第57話 婚活戦線異常あり!?元モデル、婚活に苦戦中

『こんにちは、井澤イザワ部長から聞きましたが、大丈夫ですか?なにか必要なものがあれば言ってくださいね、届けに行きます』



とうとうコロナに感染してしまった。

今は2022年10月、コロナ禍がはじまって3年経とうとしているのに、この悪夢はまだ続くのだろうか?

ずっと咳が止まらず熱も下がらない。

ちゃんと病院へも行ったのに、そんなに症状が重たくないといわれ入院させてもらえず、自宅療養だ。

そんな中、ベッドで横になっていたときにピロリンと電子音。

同僚の宮坂ミヤサカミドリからきたラインに、



「誰?男?」



強引に覗き込まれる。



「ちょっ、、、やめて!勝手に見ないでくれる?」



私はスマホを慌てて隠した。



「なんだ、フラペチーノのアイコンなら、女だな」



ミドリのラインのアイコンはだいたいスイーツだ。

今一緒にいるのは、島峰シマミネニコ。

2人揃ってコロナに感染してしまった。


なぜ彼がここにいるって?

話せば長くなる。




私はウクライナ系ロシア人の友人ターニャが経営する国際結婚相談所に入会し、婚活中だった。


自分でいうのも何だが、これまでの人生恋愛には不自由しなかった。

けれども結婚となると話は別で、縁がなかった。


私はお見合いとなると釣り書き的にかなり不利なので、日本人相手だと難しいと思ったから国際結婚相談所に入ったのだけど、外国人のほうが遥かにシビアだった。


だいたい相談所を利用する外国人の大半が子供を欲しがる。

となると、どうしても求められるのは若い女性になるので、年齢で弾かれてしまう。


ああ!外国人のほうが年齢に許容的だと思ったのになぁ!

それは恋愛の話で、結婚となると別なのは、

ある意味日本人と変わらなかった。


私一生結婚できないのかも…。

諦めかけていた。


紹介所入ってから何人の外国人とお見合いしたのだろう?

かなりハイピッチで次々と紹介され、どの男性とも実を結ばなかった。


会ってはみたものの、なんとなく合わなくて終わってしまった人、今時日本に長期滞在したいが為に相手探してる人(未だにそんなのがいるなんて…これにはターニャ激怒してたっけ)、

敬虔なムスリムで改宗を迫られたり…。 


最近紹介されたのは、ウクライナの男性。

そう、あの戦争から逃れるために来日した人で、前から日本に憧れていたとか、で、私の写真見て一目惚れしたとかで会うことになり交際が始まった。


亜麻色の髪に薄いグリーンの瞳、イケメンではなかったけれど、優しそうな人に見えたから交際をはじめたのに…。

相手に他に好きな人ができて、やっぱりそれは若い女の子だったもんで、私はかなり落ち込んだ。



そんなとき…。

ターニャから「ニコさん覚えてますかー?彼も相談所入りました」と訊かされ、驚いた。

「えっ、だって彼まだ20代でしょう?モテるだろうし、必要ないんじゃないの?」

正確な年齢は知らなかったのだけど、31歳なんだとか…。

でも、普通にモテそうな人が相談所に入ったこと自体が、おかしなことのように感じた。


「どうですか?会ってみますか?」

今さら…。

どういう話の流れでそうなってしまったのか思い出せないのだけれど、なぜだかお見合いすることになった。


ターニャ立ち会いのもと、都内のホテル内のカフェで会う。

すでに顔見知りなのに、へんな感じだった。

その日は普通にお茶して会話して別れたのだけれど、その次の日からが大変だった。



「これから飯食いに行こうよ」



職場から出るといきなり現れてそのまま食事したこと、何回かあり…。

私はイヤだと思ったらはっきり断われるほうなんだけど、島峰シマミネニコに限っては、断ることができなかった。



——断われないってことは、なんだかんだイヤじゃないんだろうな…——



共通の話題はそんなにないのに、話をしていて楽しかったのも事実だ。

真面目に婚活し結婚したいのに、このままではダメだよね?

そう思うのに、会っていると楽しくて断われなかった。


そんなある日のこと。



「アンタなんなのよっ!」



都内のスペインバルで食事していたとき、いきなり一人の派手な若い女の子がやってきて私につかみかかってきた。



咲茉エマ、よせよ!おまえとはもう終わったんだ」



元カノか…。

きちんと別れてなかったの!?



「あたしの中ではまだ終わってない!なによ、こんなオバサンのどこがいーのよ!!」



年齢的におばさんでも実際に面と向かって言われると傷つく。



佐和子サワコさんは、おばさんなんかじゃない!」



ニコは反論してくれたが、



「なによ!佐和子サワコって名前までシワシワネームじゃないのよっ!」



さらなる追い討ち、それだけでなくニコの手を振り解いて、私の髪をむんずと掴んだ。



「いたたっ」



思わず声に出してしまう、髪を引っ張られるなんて子供のとき以来、これは本当に地味に痛かった。



「やめろー!」



揉めているうちに外国人の体格の良い店員がやってきて、ニコの元カノはつまみ出されてしまった。

外へ出ても悪態ついているのが店内まで聞こえてきた。



「悪かった、騒ぎ起こして」



どうやらニコと元カノをつまみ出した店員は、友達同士らしかった。



「おまえも大変だな、ほどほどにしろよ」



結局その店には居づらくなり、また他で飲み直すことになったのだけど、これがいけなかった。



二軒目に入ったのは、チェーン店の居酒屋。

コロナ禍前に比べたら混雑はしてなかったけれど、そこそこ人は入っていた。


突然現れた若い女に突然おばさん呼ばわりされた上に名前までバカにされ、めちゃくちゃ気分悪かった。

本当は原因となったニコとなんて一緒に飲みたくなかったのだけど、一人では飲みたくなく今から呼んでも誰も来ないだろうから妥協した。

そのかわり、めちゃ当たり散らした。



「だいたいさぁ、ちゃんと別れてないのに婚活なんてすんじゃないっつーの!」



私はジョッキ片手にクダを巻いた。



「いやいや、ちゃんと別れたさ」「じゃあなんで現れたのよ!」「ヤンデレなんだ彼女、だから恐ろしくなって別れたんだが、ストーカーまがいなことされてるんだ」



なんで私が巻き込まれなきゃならないの!

