第58話 婚活相手になぜか説教される!?
「どうしよう、あたし濃厚接触者かな?」
「そーいって仕事休みたいんでしょう?」
こんなこというのは同じインフォメーション嬢の
「こら、意地悪言わないの!」
たしなめたのは、
「
それでも
「うん、張り切ってるよー!」
明るく答える。
——まさか私にお鉢が回ってこないよね?——
心配してしまったが、それは杞憂だった。
驚いたことに、
彼女の万能さに驚いていると、
「やっぱりねぇ、彼女、もしも一生結婚できなかったことのこと考えて、色々キャリア積んでいたからねぇ」
本格的に相談所に入って婚活始めたけれど、縁がなかったらどうしよう…。
自分にはこれといったキャリアもないし、これから先一人で生きていく自信はなかった。
今の勤務先ビルだって、老朽化によりもうじき建て替えだ。
社員ではないから、建て替え期間中は給料が出ない。
リニューアル後に雇用してくれるとは限らない。
——転職活動もしなくちゃな…——
急に憂鬱になる。
今日もいつもと変わらず仕事を終えたが、
この後一件お見合いが入っていた。
——やだなぁ…——
緊張のあまり、またお腹が痛くなる。
今日のお相手は、自分より3つ年上の介護福祉士だ。
お見合い写真のお相手はかなりの巨体に見え正直タイプではなかったのだけど、とりあえず会ってみることにしたのだ。
前回とは違うホテル内のカフェでのお見合い、今回は違うスタッフが立ちあってくれた。
「お疲れ様です」
明るく挨拶してくれたのは、マネージャーの
「よろしくお願いします」
お相手はすでに店内で待っているという。
私は緊張しながら
店内奥にずんずん入って行くと、太った男性と見るからにやり手そうな年配の女性が座って待っていた。
「こんばんは」
「遅いじゃないか、こっちは10分も待ってたんだぞ?」
男性がいきなり文句を言ったのでびっくりした。
「いえ、こちらが早くきてしまったんで、気になさらないでください!」
あちら側の相談員さんがすかさずフォローをしてくれたが、お相手の男性の物言いに期待できない気がした。
お相手の名前は
趣味は食べ歩きで気が合いそうではあったのだけど、先程のひとことでなんだかあまり一緒に食事はしたくない気がする。
注文はとりあえず私はミルクティー、お相手の
「たかだかレモンスカッシュに2000円もするのかよ」
メニューを見ているときの
確かに高いけれど、今ここでそんなこと言わなくていいのに…。
「そんなこと言わないの」
相談員さんはたしなめるも、高いもんは高い、ぼったくりだと、やたらブツブツと文句を垂れ続ける。
飲み物が運ばれてきても、なんだか空気は気まずいままだった。
元々初対面の人と話すのが得意ではない私は、口をつぐんでしまう。
「
突然、
「はいっ」
私の声は上ずる。
「あんたさっきから黙ったまんま、貝ですか?」
突然おかしなことを言われてしまったので、
唖然としてしまってますます言葉が出ない。
貝って…。
「こら!失礼なこと言わないの!ごめんなさいねぇ、
あちらの相談員さん、再び
「はぁ…」
なんと返して良いやら…。
「いや、僕はヒトと結婚したいんですよ?なにも反応してくれないんじゃ、困るんですよー!」
うっ、痛いとこ突かれちゃった…。
「
でも、相手からこんな言い方されたら、ますます話せなくなってしまう。
せっかく
「
なんで初対面の人にここまで言われなきゃならないんだろう!
