりました。」


「どうぞ」


中から、低いが良く通る声が届いた。


浅葱さんがドアを開けると、翡翠に続いて中に入る。


中は、広い部屋で、目の前のソファーには男の人と女の人が座っていた。


どちらも、目を見張る程顔が整っている。


翡翠に促されるまま、二人の向かいのソファーに腰かけた。


「瑠璃さん、初めまして。翡翠の父の月白ゲッパクと母の菖蒲アヤメです。」


「は、初めまして。笠井瑠璃です。」


この二人が翡翠の両親・・・翡翠の綺麗な顔に納得した。


両親を前に翡翠が話し始めた。


「前にも話したが、俺にもやっと対が見つかった。

 この瑠璃が俺の対だ。

 瑠璃は、人間だったが俺が血を与え妖狐になった。

 瑠璃には、こっちの生活もあるし、俺もこっちで瑠璃と暮らす。

 仕事は、来週から始めようと思う。」


翡翠の両親はジッと翡翠の話を聞いていたが、翡翠の話が終わると私を見て

口を開いた。


「翡翠の気持ちは分かった。瑠璃さんは、どうだい?」


「は、はい。私は一度翡翠の気持ちも、自分の気持ちもが分からず離れて

 しまいました。

 でも、離れて翡翠が自分にとってどれだけ大事な人なのか気づきました。

 もう、何があっても離れたくはないんです。

 私と翡翠のことを、どうか許してください。」


私の気持ちを込めて頭を下げた。


「瑠璃さん、私も主人も二人の事は反対してないのよ。」


「え、そうなんですか?」


翡翠のお母さんは、ニコニコしながら話し始めた。


「翡翠は、何事にも関心がなくて、私達は翡翠には対の相手は現れないのかも

 と思っていたぐらいなの。

 でも、あなたに出会った。

 初めは人間と知ってビックリはしたけど例え人間だとしても、翡翠が本当に

 好きになった人なら関係ないの。

 ましてや、あなたの耳には既に翡翠の耳飾りがついている。

 私達は反対できないわ。」


「この耳飾りですか?」


「そう、それは私たちの一族が将来を誓ったものにだけつけることができる、

 対の証なの。

 一度つけたら、翡翠にしか外すことはできないわ。

 私のは、これよ。」


そう言って、お母さんは右耳についた真珠の耳飾りを見せてくれた。


同じものが、お父さんの左耳にもついていた。


「そんなに大事なものだったんですね。」


「瑠璃、俺の気持ちが分かったか?」


「うん」


「そう言えば、ご両親はこちらで働いていらっしゃるとか・・・」


「ヤダ、翡翠、話してないの?」


「あ、あぁ、忘れてた。」


「ん、なに?」


「ここは、親父の会社。

 親父が社長で、お袋が副社長。

 で、浅葱は社長秘書。俺は来週からここの専務。」


サラッと翡翠が驚きの事実を口にした。


「え、ええええ!」


「瑠璃、驚きすぎ。もう、瑠璃は俺の婚約者だからな」


「婚約者!?」


「本当は直ぐにでも結婚したいくらいだが、瑠璃は学校もあるから卒業まで

 待ってやる。それまでは婚約者だ!」


そう言って、私の右手の薬指に綺麗な指輪をつけた。


「え、ええ、嘘・・。」


私の目からは涙が溢れてくる。


「瑠璃、大事にする。俺のお嫁さんになって・・・」


「は、はい。私をお嫁さんにしてください」


「瑠璃さん、今日から私の事はお父さんと呼んでくれるかな」


「私の事は、菖蒲さんね」


「はい!お父さん、菖蒲さん、よろしくお願いします」


「じゃあ、話は済んだから、俺達は帰るよ」


「あぁ、来週からたのんだぞ」


「了解」


私達はご両親に手を振って、その場を後にした。


私たちは、その足で私の両親とお祖母ちゃんの眠るお墓に、浅葱さんの運転する

車で向かった。


私達が婚約したこと、これから二人で暮らすことを報告した。


翡翠は、長い時間手を合わせてくれた。


「何を話していたの?」


「これからは、俺が皆の分も幸せにするって話してた。」


真面目な顔でそう話す翡翠に、胸がドキドキした。



「よし、瑠璃の両親にも報告したし、新居に行くか」


「し、新居!?」


「一緒に暮らすって言っただろ。

 これからのことは、新居に行ってから話そう。」


そう言うと、私の手をひいて車に戻った。


車の中でも翡翠は私の体を抱き寄せ、片時も離そうとはしない。


そんな姿に運転している浅葱さんが苦笑しながら呟く。


「翡翠様のそんな姿が見れるようになるとは嬉しい限りです」


「浅葱、黙れ・・」


そう言う翡翠も無意識だったようで、頬を赤く染めていた。


私は、そんな翡翠に愛されている喜びを感じていた。


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