だいたい私結婚したくて真面目に婚活してたのに、なんであなたが現れたのよ、みたいなこと延々ニコに対しぶちまけていた。



「すいませーん、おかわりっ!」



この日何杯生ビールを飲んだだろう?



「姉さん、荒れてるねー」



そう言ってニコは私の両肩を抱いた。



「馴れ馴れしくすんじゃないわよー!だいたいアンタみたいな弟持った覚えないわ!!」



そこから先の記憶は曖昧だ。

恥ずかしいことにガンガン生ビールを飲み、

ずっとグチグチしていた気がする。

ニコはそんな私にドン引きせず、つきあっていてくれていた。



翌朝、隣にニコが裸で寝ていたので仰天した。

場所はどうやらホテルらしい…。



——うわぁ!!なによコレ!まさか、やっちゃった!?——



当然、自分もなにも着ておらず、それどころか久々なためか、身体中あちこち痛かった。



——うわぁ、恥ずかしい!——



ボンヤリと昨夜のことを思い出す。

散々飲み明かし、気づいたら終電逃してしまったらしい。



——なにもホテルくることなかったじゃなーい!——



あんまり思い出せないけど、どちらともなくそういう雰囲気になったような…。

もう、私いい年してなにやってんの!

情けなくなる。

私はニコを起こさないようそっと身支度をはじめた。

着替え終わったそのとき、



「おはよう」



声をかけられてしまう。



「お、おはよう」



私はそそくさと逃げ帰ろうとしたのだけど、



「待って、行かないで」



後ろから抱きすくめられ引きとめられてしまう。

こんな感覚は久しぶりでドキドキはしたけれど、何だか若いころに比べてそれは弱いような気がした。

私は一呼吸置いてから、



「延長料金かかっちゃうわよ?ここを出てどこか落ち着いたところで話をしない?」



提案した、とりあえずこの状況を切り抜けるには、こうするしかないと思ったから…。



「わかった」



ニコは案外素直に受け入れ、手短に身支度を済ませて一緒に外へ出た。


それからが大変だった、ニコのスマホには着信履歴がビッシリ、



「うわっ、マジかよ!」



全て元カノで、こうしている間にもひっきりなしに着信がきていた。



「マナーモードにしといてよかったよ〜」



ニコがつぶやいたそのとき、



『どこにいるのよッ!!』



スマホから女の怒鳴り声が…。



「うわっ、やべっ、留守電確認クリックしたっぽい」



ニコは慌ててスマホの電源を落とした。



佐和子サワコさん…」



急にニコは真顔になる。



「なによ、改まって」



ここでニコは両手を合わせて頭を下げた。



「頼む!しばらく佐和子サワコさんとこ匿ってくれ!!」



突然のお願いに私は驚いた。



「はぁ?なんなのよ、急に!」



「どうやら咲茉エマのやつ、オレんとこ上がり込んでるっぽいんだ、合鍵渡してるし」



やはり、そういうことなのね…。

私はため息をついた。



「ねぇ、本当にきちんと別れたの?だいたいねぇ、男の別れかたってねぇ、曖昧にするヤツが多いのよ!そーいうの察することができる女ばかりじゃないのよ?あなたの元カノそういうの疎そうだし」



全ての男がそうだとは限らないとわかっていたのに、このときばかりはこういう言いかたしなければ気がすまなかった。



「ちゃんと別れたさ、半年前にな!俺たちもうおしまいにしよう、おまえとやってく自信ないと」



半年前といえば、もうすでに私とは出逢っていた、というより彼女いたのに私を口説いてたのか!と腹が立ったが、それを言うのはこらえた。



「そう…それで相手は納得したの?」



「いや、してない」



やっぱりね…。

ニコの元カノがどんな人かわからないが、どうやら相手に執着するタイプなようで、別れるのが大変そうだ。



「別れてからもストーカーまがいのことされたり、家に勝手に上がり込まれたり困ってたんだ」



「そう、それは大変ね、って言いたいとこだけど、鍵変えたりとかしなかったの?」



「したかったんだが、うちの大家そういうのうるさくて、なかなかできなかったんだよ」



「ふーん、じゃあ引っ越せば良かったじゃない」



「意地悪言わないで頼むよ、しばらく匿ってくれよー!」



こうしてしばらくニコを匿うことになってしまった矢先に、2人してコロナに感染してしまったのだ。


初めて会ったときから口説かれ続けスルーしてきたけれど、ターニャ経由でお見合いの話がきたときは、『なんたる茶番!一度会ってはっきり断わってやろう』と決心したのに、思わぬ方向に事態が転がってしまった。


年下すぎる男はもうコリゴリと思っていたのにな…。


こうして私の婚活は遠のいてしまったような気がした。

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