第8話 元の生活

2週間ぶりのデュパンは、いつものように珈琲の香りで私を迎えて

くれた。


マスターも変わりなく、常連の岩井さんも相変わらずだった。


バイトが終わって家に帰ると萌から電話がきた。


「瑠璃、明日時間ある?」


「明日は夕方からバイトなんだけど、それまでなら大丈夫だよ」


「じゃあ、10時に駅で待ち合わせしよう。ちょっと、お洒落して来てね!」


「は?何それ?」


「いいから、いいから。じゃ、明日。」


萌の態度に訝イブカしく思いながらも、言われたとおり服を選ぶことにした。


「そんなお洒落な服なんか、ないんだけど・・・。」


クローゼットの中を見ながら、無難な白いノースリーブワンピースに薄手のカー

ディガンを手に取った。


姿見の前に立ち、服を合わせてみる。


鏡の中には、翡翠と対の耳飾りをつけた自分が映っていた。


“翡翠・・・”


翌日10時に待ち合わせ場所の駅に来ていた。


「瑠璃~!おまたせ~!」


「おはよう!今日は何なの?」


「ん~、とりあえずそこのカフェに行こう」


萌に連れられ目の前のカフェに入ると


「萌、こっちだ!」


東雲シノノメ君、お待たせ~」


カフェの中には2人の男の人がいて、一人が萌を呼んでいた。


「瑠璃、こっちよ。」


「ちょ、ちょっと、どういうこと!?」


「今日は私の彼の東雲君を紹介しながら、瑠璃にも彼の友達を紹介しようと

 思って、まぁとりあえず座ろうよ。」


萌に無理やり引っ張られ席に座ることになってしまった。


「えっと、私の彼の東雲君で、私の友達の瑠璃です。」


「こいつは俺の友達のソラ。俺達N大の3年なんだ。」


東雲さんは茶髪の少し軽そうな人だった、空さんもなんとなくチャラそうな

感じで、萌には悪いが苦手なタイプの人達だった。


3人ともこういうのは慣れているのか、話題も豊富で会話が弾んでいて、私は

それに相槌を打ちながら当たり障りのないようにニコニコしていた。


4人で近くのショッピングモールをブラブラしてランチをした。


ランチの時に、空さんにアドレスを聞かれ取りあえず交換しておいた。


「萌、私そろそろバイトだから、帰るね。」


「そうなの?ねぇ~、空君どう?私としてはおススメなんだけど」


「ん~、考えておくね。もう、遅れそうだから、じゃあね!」


3人に手を振って足早に立ち去った。


本当は、バイトまでまだ時間はあったが早くあの場から去りたかった。


男の人達といると緊張するし、居心地の悪さを感じてしまう。


ふと、翡翠には最初からそんな事は感じなかったなと思った。


翡翠といる時は、胸のドキドキはあったがいつも一緒に居たいと思う自分がいた。


こんな事があって、改めて翡翠の存在を感じたいと思った。


いつもより早いが、近くまできていたのでデュパンに行くことにした。


「マスター、ちょっと早いけど来ちゃいました。」


「お、今日はデートだったのかな?」


「違いますよ、友達とウィンドーショッピングです。」


「世の中の男は、見る目がないのか?

 俺がもう少し若かったら、るーちゃんにアタックしてるんだがな」


「もう、マスターったら、私は全然モテませんから」


マスターと話していたら、さっきまでの憂鬱な気持ちが晴れていくようだった。


バイトが終わって家への帰り道、最近避けていた公園の道を通った。


公園に差し掛かると、視線を感じた。


ふと目を向けたが、誰もいなくて・・


でも、微かにお香のような香りがした気がした。


家に帰ると一人の淋しさを感じながらも夕飯を作りはじめた。


出来た夕飯を食べながらまったりしていると、メールが届いた。


見ると今日会った空さんからだった。


明日また4人で会わないかという内容だったが、気がすすまない。


どうしようか悩み、とりあえず萌に連絡してみた


「あ、瑠璃、空さんから連絡いった?明日、ダブルデートしよう!」


「ちょっと、ダブルデートって何?私、空さんとは何でもないけど」


「そう言わずに、付き合ってみなよ。」


「私は、そんなつもりないから!」


「いいから、いいから。明日まず会おう。分かった!」


そう言うと電話は切れてしまった。


「もう、勝手なんだから」


萌に対して腹立たしさを感じながらも、その日は眠りについた


結局、次の日私は萌との待ち合わせ場所に来ていた。


私は押しに弱いらしい。


待っていると、萌たち3人がやってきた。


「瑠璃お待たせ!じゃあ、行こう」


そういうと東雲さんと腕を組んで前を歩いて行く。


しょうがなく空さんと並びながら、後をついて行った。


「瑠璃ちゃん、俺らも腕とか組まない?」


「いえ、そんなつもりもないので、結構です。」


「もう、瑠璃ちゃんは真面目ちゃんだな~」


へらへらしながら話す空さんに、嫌悪感しか浮かばない。


少し歩くと目的地のゲームセンターについた。


雰囲気を悪くしてもと思い、一緒にゲームやボーリングをしていたがプリクラを

撮ろうという事になった。


萌は東雲さんとコーナーに入っていく。


「瑠璃ちゃん、俺らも一緒に撮ろう」


空さんに腕を引っ張られ、コーナーに入れられた。


「はい、撮るよ~」


そう言うとぐいっと掴まれ、キスをしてくる。


「イヤ!ヤメテください!」


「ハッ!お前みたいな地味な奴、俺が相手してやってるんだから有難くいうこと

 きけよ。」


「誰も頼んでないわ!いい加減にして!帰ります!」


そう言ってその場から飛び出し、逃げるように走った。


なんで、あんな人に・・・


ファーストキスだったのに・・・。


唇を何度も手の甲でこすっていると、涙で視界が滲んでいった。


そのまま、家に帰るとデュパンに体調不良で休むと連絡をした。


今日は、もう何もしたくない。


暗くなった部屋に明かりをつけると、狐の置物が目に入った。


狐の置物の翡翠に向かって、私は話しはじめた。


「翡翠・・・会いたいよ・・・。

 本当は、離れたくなかったの。

 でも、私は翡翠のこと好きなのに、翡翠はそうじゃないのが辛かった。

 責任で一緒にいてほしくないよ・・・。

 初めてのキスだって、翡翠とが良かったのに・・・。」


心の内を話すと、少し気持ちも落ち着いてきた


萌には急に帰ったことを謝っておこうと電話をした


「もう、瑠璃ったら急にいなくなってるんだもん、ビックリするじゃない」


「ゴメンね。でも、空さんとか、もう男の人は紹介しなくていいから。」


「私こそ瑠璃の為って思っていたけど、迷惑だったよね」


「うん、私のこと考えてくれたんだよね。期待に沿えなくてゴメンね。」


「いいよ~、空君には私から断っておくね」


「うん、お願いします」


萌と話ができて良かった。


空さんとはもう会いたくなかったから。


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