しかもお見合い申し込みしてきたのは相手だったので、なんだか物凄く腹が立ってきた。
「あ、あのっ、私のほうからお見合い申し込んだのならまだしも、そちらからでしたよね?申し込みするときに私の釣り書きを見なかったんですか?ちゃんとパート勤務であること記載されてたはずですが?」
私にしては珍しく思い切った発言をした、声がうわずってしまったけれど、言わずにはいられなかった。
「
相手方の相談員さんが
「あの〜」
ここで
「
言い方はとても丁寧で表情にも出してはいないが、もしかしたらかなり怒っていそうな気がした。
「ぼかぁね、世の中の甘ったれた女が大嫌いなんですよ、だから素直そうな女性見ると直してもらいたくなるんですよ」
なんだ、偉そうに…。
私のこと素直そうに見えたというよりおとなしそうに見えたんだろうな、なんかそれに気づいてしまうとますます怒りが込み上げてきた。
「
相談員さんは見るからにやり手なベテランさんに見えたけれど、さすがに手こずっているようだ。
「あの、最初から正社員の女性を選んだらよろしかったのではないでしょうか?」
またもや
「正社員の女どもはだいたい生意気で、こっちが介護福祉士だと見下すからな」
——介護福祉士だから、というより本人の問題では?——
場の空気がかなり悪くなってきてる、まだ前回お見合いした潔癖症のほうがマシな気がしてきた。
「この話、なかったことにしましょう!」
ここで突然、
「申し訳ありません、ここのお会計はこちらでもちます」
相手方の相談員さんは申し訳なさそうに深々とお辞儀する。
「なんだよ、今度もダメかよ」
この人こんな調子じゃ一生結婚できないだろうな…。
私も席を立ち、
なんだかものすごーく不愉快だった。
「申し訳ないですっ」
ホテルを出ると
「いえ、
本当にそう思う、たまたま当たりが悪かったんだ。
「あの、なんか美味しいケーキでも食べに行きませんか?お詫びになにかご馳走しますから」
スイーツに目がない私は快諾した、気分悪いまま帰宅したくないのは、私も同じ気持ちだったので提案に乗った。
連れて行かれたのは個人経営の老舗っぽい喫茶店だった、まさにカフェと呼ぶより喫茶店と呼びたくなるような佇まいだった。
店内は自分たち以外に一組いるだけだった。
「いらっしゃいませ、お好きな席どうぞ」
感じのよい年配の夫婦ににこやかに対応される。
——こんな感じの夫婦いいな——
年を重ねても仲良くいられる夫婦が理想だ、
今まで婚活で出会ってきた人たちだと、こうはいかない気がする。
「びっくりしましたね〜、これまでクセの強い方に遭遇したことはありましたけど、初対面のお見合い相手に対し攻撃的な人は初めてです」
「そうなんですか」
「お
「お
「あ、ごめんなさいね、
「そうなんですか」
それは知らなかった。
「なんかごめんなさいね、おかしな人紹介してしまって」
「いえ、いいんです」
「一応お相手がどんな感じなのか、厳選しているつもりなんですけどね、会ってみなければわからない部分あるんですよ〜!それにしたって、あんまりでしたね」
今ひとつ、どういった仕組みなのかよく把握しきれてないので、相談所側には落ち度がない気がする。
ましてや同じ相談所内同士のお見合いではないから、
「なんだかあちらさん、ああいう人だとわかってたっぽいですねー」
私もそう思う。
もしかしてこういう場合、相手方の相談所にクレームでも入れるんだろうか?
「ほんとにあんまりですよね、わざわざ正社員ではない女性選ぶなんて、悪質すぎます!」
確かに初対面なのにひどいこと言われちゃったが、いい年をして結婚もしてなければ一人で生きていけるほど稼いでるとは言えないのは事実なんで、少し落ち込んでしまう。
「やっぱりアラフォーにもなって、独身で彼氏いなくて仕事も非正規なのって、ダメなんですね…」
思わずつぶやいてしまう。
「気にすることないですよ、今日のは相手が悪すぎました」
「私が今勤めてる商業ビルって、来年3月には閉館してしまうんです」
色々不安がたまっていた上に追いうちをかけるかのように婚活相手に気にしてたことを突かれたので、思わず
「そういえばそうでしたね、お
「今日コールセンターに空きが出て、
「あら、
「そうなんです、あの人私が入職したときは経理だったんですが、いつのまにか人事に移動していて、なんだか彼女ってオールマイティだなぁって」
自分なんかと違いどこでもやっていけそうで、私には眩しい存在だった。
「今日お会いした人は極端なのかもしれませんが、今時の婚活は正社員として働いている女性のほうが人気があると耳にもしているので、この先結婚できるのかどうか不安で…」
婚活はじめてから私なりに情報を収集してきて、昔みたく専業主婦を希望する女性より働く女性のが今時は人気だというのをよく知っていて、パートといえど一応は働いてはいるから大丈夫かな?と思ってたけど、やっぱり甘いのかもしれないと今回痛烈に感じている。
「そうですねえ、確かにそれなりに安定した収入のある女性が人気なのは事実ですけど、男性とはなかなか求めるものが大きくて、自分より収入の多い女性を避ける傾向にもあるのですよ」
——なにそれ!——
「現にうちの会員さんでもそれで婚活苦労していた方もいらっしゃいましたし」
「こういうのもご縁ですから」
「お待たせしました」
「わぁ、おいしそう!」
黄金色にまん丸くふっくら焼けたホットケーキを見た私、思わず感嘆した。
「さ、美味しいもの食べてイヤなことは忘れちゃいましょう!いま
このひとことと美味しいホットケーキのおかげで、しばらく頑張れる気がした。
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