第6話 祭り

朝ごはんを食べていると、珊瑚さんが


「翡翠様、今日は鬼族の村で祭りがあるらしいですよ。」


「エッ!妖の世界でもお祭りってあるんですか?!」


「ええ、妖は賑やかなことが好きなので、しょっちゅうありますよ。」


「瑠璃は、祭りに行ってみたいのか?」


「私が行ってもいいの?」


「俺から離れなければ大丈夫だ。じゃあ、祭りに行くか。」


「うん!」


子供の頃は両親とお祭りに行っていたが、二人が亡くなってからはなかなか

お祭りに行く機会もなくなり、遠い記憶の中でしか思い出せない。


まさか、こんな異世界で行けるとは思ってもみなかった。


「瑠璃様、食べ終わったら祭りの支度を私としましょうね。」


「はい、お願いします!」


朝食を食べ終わり部屋で待っていると、珊瑚さんが迎えに来た。


「瑠璃様、隣の部屋で支度をしましょう」


「はい!」


隣の部屋にいくと、和室に何枚かの浴衣が並べられていた。


「わあ、素敵な浴衣ですね」


「この中からお好きなものを選んでくださいね。」


私は何枚かある中から、藍色に金色の蝶と白い花の描かれた浴衣を手に取った。


「じゃあ、先にお化粧しちゃいますね。」


珊瑚さんはそう言うとパパっと化粧を施していく。


お化粧が終わると髪の毛をサッとまとめ簪をさし、着付けをしていく


「最後に仕上げの紅をさしますね。はい、如何ですか」


されるがままになっていた自分とやっとご対面


姿見に映る私は、自分でもびっくりするほど大人の女性になっていた。


「これが・・・私・・・。」


「瑠璃様は、元がいいですから、少しお化粧するだけで十分ですね」


確かに普段はノーメイクで地味だけど・・・こんなに違うんだ。


「じゃあ、翡翠様に見せにいきますよ!」


「あ、はい!」


部屋の外から珊瑚さんが声をかけ襖を開けた


「翡翠様、瑠璃様の支度が整いましたよ」


襖が開くと部屋の中にいた翡翠と目が合ったが、翡翠は何も言わない


やっぱり私には似合わないのか・・・


翡翠の顔が見れなくて、俯き視界が滲んでくる


すると、向こうにいたはずの翡翠が目の前にいて、私を抱きしめた


「瑠璃、綺麗だ・・・誰にも見せたくないな・・・」


「えッ、変じゃないの?似合ってないから黙ってたんでしょ・・」


「イヤ、見とれてたんだ。

 恥ずかしいが、瑠璃が綺麗で言葉が出てこなかった」


ヤダ、そんなこと嘘でも言われたら私が恥ずかしいんですけど・・・。


さっきまでの沈んだ気持ちも翡翠の言葉を聞いて、どこかに飛んでしまった


「もう、イチャイチャするのは二人の時にしてくださいね。」


「ヤダ!珊瑚さん、イチャイチャなんてしてませんから!」


「はいはい、そういう事にしておきますね」


もう、珊瑚さんが変なことを言うから、意識しちゃうじゃないですか


心の中で珊瑚さんに文句を言っておいた


「じゃあ、祭りに行くか」


「うん!お祭りの場所は近いの?」


「イヤ、山を5つほど超えた向こうだ。」


「エッ!どうやって行くの?車なんてないよねぇ」


「大丈夫だ、ついておいで」


そう言って屋敷の玄関で履物を履くと、庭に向かった。


後ろをついて行くと2m程の高さの赤い鳥居があった。


「ここから先は手を繋ぐよ。祭りに行ってもここに帰って来るまで

 手を離さない事、約束できるか?」


「はい、絶対離しません!」


「じゃあ、行くぞ」


翡翠は私の手をとって赤い鳥居をくぐった


一瞬目の前が真っ暗になったと思ったのに、今、目の前には祭りの街並みが

広がっていた。


「ええええ!何これ・・・」


「あの鳥居はいろんな空間と通じているんだ。」


「凄いね!瞬間移動かぁ~」


「瑠璃、ここにはいろんな妖がいる。人間だとバレると何があるか分からないから

 絶対手を離すなよ」


「うん」


道の両脇には屋台が沢山並び、至る所から笛や太鼓の音が聞こえて賑わっている。


店には美味しそうな食べ物や飾り物が売ってあった。


中には、人間には無理!?と思われるグロテスクなものを売っている店もあったが、基本人間界と変わらない内容だった。


翡翠と二人並んで歩いていると、綺麗な髪飾りのお店があった。


「瑠璃、ちょっと見てみよう。これなんか瑠璃に似合いそうだ。

 どうかなぁ~」


「わぁ~、綺麗!」


それは鮮やかな青色の髪飾りでキラキラした飾りがついた物だった。


「これは今日の記念だ。」


そう言って私の髪に髪飾りをさしてくれた。


少し歩くと耳飾りが売ってある店があった。


「耳飾りが欲しいのか?」


「う~ん、翡翠の耳飾りが素敵だなって思って・・」


「それなら、瑠璃にあげようと思っているものが屋敷にあるんだ。」


「そうなの?」


「あぁ、後でつけてあげるからな」


「うん!」


そんな会話をしつつ歩いていると後ろから声を掛けられた


「翡翠じゃないか、珍しいな。」


声を掛けてきた人は、黒い甚平を着た背の高い人だった。


歳は翡翠と同じくらいだろうか、黒髪にツリ目で眼光の鋭さが感じられた。


「あぁ、紫黒シコクか。瑠璃、鬼の若頭領の紫黒、俺の幼馴染みたいなものだ。

 種族は違うが、こいつとは気が合うんだ。」


「お嬢さん、初めまして。」


「初めまして、瑠璃です」


「翡翠が女連れとは、珍しい。嵐でも来るんじゃないか」


「エッ!そうなんですか?」


「あぁ、翡翠は女嫌いで俺が知る限り、今まで女といた時はないな。」


「紫黒、余計なことは言うな。」


そう言う翡翠の顔を見ると、ほんのりと赤く染まっていた。


こんなに綺麗な翡翠のことだから、今までいろんな女の人と付き合ってきたのだと

思っていたが、違ったらしい。


その事に、ホッとして嬉しく思う自分がいた。


「まあ、二人で俺達の祭りを楽しんでくれ。今度ゆっくり酒でも飲もうぜ」


「あぁ、またな」


それから、踊りや舞を見て屋敷に戻った。


久しぶりの祭りは、本当に楽しいものだった。


「翡翠、今日は本当にありがとう。

 こんな楽しかったのは、久しぶり。髪飾りも大事にするね」


「瑠璃が喜んでくれて、連れて行った俺も嬉しいよ」


それから、皆で夕食をとりお風呂に入って部屋に戻った。


縁側では、いつもの様に翡翠が煙管を吹かしながらお酒を飲んでいた。


本当に絵になる人だ。


見惚れてしまう・・・


「瑠璃、こっちにおいで」


呼ばれるまま翡翠の隣に座った。


「右耳をこっちに向けてごらん。」


言われるまま右耳を翡翠に向けると、耳朶に翡翠の指先が触れた。


するとそこがほんわか暖かくなり、違和感を感じる。


「そこの鏡で右耳を見てご覧。」


鏡に映った私の右耳には、翡翠と同じ耳飾りがついていた。


「その耳飾りは俺のと対になる物で、この世に同じものはない。

 そして、これは俺以外には外すことはできない。

 瑠璃に俺と対になるこの耳飾りをつけて欲しかったんだ。」


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