第9話 凶報

それから学校も始まり、忙しい毎日を送っていた。


気がつくと、翡翠と離れてから3か月が経とうとしていた。


デュパンからの帰り道、いつもの公園を通る。


あの楓の木の葉っぱも赤く色づいて、離れた月日の長さを知らせる


ふと、楓の木に寄りかかる人に気がついた。


「エッ、なんでいるの!?」


その姿に思わず駆け寄った。


「鴇くん、なんで・・・。」


俯いていた鴇くんが私の声に反応して顔を上げた。


その顔は涙で濡れていた。


「瑠璃様・・翡翠様が・・・」


「なに、翡翠がどうかしたの?」


「翡翠様がケガをして、意識がありません。

 うわ言で、ずっと瑠璃様の名前を呼んでいて・・・居ても立っても居られず

 ここまで来ました。

 瑠璃様、私と一緒に翡翠様の元にお願いします。」


「そ、そんな・・・早く、早く翡翠の所に連れて行って!」


「はい!では私の手を握ってください」


鴇くんが楓の木に手をあてるとポッカリと暗い空間があき、二人でその中に入って

行った。


目を開けると、あの鳥居の所にいた。


「瑠璃様、こちらです。」


促されるまま鴇くんの後をついていく。


早く翡翠の顔が見たい。


翡翠の部屋の前に着き、襖を開けると布団に青白い顔で横になる翡翠の姿が見えた。


「う、嘘・・・、なんでこんな事に・・」


涙を流す私に鴇くんが、私がいなくなってからのことを話してくれた。


「瑠璃様が元の世界に帰られてからの翡翠様は、私達の前では変わりないように

 見せていましたが、夜も眠れないようで、食事にもあまり手をつけない状態で

 した。

 実は、時々人間界に行き、陰ながら瑠璃様の様子を見守っていたようです。

 人間界から戻った時は、食事も睡眠もとれていたんですが・・・。

 ここ最近、翡翠様を疎ましく思っている牛鬼という妖がこの妖狐の里に悪さ

 をしていて、その処理に追われて人間界に行く時間がなく寝られなかったようで

 そんな中、牛鬼に襲われてケガをしてしまいました。」


いつもの翡翠であれば、牛鬼を返り討ちにしているか、例えケガをしても直ぐに

治るのが、今回はいつもと違い心配しているということだった。


「そうだったのね。私、翡翠の側についててもいいのかな」


「はい、そのつもりでお迎えにあがったので、よろしくお願いします」


そう言って鴇くんは部屋から出て行った。


残された部屋で、布団に横になる翡翠を見た。


この3か月でだいぶ痩せてしまったようだった。


青白い顔も翡翠を失ってしまいそうで怖くなった。


すると


「瑠璃・・・いかないで・・・。瑠璃・・・。」


翡翠のうわ言だった。


未だ目覚めない翡翠の目からは、涙が一筋流れていた。


「翡翠、目を開けて。私はここにいるよ。

 もう、翡翠から離れないから、お願いだから目を開けて」


翡翠の手を両手で握り、神様に翡翠が目覚めるように祈った。


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